まぜこぜブーン

ブーン系まとめ

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 ( ・∀・)幸せになるようです


862 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/01(日) 21:58:21.14 発信元:111.89.140.2
今の僕は所謂、ストーカーというやつだ。何せ夜の闇と塀に隠れて女性の後をつけているのだから。

ξ゚⊿゚)ξ …

透き通るような金髪の巻き髪、瑞々しくも白い肌、ドールを彷彿とさせる整った顔立ち。とても美人である。スラリとしたボディラインも魅力的だ。

__|∀・)コソーリ

彼女はツンと言う。シベリアには、勤め先であるブーン系小説シベリア図書館が出来た頃に移住したらしい。

__|∀・) (おや、誰かに電話するのか?)

残念ながら、会話内容はほとんど聞き取れない。すぐに切ったので、些末事であろうか。

__|∀・) (うーん、もどかしいねえ)

盗聴器が欲しいところだが、なにせ忙しそうに働くツンを発見したのは今日の昼であり、彼女の職場であるブーン系小説シベリア図書館はセキュリティが万全で、慎重に行動しなければならなかった。
特に、職員の根暗そうな男性、あいつは危険だ。注意深く観察していて、作業中腕を大きく伸ばした一瞬間、左の脇が微かに膨らんでいた。

__|∀・) (あの図書館、職員全員が武装して…ないか、流石に)

税務署の制式拳銃がある、どこぞの国じゃあるまいし。

__|∀・) (でもなー、シベリアだしなー)




863 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/01(日) 22:00:51.64 発信元:111.89.140.2
一見すると平和だが、逃亡者や追放者がやって来やすいのも事実で、火種はそれなりに抱えているだろう。平和の為に備えていてもおかしくない。

__|∀・) (ここの警察は真面目らしいし、あまり目立つ事は慎むべきだな…お、家に着いたか)

アパートの一室で足を止めたツンは、鍵を取り出さずにインターホンを押した。

__|∀・) (…誰か来ているのか、誰かと一緒に暮らしているのか)

すぐに扉は、開けられた。出てきたのは。

( ^ω^) はいはーい

男、だった。

ξ゚⊿゚)ξ 寒いんだからもっと早く開けなさいよね

( ^ω^) ごめんお、さっき連絡貰ってから慌てて掃除してたお

ξ゚⊿゚)ξ …また散らかしてたの?

(;^ω^) いやあの散らかしてないけど大切な女性を迎え入れるにあたり部屋の清潔さにより磨きをかけようと…ごめんなさい

ξ゚⊿゚)ξ まったく、だらしがないんだから

__|∀・) …

間違いない、二人は恋仲だ。同棲しているのだろうか?たまたま遊びに来たとしても、ここまで脇目もふらず歩いていたのだから、何度も通っているのだろう。


864 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/01(日) 22:03:34.89 発信元:111.89.140.2
__|∀・) (通い妻、てか?)

けしからん。マジ羨ましい。実にけしからん。

__|∀・) (まあ、収穫ではあるな)

シベリアに来て1日目にしては、得られた情報は大きい。職場、恋人の有無、警戒すべき人物。

__|∀・) (とりあえずは、こんなもんか)

さてとそれじゃあ、遅蒔きながら、記念カードを貰いにいくとしますかね。

***

(´・ω・`) やあ。ようこそ、シベリアへ。このウォッカはサービスだから、まず飲んで落ち着いて欲しい。うん、『カード発行所』なんだ。よろしく。一期一会って言うけど、馴れ合うほどに仲良くなろうとは思っていない。
でも、この場所に来たとき、君は、きっと言葉では言い表せない「ぬくもり」みたいなものを感じてくれたと思う。殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい、そう思って記念カードを贈るんだ。じゃあ、名前を聞こうか

( ・∀・) …おいショボン、僕の名前忘れたのか?

(´・ω・`) やだなあ、冗談だってば。君が来たときのために考えたのさ…久しぶりだね、モラ

( ・∀・) おひさ。お前さんがシベリアに移住して以来か


865 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/01(日) 22:06:00.35 発信元:111.89.140.2
(´・ω・`) そうだね、まあ座りなよ。ウォッカのサービスは本当にあるから

音楽の流れる応接間のようなせせこましい事務所で、旧友との再会を果たした。対面のソファに腰をおろしたショボンから、グラスになみなみと注がれたウォッカを受け取る。

(´・ω・`) 来た人にウォッカを振る舞うのは知っているだろう、遠慮せずに飲むといい

( ・∀・) 飲めないなら?

(´・ω・`) 飲まなければ良い、要は歓迎のしるしだからね。所詮は安い銘柄だし

足を組みふんぞり返っている割には嫌味を感じさせないショボン、彼とは引っ越した先で知り合った。
僕は昔、シベリアに住んでいたのだが高校の半ばに移り、なじみの無い土地で鬱ぎがちだった僕に声をかけ、よく一緒に遊んでくれていたのがショボンである。しかし、数年前に今度はショボンがシベリアに移住して、それから会う事は無かった。

( ・∀・) それにしても、カード発行人になったと聞いた時は似合わないと思ったが、いざ目にすると随分馴染んでいるな

(´・ω・`) そうかい?嬉しいこと言ってくれるじゃないの

( ・∀・) シベリアも少し変わっていたから、何だか安心したよ


866 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/01(日) 22:08:06.73 発信元:111.89.140.2
来るのは住んでいた時以来となるので、良くも悪くも新鮮である。

(´・ω・`) 本質的な部分は変わらないさ。変わりゆく事を是としない人も少なくないんだ、そうだろう?

( ・∀・) そうだね

会話の間を埋めるようにグラスのウォッカに口をつけると、ショボンが目を丸くした。

(´・ω・`) なんだ、飲めるのか

( ・∀・) まあね。前は医者に止められていたのだけれど、最近は我慢しなくても良くなったんだ

(´・ω・`) …そうか

( ・∀・) お前さんは飲めるんだろう?

(´・ω・`) シベリアに来たら、自然と飲めるようになったよ。ここの先輩が、時々奢ってくれたからね

( ・∀・) ほう、良い先輩だね。その人、今は?

(´・ω・`) 所長になって、今日は商工会議所に出向いてる

( ・∀・) ふうん…

しばし無言になり、繰り返し再生されている音楽に心を委ねていると、やがてショボンが立ち上がり、奥のデスクから何やら持ってきた。

(´・ω・`) ねえ、モラ

ショボンは手帳とペンを差し出す。



867 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/01(日) 22:10:00.09 発信元:111.89.140.2
(´・ω・`) 君の名前を書いてくれるかい?偽名でも良いから、これに。カードにはなるべく直筆のサインを使っているんだ。嫌ならかまわない

( ・∀・) わかった

来訪した年月日と名前がびっしり書き込まれたページの、唯一残っていた空欄に記入して返すと、ショボンは礼を述べて満足げに頷いた。

( ・∀・) なあ、どうしてカード発行人になった

(´・ω・`) 趣味さ

( ・∀・) 趣味?

(´・ω・`) 言ったろ、カード発行所は一期一会だって

( ・∀・) ああ

(´・ω・`) カードは、シベリアに来た証だ。過去や目的に関係なく発効される、最低限の身分証明書であり足跡としての記録なんだ

( ・∀・) うん

(´・ω・`) 此処に来た人が、僕が贈るカードを受け取り出発し、以後どんな時間を過ごすのかと考えると…わくわくしないかい?

( ・∀・) うーん…言われてみれば


868 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/01(日) 22:11:44.08 発信元:111.89.140.2
(´・ω・`) そうだろう…ま、ちょっとしたコネもあったしね

( ・∀・) お前さんらしいや

(´・ω・`) そうだろう、そうだろう。さて、少しだけ待っていてくれ。カードを作ってくる

( ・∀・) うん

奥へ引っ込んだショボンは、三分と待たせずに戻ってきた。

(´・ω・`) あらためて、ようこそシベリアへ。歓迎するよ、同志モララー

( ・∀・) ありがとう

手渡されたカードは、上品に繊細で控えめに美麗で、二つ折りになっている。

(´・ω・`) おっと、開けるなよ、此処を出てから開けてくれ。君宛ということで、特別仕様になっているんだ。恥ずかしい

( ・∀・) 恥ずかしいなら、なんだってそんな事を?

(´・ω・`) 薄情な君の性格からするに、もう二度と会えそうにないからね

( ・∀・) …良く分かっていらっしゃる


869 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/01(日) 22:18:24.97 発信元:111.89.140.2
(´・ω・`) まったく、君って奴はいつもそうだ。大事なことをなかなか教えてくれない。今回だってそうさ、もっと早く教えてくれたなら僕は、チッポケなカードだけじゃなくもっと協力したし…もっと遊べたのに

( ・∀・) …ごめん

(´・ω・`) …君がシベリアに来て、何をするのか知らないけど。もっと僕を頼って欲しかったな

( ・∀・) …うん

腰をあげた。カードをしまい、ショボンに手を差し伸べる。

( ・∀・) 握手して別れようぜ

(´・ω・`) …君って奴は、相変わらずだ

外に出る直前、ショボンに訊ねる。

( ・∀・) そういえばショボン、お前さんに訊きたかった

(´・ω・`) うん?


870 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/01(日) 22:18:52.11 発信元:111.89.140.2


( ・∀・) ショボンは、幸せかい?

(´・ω・`) 僕は、幸せだよ。君はどうだい?

( ・∀・) これから幸せになる予定さ

(´・ω・`) そうか…モラ、僕からもひとつ訊くよ

( ・∀・) ああ

(´・ω・`) 幸せになることで、君は救われるのかな

( ・∀・) …わからない。だってそれは人それぞれで、自ら体験しないことには断言できない。そして僕は体験するためにシベリアへ来たんだ

(´・ω・`) …がんばってと言うべきか、悩むよ


871 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/01(日) 22:20:32.76 発信元:111.89.140.2
( ・∀・) 歓迎してくれたじゃないか、それで十分…ショボン、僕がここに来た目的のひとつはお前さんに歓迎してもらう事だったのさ

(´・ω・`) 本当かい?僕は、君の役に立てたのかい?

( ・∀・) 本当さ。じゃあ、元気でね

言って、ドアを開ける。

(´・ω・`) 忘れないよ、君のこと

閉まる直前、ショボンは言った。
早歩きでシベリア鉄道の駅に着き、まばらにしか乗客のいない列車にゆられながら、僕はカードを開いた。
そこには僕のフルネームと来た日付、そしてショボンの達筆な字で詩が記されている。僕も読んだことのある詩集から引用されたものだ。


872 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/01(日) 22:21:39.54 発信元:111.89.140.2
『不意に列車の連結部が音を出す
 ゆっくりと景色は移ろい
 やがて流線型に変わっていく
 君がいたところはやがて地平の一個の点になるだろう
 しかしいついかなるときでも
 シベリアは君を応援する』

( ・∀・) …なんて

なんて、皮肉な選択なんだろう。そう思った。



884 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/02(月) 20:16:16.75 発信元:111.89.140.2
ショボンは、僕の腹積もりを見抜いた上で、よりにもよってこの詩をえらびやがったのか?
まったく彼はチッポケなカードと言ったが、僕にとっては最高の贈り物である。
彼が、僕を理解してくれていた証なのだ。
宿泊先のシベリアホテルがある地区の駅に停まるまで、この詩を何度も読み返した。

( ・∀・) (会って良かった)

友人の厚意を実感し胸に熱いものがこみ上げてくる。

( ・∀・) (よし、僕は頑張るぞショボン)

決意を新たにした僕は、早速、明日はどうやってツンを観察しようかと思案し始める。


885 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/02(月) 20:19:27.35 発信元:111.89.140.2
―――僕には、母親と、父親と、妹がいた。

父親は、母親が妹を身ごもった頃から少しずつ、少しずつおかしくなっていった。
今にして思えば、妹を運んできたコウノトリが僕とは別な事に嫉妬していたのだろう。
男だって、時として女並に嫉妬狂いするのだ。
おかしくなった父親が、妹と、ついでに母親を攻撃するようになった頃、僕は思春期に突入した中学生一年生で、母親と、ついでに小学生の妹を庇わなくてはならないという使命感に燃えていた。

すると父親は、どういう理屈か僕に裏切られたと考えるようになり、母親への矛先が僕に向かい出す。妹へは相変わらず。

そんなこんなで、ついでに庇っていた妹は家族の中で誰よりも僕になついた。本人に面と向かって言われたので自意識過剰ではない。

どこでもなるべく僕と一緒にいたがり、風呂だって布団だって一緒に入っていた。
母親は、兄妹とはいえ何だか怪しいな、と勘ぐっていて、実際そうだった。

これは経験則なのだが、たとえ児戯であっても、相性のよい相手がいた方が良い。

お互いの疵をさらけ出す暖かい風呂場、一緒に傷を癒す布団、膿みを絞りあうトイレなどの場所で、僕と妹は自然に相手を欲した。



886 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/02(月) 20:22:16.97 発信元:111.89.140.2
母親はこの頃、僕らに無関心であることを強要されていた。

父親は、シベリアであっても容認されない行動に夢中だった。

妹は自分がいるから母親と父親の仲が悪いのだと思い込み、僕はそんな妹を利用して自尊心を満たしていた。

酷い家族だった―――


887 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/02(月) 20:26:06.37 発信元:111.89.140.2
***

ホテルシベリアで朝を迎えるのは初めての事である。
窓を見れば雲は遙か彼方の地平線にどいており、清々しい碧空をレースで飾っているようだった。ローカルテレビを見ながら身支度を済ませ、気象観測所提供の天気予報とブリザード自警団発表の嵐情報をチェックした僕はテレビを消し、部屋の鍵も閉め朝食へ。

シベリアの雄大な自然と情緒的雰囲気に溢れる町並みをいっぺんに堪能できる大広間に用意された朝食はできたての、体の芯から暖まる物が中心で、勿論新鮮なフルーツや甘いデザートもあり、とても満足のいく献立だった。
実に良い朝を迎えることができた僕は部屋に戻って少し休んだあと、外出する。
向かう先は、まず花屋。

( ・∀・) すみません

川*` ゥ´) はーい…あれ、モララー?


888 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/02(月) 20:30:29.64 発信元:111.89.140.2
( ・∀・) ん?…ああ、なんだヒールか

川*` ゥ´) おいなんだよそのどうでもよさそうな反応

( ・∀・) 察しが良いな、その通りだ

川;` ゥ´) 相変わらずだなおい…

ホテルのそばにあった花屋で再会したのは、シベリアを出る前の友人である。

( ・∀・) まだシベリアにいるとは思わなかったよ

川*` ゥ´) ま、なんだかんだね…モララー、今日夜から時間ある?

( ・∀・) あるけど

川*` ゥ´) じゃあ話そうぜ色々と諸々とぐだぐだと

( ・∀・) いいけど

川*` ゥ´) じゃさ、午後3時にお店来てくんない?そんくらいなら弟と交代できるから


889 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/02(月) 20:33:36.03 発信元:111.89.140.2


( ・∀・) わかった。それでさ

川*` ゥ´) うん?

( ・∀・) 花ください

川*` ゥ´) あ、うん…何を?

( ・∀・) 白い百合。墓参り用のやつ

***

ここに立ち、困ることがひとつ。
小高い丘に設けられ、水と緑豊かな自然美重視の霊園で、新雪の如く白い墓石を前にして、僕は何を祈ればいいのだろうか。とりあえず花屋で購入した花束を置いてみる。
( ・∀・) …

恨み言か、感謝か。意味が無いのは分かっていても、何かを祈らなくてはと思う、思うのだが。

( ・∀・) …まあ、うん

わからん。仕方ないので、報告というか独り言をば。

( ・∀・) もしも死後の世界があるのなら、僕が逝くときくらい仲良くしててね

医者が正直に教えてくれました。僕、もう寿命です。


890 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/02(月) 20:36:32.60 発信元:111.89.140.2

( ・∀・) なんでまあ、別に今日なにか祈ってもしょうがないでしょ

そもそも命日ちがうしね。あっはっはっ。

( ・∀・) さてと

来た道を引き返しながら、無味無感動な墓参りだったことそのものに対して悲しくなった。

( ・∀・) (そうだ、図書館に行ったら感動できそうな本を読むフリしよっと)

バスに乗り、『レーニン通り』にあるツンの職場へと向かう。

奥の座席に腰掛け、窓から景色を眺めていると、行きはうたた寝していて気付かなかったのだが、霊園の最寄りからしばらくは飛び地のように建物があって、それがまるで島に見える。
平原はまだまだ雪が溶けておらず、白く煌めく雪は海原のようで、道路と建物を繋ぐ足跡や私道は橋のようだ。空の青と雪の白さが見事な対比を生み、落ち着いた色合いの建物と、ぽつりぽつり見かける歩行者。
車窓からの眺めをそのまま美術館に飾れそうだと思う。行きに見逃していたのを悔やんだ。

( ・∀・) (おや…)

道路の幅が広くなり、建物も増えるにつれ、廃墟が目立つようになってきた。今見えている数はおそらく幾らも無いのだろうが、それでも白いシャツについた染みのようで。
しかも、周囲の気を引こうとしたのかごちゃごちゃとした造りだったり、奇抜な色だったりと、明らかに浮いているのだ。

( ・∀・) (建てるだけ建てて、ほったらかしかよ)

そういえば、シベリアが抱えている社会問題のひとつに、ローカルルールを無視して行われる違法建築と捨て置かれる廃墟があったっけ。


891 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/02(月) 20:46:02.10 発信元:111.89.140.2
≪えぇ、次はレーニン通り中央、レーニン通り中央ですっ。お降りの方は手近なブザーを押してくだぁ、さいっ≫

( ・∀・) (おっと、次のバス停だな)

降車を知らせるボタンに手を伸ばすも、指先が触れる直前にブザーが鳴った。視界の斜め上に、鳴らした男性をみとめ、息が詰まった。

('A`) …

吊革に掴まったなんとも覇気の無い地味な男で、細身なのだが、服からのぞく手や首、姿勢などからうかがえる彼の体つきは頑丈そうで背筋も伸びており、鍛え抜かれたアスリートを連想させた。

(;・∀・) (そりゃあ…彼も職員だから向かう先は一緒だしな)

そう、この男こそ、服の下に物騒な得物を忍ばせていたブーン系小説シベリア図書館の職員である。
確かに、シベリアで銃器を手に入れるのは難しくない。小火器とその実包程度なら専門店に売っている、しかし技術は得難い。
小型軽量の拳銃とはいえ普段着の下に違和感なく隠し持とうとすると、思いの外厄介だ。
ただ街中を歩いたりするならともかく、本を抱え忙しなく作業しながら、持っていることを隠すというのは素人がそう簡単にできることではないのだ。


892 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/02(月) 21:01:53.53 発信元:111.89.140.2

(;・∀・) (体つきからして元警官か…或いは軍人…目を付けられたらツンの観察に支障をきたすな)

冷や汗をかくうちにバスが停車した。
彼は真っ先に(とは言っても降りるのは僕と彼だけだが)重そうな荷物を抱えながら降り。

('A`;) ッ!!

(;・∀・) あっ!!


893 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/02(月) 21:03:40.81 発信元:111.89.140.2


ステーン!

  \('A`)ノ ヒャー
  へノ_ヘノ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

派手にずっこけた。

(;・∀・) だ、だいじょうぶですか!?

('A`;) いてて…大丈夫です

彼は恥ずかしそうに頭を掻き掻き、慎重に立ち上がる。

(;・∀・) ああ、無理しないでください

なんやかんやと、重い荷物を一緒に持って図書館へ向かうことになった。

('A`) すんません、手伝ってもらっちゃって

( ・∀・) いえ、ついでなんで

話すうち、彼に対する印象は激変した。この男、妙に腰が低いのだ。


896 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/02(月) 21:06:43.59 発信元:111.89.140.2
('A`) シベリアには観光で来たんすか?

( ・∀・) ええ、そうですよ

('A`) どうですか、実際に歩いて見て

( ・∀・) …来て良かったと、思えました

そう言うと彼は、穏やかに微笑んだ。

('A`) それは良かった。中には、つまらないなどと罵る人もいるんすよ

( ・∀・) へえ…

平原と違い雪が全く残っていない煉瓦敷きの道を歩いていると、広い敷地の中に建つ荘厳な図書館が見えた。

('A`) ようこそ、ブーン系小説シベリア図書館へ

職員用の出入り口から入る。普通は通ることのできないためか通路に足を踏み入れると探検でもしているかのように思えて、胸が高鳴る。遠くに聞こえる雑音が、放課後の学校の雰囲気を思い返させた。

('A`) おーい、だれかー


897 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/02(月) 21:07:46.12 発信元:111.89.140.2

(-@∀@) はーい…何があったんですか?

('A`) バス停で転んじまってさ、偶然居合わせたこの人が心配して荷物運び手伝ってくださったんだ

(-@∀@) なんと…わざわざすみません、ありがとうございます。さ、荷物を

( ・∀・) はいどうぞ。図書館に来るついでにお役に立ててよかったですよ

('A`) 本当にありがとうございました

ひと段落したので、早速ツンを捜しながら本を読むふりをすることに。


900 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/02(月) 21:12:25.73 発信元:111.89.140.2
( ・∀・) (それなりに良い印象をあたえたろうから、少しはやりやすくなるかな)

先ほどの眼鏡をかけた司書さんから、どのジャンルがどこの本棚にあるのかを訊ね、どれを読もうかじっくりと選ぶ。と言うか、じっくり選ばざるをえない。

( ・∀・) (まさかこんなにあるなんて…もっと細かく絞り込んで訊ねるべきだったな)

目録を使えば便利なのだろうが、僕は直接手にとって選びたかった。

( ・∀・) お?

ふと、一冊の背表紙に目が停まった。即時手に取り読書用のスペースへ。

( ・∀・) (よっこいせ…どれどれ)

タイトルや表紙に惹かれたわけではない、ただ何となく手に取った本を開いた。
開いて、ページだけ適当にめくっていれば怪しまれないかと考えていたが、1ページ目でそんな無礼な考えは吹き飛んだ。
僕はどんどんのめり込んでいき、一字一句も見逃さないよう集中し、物語の奥深くへと沈み込んでいった。激しい戦闘シーンがあるわけでない、ただの夫婦の物語、なのに。

( ・∀・) …


902 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/02(月) 21:14:51.76 発信元:111.89.140.2
脇目もふらず一気に、読んでしまった。少し余韻を味わってから、席を離れ本を棚に戻してまた選ぶ。次に手に取ったのは若干コメディ調な家族の話。はじめの数ページは正直読みにくく、つまらなかった。しかし段々と読みやすくなり、ギャグもツボにハマり始める。
中盤では笑いを堪えるのに必死で、終盤に入り丁寧に描写された姉と弟の姉弟愛に至っては、不覚にも涙がこぼれた。滲む視界のまま読み終え、本を閉じると、すぐ隣に立っていた男に話しかけられた。

( ^ω^) ティッシュをどうぞ

( ;∀;) え、あ、すみません…

涙をふき鼻をかんで、落ち着きを取り戻してからティッシュをくれた笑顔の男性が胸に付けている身分証に気付く。

( ・∀・) …館長さんですか?

( ^ω^) はい。当館の館長で、ブーンといいますお

…まさか、ツンの恋人が館長とは予想外だ。

( ・∀・) どうも…

( ^ω^) 本日は、ありがとうございました。当館を代表し、心から御礼申し上げます

嫌味のひとつでも言ってやろうかと考えていたら深々と御辞儀をされた。

(;・∀・) や、そんな、顔を上げてください…大したことしてませんし


903 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/02(月) 21:16:53.49 発信元:111.89.140.2
( ^ω^) そんなことはありません。ろくに御礼もできませんが本日は当館の蔵書を、こころゆくまでお楽しみください…とはいえ、私自身が書いた物はないんですけども

柔和な笑みと優しい声質に、なんだか毒気を抜かれてしまった。

( ・∀・) そうなんですか?僕はてっきり、職員のみなさんも書いているものだと…

( ^ω^) 書いたのは今のところ、司書であるアサピーという者だけですお

( ・∀・) ああ、あの方が…アサピーさんって、何冊も書いているんですか?

( ^ω^) いえ、ひとつだけです

ふと、館長の目が遠くを見、ついで懐かしむような声になる。

( ^ω^) 彼は、ある日に突然書きはじめ、一冊を完成させてからはそれきりです。しかし彼は、あの作品を書いてからというもの少し明るくなったんですお

( ・∀・) へえ…なにかあったのでしょうか

( ^ω^) 私も不思議に思い、訊ねてみましたが教えてくれませんでした

( ・∀・) なんだか、ドラマがありそうですね

( ^ω^) …此処に来たあなたが最初に手にとって、食い入るようにお読みになっていた作品ですが


905 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/02(月) 21:25:58.45 発信元:111.89.140.2
( ・∀・) (そっから見てたのかよ…なんだかキモいな…)

( ^ω^) とても幸せな夫婦の話でしたお?

( ・∀・) はい

( ^ω^) でもあれを書いたアサピー自身の両親は、色々とあったらしいんですお

( ・∀・) え…

( ^ω^) 幸せな物語を紡ぎ出す人が、幸せとは限りません、その逆も。物語は時として、作者自身を写す鏡なんですお

( ・∀・) あの話は、アサピーさんの理想だということですか?

( ^ω^) ええ。もっとも、全てがそうとは言いません、作品によってはそうなるって話ですお

( ・∀・) なるほど

ここで、いったん話題が尽きたが館長も暇なのか、まだ話したそうにしている。


906 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/02(月) 21:26:57.76 発信元:111.89.140.2


( ・∀・) …そういえば

( ^ω^) はいはい

( ・∀・) さきほど、今のところ書いたのはアサピーさんだけだとおっしゃいましたね

( ^ω^) はい

( ・∀・) と言うことは、いずれ書く予定の方がいらっしゃるのですか?

( ^ω^) ええ、僕が今、書いてる最中ですお

( ・∀・) どんな話ですか、ひょっとしてギャグ系?

(;^ω^) いやあ…ギャグ系は書けないので、恋愛系ですお

( ・∀・) それも…貴方を写す鏡なんですか?


907 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/02(月) 21:28:54.84 発信元:111.89.140.2
( ^ω^) そうですお

館長は、力強く肯いた。

( ^ω^) 僕、こう見えて恋人がいるんですが

( ・∀・) それは…うらやましいです、とても

( ^ω^) でも、僕は彼女の過去をあまり知らないんですお。それが時折口惜しくなるし、それ以上に彼女は、ある年齢から昔の記憶が思い出せ無いんですお。医者によると何か強い精神的ショックのせいだろうって

( ・∀・) そう…なんですか

( ^ω^)僕がなにより悔しいのは、そんな出来事から彼女を守れなかった事なんだお。だから僕は、好きな子といつもいつまでも一緒にいて、好きな子を全力で守る…そういう話を書く予定だお

( ・∀・) …御気持ちは、良く解ります

( ^ω^) ありがとうございますお


912 :( ・∀・)幸せになるようです [] :2012/04/02(月) 22:12:24.88 発信元:111.89.140.2
( ・∀・) でも、だからこそ、訊ねます。訊ねたくて、しかたがない

( ^ω^) はい

( ・∀・) たとえば、貴方の恋人が過去に体を売っていたり、子を殺めていたりしても変わらず接することができますか?

館長は正直に顔をしかめ、僕を睨む。その表情に、修羅を見た。だがそれは一瞬間のことであり、口を開いた時には既に先程の笑顔であった。

( ^ω^) 何度も、考えた事です。僕は割と嫉妬深くて、彼女が昔どこぞの誰かに抱かれていたりしたらと考えると、夜も眠れないお…ですがそれでも、そんな過去の彼女も僕の好きな彼女です

( ^ω^) 僕は彼女の過去を知らない分、これからの彼女が枯れるように老いて骨になるのを、見届けたい

( ・∀・) …


913 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/02(月) 22:13:14.78 発信元:111.89.140.2


( ^ω^) 彼女にハッピーエンドを迎えて貰うために、僕のくだらない嫉妬心は墓まで持って行くつもりですお

( ・∀・) …立派、ですよ

( ^ω^) そんな事はありませんお

( ・∀・) そうですかね

( ^ω^) ですお。いやーなんだか恥ずかし…

ξ#゚⊿゚)ξ ちょっと館長!

(;・∀・) !?

(;^ω^) な、なんだお?

ξ#゚⊿゚)ξ また仕事さぼってるんですか、祭りも近いんですからしっかり働いてください

(;^ω^) おーん、ごめんだお


914 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/02(月) 22:17:28.92 発信元:111.89.140.2
ξ#゚⊿゚)ξ 暇なら倉庫の掃除くらい手伝ってください

(;^ω^) マジすみません。あとツン、あまり騒ぐと…

ξ゚⊿゚)ξ なに?

(;・∀・) …

ξ゚⊿゚)ξ あら…

ツンと、目があった。あってしまった。

ξ;゚⊿゚)ξ すみません、大変失礼いたしました

(;・∀・) いえ…

ξ゚⊿゚)ξ 当館は初めてですか?

(;・∀・) はい

ξ^⊿^)ξ ゆっくりしていってくださいね

ツンは、まぶしい笑顔を僕に向けてくれた。けれどもそれは、明らかに他人向けの事務的なもので。

( ^ω^) そうだお、ツン、アサピーが作ったあれ、まだ有ったっけ


915 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/02(月) 22:19:59.26 発信元:111.89.140.2


ξ゚⊿゚)ξ あれって、栞の事?

( ^ω^) それ

( ・∀・) 栞?

( ^ω^) シベリアでは品種改良された桜が咲くんですけど、当館の司書がその桜のうち早咲きしたものを押し花にして、栞にしたんですお。よかったらお持ち下さい
( ・∀・) ありがとうございます

ξ゚⊿゚)ξ あれ、素敵よね

( ^ω^) ツンの方が素敵だお

ξ;゚⊿゚)ξ なっ…

( *^ω^) ニヤニヤ

ξ*゚ー゚)ξ もう、バカ

( ・∀・) …

カウンターへと歩き出したツンが、館長に向けた笑顔を僕は良く知っている。


917 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/02(月) 22:24:41.30 発信元:111.89.140.2

なにせ、その笑顔はかつて僕に向けられていた物だから。

(;^ω^) おっ!どうしました?

何かが弾けて、駆け出した。

館長が僕を呼び止める声も、周囲の視線も振り切って、とにかく走った。



918 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/02(月) 22:26:44.12 発信元:111.89.140.2
―――おにぃ、にいに、あにぃ。
現実で妹からこんな風に呼ばれる兄は、非常に少ない、方言は別として。
にいちゃん、おにいちゃんと呼ばれる兄が一番多いのではないだろうか。
にいさん、は上品な家庭の兄ならば呼ばれることもあるだろう。あにき、と呼ばれる兄も少なくないはずだ。
下の名前で呼び捨てにされる兄は幸いで世の中、呼び捨てにすらされない兄もいる。
名前で呼ばれもせず用がある時は、「おい」とか「ねえ」とか「ちょっと」とかが用いられるのだ。
さらに言うと、何をするにも無言で、互いのメールアドレスすらも交換しない兄すらいる。

そんな中で、僕はとても恵まれていたと思う。
動機が何であれ、妹から、こっそり「パパ」と呼ばれていたのだから。
そう呼ばれる事を合図に、僕は妹を慰めるふりして弄んだ。
異常だとは思っていた。
でも現実はより切実で人の心は脆い。
下手に粘りをみせると歪むし、何も感じなくなれば最早まともでない。
妹は粘った方で、父親に責められた夜はいつも僕に抱かれながら泣いていた、声を懸命に押し殺して。
僕はそんな妹をたまらなく想った―――



921 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/02(月) 22:37:27.66 発信元:111.89.140.2
走って、逃げ出したかった。振り切りたかった。僕自身の奥底から溢れ出す、後ろ向きな三つの奔流。

( #・∀・) うがあああっ!

ひとつ、嫉妬心。
いくら望んでも二度と手に入らない、ツンという一人の女性。昔僕が感じていた幸せも温もりも、今では別の男が独占しているという現実。ツンの、僕しか知らなかった部分を館長も知ったはずだ。

ひとつ、罪悪感。
あんなにも幸せそうなツンの過去が僕の手垢だらけである事を申し訳無く思う。深い愛情を堂々と語った館長に謝りたかったけれど、それはできない。
僕はツンを欲望のまま汚しました、体中撫で回し舐めまくりました。ツンの顔に、口に、手に、腹に、腰に、股に、足に、僕のアレをアレしました。
幼く無垢なツンを弄びました。そんな暴露を謝罪と共にされたところでマイナスしかない。ツンだって、折角忘れる事ができたのにまた思い出してしまうだろう。

ひとつ、絶望。
僕は今までどうしても、都合の良い希望のひとかけらを捨てきれなかった。
ツンが辛い事だけを忘れたまま、僕の事を思い出してはくれやしないかと、頭の片隅で浅ましく奇跡を願っていた。


922 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/02(月) 22:40:03.54 発信元:111.89.140.2
僕自身がツンの記憶を呼び覚ます引き金になることを恐れ、妄想するだけで会う事はしなかったけれど、ひょっとしたらと思い続けていて。
実際ツンが僕と会い何も思い出さなかったことで、繰り返し妄想したような都合の良い思い出し方なんて絶対にしないのだと、鉛のような重い絶望にのし掛かられたのだ。
僕は自分で思っていたよりも遙かに、ツンに覚えていて貰いたかったようだ。妙だな、ツンが過去を思い出さないことは、僕には喜ばしいはずなのに。

(; ∀ ) くそったれえええ!!

人気の無い市街地を当て所なく走る。時々擦れ違う通行人に迷惑がられようがとにかく走りながら、想像した。
僕とツンが今でも一緒にいられたのなら、もしも幸せな家庭を築けたら。


923 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/02(月) 22:43:09.79 発信元:111.89.140.2
僕とツンの両親は鴛鴦夫婦として健在で、ツンも僕も怯えることなく生活できたらそれは凄く素敵だけれどでもそれだと、ツンが僕に依存する理由がないから、兄妹でありながら男女の仲に成ることもなかっただろう。
でも、それはそれで理想的じゃないか。
でもでも、けれどもなんという事か。僕にはタイムマシンが無いのだ、残念なことに超能力も何も無いんだ。
(; ∀ ) ちくしょう…ドラえもーん

高いフェンスに、全身でタックルして無理矢理停止、そのまま冷え切ったアスファルトにへたり込んで背中をフェンスに預け泣きじゃくる。延々、泣き続けた。

( ;∀;) ひぐっ…えぐっ…

どれだけの時間が経ったのだろう。
息苦しさに顎を上げれば空はやっぱりどこまでも蒼色で、ぐるり後ろをみやればフェンス越しに淡いピンク色の花を咲かせる桜があった。もしやと思い左右を捜すと、看板にイベント会場の名前有り。

( ・∀・) …お花見祭りが近いのか

看板の予定表によると、4月始めから大々的にやるようだ。

( ・∀・) もう幾日で満開か


925 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/02(月) 22:47:17.08 発信元:111.89.140.2
会場内は祭事期間外の雪掻きをしなかった為か平原と同じく雪が残っていて、新緑と小さな花々が雪の隙間から顔を出し、桜の木は少し花が開いていた。

( ・∀・) はあ…そっか、今年も咲いたか

残念だが僕は素直に喜べない。落ち着いた以上、此処は僕にとってまぶしすぎる。

( ・∀・) そういや何時だ?

腕時計は2時を指していた。不意に強い風が吹き始め、寒さに身を強ばらせる。泣き疲れて落ち着いたら、空腹と寒さが一気に襲ってきた。

( ・∀・) (本読んでたせいで昼飯忘れてたな)ホテル戻るか…ん?
立ち上がろうとして、気付く。

(;・∀・) これ、図書館の本じゃねーか
どうやら僕は本を持ってここまで来たらしい。…ねーよ、どんだけマヌケなんだよ僕。

( ・∀・) (まいったな、図書館寄ってからじゃ、約束に間に合わない)

( ・∀・) …図書館はけっこう遅くまでやってたし、ヒールと会ってからでも良いか

本に汚れや損傷が無いかを何度も確かめながら、僕は歩き出す。


927 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/02(月) 23:00:43.92 発信元:111.89.140.2
***

川*` ゥ´) 時が経つのは早いねー

約束の時間を2分程度過ぎて花屋へ到着したらヒールに怒られた。あんたの事だからすっぽかされると思った、と。

( ・∀・) ああ、全くだよ

流石に申し訳なかったので、謝りついでに服をほめたら機嫌を直しBARのテーブル席で乾杯するころには、すっかり元通りになった。扱いやすい奴である。

川*` ゥ´) しっかし、ずっと余所に居たのに、なんでまたシベリアへ戻ってきたのさ

( ・∀・) 会社を辞めて、暇になったのさ

川*` ゥ´) 辞めた?なんで?

( ・∀・) 将来性が無くてね

川;` ゥ´) あんたねー、そんなこと言ってニートになっても知らんよ

( ・∀・) 大丈夫だって。それよりヒールはどうなんだい、今の仕事は

川*` ゥ´) 楽しいし、満足してるわさ。良いもんだよ、何気に重労働だけどね

( ・∀・) お花屋さんって、楽なイメージしかないけど

川*` ゥ´) 何言ってんの、水を沢山使うから重たいし冷たいし、花だって丁寧に運んだり綺麗に並べたりするのに気を揉んで、ラッピングだって不器用だから難しいんよ

( ・∀・) そうなんだ、やっぱり仕事は何でも大変なんだな


928 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/02(月) 23:03:13.03 発信元:111.89.140.2
川*` ゥ´) 厄介なのは花束よ。適当に綺麗なやつを、とか、この値段ぴったりで作って下さい、とか言われてみなさいよ。他人の好みなんてよく分かんないし、花の一本一本は値段が違うし、色や花の形だって偏らないようにバランス調整して…思い切りが良くなくちゃ無理だわさ

( ・∀・) なるほどなあ…でも、楽しいんだろ?

川*` ゥ´) まあね…鉢植えにせよ花束にせよ飾り物にせよ、大事に持って帰るお客さんを見送るのが、心地良いのさ

( ・∀・) 弟さんも、あそこの花屋に勤めてるのかい?

川*` ゥ´) あいつも最初は愚痴ってばかりだったけど、最近は質問ばかりさね。自分で花束を作ってみたいらしいよ

( ・∀・) いいね…これからが楽しみだね

川*` ゥ´) 続けば良いんだけどさ


933 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/03(火) 20:41:17.98 発信元:111.89.140.2
( ・∀・) もし辞めちゃったらどうする?

川*` ゥ´) べつに。あたしが養うよ

( ・∀・) 寛容だね

川*` ゥ´) 弟だもの。元気に生きてりゃ、それで十分

( ・∀・) そうか…生きていれば十分か

それじゃあ、ツンは?
僕の知っているツンは、もう居ない。記憶のリセットボタンを押して僕の事は忘れ去った。
ツンは多分一生僕を思い出さないし、たとい思い出したとしても、ツンを辱めるだけ。ならば僕にできる事はせいぜいツンの幸せを願うだけなのか。
観察した限りではツンは幸せそうだったし、館長のような男ならば悪いようにはされないだろう…というか、したら呪い殺す。

川*` ゥ´) どしたの?なんか怖い顔して

( ・∀・) ごめん、ちょっと考え事をね


934 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/03(火) 20:44:00.94 発信元:111.89.140.2
川*` ゥ´) まったくよー、乙女と2人でいるときにそんな事しちゃいかんよー

( ・∀・) え、乙女?どこどこ?

川*` ゥ´) 殴るぞこら…まったく、あんたみたいのがモテたなんて世の中間違ってるってーの

( ・∀・) そうだったの?

川*` ゥ´) そうだよ。あんたは興味無かったろうけどさ

( ・∀・) ホモ扱いはよしてくれ

川*` ゥ´) ちげーよ、妹さんだよ

( ・∀・) …何のことやら分かりませんな

川*` ゥ´) とぼけんな。あんなにベッタベタのイッチャイチャだったくせに。バレンタインデーもさっさと妹迎えに行ってたもんだから、チョコ作ったのに渡せなかった子がいたんだぞ


935 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/03(火) 20:47:11.17 発信元:111.89.140.2

( ・∀・) いやあ…だってさあ…

川*` ゥ´) それで、妹さんは元気?

( ・∀・) うん

川*` ゥ´) どこに住んでるの?あたしてっきり、シベリアに住んでるとばかり思ってたけどさ

( ・∀・) 僕と同じとこだけど…てか、なんで?

川*` ゥ´) ブーン系図書館知ってる?あそこに凄く美人な職員がいるんだけど、妹さんそっくりなんよ

( ・∀・) あの人か、見た見た、僕もびっくりしたよ


936 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/03(火) 20:50:03.14 発信元:111.89.140.2
川*` ゥ´) 最初さ、てっきり妹さんかと思って話しかけちゃったんよ。したら名前も同じなのね、本当吃驚した

( ・∀・) 僕も、職員証を見たとき声上げそうになってさ…おもしろい事も有るんだね

川*` ゥ´) ねー

ぐだぐだ、ぐだぐだと飲み食いしながら話し込んでいたら外はすっかり暗くなっていた。

川*` ゥ´) いやー随分話し込んだね

( ・∀・) 一生分くらい話したんじゃね

川*` ゥ´) ねーよ、短いよ一生分

( ・∀・) まだまだ話したり無いの?

川*` ゥ´) これからさー、また話したくなるかもしんないじゃん?

( ・∀・) そうだね…そうかもしれないね

歩くうちに気温は容赦なくさがり、息が白い。ヒールは寒さのせいで肌が赤みを帯びている。

川*` ゥ´) しっかし、あんたも相変わらず性格悪いなー

( ・∀・) 変える気が起きないよ、今さら

川*` ゥ´) 妹さんも忍耐強いわね


937 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/03(火) 20:50:54.85 発信元:111.89.140.2


( ・∀・) はっはっはっ。バレンタインデーもホワイトデーもクリスマスも、ばっちり2人で祝ったぜ

川*` ゥ´) どんだけやねーん

( ・∀・)+ 本命チョコだったしなっ!

川*` ゥ´) どや顔うぜえ…

( ・∀・) まあでも、妹以外からのチョコも、欲しかったな


938 :( ・∀・)幸せになるようです [] :2012/04/03(火) 20:53:54.92 発信元:111.89.140.2
川*` ゥ´) そうなん?贅沢なやつめ

( ・∀・) いやあ、だって嬉しいじゃないか

川*` ゥ´) はいはい、ただし美人に限るんだろ

( ・∀・) そんな事はないよ、たとえば、君は割と平凡な顔立ちだろう?

川#` ゥ´) 首絞めんぞテメエ

( ・∀・) しかしそんな君からでも、貰えれば嬉しいものだよ…チ〇ルチョコとか板チョコまんまでなければね

川*` ゥ´) …う、嬉しいの?

( ・∀・) くれるのかい?

川;` ゥ´) えー…あー…

川*` ゥ´) …やっぱいいや。めんどいし…あたしみたいな不美人が渡したってしょうがないし


939 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/03(火) 20:56:23.88 発信元:111.89.140.2
( ・∀・) そいつは残念…というか、君は平凡だと言ったろうが

川*` ゥ´) 同じだろ

( ・∀・) 違うよ、ぜんぜん違うよ。僕が言う平凡とは、特に欠点も無いってことさ

川*` ゥ´) いやあ…むしろ欠点しかねえよ

( ・∀・) そんなに自分を卑下するなよ

僕はヒールの両頬を優しく、かつ素早く両手で捕らえ。

川;` ゥ´) な、な、な?

指で無理矢理、口角を上げさせた。

( ・∀・) ほら、良い笑顔じゃないか

川#` ゥ´) なにするのさっ

( ・∀・) 僕は好きだよ、この笑顔

言い終えると同時、ヒールの顔は耳まで朱色がかった。本当扱いやすい奴である。


940 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/03(火) 20:58:41.33 発信元:111.89.140.2


( ・∀・) 扱いやすい奴め

川;` ゥ´) な、なにさっ

僕の手をふりほどいたヒールは、自分の頬をぺちぺち叩く。

川;` ゥ´) き、きさま公衆の面前でっ

ちなみに今立っているのは、ホテル・シベリアにほど近い大通りである。

( ・∀・) 公衆の面前いっても人は…あ、遠くに1人いたね

川;` ゥ´) うー…

( ・∀・) ごめんごめん。だって、君とは笑顔でお別れしたかったんだもの

川*` ゥ´) なに言ってんのさ…今生の別れじゃあるまいに

( ・∀・) そうだね

川*` ゥ´) やれやれ…まあ、会えてよかったわさ

( ・∀・) うん、それじゃあね


941 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/03(火) 21:04:00.86 発信元:111.89.140.2
川*` ゥ´) せっかく連絡先交換したんだし、また会おうぜ

( ・∀・) うん

川*` ゥ´) んじゃねーっ

手を振り合ってから、ヒールは花屋の隣にあるアパートへ。

( ・∀・) 姉弟で2人暮らしか…羨ましいなあ…

人気が無い事を良いことに、盛大に溜息をついた。

( ・∀・) ごめんね、嘘ばかりで。君とだけは湿っぽい話をせず、昔みたいに楽しくお別れしたかったんだよ

僕はもう一度小さく手を振って、体調を崩す前に、暖かいホテルへと足を踏み入れた。

(;・∀・) …あ、本返すの忘れてた…閉館時間すぎてるし…


942 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/03(火) 21:07:03.91 発信元:111.89.140.2

―――春、僕が高校二年生になったばかりの週末、父親が皆を祭りに連れ出した。
妹の誕生日を、ややフライングではあるものの、祝うためだ。
近頃ますます人見知りが激しくなり、常に睨むような目つきになってしまった妹も、この日ばかりは丸みと年相応の幼さを取り戻す。
僕だって前日に行こうと言われてからはやる気持ちを抑えきれず、当日は家の誰よりも早起きしてしまい、トイレから帰ると妹から隣が寒いと怒られた。
母親は、急に家庭的になった父親に戸惑いつつも朝から準備をし、電車とバスと歩きでイベント広場に向かった僕らは円満で物静かな家族そのものだった。

父親が母親を気遣う様子など、たといそれが周りの視線故だとしても、久しぶりに見れて嬉しかった。
僕は希望を抱き始め、手を繋いでいる妹も視線で同じ物を感じたのだと伝えてきた。
幸せだった。

鼻を擽る暖かい香り、頬を撫でる優しい風、見上げる空の青さと舞い散る桜の美しさ、繋いだ右手に伝わる熱量、喜び溢れる妹の横顔、穏やかな両親。
ひょっとしてコレは夢なんじゃ無いのかしらんと、いらぬ心配すらもした。


944 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/03(火) 21:17:14.20 発信元:111.89.140.2
花見祭りの会場は老若男女いりみだれ、桜の花は咲き乱れ。
最果てのシベリアにはこんなにも人がいたのかと、生まれて初めて祭りに来た妹は興奮すると同時に怯えたが、しだいに負の感情を僕に訴えなくなる。

本当に幸せだった。
僕らは、本来こう在るべきなのだという、もしもの世界が現実として展開していた。
どちらを向いても人がいる会場はしかし、わざわざ場所取りをする必要はなく、出遅れたグループも広い会場で良い席にシートを敷くことは容易くて、それはシベリアンが当然の如く成した、配慮と配置の妙技を物語っていた。

夢のように幸せなのに決して夢でなかった一日を終えた夜。
僕は、妹と約束をして、それは結局不可能になってしまう。

急に穏やかさを取り戻した父親へ、希望ではなく疑念を抱くべきだったのだ―――


945 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/03(火) 21:19:48.60 発信元:111.89.140.2
***

ブーン系小説シベリア図書館の朝は早い。

('A`) おはようございまーす

( ・∀・) おはようございます

('A`) 今日の来館者第1号ですよ

( ・∀・) 開館と同時ですもんね

('A`) 朝飯ちゃんと食べたんすか?

( ・∀・) 勿論、最高の朝食を味わってきました…ところで館長はいらっしゃいますか?

('A`) あと半時程で来るはずです

( ・∀・) わかりました、待ちます

('A`) 御覧の通り、来館者は貴方だけですので好きな席でお待ち下さい

カウンターからぐるりと館内を見渡すとアサピーさんが窓のカーテンを開けていた。
読書用の、長机が並ぶスペースは眩い陽光に満遍なく照らされ、地味ながら細かな装飾のされた大きな窓の汚れをチェックし、満足そうに肯いたアサピーさんは巨大な本棚同士の狭間に消える。


946 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/03(火) 21:22:05.05 発信元:111.89.140.2
( ・∀・) 几帳面ですね、アサピーさんて

('A`) じゃなきゃ当館の司書は勤まりませんよ。なにせ当館の蔵書は無計画に増え続けていますから

ドクオさんは、今朝はカウンターの受付に陣を構えている。
カレンダーやらペン立てやら、小物が幾らか置いてあるカウンターはピカピカに磨き上げられており、いかにも座り心地の良さそうな椅子に座ってティーカップを傾けるドクオさんは、まるで大企業の辣腕経営者だ。

( ・∀・) さて

僕は明るく暖かな館内で、今度は真剣に、作品を物色し始める。
僕はタイムリミットが短いことを知ってしまった。
だから、新しい楽しみを見つける事なんて意味がないと思っていたが、こうして朝早くから楽しみを求めている。
僕は貪欲な人間で、我が儘で、卑しいけれど、物語は僕を拒んだりしない。僕が拒むことは有るというのに。

( ^ω^) おはようございます


947 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/03(火) 21:25:12.44 発信元:111.89.140.2
三冊目の短編を読み終え、棚に戻したところで館長が顔を出した。朝も変わらず柔らかな笑顔を浮かべ、落ち着き払った足取りでカウンター奥の部屋へ入ると、またすぐに出てきた。どうやら鞄とコート、シベリア帽を置きに行っただけのようだ。
ドクオさんが僕の方を見ながら二、三言告げると、早歩きでこちらに来た。

( ^ω^) おはようございます。今日も来てくれたんですかお

( ・∀・) おはようございます…昨日は、失礼しました。蔵書も持って行っちゃって、すみません

( ^ω^) 気にしなくても大丈夫ですお

( ・∀・) これ…お返しします

館長は僕が差し出した本を両手で受け取ると、カウンターへ戻りドクオさんに渡し、また僕の元へ来た。

( ^ω^) 今日はもう、何か読みましたか?

( ・∀・) ええ、短編を三冊…あの、館長さん

( ^ω^) なんですかお?

( ・∀・) 怒らないんですか?

( ^ω^) 怒るもなにも、貴方は当館の貸し出し規約に則って借りた本を返した、それだけですお

( ・∀・) 規約に則るって、僕はただ引っ付かんでそのまま飛び出したんですよ?

( ^ω^) 手続きはこちらで済ませましたお


948 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/03(火) 21:27:07.74 発信元:111.89.140.2
( ・∀・) 僕が読んでいた本のタイトル、見てたんですか?

( ^ω^) いえ、見たのは貴方が開いていた頁だけですが、それで十分事足りますお

( ・∀・) そう、なんですか

( ^ω^) では、私は仕事がありますので、これで失礼します

立ち去ろうとした館長は、はたと足を止め振り返る。

(;^ω^) あっぶね…これを忘れるところでした

差し出されたのは、桜が押し花にされた栞。

( ^ω^) 昨日は渡し損ねてしまいましたが、よければお持ち下さい

( ・∀・) …ありがとうございます

全体的に暖かで、淡い中に鋭い色が少し入れられた、あざやかで手頃な栞を僕は両手で受け取った。

( ^ω^) ブーン系小説シベリア図書館は、いつでも貴方を応援していますお。では、失敬


950 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/03(火) 21:29:53.08 発信元:111.89.140.2
颯爽と歩く館長の後ろ姿は、悔しいけれど格好良くて、ツンが惚れるのも納得できた。

ξ゚⊿゚)ξ おはようございまーす

( ・∀・) …

ツン、僕の妹だったツン。僕は死ぬ前にどうしても君に会いたかった。

('A`) おはよ。ツンさん、紅茶飲む?ギコさんから良い葉を貰ったんだ

ξ゚⊿゚)ξ あら、お願いするわ

自分は長生きするだろうと根拠なく思っていた頃は、妹の事を忘れようとしてさえいたのに、終わりが見えた途端たまらなくなった僕は浅ましく愚かしい。

(-@∀@) おや、良い香りですね。ギコさんからいただいたやつですか

('A`) そ。たまには良いだろ?

ツンの為にも、僕の事は忘れていて欲しい。
でも思い出すんじゃ無いかと期待していた僕もいる。どっちが本当なんだろう?どっちも本当の僕か。
兄としての矜持を貫くのならば、ツンにはこのままでいて欲しい。そのためには僕が姿を表さないのが理想なのだけれど。
じゃあなんで僕は、ツンが思い出してしまうかもしれないと解っていて尚此処に来たのか。
それは兄として妹の顔を見たかったんじゃない、そんなの言い訳にもならない。


951 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/03(火) 21:33:11.44 発信元:111.89.140.2
( ^ω^) おっ、紅茶かお?

ξ゚⊿゚)ξ ドクオさんが煎れたの、素敵な香りよ

兄以前に独りの男性である僕はつまるところ、夢を見たかったのだろう。
過去を忘れたツンが、また僕を好きになってくれやしまいかと。ツンが、環境のせいでなく純粋に僕の事を好きになってくれたんじゃないのかと。
妄想するだけで殻に閉じこもり無駄にモラトリアムな日々を消化していた僕と違って、彼女は1人の女性として幸せを掴んだ。
どうして違ったのだろう?なにを間違えたのだろうか、僕は。

ξ゚⊿゚)ξ おはよう。ここ良いかしら

( ・∀・) …おはよう、どうぞ座って

ξ゚⊿゚)ξ 紅茶は飲める?


952 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/03(火) 21:34:25.83 発信元:111.89.140.2


( ・∀・) ありがとう、いただきます

ξ゚⊿゚)ξ …ふう

( ・∀・) …美味しいですね

ξ゚⊿゚)ξ カウンターのドクオはね、ああ見えて教養が深いの。紅茶の入れ方も、小さい頃に教わったそうなのよ

('A`) …

( ・∀・) …いやあ、見えないなあ…

ξ゚ー゚)ξ ふふっ、私もよ

僕が対面に座るツンのためにできることは、もうひとつだけだと思う。

ξ゚⊿゚)ξ それにしても不思議だわ。貴方とは初対面よね?

( ・∀・) はい


957 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/03(火) 22:00:57.26 発信元:111.89.140.2
ξ゚⊿゚)ξ それなのに、初めて会った気がしないのよねえ

( ・∀・) 実は、僕もです

それは兄としては幸せなのだけれど、僕としては悔しいことで。

ξ゚⊿゚)ξ そういえば貴方、栞は貰ったの?

( ・∀・) うん、もらいましたよ

ξ゚⊿゚)ξ よかった。綺麗でしょ、あの栞

君の方が綺麗だよ、と僕が言ったところで変な顔をされるだけなのだろう。

ξ゚⊿゚)ξ 明日、お花見祭りが始まるわ。会場にいけば、もっとたくさんの桜の花を見れるわよ

( ・∀・) あれって、色んな出店があるらしいけど、あなた方も出るんですか?


ξ゚⊿゚)ξ ええ。展示をね。会場行って、仕事しながらお花見するわ

( ・∀・) 良いですね、しかも恋人と一緒なわけだ

ξ*゚⊿゚)ξ …

ξ*^ー^)ξ 羨ましいでしょ?

ええ、本当に、まったくですよ。


958 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/03(火) 22:03:23.52 発信元:111.89.140.2

―――家に灯油をまき散らした父親が母親を殺し、首を絞められていた妹を無我夢中で助けたら結果的に父親が死んで、今後人殺しとして扱われる事を想像したらとてつもなく怖くなり証拠を消そうと父親の遺した液体に火を放つ。
轟々と燃え盛る炎、舞い散る灰、立ち上る煙。あまりに嘘臭い状態、その向こう側から日が登り始めた。
家を燃やす火から日が出てきたようで、神秘的で夢みたいな光景を背中の妹にも見せてやりたいと思ったのだが妹は気絶している。僕は気絶している妹を、背負ったままで起こした。
僕の声にゆっくりと目を開けた妹は、開口一番問いかける。貴方はだあれ?
頭を殴られたような痛みのあとに、僕は理解をした、妹は現実から逃げ切ったのだと。
僕は、何も言えなかった。炎と太陽の明るさに気付いた妹は暫し燃える家を眺めていたが、すぐにまた寝てしまう。
でも考えてみれば、僕にとっては都合が良かったのだ、だって訊かれたら困るから。
なんで家が燃えているのか、お父さんが何故狂ったのか、お母さんは何故殺されたのか、僕と妹はこれからどうすれば良いのか答えられない。


959 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/03(火) 22:06:29.84 発信元:111.89.140.2
僕には荷が重すぎるのだ、妹を背負うので精一杯な僕はどうすれば良いのか分からないから、黙って炎を眺める。

次第に騒がしくなる路上で、目の前に広がる光景が別の世界の出来事に思えて、とても滑稽に見えた。
遠くから聞こえるサイレンでふと我に返った。帰るべき自分が有ることに驚いて、同時に悲しむ。
僕はまだ、僕であることが許されており逆に言えば狂ってしまったり、妹のように忘れてしまう事が許されていない。

いつのまにか僕の周囲には見知らぬ人達が立っており、赤いランプで定期的に照らされている野次馬は何を喋れば良いのか分からない様子。
まるで祭りの時みたいに大勢の人が集まり、皆で炎に魅入っていた。ここに居る全員が火葬を見守っていると思うと不思議な興奮が僕の中に芽生える。そう、火葬。
あの家が燃えているのは過去を火葬しているんだ、そうして新しい思い出を積み上げてゆけばいずれ忘れる事ができるかもしれないと。
そう思うと世界は、ますます滑稽に見えてきて僕はなんだか可笑しくなって。


961 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/03(火) 22:08:03.46 発信元:111.89.140.2

堪えきれなくなったところで、救急車の人が僕を羽交い締めにするみたく毛布で包み、消防車の人が放水を始めた。僕はとっさに叫んだ、消すな、と。

今までの何もかもを燃やし尽くして、焼け野原にならないと、僕は前に進めないと思ったから、だから―――


962 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/03(火) 22:14:04.47 発信元:111.89.140.2
図書館を出で、ホテルへと戻った僕は荷物をまとめチェックアウトした。

太陽は高々と輝いているものの、雲が出てきた。最後まで快晴とはいかないようだ。

( ・∀・) (さーて…)

少ない荷物と、ショボンに貰った記念カード、それに館長から貰った桜の栞を持ってバスに乗り込む。
初めて通る道を眺めて思う、この世界は本当に広いと。
生まれ育った地でさえも、知らない場所や見たこともない道が山ほどある。
子供の頃に、うんと低い目線でしか見れなかったものは、幾年月生きていかなければ頂上を見ることができない。目線が高すぎると、細かな物は見えなくなる。
僕が今、バスの窓から眺めている視界には遙か宇宙までもが存在するというのに、僕は銀河を見ていない。

( ・∀・) (ま、だから何だって話だな)

僕には最早何もかもが些末事で、けれども些末な想いが溢れては消えまくる。
誰に語るでもなく誰に訊ねるでもなく、僕という自意識が無意味に積み重ねている記憶を意味ある物に昇華させるため、人は他人を欲するのか。
だから、僕の自意識は生まれたのか。僕の自意識は多分、計算に飽いた脳が思考という対話をするために造ったプログラムのようなものなんだろうか。


963 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/03(火) 22:17:08.94 発信元:111.89.140.2
( ・∀・) (…うん、自分でもわけ分からん)

くだらない思索を巡らせている間に、バスは目的の停留所へたどり着いた。

暖房の効いた車内から一転、一面の雪原へと僕は降り立つ。

( ・∀・) さぶっ

シベリアには永久凍土が横たわっており、雪景色は日常の景色で、特に此処シベリア雪原は広大な平原が一面厚い氷雪に覆われている。
しょっちゅう吹雪いてしかもコレと言って何も見あたらない雪原に足を運ぶシベリア住民が多いのだから、人間てのはおもしろい。
おもしろいといえば僕が立っている停留所もそうで、長方形に敷かれたコンクリートの基礎の上、最低限、標識と真新しいベンチが据えられている。
全周囲見渡せど人工物はシベリア中央部から途切れなく続く細い道路と、無味簡素極まりないこの停留所だけである。しかも地平線は霧のように舞い上がる新雪で途切れ途切れにしか見えない。

( ・∀・) 本当になんもねー…

鉛色から白銀色へ、一歩前へ踏み出す。雪に足が沈み、体温は一気に奪われる。

( ・∀・) 気持ちいいな


964 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/03(火) 22:20:53.39 発信元:111.89.140.2
どんどん歩く。どんどん、歩くうちに雪が振り出し上も下も真っ白に染まり、進むにつれ方向も時間もよく分からなくなっていったけれど恐怖は無い。ただ、小腹が空いた。

( ・∀・) あー…もういっか

振り返ってもとっくに雪しか見えない。いつの間にか荷物を捨てていた。あるのはカードに栞だけ。欲を言えばヒールからのビターチョコレートも欲しかった。
全身だるいので、大の字に寝転がる。思いの外しっかりと沈み込んだ。空は、重たそうな雪雲で埋め尽くされている。

( ・∀・) はあ…寒い
吐き出す息は凍りそうで、手足の感覚は既に無い。
でも悲しくなくなっていた、だって僕が歩いてきた足跡は、どんどん降り積もる雪にに隠され、やがては消えてしまう。僕が汚してきた人生も、時と共に消えてゆく。
それでいい。
それがいい。
会っても思い出さなかったのだ、二度と会わなければ一生忘れたままだろう。
僕は幸せだ。自分の過ちを、誰にも知られないよう封印し、しかも大好きな女の子の役に立てるのだ。

( ・∀・) …ショボン。君は多分否定するだろうけどね、兄として僕は今幸せだし…救われるよ

これが理想ではないけれど、最悪ではない。


966 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/03(火) 22:35:47.45 発信元:111.89.140.2

妹の幸せが兄の幸せでなくて何だというのだろう。
僕の男としての生臭い欲望で、ツンを引きずり下ろすなどあってはならない。ならないのだ。
もう、顔を見たいなどという無謀な考えを持たないために、僕の思考は今日ここで止めてしまうべき。
然らずばでなく自ずから死ぬべきだ。
( ・∀・) しかし…居心地いいなここ。落ち着くわー
何もかもを包み込んでくれるから、だから。
( ・∀・) ぐっすり眠れそうだ
僕が消えれば事の真実を知る者はいなくなる。だから安心だ。ごめんよショボン、君にまで嘘をついたままで。

( ‐∀‐)

幸せを感じさせる桜の栞があるから、悲しくはない。
繋がりを感じさせる記念カードがあるから、寂しくもない。
だからおやすみなさい。

二律背反に縛られた僕にできるこれが、たったひとつの冴えたやり方。


967 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/03(火) 22:38:50.43 発信元:111.89.140.2




…ごめん、やっぱ嘘。


やっぱり僕、凄く泣きたくなってきた。

***


969 :( ・∀・)幸せになるようです [sage] :2012/04/03(火) 22:42:36.69 発信元:111.89.140.2


―――

「楽しかったね、ツン」

「うん、本当に」

「また、お花見しよう。桜の下で、お父さんお母さんに仲良くツンの誕生日を祝ってもらえるようにする。僕が約束するよ!」

「本当?嘘じゃないよね?」

「僕はツンに嘘をつかないよ。約束だよ」

「約束、忘れないでね」

「大丈夫、絶対に…忘れないよ」

「…うん!」


***

関連・(-@∀@)とある眼鏡の蔵書目録のようです・SF(すこしふしぎ)版
    http://aozorahorizon.gob.jp/00094/index.html (リンク先:青空ホライゾン様)
***


( ・∀・)幸せになるようです







637 :名も無きAAのようです [] :2012/04/03(火) 22:47:37 ID:Fg.NLUHcO
シベリアに代理願います↓

以上です。

花見祭りにあわせて書きました。

某有名な著作やカード発行人になったようですから勝手に引用したり、amazarashiのワンルーム叙事詩という曲をネタに使ったりしたりしてます。

ありがとうございました。


※('A`)はカード発行人になったようです
http://potenta.blog13.fc2.com/blog-entry-105.html (リンク先:ひとくちlw´‐ _‐ノvくりぃむ様)
http://sogomatome.blog104.fc2.com/blog-entry-160.html (リンク先:ブーン系小説総合スレ 【 イラスト+α 】 まとめ様)
http://iroirotunpeni.blog11.fc2.com/blog-entry-282.html (リンク先:短い( ^ω^)のようですブログ様)

973 :いやあ名無しってほんとにいいもんですね [sage] :2012/04/03(火) 23:12:01.96 発信元:114.185.125.191
乙 ふわふわした読後感だな


975 :いやあ名無しってほんとにいいもんですね [] :2012/04/03(火) 23:23:27.05 発信元:124.146.175.166
大変面白く読ませていただきました 
 
3日間猿と闘いながら投下お疲れでした 
 
二つ程質問したいことがあるのですが 
 
1つ目は( ・∀・)の生死は初め予定どおりなのかな? 
 

976 :いやあ名無しってほんとにいいもんですね [sage] :2012/04/03(火) 23:38:18.13 発信元:111.89.140.2
>>975

描写不足ですんません
死期が迫っているのでシベリアに来たわけですが、最初から自分で死期を早めようと決意していたわけではありません



※関連
  百物語企画告知作品


( ^ω^)ブーン系小説シベリア図書館のようです★43
http://toro.2ch.net/test/read.cgi/siberia/1324127787/

[ 2012/09/13 20:01 ] 短編 | CM(0)


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