まぜこぜブーン

ブーン系まとめ

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 ( ・∀・)「まだ続けるようですか?」


617名も無きAAのようです :2013/08/07(水) 08:39:45 ID:7dOjwoOY0
その日は夜更かしをしていた。
ただなんとなく眠れなかったからだ。
私は散歩に出かけた。
ガラスのように冷たい空気が心地よかった。

駅で声をかけられた。
「テレビ朝曰」のバラエティ番組の、エキストラという話だった。

「架空の一万円を十万円にするゲームだ」と説明された。

「十一万円になったら一万円を貰ってもいい」とも。

予定は、三時間。
それでロケは終わるはずだった。
ところが、私は建物から出られなかった。
そもそもテレビ朝曰なんて存在しなかった。

体感では、既に三週間が経っていた。
ここにはスロットもポーカーもバカラも、ラスベガスにあるような遊戯はなんでも揃っている。
私はこの絢爛豪華なカジノのホールと、仮住まいのタコ部屋を何度も何度も往復させられた。

目標は、ギャンブルで「十万ドル」を手にすること。
その元手はたった「一千ドル」のカジノチップ。
毎日徴収される「遊戯参加費、一千ドル」が払えなければ、どうなってしまうのかはわからない。

私はこのトチ狂った道楽から抜け出すため、己の命を今日も賭ける。




618名も無きAAのようです :2013/08/07(水) 08:40:27 ID:7dOjwoOY0
* * *






( ・∀・)「まだ続けるようですか?」






* * *


619名も無きAAのようです :2013/08/07(水) 08:41:59 ID:7dOjwoOY0
私は今、くだらないゲームの中にいた。
そこではあらゆる行動、言動が監視され、記録され、公開されている。

──「トゥルーマンショー」──。
私の一挙手一投足が、「賭け」の対象だった。
例えば、

私はここで最初に何を飲むか?
一、オレンジジュース。
二、レモネード。
三、ジン・トニック。
四、スコッチ・ウイスキー、ダブル。
エトセトラ、エトセトラ……。

それぞれに的中時の払戻し率が設定されていて、賭けたい人が、好きな額を賭ける。

私が今飲んでいる炭酸ジュースが誰をどれだけ儲けさせ、同時に損ねたのか。
私は何も知らない。

ルーレットのボールになった気分だった。
ただスピナーに放り込まれ、着地したところで、見物者たちが一喜一憂する。
私はただ転がっているだけなのだが。

私の座る椅子は柔らかかった。
背もたれのない、赤いクッションの丸椅子だ。
耳触りの軽いジャズ・ピアノを聴きながら、テーブルで肘をつき、組んだ手に顎を乗せていた。

私の左右には、安っぽいグレーのスウェットを着た女と、上等なスーツを着た細身の男がそれぞれいる。
暑がる姿も寒がる姿もない。温度と湿度が完璧に管理されたカジノホールだ。
そして正面にはタキシードに蝶ネクタイの、若くて涼しい顔の男が、みんなで二枚ずつのカードを持ってにらめっこしていた。
私たち三人のカードはすべて表向き、ディーラーのカードは一枚だけが裏返しだ。
その「表向きの片方」には、「ダイヤのキング」が描かれていた。


620名も無きAAのようです :2013/08/07(水) 08:43:16 ID:7dOjwoOY0

(,,゚Д゚)「ヒット」

指先で、トントンと木板を叩く音がした。
直後、風切り音が一つ飛んできて、私の右隣に着地した。

( ・∀・)「19(ナインティーン)」

飛んできたのは、一枚のカードだった。
赤い幾何学模様が、緑色のテーブルによく映える。
それを裏返すのとほぼ同時に、ディーラー役が数字を告げた。
男の顔が、暗くなった。

(;,,゚Д゚)「……」

(;,-Д-)「……」

思案を巡らしているというのは、横顔からでもわかった。
誰もそれを急かしたりしない。女以外は。
そのにやけ顔は明らかに、「高みの見物」といった趣の好奇心を表していた。
高圧的に決断を迫る声が、聞こえるような気がするほど。

(;,,゚Д゚)「……ヒット」

またノック音がして、女がぴゅーっと口笛を吹く。
ディーラーがカードを投げる。
男が数字を確認するために、カードを捲った。

( ・∀・)「20(トゥエンティ)」

またもや、素早いアナウンスだった。
まるで、計算尽くのカードを意図的に配っているみたいだ。

(,,゚Д゚)「スタンド!」

男が素早く手を振った。
その掌はカードに向けられていて、それを守っているようにも見えた。


621名も無きAAのようです :2013/08/07(水) 08:44:40 ID:7dOjwoOY0

从 ゚∀从「えー。どうせなら狙えばいいのに、“奇跡”」

女に茶化されても、男は何も答えなかった。
聞こえていないのかもしれない。そう思えるような大きなため息を吐いていた。

ディーラーが、じろりと私を睨んだ。
心臓に氷の杭を打たれたように、指先が冷えるのがわかった。
「次はお前だ」。決断を迫る声が、二方向から聞こえた。

ここで、途中参加者にもルールを説明しておこう。
そうしなけれな「フェア」なゲームにならないのでね。

私のテーブルで行われているのは、察しのとおり「ブラックジャック」、またはシンプルに「21」と呼ばれている。
カードの数字を出来るだけ「21」に近く、かつ「22」未満であるように集めるゲームだ。

プレイヤーは賭け金を払うことで、ディーラーからカードを二枚貰う。
そして手に入れた手札は「ハンド」と呼ばれる。
そのカードの合計得点によって、プレイヤーは異なる五つの選択をする。
つまり、

「ヒット」──追加でカードを求めるサイン。

「スプリット」──初めの二枚が同じ得点のカードだった場合のみ、それを二つのハンドに「分割」する。

「ダブル・ダウン」──掛け金を倍額にし、カードを一枚だけ追加する。

「スタンド」──手持ちの「ハンド」でディーラーと勝負をする。

「サレンダー」──カードを引かずに降参する。ただし、掛け金は半額が払い戻される。

以上が、これから私が取れる行動の全てだ。
私は既に二枚の手札──ハートのクイーンとクラブの4──を引いている。
このゲームでは絵札は「10」、A(エース)は「1」か「11」で都合のいい方にカウントされる。
現在の合計得点は「14」で、「スプリット」以外の選択ができる。


622名も無きAAのようです :2013/08/07(水) 08:45:38 ID:7dOjwoOY0

「21」を目指すには、スートに関わらず「7」のカードを引けば良い。
確率は52分の4、およそ7パーセント。
ディーラーと他のプレイヤーが既に引いたカードを考えると──幸運にも7のカードは見当たらない──10パーセント付近まで引き上がる。

ここで私は「ヒット」と言うべきか?

(,,゚Д゚)「俺なら、ヒットだ」

自分の番を終えてすっかり呑気な気分になった男が口を挟んだ。
すべてのハンドの中で三番目に強い手を持ったことで、明らかに安心しきっていた。

从 ゚∀从「あたしならスタンドするね」

茶と黒のまだら髪の女だった。
二十歳そこそこか、ひょっとすると高校生くらいかもしれない。

(,,゚Д゚)「バストしない範囲なら、Aから7までの7かける4──ひく1だな」

黙りこくる私をよそに、男は持論を広げる。

(,,゚Д゚)「デッキの残りは42枚、その中の27枚が“セーフ”なわけだ。つまり、2分の1以上の確率でヒットするべきだ」

男の声には自信があった。
まるで、空欄に教科書通りの単語を嵌め込むように。
間違えようがない、白か、黒かだ、というように。

从 ゚∀从「バストというなら」

女が高い声で言った。
反撃できる言質がとれた、という声だった。

从 ゚∀从「ディーラーがバストする確率を考えようぜ」

男がむっと眉を寄せた。
「わかっていたのだ」と、言いたげだった。


623名も無きAAのようです :2013/08/07(水) 08:46:27 ID:7dOjwoOY0

ブラックジャックというゲームは、プレイヤー同士の戦いではない。
ディーラーと各々のハンドを比べ、より21に近い方が掛け金を貰える。
つまり、今この場では「一対三」の状況が成り立っていた。
次いで、ディーラーにはいくつかの制約が課せられている。

一、ディーラーは「17」以上のハンドが完成するまでヒットしなければならない。

二、ディーラーは「17以上21以下」のハンドが完成した時点でスタンドしなければならない。

私たちと違うのは、「どの手で勝負するか」選べないという点にある。
ディーラーはプレイヤーの自滅を待てない。
絶対に「相手より高い得点を狙う」以外にないのだ。
それも相手が「20」を引いているなら、「21」を引かなければ負けだ。
しかし、一度「17」から「19」の間で着地してしまえば、もうそれ以上のヒットはできない。

いまディーラーが祈らなければならないのは、

「自分のホール(裏返し)カードが6以下」であり、「かつ次のヒットで合計21になるカードが出る」

というひどく苛酷な条件だった。


624名も無きAAのようです :2013/08/07(水) 08:47:16 ID:7dOjwoOY0

「バスト」──ハンドが「22以上」になることで、失格となること。

それはプレイヤーでもディーラーでも変わらない。
つまり、

从 ゚∀从「五分五分の状況なら、あたしはバストのリスクをとりにいかない」

(;,,゚Д゚)「む……」

明らかに気圧されているように見えた。
男も、私も。
はっきり言って、外見で値踏みしていたのは間違いなかった。
それゆえに、こうも簡単に怯んでしまったのだろう。

从 ゚∀从「たとえハンドが1でも21でも──ディーラーがバストすれば“価値は同じ”だ」

正論だ、と思った。
衝撃的でも、あっと驚くような奇想天外な内容でもない。
堅実で現実的な提案が彼女から為されたことが、ある意味衝撃だった。

从 ゚∀从「つまり、あたしはスタンドする」

掌を下に向けてゆらゆらさせるサイン──この女は、私の順番をすっ飛ばして「スタンド」した。
カードの数字は4と8の「12」。
ディーラーがバストしなければ負けの一手だった。

これで私が何らかの結末──バストかスタンドか──を迎えれば、ディーラーが自分のカードを裏返し、ハンドの比べっこが始まることになった。

やはり、女は笑っている。
勝った者の笑顔だ。
下らない葛藤など無意味な自己満足だ、と告げるような。
勝てばよかろう、と聞こえた気がした。


625名も無きAAのようです :2013/08/07(水) 08:49:04 ID:7dOjwoOY0

論理的に、最終的なプレイバック率を考えれば、女のいう通りだ。
逆に、男の提案はこの「ブラックジャック」におけるスリルを端的に味わえる。

ベットゾーンに置かれた自分のチップを見る。
赤いコインが四枚、積まれて白い枠の中にあった。
私が賭けたのは「二千ドル」分のチップだった。
それは私の全財産の五分の一、三週間かけてこつこつ育て上げた、言わば私の大切な分身たち。

この二千ドルが泡と消えれば、残りの財産は八千ドル。
毎日カジノの閉館に合わせて「遊戯参加料」を取られるため、今日の分を引くと七千ドル。
もしこれで負け、そのまま巻き返せなければ、私は一週間後には魚の餌にされてしまう。
掌が熱くなり、背中でシャツが張り付いた。

勝てば倍になり、負ければ没収。
一度負ければ二度勝たなければならず、差し引きを取り戻すためのリスクは雪だるま式に増える。
負けが込んだときに一発逆転を狙って、それで行方知れずになった者を、私は多く見ている。

( ・∀・)「どうなさいますか?」

落ち着き払った口調が、私を煽り立てる。

私は答えない。

それこそが私の答え、私の戦略だ。

このカジノでは、「負けることが勝利になり得る」のだ。
即ち、これこそがこの「ゲーム」の醍醐味だ。
私は今、「どんな手を打つか」が賭けの対象になっていることを確信していた。

そしておそらく、ディーラーと両隣りの二人がグルだ。
私を陥れようとしているのではない。
あくまで「ショー」の演出だ。
たっぷりと「観客」の期待を煽る。
彼らに多額のベットをさせ──外れた分の一部が、「私に入る」。
その仕組みが、男の安心感の根拠だ。


626名も無きAAのようです :2013/08/07(水) 08:49:45 ID:7dOjwoOY0

「19」を引き当てたところで、多くの人はスタンドを選ぶ。
実際、男がそうすることに多額のベットがされたことだろう。
男がそうせずヒットを宣言し、「Aか2か」という、おおよそ10パーセント程度の確率に挑戦したのはそのせいだ。
僅差で「21」に届かなかったことを惜しまなかったのも、バストしなければ何でもよかったからといえる。
「失格」しなければ、どちらにしろ利は回ってくるのである。

「多くの人を裏切るほど」、このカジノでは儲かるのだ。

そして我欲のためにそれを続ける者は、いずれ「運の尽き」によって身を滅ぼす。
私は、それに挑戦したい。
私のために裏切り続ける。彼らもそれを望み、熱中している。

最後にもう一度、自分の手札を確認する。
「“ハートの女王”」と「“四つ葉”のクローバー」。
勝負するのに丁度いい。
狙うのはただ一つ、たった一つの「神の数字」だ。

私はたっぷりと時間をかけて、私にベットさせる暇を与え、もう二千ドルを差し出した。

(;,,゚Д゚)「ダブル・ダウン……」

私の代わりに男が呟いた。


627名も無きAAのようです :2013/08/07(水) 08:50:55 ID:7dOjwoOY0
ディーラーがにやりと笑い、カードを投げる。
私はそれを裏返す。

( ・∀・)「21(トゥエンティワン)」

(;,,゚Д゚)「うおッ!?」

从 ゚∀从「へー……。あはは」

赤い菱形が七つ描かれたカードだった。
遠巻きに見ていた「役者達」からも、どよめきが聞こえた。
「ヒット」と「スタンド」に賭けていた者たち、ざまあみろ。
私は心の中で舌を出した。

ダブル・ダウンは「賭け金が倍になる」というリスクと「一枚だけしか引けない」という「ダブル・バインド」だ。
これをするべきという局面ははっきり言って「無い」。
「三倍のリスクを負って二倍のリターンを狙う」ようなものだ。
そもそも制約付きのヒットなど、「己の剛運」をアピールしたいのでなければ選ぶ理由がない。

だとすれば、私はその「剛運」を試したかった。
「観客」を裏切り続けてもなお飲み込まれることのない、どす黒い光のような「天命」を。


628名も無きAAのようです :2013/08/07(水) 08:51:43 ID:7dOjwoOY0

( ・∀・)「それでは」

ディーラーが、自分のカードを表(オープン)にした。

「ダイヤのキング」と「スペードの6」だった。

合計「16」。
ディーラーはまだあと一回だけカードを引ける義務(チャンス)がある。
そこで「5」が出れば私たちは引き分け、それ以外なら、ディーラーの負けだ。

引き分けとなれば賭け金はお互いの懐に戻る。
客に「振り込んだ」金額は、そのままディーラーの負債になる。

意図的か偶然かは関係なく、仕事として搾り取るべき相手に施してしまうのだから、当然といえば当然だ。
彼の稼ぎが幾らかは知らないが、ゲームの勝敗は間違いなく、ここでの「寿命」に直結する。

「5」を引ければ、私以外の二人の賭け金がディーラーのものに。
「4」を引ければ、女の賭け金で私への振り込みを帳消しに。
「それ以外」を引けば、問答無用で彼の負けだ。


629名も無きAAのようです :2013/08/07(水) 08:52:37 ID:7dOjwoOY0

( ・∀・)「いざ──」

絹糸を撫でるような手つきで、カードを引いた。

流れるように、緩やかに、それは大きく持ち上げられた。

ぴん、と、目玉から糸が張られたように、誰もがそれに釘付けだった。

空中で手放されたカードが、回転しながら表裏を交互に見せる。

その絵柄を判別しようと目を凝らす。

まるで長い時間をかけて、それはテーブルの上に着地した。

( ・∀・)「──勝負」

白い余白が大きく目立つ、それは小さな小さな数字に見えた。


630名も無きAAのようです :2013/08/07(水) 08:53:24 ID:7dOjwoOY0

静寂があった。
その場の全員が、数字の合計を繰り返し暗算していた。

从 ゚∀从「……あーあ」

女がつまらなそうに言った。
ディーラーが冷たく笑いかけた。

( ・∀・)「21(トゥエンティワン)」

私の手元に、「四千ドル」のチップが帰ってきた。

代わりに二つのチップの山が、ディーラーの手の中に収まった。

( ・∀・)「まだ続けるようですか?」

喜びも惧(おそ)れもしない、それでいて嗤笑的で無機質な語調だった。

(,,゚Д゚)「……ノーモアベット」

苦々しく呟いた。

从 ゚∀从「今日はいいや。ツキがねえ」

軽い調子で微笑みかけた。

私は──

( ・∀・)「……カードを配ります」

──無言で「一万ドル」を差し出した。


631名も無きAAのようです :2013/08/07(水) 08:54:31 ID:7dOjwoOY0

カードが舞い込む。

「スペードのジャック」。

ディーラーの手元でカードが閃く。

「ハートのエース」。

ぴたりと、ディーラーの手が止まった。

( ・∀・)「……うはは」

私と彼は、目が合って笑った。
席を立とうとした二人が、中途半端な姿勢で固まっていた。

( ・∀・)「おい、おっさん!!」

(,,゚Д゚)「え? あっ……俺?」

男が、びくりと飛び跳ねた。

( ・∀・)「代わりに配ってくれよ。俺がやったんじゃつまらない。“マーキングカード”なもんでね」

ディーラーである彼は、言ってはいけないことを言ってしまった。
「マーキングカード」は指先の感触でカードが判る、いわゆる「イカサマ」のからくりだ。
建前上とはいえ公正だったこの賭博上で公言してしまえば、それはこの「ゲーム」の「参加者」全てに伝わってしまう。
オリンピックにおいて、一部の国だけドーピングが黙認されていた、と言うようなものだった。

あえてその禁忌を破ったのであれば、彼は「覚悟」しているということだ。
「これで終わらせる覚悟」である。

私と同様の、「運命の車輪(ホイール・オブ・フォーチュン)」に全てを任せる覚悟だ。
それが「左」に回るのか「右」に回るのかは、ここの誰にもわからない。
ただ、私達はその両側に別れて立っているらしかった。


632名も無きAAのようです :2013/08/07(水) 08:55:46 ID:7dOjwoOY0

(,,゚Д゚)「では、改めて……」

男がカードを投げて寄越した。
不慣れな手つきだったが、問題なく手元に届いた。




「スペードのエース」。





( ・∀・)「これは……ブラックジャック!!」

まるで自分が大金を当てたように、声が弾んだ。
勝てば二倍の配当だが、「ジャック」と「エース」の組み合わせ──即ちブラックジャック──では、それが十倍になる。
それがここでのルールだった。
私が今日、約一ヶ月かけて貯めた虎の子の一万ドルを持ち込んだ、最大の理由がこれだ。

ふと、「元ディーラー」の言葉に一瞬間が空いたことに気づいた。
そして、彼の覚悟について考えた。

──もしかすると、彼は「覚悟」なんて大それた理由でカードを手放したわけではない?

彼の計算が速かったのは、カードの数字が事前に、触れた瞬間にわかっていたからだ。
つまり、

( ・∀・)「何が起こるかわからねー。だから、博打ってのは面白いんだ」

「任意に私を負かすことができる」という立場を捨てたかっただけなのか?


633名も無きAAのようです :2013/08/07(水) 08:56:43 ID:7dOjwoOY0
(,,゚Д゚)「……いい、かな?」

申し訳なさそうに、裏返しのカードがテーブルに置かれた。

ディーラーには、唯一一つだけ、プレイヤーに対して有利な点がある。

「お互いがブラックジャックを引き当てた場合、ディーラーの勝ちが優先される」。

今この瞬間に、先ほどのような引き分け(プッシュ)は存在しない。

「十万ドルの配当(ペイ・ザ・ライ)」と「十万ドルの負担(ベア・ザ・ライ)」の二者択一だ。

( ・∀・)「インシュアランスを?」

男が訊いた。

「インシュアランス」──ディーラーの一枚目のカードが「エース」だった場合、ブラックジャックによる即死を警戒して「保険料」を払うことができる。
額はベット金額の0.五倍。
もしもディーラーがブラックジャックだった場合、賭け金の一.五倍の配当が貰える。
ただし、読みが外れた場合の保険料はディーラーのポケットの中だ。

( ・∀・)「うはは。だよなー」

私が笑うと、彼も笑った。

「そんなものはいらない」と、言わずとも伝わった。
この瞬間だけは、誰が見ているか、誰を裏切るかなんてどうでもよかった。

それが嬉しくて、また笑った。


634名も無きAAのようです :2013/08/07(水) 08:59:57 ID:7dOjwoOY0

にこにこしながら、カードを見る。
私のハンドは「スペードのジャックとエース」、正真正銘のブラックジャックだ。
彼のハンドは「ハートのエース」と裏返しの一枚。
もしもそれが「ジャック」だったなら、明日、私はどこか遠くへ行くことになるだろう。
それは彼も同じだった。

しかし、そこには罪悪感も恐怖もなかった。
それもまた同じだったらしく、私はすこしだけ驚かされた。
彼は人生の全てを、たった「二パーセント」という魔物に賭けようとしている。
そこには一片の迷いもないのだ。

( ・∀・)「さあて、準備はいいか?」

何の準備だというのか。
心の準備というなら、初めから腹は決まっている。

( ・∀・)「俺の名前、モララーってんだ。覚えておいてくれよ」

カードが捲られた。




「ハートのクイーン」。




誰かが口笛を吹いた。
野次馬が歓声を上げた。
水を差されるようで辟易した。

「エース」と「十点札」の組み合わせは、ルール上確かに「ブラックジャック」だ。
だが、「配当」が違う。
「十倍配当」の対象でない以上、私の勝ちだ。

彼はテーブルの下から一枚のチップを取り出し、私のベットゾーンに放った。
銀色に輝くそれは、正しくその色の金属でできているようだった。
「100,000$」という刻印が押された、ピカピカのコインだった。

( ・∀・)「お前のツキを分けてくれよ。……じゃあな」

そう言って、彼は群衆の中に消えて行った。


635名も無きAAのようです :2013/08/07(水) 09:01:48 ID:7dOjwoOY0

* * *

私は戦利品を持って、「景品交換」のカウンターに寄っていた。
そこには分厚いカタログが何冊もあり、およそこの世の全ての商品が網羅されているようだ。
服、バッグ、ポテトチップス、車、雑種犬、ラジカセ、炭酸ジュース、トマトケチャップ、拳銃、戦闘機。

私はその中でも最後のページにある景品を見つめた。
一ページにまるまる一個の写真だけが掲げてあり、値段には「100,000$」とあった。

それは一本の、ありふれたドアの鍵だった。

十万ドルを稼いでこの鍵を手に入れることが、ゲームから退出する条件だった。

おそらく、「私はこの十万ドルで初めに何を買うか」という賭けが催されているはずだ。
そうくれば、私が買うものは一つである。

ミセ*゚ー゚)リ「あの……本当によろしいのですか?」

中華風の衣装を着た売り子が、銀色のチップを前に困惑していた。
私がぶっきらぼうに答えると、彼女は言われた通りの景品と、莫大な額のお釣りをくれた。

もう一度、カタログを裏から数えた一ページ目を眺める。

私が「それ」を買うには、日本円で百二十円ほどが足りなかった。


636名も無きAAのようです :2013/08/07(水) 09:03:16 ID:7dOjwoOY0

* * *





( ・∀・)「まだ続けるようですか?」

── T H E E N D . ──





* * *



638名も無きAAのようです :2013/08/07(水) 09:06:34 ID:7dOjwoOY0
>>617-636
以上だよ

お題は
>>610 夜更かし
>>611 カードゲーム
だよ

批評感想指摘質問くれ!いっぱいくれ!


637名も無きAAのようです :2013/08/07(水) 09:05:39 ID:NbczLzQA0
おつおつ。ギャンブル物は面白いね、初心者に対する説明も丁寧で良かったよ

639名も無きAAのようです :2013/08/07(水) 09:07:14 ID:gr3LmsLo0
面白かった!
ただ、一つ言わせて欲しい、

「ジュース買ってんじゃねーよハゲ」

642名も無きAAのようです :2013/08/07(水) 09:52:34 ID:NbczLzQA0
>>639
ジュース買ったから鍵が買えなかったってことか
今ようやくオチが分かった……

644名も無きAAのようです :2013/08/07(水) 10:12:09 ID:Of4VisVk0
乙 これは面白かった
描写も丁寧でギャンブルもののふいんきがよく出てた



645名も無きAAのようです :2013/08/07(水) 10:12:24 ID:7dOjwoOY0
ここまではあく
批評や感想はいつでもウェルカムなんだぜ!

やっぱ緊張感を組み込むのって難しいね

>>642
「Exactly(そのとおりでございます)」
初めはモナーが主人公だったので
( ´Д`)「残り99,998.75ドル。もうだめぽお…」
とかやらせる予定だったけどあざといのでやめた


651名も無きAAのようです :2013/08/07(水) 10:54:55 ID:RQViPpwg0
強いて言えば、最初のテレビ朝曰のくだりは蛇足だったかも
「夜更かし」なら賭博してたらいつの間に夜になってたーとかでよかったし
いや、それでも面白かったんだけどね
乙乙


(゚、゚トソンブーン系小説&イラスト練習総合案内所のようです
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/13029/1375004758/

[ 2013/08/07 21:26 ] 総合短編 | CM(0)
[タグ] ( ・∀・)


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