まぜこぜブーン

ブーン系まとめ

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 ξ゚⊿゚)ξは画面の世界の住人のようです -1-


 -1- -2- -3- -4- -5-
2名も無きAAのようです :2012/03/22(木) 17:20:41 ID:8EOsmnGwO
 


 早いもので、もうあれから二年の歳月が経ったようだ。
 自身ではまだ三ヶ月しか経ってないように感じられるが、
 カレンダーを見ると暦の下一桁が三から五になっている。

 事象についての記憶が薄れることはないが、衝撃は確実に薄れつつある。
 口惜しいことだが、自害までをも考えていたのに、今では平然としていられる。

 時とは残酷なもののようで、人の心から確実になにかを奪っていくようだ。
 記憶、衝撃、悲哀、歓喜、失敗。
 どれも、決して欠かしてはならないものばかりだ。

 そしてどうしてか、そういったものに関してだけ、
 出来事があったという事だけははっきりと記憶しているものなのだ。
 それがどれだけ苦痛で、そしてどれだけ悲観なことか。


.



3名も無きAAのようです :2012/03/22(木) 17:22:25 ID:8EOsmnGwO
 

 丁度、二年前の今日が、あるひとつの運命の枝の途切れ目だった日だ。
 だからという訳ではないが、私は今日を機に、ペンを置こうと思う。

 決してあの悲劇を忘れないように、常にこうして当時の情景を思い浮かべ
 同時にそのままの心境を保とうと思って書き始めた手記だが、
 いまとなっては必要のないものになってしまったようだからだ。



 次に新たな幸福が生まれたら
 その時は、その感動を遺せるように、再び手記を書くだろう。

 それまでは、この手記は封印しておきたいと思う。
 何年後になるか、将又そのような機会が果たしてあるのか。

 まだまだ、わからないことは多いが、私は漸く幸福の切れ端を掴むことができた。
 それを、長い時間をかけて手繰っていかなければならないため、ペンなど持っている余裕がないのだ。





.


4名も無きAAのようです :2012/03/22(木) 17:24:14 ID:8EOsmnGwO
 







 今日はどれにしよう。
 この、取捨選択に時間を弄するだけで、日頃の鬱憤が晴らせる。

 どれも、タイトルを見るだけで内容の隅から隅まで、完全に思い出せるものばかりだ。
 だが、飽きが訪れることはないし、決してこれを行わない日はない。
 否、行えるのは週末しかないのだが、その週末の大半はこれに費やしている。


( ^ω^)「これにするか」

 ビデオライブラリーから一本のテープを取り出した。
 迷いなくデッキに挿入し、読み込むまでの時間、僕は常に興奮と一緒に待っていた。
 今か、今かと、実に待ち遠しい。

 律儀に正座し、画面を凝視する。
 やがて、青かった画面に、漸くそれらしい映像が映り出された。

.


5名も無きAAのようです :2012/03/22(木) 17:27:26 ID:8EOsmnGwO
 



ξ>⊿<)ξ『ふわぁぁー……』


 画面には、金髪の美少女が映った。
 この世に実在するとは思えない、可憐さ。
 人形のようにちいさく、それでいて存在感を存分にひけらかしている、美少女。

 画面が映った時の僕のボルテージは、いきなり最大限にまで高まった。
 彼女が、初っ端から無防備にも欠伸しているのだ。


( *^ω^)「おおおおおおおおおおおおッ!!」

ξ;゚⊿゚)ξ『っ! いま見てたでしょ!』

( *^ω^)「のどちんこまできれいに見えましたぁぁぁぁぁぁ!!」

ξ;゚⊿゚)ξ『変態! やらしい目でみないで頂戴!』

( *^ω^)「生欠伸ゲェェェェェッツ!! おおおおおお!!」

ξ;゚⊿゚)ξ『オシオキするよ!? 次は釘バットだかんね!!』

( *^ω^)「オシオキしてくださいおぉぉぉぉぉッぉお!!」

.


6名も無きAAのようです :2012/03/22(木) 17:29:30 ID:8EOsmnGwO
 


川 ゚ -゚)

( *^ω^)

川 ゚ -゚)

( ^ω^)

川 ゚ -゚)

(^ω^ )

川 ゚ -゚)

( ^ω^)




( ^ω^)「掃除でもしてくっかぁ……」

川 ゚ -゚)「待て」





  「真っ昼間からまた観やがってぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」

  「お許しをおおおおおおおおおおおおッ!!」






.


7名も無きAAのようです :2012/03/22(木) 17:30:11 ID:8EOsmnGwO
 





  ξ゚⊿゚)ξは画面の世界の住人のようです





.


8名も無きAAのようです :2012/03/22(木) 17:31:38 ID:8EOsmnGwO
 


 彼女は、僕がこの手のビデオを観ることを快く思わない。
 今日も、自室でヘッドホンを使って静かに観たのだが、やはり彼女はやってきた。
 ビデオは没収され、襟首を捕らえられてはリビングに連れてこらされた。
 土下座を強いられる僕と、立って僕を見下ろす彼女の間に、少し静寂が生まれた。

 静寂ではない。一方的に僕が謝っている。
 というのも、怒った時の彼女ほど、恐ろしい人は存在しないのだ。

 結婚する前までは淑やかな女性だったのに、気がつくと尻に敷かれていた。
 彼女に抗うと、なにかよくないことが起こる。


( ;ω;)「悪かったお。ビデオ返してお」

川 ゚ -゚)「だめです」

( ;ω;)「それがないと僕は会社にもいけないお」


 何度も頭を上下させた。
 その後退の兆しが見え始めた頭を見ても、彼女は決して顔を綻ばせない。

川 ゚ -゚)「たまの休日だから、ごろごろするのは許せます」

川 ゚ -゚)「でも」


.


9名も無きAAのようです :2012/03/22(木) 17:34:19 ID:8EOsmnGwO
 

 僕が頭を上げ彼女を見ると、
 彼女は、テーブルの上に高々と積み上げられたビデオテープを見ていた。
 天井に達しそうな高さで、テープの上を隈無く占領している。

 本数にして、二、三百はありそうだ。
 そんな事はどうでもよかった。
 それらを見た瞬間、僕は固まった。

 ――待て、それは、そのビデオテープは


川 ゚ -゚)「よくまあこんなに集めたな」

(;^ω^)「マイコレクション!! いつの間に!!」

川 ゚ -゚)「しかもタイトルが卑猥だ」


 僕が、もう十五年以上も昔から集めに集めているテープが積み上げられていた。
 どれも宝物で、ひとつでも欠けると生きてゆく自信がない。
 どのテープでも、マイ・エンジェルが僕を癒してくれるのだ。

 これらは、辛いサラリーマン生活で、唯一と言っていい僕の娯楽だ。
 呑みや外食、ゴルフなんか比較にもならない。
 彼女、クールが一つを手に取り、タイトルを読み上げた。


川 ゚ -゚)「『ツンちゃん反抗期3 ~私の水着を返せ~』」

( ^ω^)「七月二十七日友人と海にゆくツンちゃんが荷造りをしていると
      水着がないのに気がつき捜すと水着をクンカクンカされているのを見つけ
      追いかけ回す罵倒と恥辱の織りなすシリーズ作品三作目のビデオ。傑作だお」

川 ゚ -゚)


.


10名も無きAAのようです :2012/03/22(木) 17:36:41 ID:8EOsmnGwO
 

(;^ω^)「あ! ちが、そういう意味じゃな」

川 ゚ -゚)「とりあえず、これらは全部」


 踵を返したクールは、隣にある棚から大きなゴミ袋を何十枚も取り出した。
 中身が透けてみえないもので、一体いつからあるものかはわからない。

 しかし、そんなことはどうでもよかった。
 僕はとてつもなく嫌な予感がしたのだ。



川 ゚ -゚)「没収します」

( ゚ω゚)



 待て、いまなんと言った。

 脳が理解し終える前に、クールは動いていた。
 テープを同時に三本持ち、ゴミ袋に放り投げていくのだ。

 気がつくと、僕は飛び出していた。
 テープに身体全体をつかって覆い被さり、首をぶるんぶるん振っていた。


( ;ω;)「それだけはらめぇぇぇ!!」

川 ゚ -゚)「だめなものはだめです」


 身体全体で覆い被さっても全然覆いきれていない。
 クールは、なんの躊躇いなく、手早い動作でテープをゴミ袋へ投げていった。
 悲痛の叫びをあげても、相変わらずの無表情で淡々と捨てている。

.


11名も無きAAのようです :2012/03/22(木) 17:38:08 ID:8EOsmnGwO
 

( ;ω;)「もう観ないお! 観ないから!」

川 ゚ -゚)「ほんとうか?」


 瞬間、ぴたりとクールの動きは止まった。
 舐め回すように、僕の顔をじろじろ見ている。

 しめた、今のうちに説得しないと。
 マイ・エンジェルをみすみす逃がすわけにはいかない。


(;^ω^)「ほんとうほんとう! だから捨てないでくれお!」

川 ゚ -゚)「来年まで一度も観ないでいられますか?」

( ^ω^)「あ、たまに観たい」

川 ゚ -゚)


( ;ω;)「ああああああだめだめ! 嘘だからぁぁぁ!」



 途端に、クールは廃棄作業を再開した。
 ほんとうに無表情で、リアクションも見せずに。

.


12名も無きAAのようです :2012/03/22(木) 17:39:57 ID:8EOsmnGwO
 

 結局、全てのテープが黒いゴミ袋の中に詰め込まれた。
 僕の制止空しく、クールは十分で作業を終わらせた。
 速い、速すぎる。

 僕は、七つのゴミ袋に詰め込まれたビデオテープに飛びついた。
 勝手に開けたら殺すと言われたので開けないが、抱きついて頬ずりはした。

 テープは、言わば娘だ。
 手放してはならない。絶対にだ。


( ;ω;)「ツンちゃん、おとーさんは離さないお!」

川 ゚ -゚)「ほう、ビデオが娘になったのか」

( ^ω^)「寧ろ愛人」

( #)ω;)「ひどいお!!」

 目にも留まらぬ速さで、彼女の右ストレートを喰らった。
 右目に食い込み、眼球が悲鳴をあげる。
 これが意外と痛い。いや、普通に痛い。


川 ゚ -゚)「まあ、私も鬼ではない」

( ^ω^)「嘘つけ」

( #)ω(#)「前が見えない!!」

川 ゚ -゚)「黙って聞け」


.


13名も無きAAのようです :2012/03/22(木) 17:43:26 ID:8EOsmnGwO
 

川 ゚ -゚)「私とて、せっかくの楽しみを根刮ぎ奪うのは気がひける」

川 ゚ -゚)「月に一度、一本のテープを一時間に限り鑑賞するのは許そう」

( ;ω;)「そんな殺生な!」

川 ゚ -゚)「嫌か?」

( ^ω^)「まったく」

川 ゚ -゚)「そうか」


 むろん、今のは本心ではない。
 そんなに時間を制限されては、生きた心地すらしないのだ。
 しかし、なぜすんなり受け入れてしまったのか、言うまでもなかった。

 拳を構えてから否応を問われては、応としか言えないに決まっているだろう。
 元ラグビー部の僕でも、空手、柔道、合気道の有段者の彼女に勝てるなんて到底思えない。
 三十台後半になってもグラマラスでスリムな美人なのに、どうしてこんなに屈強なのか。

 クールは、ゴミ袋を持って、クローゼットの中に全部放り込んだ。
 がら空きだったクローゼットの床に、大量のビデオテープが積み上げられた。

 リビングには常にクールがいる。
 目を盗んで観る、というのは難しそうだった。


川 ゚ -゚)「あれ、掃除をするんじゃなかったのか?」

( ;ω;)「くちゃーに!くちゃーに!」

川 ゚ -゚)「よし、元気だな。掃除しろ掃除」


.


14名も無きAAのようです :2012/03/22(木) 17:48:27 ID:8EOsmnGwO
 







 クールに愛しのビデオテープを奪われ、一週間が経とうとしていた。
 最初は辛うじて我慢できたし、元々週末にしか観てなかったから
 抵抗もなかったのだが、観ることができないと思うと、気疲れが生じてきた。

 水曜日あたりから、そのストレスは頭角を見せ始めつつあった。



( ´ω`)「部長、企画書できましたお」

(`∠´)「お、そうか」

 ベル部長が、僕が昨夜徹夜で仕上げた企画書に目を通した。
 「ふむ」と読みながら、企画書と会話しているかのように何度か頷いている。
 その間も彼は普段のお堅い表情だったが、徐々に眉間に皺ができていった。


(`∠´)「……? おい内藤、なんだこの企画書は。
     こんなので通ると思っているのか?」

(;´ω`)「え、そんな…。ブーンはいつも通り会心の出来を自負して――」

(`∠´)「弛んどるぞ。やり直せ」

(;´ω`)「は、はいですお。すみませんお」

 普段は、部長にこれほど言われる事はなかった。
 すんなりと通り、そのまま会議に出されていたのだ。
 それが、なぜか部長を怒らせる程粗末な仕上がりになっていたらしい。
 だが、僕にその自覚など、全くなかった。

 叱責を喰らい、気落ちして、僕は自分のデスクに戻った。
 パソコンと向かい合い、タイプを始めるが、いまいち身につかなかった。

 画面の文字が目に入らない。
 それどころか、霞んで見える。
 猫背のままでぎこちなく指を動かす。
 無意識の溜め息が、何度もこぼれた。


.


15名も無きAAのようです :2012/03/22(木) 17:52:53 ID:8EOsmnGwO
 


从'ー'从「内藤係長、お茶です」

( ´ω`)「ありがとうだお」


 若いOLの一人が、お茶を運んできてくれた。
 何だと思うと、後ろからもう一人、ひょっこりと顔を出した。

 どうやら、お茶はカムフラージュで、僕とコンタクトを取りたかったらしい。
 いつもと違う態度で接してくるため、僕は疑問符を浮かべていた。
 二人は身を屈めて姿勢を低くし、ベル部長には聞こえない程度の小声で話しだした。


从'ー'从「で、で、なにがあったのですか!」

('、`*川「部長が大声を出すなんて珍しい」

(;´ω`)「な、なんでもないお」


 童顔の方のOLの渡辺は身を乗り出し、顔を近づけてきた。
 僕がなにをしでかしたのか、かなり気になっているようだった。
 好奇心に満ち溢れた眼で、僕の顔面を捕らえる。

 しかし、背が高い方のOLの伊藤は、
 どちらかというと僕の様態を気にしているようだった。
 やはり、顔にでてしまっているか、と反省した。
 他人に、僕の異常を感づかせるつもりはなかったのだ。


('、`*川「お疲れじゃないんですか? 顔に覇気が感じられないですよ」

( ´ω`)「そんなことないお。ただの寝不足だお」


 言うまでもないが、実際は寝不足ではない。
 寝不足には慣れているし、三時間しか寝られなくたって平常のままでいられる。
 原因は他のところに潜んでいるものだ。
 だが、一応、ここでは嘘を吐いておいた。


.


16名も無きAAのようです :2012/03/22(木) 17:57:31 ID:8EOsmnGwO
 

 僕は、自分で言うのもなんだが、明るいほうの人間だ。
 常にジョークをとばしたりして、決して驕らないように努めている。
 だから、少しでも疲労の片鱗を見せると、今のようにすぐに気付かれるのだ。

 しかし、今日における疲労とは、肉体的なものではなくて心理的なものだ。
 ただ、マイ・エンジェルと会えなくなって、辛いだけだ。
 ここまで心理的に疲労が露わになってくるとは予想外だったが。
 一応上っ面だけでも平生を装う、と努めていた。


从'ー'从「あー、まさか奥さんと喧嘩したとか!」

('、`;川「あ、ちょ」

( ´ω`)「はぁ~…。ツンちゃん……」


从'ー'从「(……係長の奥さんの名前ってツンだっけ?)」

('、`*川「(クールだったんじゃ)」


 未練がある、程度の話ではない。
 後ろ指をさされるような娯楽ではあれど、どれだけ僕が
 ビデオに依存しているのか、他人にはわからないだろう。

 別に、わかってもらおうとも思わない。
 まさに「趣味は人それぞれ」というだけあって、僕の趣味が
 それに当てはまり、他人に解せ難いものである、と自覚しているからだ。

 結局その日は、まるで懐手をしているかのようで、なにもしていなかった。




.


17名も無きAAのようです :2012/03/22(木) 18:02:41 ID:8EOsmnGwO
 







(=゚ω゚)ノ「センパイ!」

( ´ω`)「お?」


 終鈴が鳴り、皆がそそくさと帰路に着いていた。
 僕も例に漏れず、帰ろうとしていた。
 鞄に書類を詰め、重い腰をあげる。

 そんなときに、後ろから呼ばれた。
 力なく応え、振り向くと部下がいた。


( ´ω`)ノ「いよう」

(;=゚ω゚)ノ「いよう、じゃないッス。どうしたんスか最近」


 そういって、部下である伊予は頻りに尋ねてきた。
 日頃なら僕も同じテンションで答えるだろう。
 おどけるのが、会社での僕の持つ性格の一面だった。

 だが、僕は疲れに疲れていた。もちろん、精神的に、だ。
 そのせいか、応対も、やや雑だった。
 伊予の問いに、力なく吐き捨てるように答える。


( ´ω`)「なんでもないお」

(=゚ω゚)ノ「なんでもないことないッス。どうしたんスか、相談乗りますよ。
      あ、そういや近くにイイ呑み屋があるんスよ。行きましょう!」

(;´ω`)「あ、ちょ――」


 伊予は矢継ぎ早に用件を言っていった。
 早口すぎてあまりついていけなかったが、とにかく呑もうと言いたいらしい。

 生憎だが、もとよりそのような金は持ち合わせてないし、行く気力もなかった。
 それとなく伊予の誘いを断ろうと、浮ついた言葉を紡いだ。

.


18名も無きAAのようです :2012/03/22(木) 18:06:33 ID:8EOsmnGwO
 

 だが、伊予は諦めなかった。


(=゚ω゚)ノ「宝くじで一万当たったんスよ、御馳走させてほしいッス!」

(;´ω`)「あ――」

(=゚ω゚)ノ「早く行かないと混んじゃうッスよ!」

(;´ω`)「そ、そうかお」

(=゚ω゚)ノ「じゃ、決まりッス! ささ、行きましょ行きましょ」

( ´ω`)「わかったお」


 ここまで詰め寄られ、更に上司である自分に奢るとまで
 言うのだから、ここで断ると好意を踏みにじることになるだろうと思った。

 また、加えて伊予は自分とは対照的に明るかったので、
 無駄話をするだけで鬱憤は晴らせそうだと思ったのだ。
 たまには、無駄話に花を咲かせるのもいい。
 遅れる時は必ずクールに連絡を入れるよう言われているのだが、一日くらいは問題ないだろう。


 というより、今はクールの声はあまり聞きたくなかった。



.


19名も無きAAのようです :2012/03/22(木) 18:09:11 ID:8EOsmnGwO
 

( ^ω^)「しっかし、いつもの呑み屋じゃないのかお?」


 歓楽街を、伊予を連れて歩いている。
 花の金曜日でもないのに、泥酔してる中年や厚化粧のギャルが多く見えた。
 九時をまわった頃合いから急に賑やかになるのも、この土地のひとつの特徴だった。

 それぞれの看板の照明が混ざり合い、黒の画用紙に垂らしたカラフルな絵の具となって現れていた。
 そのおかげか、この土地に足を踏み入れるだけで、自然と暗い気分は和らいでいった。
 いつもは行きつけのちいさな居酒屋で呑むのだが、今日は違うようだった。
 伊予が、最近いい居酒屋を見つけたので、そこで呑もうと言うのだ。

(=゚ω゚)ノ「それがッスね、可愛いコが看板娘を務めているって評判のトコがあるんス」

( ^ω^)「可愛い?」

(*=゚ω゚)ノ「自分も会ったッスが、天真爛漫で本当に美少女したッスよ!」


.


20名も無きAAのようです :2012/03/22(木) 18:13:22 ID:8EOsmnGwO
 

 未だ独身で、縁談という縁談もない伊予に女を見分ける能力は全くないはずだ。
 「いい人と、デートに行く」と意気込んでいた伊予が、
 次の日に失恋のショックで涙を見せるのはよくある話だった。

 だが、この浮かれようをみると、それを差し引いた上でよほど可愛いのだろう。
 給仕であり、聞くと暇なときは一緒に馬鹿騒ぎに参加してくれるそうだ。


( ^ω^)「……伊予」

(=゚ω゚)ノ「はいッス」

( *^ω^)「今夜は呑むおおおおッ!」

(*=゚ω゚)ノ「お供しますセンパイ!」


 来る前は乗り気ではなかったが、知らぬうちに騒ぐ気満々で繰り出していた。
 この数日間積もりに積もった鬱憤を、漸く晴らせそうだった。
 暗い雲はどこかへ飛んでいった。
 ふんと鼻を鳴らして、射してくる陽に向かって僕は洋々と歩き出した。




.


21名も無きAAのようです :2012/03/22(木) 18:17:29 ID:8EOsmnGwO
 







川 ゚ -゚)「遅い」


 夕食をつくり、あとは椀に白米を盛って、味噌汁を出すだけでいい。
 久方ぶりに得意料理の小籠包をつくったし、私としても早く夕食にありつきたかった。

 ブーンなら、仕事が終われば真っ先に帰ってくるし、残業や呑みに行くならその都度連絡を入れてくる。
 定刻を大きく過ぎてなお連絡がない場合は、まっすぐ帰ってくるに同義なのだ。
 そのブーンが、まだ帰ってこないし、連絡も寄越さない。

 彼が交通事故に遭うことなど、まずないとみていいだろう――とまで考えて、思考を一旦止めた。
 家族が交通事故に遭うなど、想定すらしてはならないハプニングである事を失念していたのだ。
 愚かだ、と自分で自分を叱った。

 とにかく、余程のイレギュラーがなければブーンが遅れて帰宅するなど、まずないのだ。



川 ゚ -゚)「食べたいな」

川 ゚ -゚)「しかし夫を待たなくては」

川 ゚ -゚)

川 ゚ -゚)「……食べたいな」


.


22名も無きAAのようです :2012/03/22(木) 18:20:49 ID:8EOsmnGwO
 


 私は、目の前に甘い飴があれば、後先考えずに食らいつく性分なのだ。
 愚直と言うか、本能に忠実というか。
 小籠包の脂ぎった匂いが鼻に入ってくるだけで、つい食べてしまいたくなる。

 しかし、仕事で疲れた夫を待ってから食べるのが、妻としての責務だ。
 親しき仲にも礼儀ありと言って、そこいらはきちんと守っている。



 どうやら私とブーンは子宝に恵まれていないようで、子供はいない。
 いれば、子供を口実に先に食べるという手もあるのだが、そうはいかなかった。
 子供は欲しいと思うし、まだまだ出産はできるが、どうも子供ができないのだ。

 やはり、歳か。ふと、私はそう思った。
 昔は美貌にものを言わせてぶいぶい言わせてきたが、歳には抗えない。
 といえど、私はまだまだ三十ウン歳である。
 歳を気にし始めるようでは、到底だめだ。


.


23名も無きAAのようです :2012/03/22(木) 18:23:11 ID:8EOsmnGwO
 

 そのうち、遅れている理由について模索していた。
 金曜日ではないため上司に誘われた訳でもないだろうし、残業はないと言っていた。

 レンタルビデオショップで目移りさせているのだろうか。
 それなら納得ができる。あの人は、昔からアニメや映画が好きだ。
 先週、例のビデオを封印したせいで、ビデオ欲が抑えきれなくなったのかもしれない。



川 ゚ -゚)「……あ」

 そこまで考えて、ふと、脳裏にある可能性が生まれた。
 もしかしたら、そのことに腹を立て、私に呆れてしまったのだろうか。
 不吉ながらも、そんな思考が脳裏に浮かんできた。


川 ゚ -゚)

川 - -)

川 ゚ -゚)「くだらない事は考えないでおこう」


 自分に言い聞かせるようにそう言って、先に風呂に入る事に決めた。
 この調子なら、あと三十分は帰ってこなさそうだったからだ。




.


24名も無きAAのようです :2012/03/22(木) 18:26:00 ID:8EOsmnGwO
 








 居酒屋は、こじんまりとした外装と違い、中は大盛況だった。
 一見すると衛生面にまで手が回ってないのではないか、
 とすら思わせる外装だっただけに、これは意外だった。

 のんびり呑んでいる人もいれば、馬鹿騒ぎしている集団もいる。
 この店の居心地が相当いいようで、空席の方が目立っていた程だ。
 僕はそんな気分ではなかったが、つい騒ぎを聞くと混ざりたくなる。

 当然、抑えたが。


(*゚∀゚)「こちら生ふたつと焼き鳥でーっす!」

(;*=゚ω゚)ノ「ど、ども!」


.


25名も無きAAのようです :2012/03/22(木) 18:27:54 ID:8EOsmnGwO
 

 給仕が、ビールと焼き鳥を運んできてくれた。
 並々と注がれたジョッキを、一滴もこぼさず大胆に置いた。
 焼き鳥のほうは、ここからでもその旨そうなタレの匂いが漂ってくる。

 どうやら、この給仕が言っていた看板娘のようだ。
 確かに明るく溌剌としていて、童顔で可愛らしかった。
 背も低く声もアニメのようであるため、ついにやにやして目で追ってしまった。

 そして、伊予が緊張していた。
 どうやら伊予のタイプらしい。
 全然歳が違うじゃないか、とは言えなかったも、眼で「諦めろ」と言った。


( ^ω^)「おっおっ。今のが?」

(=゚ω゚)ノ「はいッス! つーちゃんという大学生ッスよ!」

( *^ω^)「確かに可愛いお。眼の保養になるお」

(*=゚ω゚)ノ「自分もそう思ってました!」


 ちいさな身体をいっぱいに使い、あれやこれやと職務をこなしている。
 商事会社が多いこの地域では、平日の晩は忙しいだろう。
 そのせいか、休む間もなく彼女は動いていた。
 茶髪の髪から垂れる汗が、それを物語っていた。


.


26名も無きAAのようです :2012/03/22(木) 18:33:51 ID:8EOsmnGwO
 


( *^ω^)「伊予、ああいうコがタイプなのかお?」

(;*=゚ω゚)ノ「ななななにを言ってるんスか!」

( *^ω^)「ごまかすでないぞ!」

(;*=゚ω゚)ノ「センパイ酔うのはやすぎッス!」


 景気づけに、ビールをがぶっと呑んだ。
 やはり、ビデオを失った今、仕事疲れを癒せるのはアルコールだけだ。
 そのアルコールが全身に染み渡り、早速いい気分になってきた。

 上唇に付いた泡を拭うことなく、続けて焼き鳥を頬張った。
 弾力が強く、一度噛む度に肉汁が溢れだし、先ほどのアルコールに混じらんとしていた。
 続けて一度、もう一度、と噛み続ける。
 やはり肉の質感がしっかりとしていて、喉の奥に運ぶのが惜しいと思われた。

 続けて噛んだ葱も、またこの肉とよく合っていた。
 独特な甘味が焼き鳥の旨みと絡まり合って、まさに「至福」を生み出す。
 そこから、二つを胃送り出すべく更に呷ったビールが、最高だった。


( *^ω^)「くぉぉーッ!」

(*=゚ω゚)ノ「いい呑みっぷりッスねセンパイ!」


.


27名も無きAAのようです :2012/03/22(木) 18:35:43 ID:8EOsmnGwO
 

 僕がぷはぁと息を吐くと、今までの暗い気分までもを吐き出せたように思えた。
 そのタイミングを計りでもしていたのか、同時に給仕が後ろから顔を出した。
 どきっとした伊予を見て、笑いながら振り向くと


(*゚∀゚)「こちらつーちゃん特製おむすびっす!」

( ^ω^)「おむすび?」

(*=゚ω゚)ノ「ど、どもッス!」


 給仕が差し出したおむすびを見ても、普通のおむすびだった。
 つーちゃん特製おむすびと言っていたが、一見普通のおむすびだ。

 それを照れながら伊予が受け取った。
 再び裏方に回った彼女を見送ってから、僕は伊予の顔を見た。
 彼女に見惚れている。


( ^ω^)「なんだおこのおむすび」

(=゚ω゚)ノ「つーちゃんがせっせと握ってくれたおむすびッス!」

( ^ω^)

 嘘だ、さっきからずっと彼女はホールにいたぞ。
 伊予、君は騙されている。
 だが、口には出さずに胸中にしまっておいた。


.


28名も無きAAのようです :2012/03/22(木) 18:41:40 ID:8EOsmnGwO
 

 そうとは知らず、伊予はレビューを続ける。
 目が、会社では絶対お目にかかれない程に輝いていた。

(*=゚ω゚)ノ「彼女の愛情が詰まってるんスよ!」

( ^ω^)「あ、ああそうなの」

(*=゚ω゚)ノ「この米粒ひとつひとつの輝き、全部がつーちゃんのココロなんス……」

( ^ω^)


 しれっと気持ち悪い言葉も言う伊予だが、未だホールで
 動き回っている彼女を見ていても全く不審に思っていないのだ。
 顔が笑いで歪むのを、顔面の筋肉を強張らせ必死で堪えた。

 そのおむすび、裏で額に脂汗浮かべる中年が握っているのだぞ
 ――と明かしたい衝動に駆られるも、伊予の落ち込みようが計り知れないだろうから、やはり言えない。
 いっそ、そのままそっとしておく事に決めた。
 知らぬが仏、という便利な言葉が世の中にはあるのだ。

 少しして僕も一つ貰ったが、どう考えても普通のおむすびだ。
 塩分が多めでビールが進むし、ややかためで噛む事の幸せを与えてくれるのは確かだった。
 ただ、こんなちいさなおむすび二つで三百円もすると言う。
 とても、頼もうとする気にはなれなかった。


( ^ω^)「おむすびもいいけど焼き鳥が旨いお」

(;=゚ω゚)ノ「そうスか。おむすびもいいのになぁ……」

( ^ω^)「せめて、なにか具が欲しいお」

(=゚ω゚)ノ「それは言えてるッスがね」

.


29名も無きAAのようです :2012/03/22(木) 18:43:19 ID:8EOsmnGwO
 


(=゚ω゚)ノ「……それはそうと、係長も元気だしてくれて、自分は嬉しいッス」

( ^ω^)「え?」

(=゚ω゚)ノ「だって、昼間はずっと、生きた屍って感じッしたよ」

( ^ω^)

(=゚ω゚)ノ「……?」

( ^ω^)

( ^ω^)

( ;ω;)「……そうだお! おいブーン、こんなとこでなにやってんだお!」

(=゚ω゚)ノ「あ」


 伊予に言われて、忘れかけていた悲哀が漸く蘇った。
 いま、こうして楽しく過ごしても、家に帰れば再びそれはやってくるというのに。
 寧ろ、今の享楽的なひとときの反動が襲いかかり、途端に落ち込むだろう。

 僕は、それを忘れ、馬鹿みたいにはしゃいでいたのだ。
 おそらく、伊予に言われなければ、ずっとこの調子だったに違いない。


.


30名も無きAAのようです :2012/03/22(木) 18:46:14 ID:8EOsmnGwO
 

 もう、この悲痛な別離から逃れたい。
 現実を放棄して、酔いしれたい。

 そう思うと、途端に酒を呑むスピードがあがった。
 一気飲みに近い要領で、ただひたすらジョッキを傾けた。
 こうなったらやけくそだ。


( `ω´)「おおおおおッ! 明日の事なんか知るか!
      ええい伊予、今夜は一晩中呑むお、付き合えい!」

(=゚ω゚)ノ「とは言ってもなぁ……」






 三十分後。



( *‐ω‐)「ぐーすかぴー……」

(=゚ω゚)ノ「この人、お酒はいるとすぐ寝ちゃうからなぁ……」

( *‐ω‐)「つんちゃーん……」

(=゚ω゚)ノ「にしても、まさかセンパイにそんな悩みがあったとは……」

(=゚ω゚)ノ「これは渡辺ちゃんに知らせないと」

( *‐ω‐)「つーん……」




.


31名も無きAAのようです :2012/03/22(木) 18:49:51 ID:8EOsmnGwO
 





 霞がかっていた景色の向こうにいる人に、声をかけた。
 僕は、伊予と呑み続け、三軒目に向かおうとしていた最中だ。
 伊予に「次いくぞ」と連呼しているが、霞の向こうの人物は返事を寄越さない。


 ――やい伊予、僕を無視するなんていい度胸じゃないか!

( `ω´)「伊予、もう一軒いくお!」

川 ゚ -゚)「もういいよう、なんちって」

( `ω´)「そうつれないことを言うでないぞ!」

川 ゚ -゚)「つれないだけにそんな言葉じゃ釣れないぞってやかましいわ」

( `ω´)

( ^ω^)

( ^ω^) !


 僕は夢を見ていたようだった。
 頭が痛い。二日酔いだろうか。

 目を覚ますと、真上にはクールがいた。
 黒髪が垂れている。毛先が僕の頬を擽っている。

( ^ω^)

川 ゚ -゚)

( ^ω^)「おはよう」

川 ゚ -゚)「おはよう」

( ^ω^)

川 ゚ -゚)

.


33名も無きAAのようです :2012/03/22(木) 18:51:18 ID:8EOsmnGwO
 


 クールはいつも以上に真顔になっている。
 これはもうだめかもしれない。


( ^ω^)「会社にいかないと……」

川 ゚ -゚)「まだ六時だから大丈夫ですよ」

( ^ω^)「じゃあ掃除でもしてくっかぁ……」

川 ゚ -゚)「待て」





  「遅れる時は連絡いれろやァァァァァァァァァァァッァア!!」

  「許しておォォォォォォォォォォォォォッッ!!」




.


34名も無きAAのようです :2012/03/22(木) 18:52:55 ID:8EOsmnGwO
 

( ^ω^)「あれ。どうして僕はここにいるんだお」

川 ゚ -゚)「伊予さんが運んできてくださったのですよ」


 わかっていた。なんとなくで予想はついていた。
 逆に、それ以外で説明がつく筈もなかった。
 
 たまにそうして、伊予が僕を運ぶことはあるのだ。
 タクシーを拾い、僕を担いで。
 一応僕の家で呑むこともあり、なんの迷いなしに辿り着いたことだろう。
 その時のクールの困りようが、手に取るように瞼の裏に浮かんだ。

 これはまずい。なんとかしてごまかさないとまずい。


( ^ω^)「くそ、伊予のやつ……上司である僕を引っ張りまわして……」

川 ゚ -゚)「変に言い訳したら許さん」

( ;ω;)「僕が引っ張りまわしましたお!」

川 ゚ -゚)「正直に言ってくれて、クール嬉しい」

( ^ω^)「そう? 嬉しい? やったお、クーが喜んでくれて」

川 ゚ -゚)「ははは」

( ^ω^)「ははは」


.


35名も無きAAのようです :2012/03/22(木) 18:55:47 ID:8EOsmnGwO
 

川 ゚ -゚)「もう。悪い子にはお尻ぺんぺんだぞ?」

( ;゚ω゚)「あああああッああああああああああっっ!!
      布団叩きはらめぇぇぇぇぇッ!!
      尻が割れるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッぅう!!」


 クールが布団叩きで尻を叩く時の痛みは、
 断崖絶壁から尻餅をつくよう落下して岩に尻を叩きつけたのかと誤解する程に痛い。
 布団叩きを地面に水平に傾け、骨にぶつけてくるせいでもある。
 また、メジャーリーガーも絶賛する完璧なフォームで振り抜くのだから、尚更なのだ。


川 ゚ -゚)「じゃあ素手で」

 そう言って、平手でビンタがはじまった。
 手加減してるのか、布団叩きのせいで神経が
 麻痺しているのか、さほど痛みは感じられなかった。
 だから、だろう。またおふざけしてしまった訳は。


( *゚ω゚)「あ、そこ。もーちょい上。強くしてくれお。おおお……」

川 ゚ -゚)





 そして、クールの正拳が肛門に突き刺さった。
 結果的に言うと、そのせいで、今日一日椅子に座れなかったのだ。



川 ゚ -゚)「フンッ」

( ;゚ω゚)「ぎゃあああああああああああああああああああッッ!」



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ξ゚⊿゚)ξは画面の世界の住人のようです
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/13029/1332404287/



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