まぜこぜブーン

ブーン系まとめ

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 ( ´_ゝ`)木漏れ日のもようです ∬´_ゝ`)


ラノベ祭り投下作品 (リンク先:REST様)

1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/19(月) 23:20:06.68 ID:D8QfpGdw0
一面に、あかるい光が降り注いでいた。
生い茂る緑が淡く、濃く、輝いている

ヴェールと青い花弁を、風がまきあげる。
振り向いた姉が傍らの男を抱き寄せて、歯を見せて笑う。
木漏れ日の模様がうつった手を振り、はしゃいで、黒い髪がゆれる。

なにもかもから祝福されているその光景を、ずっと覚えていたい。
この、うつくしい日のためだけに、きっとおのれは生きていたのだと、瞬きの間に悟った。


2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/19(月) 23:21:14.72 ID:D8QfpGdw0
( ´_ゝ`)木漏れ日のもようです ∬´_ゝ`)
boonpic2_065.jpg

ラノベ祭参加作品



5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/19(月) 23:23:15.38 ID:D8QfpGdw0
黄ばんだ紙に書き連ねた、一番下の数字に二重線をいれ、横ににゼロを一つ書く。
予定していた収入が無しになったためだ。
不幸な事故でも、悪辣な陰謀でもない、まぬけな失敗が原因だった。

今回は人手不足でどうにか仕事が割り振られたが、次はないかもしれない
ついに怒鳴り声は静かな忠告に変わった。

( ^ω^)「お前、ほんっとーに向いてないおね」

よみがえる白豚の声
うるさい、そんなのおれでも知ってる。

銃を扱うようになってから数年
肝心のひとごろしの方はさっぱりであるというのに、整備の手際ばかりが良くなってしまった。


シンプルであることはよくない。

つぶしがきかないのだ、殺せなかったから金がもらえない
ああ、なんてシンプル!くそくらえ!


6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/19(月) 23:26:09.12 ID:D8QfpGdw0
∬*´_ゝ`)「ただいまぁ」

( ´_ゝ`)「おかえ……」

(;´_ゝ`)「このバカ!」

∬´_ゝ`)「あんたはいつからおかえりのひとつも言えなくなったの?」

(;´_ゝ`)「「後で何回だって言ってやるよばか!この格好で帰ってきたのか!信じられない!」

∬*´_ゝ`)「だってこんなに似合うんだもの」

豪華な毛皮のコート ギラギラと輝いていっそ下品なほど派手なネックレス ブレスレット 指輪
そんなものをいくつも身に着けて、酔っ払いは上機嫌にくるりとまわってみせた。

まるで正気じゃない


7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/19(月) 23:28:08.61 ID:D8QfpGdw0
この家同様、日当たりも立てつけも悪く、おまけに狭い住処ばかりが寄せ集められた界隈には
それ相応の人間ばかりが住んでいる。例えば、常に飢えていて、金の気配に目を光らせているようなのとか(残念ながら兄者と姉者もその数のうちである)

それ知っていて夜道をこんな格好で帰ってくるなんて、姉は正気をなくしたのではないかと兄者はおそれた。

その心配をよそに、いかにこの毛皮が似合っているか、宝石のカットがうつくしいか、細工が繊細かを語る姉者の頬の血色は、まるで少女のようですらある。

姉者は、兄者には売れば金にかわるとしか思えない貴金属に、それ以上の価値を見出している。
見た目ばかり派手でうつくしい指輪を特に気に入った様子で、蠅の糞にしろく曇った電球の光にかざしては、うっとりと目を細めた。


8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/19(月) 23:32:00.86 ID:D8QfpGdw0
一方で、見た目のわりに安物だな、ハズレ。としか思えない兄者はキッチンにひっこみスープに火を入れた。

価値の良くわからないものに、いっしょになって喜べるほどおとなではなかったが
さりとて、姉の喜びにみすみす水を差すほど、彼もこどもではない。


9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/19(月) 23:32:34.13 ID:D8QfpGdw0
∬´_ゝ`)「ありがと」

カップに一杯の豆スープ 硬いビスケットが3枚 
スープは伸ばし過ぎて、味がほとんどしないし、ビスケットはカチコチ
質素を通りこして粗末な食事である。
それでも暖められた食事のにおいは兄者の腹を鳴らした。

∬´_ゝ`)「食べたい?」

( ´_ゝ`)「もう食べたからいい」

∬´_ゝ`)「足りてないじゃない」

( ´_ゝ`)「……いい」

∬´_ゝ`)「ほれ」

口にスープを吸わせたビスケットが押し込まれる。
食欲は正直で、結局ビスケット二枚は兄者の腹におさまることとなった。


11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/19(月) 23:38:06.77 ID:D8QfpGdw0
∬´_ゝ`)「ところで」

∬´_ゝ`)「私はこの通りだけど、あんたどうよ」

きらきらひかる指を振って、真っ赤な唇が弧を描いた。
おんなの口紅は全然はげないのだから不思議だな、と兄者はいつも思う。
パン屋のあのこも、パブの店主も、姉者も



姉者が兄者が突き出した紙をしげしげと眺める。
律儀に数字を確認するのは、姉者の優しさとも言えたし、嫌がらせとも言えた。
あるいはその両方、という可能性もある。

∬´_ゝ`)「今回も、きっと私の勝ちねぇ」

( ´_ゝ`)「……まだ決まってない」

∬´_ゝ`)「あ、そ」

勝利を確信している声が面白くなかったが「あと一日残っている」くらいしか言える事がなかった。


12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/19(月) 23:39:48.01 ID:D8QfpGdw0
∬´_ゝ`)「お説教は明日にしてあげるわ」

( ´_ゝ`)「姉者がするほうとは決まってない」

∬´_ゝ`)「はいはい、決まってないわねぇ
     そんなことよりお風呂入るから、花切ってちょうだい」

( ´_ゝ`)「えー」

∬´_ゝ`)「文句いわないのー」


14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/19(月) 23:46:00.74 ID:D8QfpGdw0
薄青い花びらがバスタブに浮いている。
花が潰れてお湯がうっすらとあおい、潰れた花はもともと香りが強いこともあり、暖められておもたく香っている。

兄者は青色もこの花のにおいも好きなので、ふくらはぎに柔らかくまとわりついてくる花の感触もそんなにきらいではない。
姉者はというと、体に張り付くはなびらを、いちいち嫌そうに剥がしながら

∬;´_ゝ`)「この花くず、鼻がまがりそう」

うんざりした態だった

( ´_ゝ`)「いいにおいだよ」

∬;´_ゝ`)「キツ過ぎるのよ」

( ´_ゝ`)「ふーん」

毎日嗅いでいると、そう思うものなのかもしれない。
兄者にはわからないことだった。


16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/19(月) 23:48:23.20 ID:D8QfpGdw0
∬´_ゝ`)「私ね、結婚するかも」

( ´_ゝ`)「いつ?」

∬´_ゝ`)「わかんないけど、借金かえしたら」

( ´_ゝ`)「誰?」

∬´_ゝ`)「ショボンさん」

( ´_ゝ`)「まだショボンさんなんだ、物好きなやつ」

∬´_ゝ`)「いいひとよ」

( ´_ゝ`)「ふーん」

まっしろい背中から、いくつもいくつも生えた花に鋏を入れ、姉の話に相槌をうつ。
前に「ショボンさん」の話を聞いてから、けっこう時間がたつのに今回は長続きだなぁと感心しながら、またひとつパチリと落とす。

形の悪いもの、邪魔になりそうなものから選んで落とすのだ
この花も姉の商売道具の一部なので、不格好にするわけにはいかない。慎重になる必要がある。
かといって、お湯が冷めるほど時間をかけてもいけない
すばやく、うつくしく

姉曰くセンスがないらしい兄者には手に余る仕事で、終わるころにはいつも、もう二度と嫌だと思う。


18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/19(月) 23:51:59.06 ID:D8QfpGdw0
∬´_ゝ`)「こっちもおねがい」

(;´_ゝ`)「グロい!」

∬´_ゝ`)「そんなに?」

(;´_ゝ`)「視覚の暴力だ」

姉者が長い髪を持ち上げると、耐えがたい光景が広がっていた。

みっしりと、うなじに芽吹いた花は、まだかたい蕾で、密集しているとひどくグロテスクだ
兄者はそういうものにめっぽう弱いので軽い吐き気すら覚える。


19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/19(月) 23:57:23.37 ID:D8QfpGdw0
∬´_ゝ`)「肩こりがひどいの」

茎が短くて、鋏が入れにくい
結果、凝視しなくてはならない、つらい。

(;´_ゝ`)「こんだけ生えてりゃ、肩もこるよ」

兄者の実姉である彼女、姉者は十年前の天気雨の日から、ほどほどの知名度を持つ病を患っている。
ぱらぱらと落ちてきた雨粒が肌をたたいた後から、見る間に双葉が芽吹き、茎が伸び花をつけたその瞬間を、兄者ははっきりと覚えている。

ほどほどの知名度があると言っても、この病については
ある日突然花が生え、ほうっておくと花の毒素で死ぬ。ということのほかは、つまりは原因だとか治療法だとかは
いまだになんにもわかっていない、かろうじて対処法として解毒剤がある。らしい 姉者から聞いたことである。

そのほかで兄者が知っていることは、移るやまいではないということと、薬が高いということだけだった。

前者の方は長い間寝食をともにした兄者にも、ふたりの弟妹にも、花は生えてこなかったということ
後者の方は月末、姉者がいらいらと鉛筆を噛んでいることから知っていることだ。


20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/19(月) 23:58:40.52 ID:D8QfpGdw0
■■■

(* ´_ゝ`)「ケーキだ!」

扉を開けると、家は砂糖とバターが焦げるあまいにおいに満ちていた。

∬´_ゝ`)「せいかーい
      冷めたらお茶にしましょ」

姉者はそう言って、まだ熱いケーキをつまんで、兄者すこしだけ齧らせてくれた。

(* ´_ゝ`)「熱い!うまい!」

∬´_ゝ`)「そ、じゃぁおつかいね
     ジャム買い忘れたから買ってきて」

(* ´_ゝ`)「りょーかい」

パン屋まで走る。
家から大通りまで行くためには、陰鬱な雰囲気ばかりを漂わせている道をいくつも通る必要があるが
今の時間であれば、スリや汚物に気を付ければなんということはない。

今日はケーキも待っている、足は軽く兄者を運ぶ。
走るのは得意だ。


22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/20(火) 00:03:38.12 ID:d/BmslC+0
ζ(゚ー゚*ζ「いらっしゃいませ」

からころ鳴るドアベルの音に負けないくらい澄んだ声が迎えてくれた。


ζ(゚ー゚*ζ「さっき、おねえさん来たよ」

( ´_ゝ`)「うん、買い忘れ」

ζ(゚ー゚*ζ「なにかな?」

( ´_ゝ`)「ジャム、ブルーベリーの」

ぶるーべりーと柔らかい声が繰り返した。
彼女が話すと、ジャムの種類も、何か素敵な詩の一節のようだと思う。
弟者に聞けば、そういう詩を教えてくれたかもしれない。

ζ(゚ー゚*ζ「これ おまけね」

(* ´_ゝ`)「ありがとう」

彼女はいつも飴をひとつくれる。
柔和な微笑みと、こがねの巻き毛に見送られて兄者は店を後にした。
このパン屋は安くて美味しくて、店番の子がとびきり可愛いのでとてもいいパン屋だと兄者は思っている。


23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/20(火) 00:07:49.78 ID:d/BmslC+0
月の初めの日は二人でお茶をして、夕食もいっしょにとる。

兄者と姉者は生活の時間帯がことなるため、向かい合って食事ができる数少ない日を大事にしていた。
これからまた、ひと月がはじまる。それに耐えるためにはご褒美が必要である。


カップはふちが欠けていて、ケーキはフルーツどころかクリームすら乗ってない。
でも紅茶は淹れたてで、ケーキは、甘いものが好きな兄者のためだけに誂えられていて 目の前には姉がいる。

好きな人と好きなものを食べるのってしあわせなことよ とは姉者の弁だが
兄者もそう思う、次の一か月なんてたいしたことない。そういう確信すら抱けるしあわせがテーブルに揃っている。


24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/20(火) 00:12:42.47 ID:d/BmslC+0
のは夕方までの話



∬´_ゝ`)「これ私の今月のぶん」

姉者が差し出した紙には、最後に見たときよりも桁の増えた数字がのっている。
昨日の毛皮やアクセサリーは思ったよりも良い値がついたらしい。

∬*´_ゝ`)「あんたは?」

押し付けるように渡した紙を見て、姉者は嬉しそうだ。

∬*´_ゝ`)「兄者」

( ´_ゝ`)「いやだ」

∬´_ゝ`)「まだなんにも言ってないじゃない」

( ´_ゝ`)「今から言うだろ」

∬´_ゝ`)「ええ、言いますとも、だって、あんた
     人をころして場末の娼婦の稼ぎにも及ばないなんて
     そんなの、あんまりにも割りがあわないわ、やめなさいな、明日にでもやめなさい」


26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/20(火) 00:16:43.29 ID:d/BmslC+0
( ´_ゝ`)「おれだって他に仕事があればすぐにでもやめるよ」

∬´_ゝ`)「あるじゃない」

( ´_ゝ`)「あれだけじゃ食うだけで精一杯だ」

∬´_ゝ`)「充分よぉ」

(#´_ゝ`)「ぜんぜん足りない!」

∬´_ゝ`)「でもねぇ、あいつがあんたに回してくるような仕事なんて
     ハイリスクローリターンの極みみたいなのばっかじゃない」

(#´_ゝ`)「ないよりマシだ」

∬´_ゝ`)「ない方がマシね」


27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/20(火) 00:21:25.69 ID:d/BmslC+0
(#´_ゝ`)「もういいだろ!この話はおしまい!おわり!」

∬´_ゝ`)「いいわよ、今回は、終わりにしてあげる」

(#´_ゝ`)「姉者のばーか!」

∬´_ゝ`)「兄者のが馬鹿よ」


月末には幸せと不幸が一緒になってやってくる。
この法則がはずれたことはない。

ひとつきの稼ぎが多かった方が、少ない方の仕事について口をだせる。
そんなルールに乗った馬鹿を兄者は内心でぼろかすに貶した、しかし自分のことですぐに空しくなってやめた。

あのときは今よりこどもで、姉者の職業が嫌でたまらなかったのだ。今もだけど。


29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/20(火) 00:26:58.39 ID:d/BmslC+0
仕事がない。
朝から夕方までの工場での仕事が週に六日 夜の皿洗いが週に三日 この状況に兄者は強い不満を覚えていた。
ただでさえ子供の域をでない兄者がもらえる賃金は少ないというのに、これだけの仕事では兄者にとって収入なんてないのと同じだ。

しょうがないといえばしょうがない わざわざ子供の兄者を雇わなくたって 似たような賃金で働く事情をもったおとなが、ここにはたくさんいる。
今、定期的な仕事があるだけでありがたく思わなければいけない 幸福な状況だった。
事実、食べていく程度なら充分とはいえないが、それでも兄者だけでも稼いでこれる

しかしその程度、その程度だ。
うんざりするような借金の前ではまったく、すこしも、これっぽっちも足りない。

はやく借金を返して、姉も自分も自由になるのだ。

こんなくそだめみたいなスラムから抜け出して、光の当たる道を歩く。

そのためにはどうしても金が、仕事が必要だった
キレイとかキタナイとか安全とか危ないとか、言ってる余裕なんて、兄者にはない。


30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/20(火) 00:34:16.54 ID:d/BmslC+0
■■■

ドアの下、窓や煉瓦の隙間から忍び込む冷気に震えながら眠る支度をする。
ソファにシーツを敷いて枕を置く。湯たんぽを用意して毛布にくるまれば、そこはもう兄者の寝床だ。


昔、姉者を待つためにここで眠るようになった事がはじまりだが
もう窮屈で、同じベッドでは眠れないことを考えると、良い選択だったと言える。


骨まで凍りつきそうな寒さに、兄者はしょうがなくグラスに酒を注いだ。
透明な液体を指二本分。意味はわからない、姉者がそうするので真似をしている。
それを一気に飲み下す

(;´_ゝ`)「オェッ!」

舌が痺れて喉が焼けるようだ、なにより強烈に苦い。
瓶からひとつ、飴を取り出して舌を慰める。

それでも寝床に引っ込んで、毛布をかぶれば体は徐々に温まる。
姉者は酒をのむ良い理由になると、冬の到来も受け入れているが兄者には理解しがたかった。
苦いしまずい、意識もぼやける。良いことがない。
しいて言うなら、飴を舐める理由になることくらいだった。


32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/20(火) 00:38:51.08 ID:d/BmslC+0
貰った飴は全部、瓶にためておいて、普段は眺めるだけにして
貧血の時や今のようなときにだけ舐めることにしてる。

飴は甘いし、大好きだった。少なくとも酒とは比べるのも馬鹿らしいほどには。

金色の蓋がついた、角の丸い四角の瓶
冬は中身の減りが激しくて、中々いっぱいにならないので、それは少しさみしい。


33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/20(火) 00:45:36.22 ID:d/BmslC+0
■■■

ドアの軋みにふと、意識が浮いてくる。そっと開けても、立てつけが悪すぎて耳障りな音をたてるのが、このドアの良くないことの一つである。

姉が帰ってきたということは、そろそろ起きる時間ということだ。
起きて、顔を見てから仕事にいこうかとも思ったが、どうにも毛布の外の寒さを思うと無精が勝った。

静かに近寄ってきた気配が兄者の頭をゆっくり撫でた。
何事か囁いている、聞き取れないがおそらくgood boyあたりだろう
姉者はいつもそう言う、もうそんな風にされるほどこどもではない(と兄者は考えている)ので
起きていたら抗議するところだが、今は寝ているのでしかたないと、自分に言い訳をして瞼を動かさないように努めた。
花の匂いが早朝の空気にとけていて、姉者は嫌うけど、やっぱりいい匂いだなと思った。


34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/20(火) 00:49:47.10 ID:d/BmslC+0
■■■

('A`)「お前、今日もメシ食わねぇの?」

( ´_ゝ`)「うん」

('A`)「メシは食っとけ」

( ´_ゝ`)「今欲しいものあるから」

('A`)「我慢しろ」

( ´_ゝ`)「じゃあドクの分けてよ」

('A`)「しばくぞ、あとドクって言うな」

( ´_ゝ`)「ケチ」

('A`)「言ってろ、もやし」

( ´_ゝ`)「おっさん」

('A`)「クソガキ」

( ´_ゝ`)「……ヤブ医者」

('A`)「それは言うな……」

( ´_ゝ`)「ごめん」


35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/20(火) 00:53:10.80 ID:d/BmslC+0
ドクというのはあだ名で、無免許のヤブ医者で経営難で休業中だから逆にドクターなのだと、倉庫番が言っていた。
彼としては不名誉なあだ名らしく、初めて兄者が「ドク」と呼びかけたときなど、苦虫を噛み潰したような顔で

('A`)「ガキはすぐに真似しやがる」

とボソボソ文句をつけた

('A`)「飴ならやるぞ」

( ´_ゝ`)「飴は今いっぱいだからいい」

('A`)「お前はアホだから教えてやるが
    飴は食いもんだ、あるなら食え」

( ´_ゝ`)「食べれる飴は瓶の下の方にあるんだ」

('A`)「飴は全部食えるぞ」

( ´_ゝ`)「これは特別な飴だからだめだ」


朝起きたら増えていた魔法の飴だ、大事にしなければいけない。
魔法使いは誰か、兄者は知っている。


37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/20(火) 01:00:54.36 ID:d/BmslC+0
■■■

(´・ω・`)「ええっと、人違いだったらすまないんだけど
      君がアニジャくん、かな」

今日の夕飯はどうしようか、と腹の虫と相談しつつ工場を出たところで
場所にそぐわない、身綺麗な格好をした、ずんぐりとした体つきの中年男に兄者は呼び止められた。

(´・ω・`)「はじめまして、急に訪ねたりしてごめんね
      君に話があって来たんだ」

知らない顔だ、さてどうしたものかと思案していると、ドクが近付いてきた。

('A`)「よぉ、ガキ、おつかれ」

( ´_ゝ`)「おっさんもおつかれ」

(;´・ω・`)「あ、怪しいものじゃないんです」

無遠慮なドクの視線にたじろぐ中年は、どう贔屓目にみても、とても怪しかった。
ドクはガリガリだけど背も高いし、顔も怖いし、三白眼だから怖いだろうなぁと、兄者は少し同情した。


39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/20(火) 01:04:39.01 ID:d/BmslC+0
はて誰だろう?垂れた眉をさらに垂れさせて、いかにもしょんぼりした顔付で焦る、兄者を「アニジャ」と呼ぶこの男は。

( ´_ゝ`)アッ

( ´_ゝ`)「……ショボンさん?」

('A`)「知り合いかよ」

ドクがめんどくさそうに溜息をついて歩き出した。

普段はわざわざあいさつなど絶対しないので、心配してくれたのだろう。
ドクは案外、いいやつなのだ。


40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/20(火) 01:05:52.59 ID:d/BmslC+0
(;´・ω・`)「ああ、良かった」

(;´・ω・`)「通報されるかと思ったよ」

( ´_ゝ`)「だってまるきり怪しいおっさんだったよ」

( ´_ゝ`)

( ´_ゝ`)「……悪い、あっ違うええっとスミマセン」

(´・ω・`)「いいよ、普通に喋って」

( ´_ゝ`)「アリガトゴザイマス」

(´・ω・`)「いいのに……
     今お腹すいてるかな?少し長くなるかもしれないから
     何か食べながら話すよ」

(* ´_ゝ`)「すいてる!」


42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/20(火) 01:09:56.53 ID:d/BmslC+0
話があると言ったのに、兄者が注文したステーキセットのスープから、メインディッシュはもちろん
付け合せのマッシュポテトを食べ終わるまで、ショボンさんは口を開かなかった。

ただただ、何か言いかけてはやめる、そしてバナナ・スムージーを啜る、という動作のみを繰り返していた。

兄者としては久しぶりの、本当に久しぶりの肉
しかも牛肉を食べるという、貴重な機会を満喫できたので、ふたりの間にある沈黙はおろか、話というものも気にならなかったが

ショボンさんの方は違うらしく、スムージーの減りとともに、どんどん表情が硬くなってきている。
いよいよ石にでもなるつもりかと、心配しだした兄者が二個目のスフレを食べ終えたころ
ショボンさんはようやく、振り絞るような声を出した。


44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/20(火) 01:13:00.94 ID:d/BmslC+0
(;´・ω・`)「おおおお、お姉さんを!僕に!ください!」

( ´_ゝ`)「いいよ」

(;´・ω・`)「わかる!君の反対はわかるよ、僕と彼女は年も離れてるし、僕は甲斐性なしだし!でも僕は彼女をっ」


( ´_ゝ`)「いやだから、いいよって」

(;´・ω・`)「え、あ、いい、いいの?」


( ´_ゝ`)「うん。
      で、話ってそれだけ?」

(;´・ω・`)「ああ、うん、そうだよ」 


( ´_ゝ`)「そうだ、クレープも頼んでいい?」

(;´-ω-`)「いいよ」

いいよ。の前に付く「どうでも」はスフレと一緒に噛み砕いてのみこんだ。兄者はおとなであるし、姉の事も好きなのである。


45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/20(火) 01:15:23.68 ID:d/BmslC+0
(;´-ω-`)「反対されるかと思った」

( ´_ゝ`)「反対した方がよかった?」

(;´・ω・`)「まさか!」

( ´_ゝ`)「姉者がいいっていうなら、おれが反対することなんてないよ」

(;´・ω・`)「そうか……あぁ良かった……
      この数か月、どうやって君を説き伏せようかってことばかり考えてたよ」

(´・ω・`)「ところで、アネジャというのはネーシャのこと?」

( ´_ゝ`)「そうとも言う」

(´・ω・`)「そして僕はショボンさん」

( ´_ゝ`)「そう聞いてる」


46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/20(火) 01:18:05.55 ID:d/BmslC+0
´・ω・`)「つまりアニジャというのも」

( ´_ゝ`)「弟者が、弟がつけた」

(´・ω・`)「弟くんがいるの?」

( ´_ゝ`)「うん、妹もいる」

(´・ω・`)「きょうだいが多いのって、いいね」

ショボンさんがそう言ったので、兄者は彼をいいやつに分類した。


それから、ショボンさんと食事をするという日が、ひと月の予定に加わることとなった。


47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/20(火) 01:21:33.71 ID:d/BmslC+0
■■■

(* ´_ゝ`)「弟者はおれとすっげーそっくりなんだ、双子だから。
     でも、あいつは頭がよかったから本も読めて
     これはナイショな?ナイショなんだけど、学校とかに忍び込んでよく本を読んでた」

(* ´_ゝ`)「あと、あいつは姉者といっしょで、あだなをつけるのが大好きだった」

(´・ω・`)「それで君と彼女はアニジャとアネジャになったんだね」


(* ´_ゝ`)「そう、いいセンスだろ
      弟者が付けたからな」

(´・ω・`)「イモジャちゃんは?」

(* ´_ゝ`)「妹者は弟者が拾ってきたから顔は全然にてない
      でもすげー可愛いの 目もでっかいし、髪もきれいなブロンドなんだ
      日が当たるときれいに光るんだよ」

ショボンさんはいつも家族の話を聞いてくれるので、兄者は彼が姉者と結婚してもいい。という評価から
彼が本当に姉者と結婚することになればいいな というものに変更した。

いままで、家族の話は誰にもできなかった。
姉者に言うのは躊躇われたし、他人はそんなことに興味をもたなかった、兄者も大切な記憶をおいそれと他人に触れさせたくはなかった。


50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/20(火) 01:30:14.06 ID:d/BmslC+0
(´・ω・`)「羨ましいな」

( ´_ゝ`)「どんなふうに?」


(´・ω・`)「難しいことを聞くね……
      僕はきょうだいがいないから君の話を聞くと、そうだな、嬉しいよ
      嬉しくて羨ましい、こんな感じかな」

( ´_ゝ`)「出来たら、会ってほしかったんだけどなぁ」

(;´・ω・`)「ごめんよ……」

( ´_ゝ`)「なんで?」

(;´・ω・`)「君の口から、その、そういうことを、言わせてしまって……」


( ´_ゝ`)「難しい」


51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/20(火) 01:35:04.99 ID:d/BmslC+0
(;´・ω・`)「そうだ、僕にも!
      僕にもあだ名をつけてほしいな」

( ´_ゝ`)「もうあるじゃん」

(´・ω・`)「それもいいけど、君の家族っぽいやつ」

(;´_ゝ`)「おれはそういうの苦手なんだけどな」


(´・ω・`)「頼むよ」

(;´_ゝ`)「んー」

( ´_ゝ`)!

( ´_ゝ`)「ショボ者」

(;´・ω・`)「ショボ者!?」

(* ´_ゝ`)「いいだろ」

(;´・ω・`)「出来たら違うのがいいなぁ」


52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/20(火) 01:38:30.25 ID:d/BmslC+0
(;´_ゝ`)「んー」

( ´_ゝ`)!

( ´_ゝ`)「兄者!」


(;´・ω・`)「それは君の名前だね」

(* ´_ゝ`)「ショボンさんさ!兄者になればいいよ!」

(;´・ω・`)「どういうこと」

(* ´_ゝ`)「兄者って、兄のことだから
      ショボンさんがおれの兄さんになればいい」

(* ´_ゝ`)「そしたらおれは弟で、弟者になるから
     弟者もショボンさんに会えるし、姉者も弟者に会える
     妹者がいないのは残念だけど……それはしょうがないから」

(´・ω・`)

(´・ω・`)「それは駄目だよ」


53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/20(火) 01:42:02.59 ID:d/BmslC+0
( ´_ゝ`)「なんで?嬉しくない?」

(´・ω・`)「うん、嬉しくないね」

( ´_ゝ`)「なんで?」

(´・ω・`)「わからない?
      なら三人で食事をする機会までの宿題にしよう」

( ´_ゝ`)「わかった 
      兄者になったら姉者と結婚できないからだ」

(;´・ω・`)「違うよ?!
      そんな思惑があったの?!
      本心では結婚に反対なの?!」

( ´_ゝ`)「反対ではないけど……
      ちょっとむかつくし……」

(;´・ω・`)「まだ嫌われてるかと思ったよ……」

( ´_ゝ`)「今はすきだよ」

(´・ω・`)「最初は?」

( ´_ゝ`)「しね!って思った」

(;´・ω・`)「オブラートに包んでものを言うことを少し覚えようか……」


55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/20(火) 01:49:16.83 ID:d/BmslC+0
■■■
姉者が爪を手入れを始めたので、兄者も横で自分の靴を手入れする。
身綺麗にしていなきゃだめよ、と姉者がいうので、兄者は貧乏なわりには身綺麗だと自負している。


∬´_ゝ`)「あんた最近ショボンさんと仲良いわねぇ」

( ´_ゝ`)「うん」

∬´_ゝ`)「ショボンさん好き?」

( ´_ゝ`)「うん」

∬´_ゝ`)

∬´_ゝ`)「デコピンしちゃる」

(;´_ゝ`)「やめろ!」

姉者のデコピンは痛いから、兄者は必死で逃げねばならなかった。
結局つかまって、きついのを一発もらった。
爪の先から生えた、青い花の柔らかい感触と不釣り合いな痛みだった。


56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/20(火) 01:58:23.22 ID:d/BmslC+0
■■■

(*´・ω・`)「この前ねアネジャさんにね、ヤキモチを焼かれてしまったよ」

(*´・ω・`)「兄者とばっかり仲良くして、あなた私の彼氏でしょ だって、可愛いね」

( ´_ゝ`)「ショボンさん目ぇおかしいんじゃないの」

(´・ω・`)「僕は視力はいいよ」

( ´_ゝ`)「じゃあ頭だ」

(´・ω・`)「頭は君も悪いね」

(;´_ゝ`)「うるさいなぁ」


57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/20(火) 01:59:17.96 ID:d/BmslC+0
(*´・ω・`)「だって可愛いだろ」

( ´_ゝ`)「可愛くない」

(´・ω・`)「ひょっとしてヤキモチやいてる?」

(#´_ゝ`)「だっておれの姉さんだぞ!」

(´・ω・`)「でも僕の恋人だよ」



(;´・ω・`)「あっ!ちょ!痛い!蹴らないで!」

「私の弟よ」とも怒っていたと聞いたので、兄者はショボンさんを許すことにした。


58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/20(火) 02:04:27.78 ID:d/BmslC+0
■■■

(´・ω・`)「君がおとなになったら一緒に酒を飲もうね」

あんまりにも普通の提案のように言うので兄者は心底驚いた。
姉者に花が生えた時と同じくらいの驚きだ。

だって、兄者がおとなになる それは悔しいが、途方もなく長い時間が必要になる。それなのに。
そんな先まで姉者はわかるが、兄者とまで関わっている予想をたてるなんて兄者には信じられなかった。
ショボンさんは確かに取り立ててお金持ちでも、頭が良いわけでも、美形でもなかったけれど、優しくて誠実でまっとうなひとだ。
同じく、もっとまっとうな人間と家族になることだって出来る。

兄者はどうしたらいいのかわからなくなって「酒は大嫌いだ」と憎まれ口をたたいた。


60 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/20(火) 02:09:17.21 ID:d/BmslC+0
■■■

∬´_ゝ`)「これ着てみて」

いましがた散髪してもらった髪を片付ける兄者に、なんでもないようなふうに渡すので、兄者もつい、なんでもないふうに受け取ってしまったが
それは「なんでもある」ものだった。
真新しい、糊のきいた白いシャツ 深緑の生地で出来たスーツの手触り ぴかぴかの革靴  ついでに新品の下着。つまり洋服一式


(;´_ゝ`)「こんな高そうなの」

∬´_ゝ`)「そんなでもないわよ」

(;´_ゝ`)「うそだ」

∬´_ゝ`)「ほんとよ、スーツはね、元はあのひとのなの
     あんたが着れるように直したのよ
     うまいもんでしょ?」


∬´_ゝ`)「他は買ったけど、いいでしょこれくらい」


∬*´_ゝ`)「ほら皺になるから脱いだ脱いだ!
      次はアタシの結婚式で着てね」

(;´_ゝ`)「い、いやだ、大事にしまっておく」

∬´_ゝ`)「着ろ」


61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/20(火) 02:16:16.12 ID:d/BmslC+0
似ている、似ているとよく(主にショボンさんから)言われるがこういうのも似るのだろうか
実のところ兄者も、姉者に贈り物があった。

ここ二年、昼を抜き続けてようやく買えたネックレスだ。


包みを解いた姉者は、何度も手の中のものと兄者の顔を見比べ
それから顔を覆って「やだ、もう」「馬鹿ね」「ありがとう」「嬉しい」
と何度も何度も同じ言葉を繰り返した。


∬*´_ゝ`)「センスない」

とおなじみの台詞で、最後には兄者のセンスを馬鹿にしたが
何度も聞いた中でいちばん優しい「センスない」だった。


63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/20(火) 02:23:34.84 ID:d/BmslC+0
■■■

月末だというのに、まともな食事ができるという僥倖は白豚の鳴き声で霞んでしまった
あいつの声はすごい、聞いてるだけで人を不愉快にさせる。これも才能だ。
食事時の訪問は控えろ、今月分はもうノルマにおおきく色を付けて返しただろ
噛みつく前に姉者に額をはたかれた。

∬´_ゝ`)「一体どうなさったの?
     何か用がおありでしたら、こちらから出向きましたのに」

( ^ω^)「いいんだおいいんだお、今日はお前らのために来たんだお」

( ^ω^)「今まで本当によぉーく頑張ったお
     なんの能もないクソガキ二匹がここまで!感動的だお!」

( ^ω^)「俺も鬼じゃないお
      今までに健気に頑張ったお前らに慈悲を与えてやるお」


64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/20(火) 02:29:38.74 ID:d/BmslC+0
とんとん、と肥えた蚕のような指が紙と写真を叩く。

紙。大体、姉者の薬代くらいの借金の残額。
つまり、払えないことはないが毎月鉛筆を噛まずにはいられないくらいの、笑えない額。

写真。知らない男が写っている

( ^ω^)「あとこれっぽち、これっぽっちの額だお
      お前、こいつを殺してこいお そしたら残りの借金はチャラにしてやるお
      別に緊張することないお、お前の失敗率の高さはよぉっく知ってるお?
      失敗したっていいんだお許してやるお」

( ^ω^)「ま、その場合迷惑料として、少々、少々返してもらう額が増えるかもしれないお」

( ^ω^)ノシ 「じゃ、ガンバレ」


65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/20(火) 02:33:46.83 ID:d/BmslC+0
∬;´_ゝ`)「ねえあんた、わかってるわよね?
      絶対に絶対に受けちゃだめよ」

( ´_ゝ`)「わかってるよ」

∬;´_ゝ`)「ほんとにわかってる?
      良く考えて、どっちが得かなんてすぐわかるでしょ?」

( ´_ゝ`)「わかってるって」

∬;´_ゝ`)「あいつがわざわざ言いに来るって、絶対に危ないことよ」

( ´_ゝ`)「知ってるよ」

∬;´_ゝ`)「せいぜいが伸びて数か月よ
      お願いだから、絶対に変な気おこさないでよ」


( ´_ゝ`)「だから、わかってるって」


67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/20(火) 02:40:24.69 ID:d/BmslC+0
■■■

がちがちと歯がうるさい
うるさい!見つかったらどうするんだ、手のひらに噛みついて音を殺す。

重たい金属のかたまり、射撃は得意な方だ、それに今までに何度も手に取ってきた。
しかし、これはこんなにも冷たいものだったろうか?こんなにも恐ろしい武器だっただろうか?

シンプルな話だこれでターゲットを撃つ それだけ。
それだけだ、それだけで自由の身だ。

わかってる。ショボンさんは今更、結婚の日取りが伸びたって姉者を見捨てたりしない
姉者だって、おれが失敗したって怒らない。

でも、いままでずっと守られてきた あの手に縋って生きてきた。

でも姉は、おれは、ようやくしあわせになるのだ。
その邪魔は絶対にさせない。

兄者のいのちと借金の残額、兄者の中でその重さの違いは明白だった。


69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/20(火) 02:47:28.77 ID:d/BmslC+0
ターゲットの男が出てくる、セーフティを外して構えて、狙う。
周りを護衛が固めているが狙えないわけじゃない。迷うな。迷わなければあいつは殺せる。


でも、その後は?周りの護衛は飾りではない。

一発でも打てば、それからは兄者が狩られる側だ。きっと死ぬ。

兄者は臆病だった。
臆病だから、グロテスクなものも嫌いだったし、死ぬのも怪我をするのも嫌で
いつもこの仕事では失敗ばかりしていた。
そうして死ななかった。
臆病だから生きてこれた。


70 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/20(火) 02:52:12.63 ID:d/BmslC+0
■■■

('_L') 「もう、必要ないそうです」
内藤の使いがそう言いに来るまで。
ターゲットが去った後も、兄者は動けずにいた。


どうしても撃つことができなかった。
恐ろしかった、昔以上にためらいと死の恐怖があった。
たったひとつ、よりどころにしていた 希望をどうしたって捨てられなかった
いままでの努力を報われたかった、姉とその恋人の結婚式を直に見たかった
姉が誂えてくれたスーツを着て 二人を祝福したかった 一度でいいから三人で同じ食卓を囲みたかった あの優しいひとを兄と呼びたかった
あたたかいよりどころが増えすぎて、手放せなかった 生きていたかった。

気が付けば、兄者は昔よりも臆病になっていた。


71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/20(火) 02:57:17.48 ID:d/BmslC+0
∬#´_ゝ`)「このっ馬鹿っ!」

帰るなり顔をおもいきり殴られた グーだ

( ´_ゝ`)「痛い」

∬#´_ゝ`)「あんた死にたいの?死にたかったの?
      それなら私が好きなだけ殺してあげるわよ」

( ´_ゝ`)「ごめん」

∬ _ゝ )「ばか ばか あんたは救いようのない馬鹿よ」

(;´_ゝ`)「ごめん……おれ……」


∬ _ゝ )「あたし断れって言ったじゃない、あいつの言うことなんて放っておけって言ったじゃない!」

(;´_ゝ`)「ごめん、おれ失敗した、ごめん、できなかった、ごめん」

もう一度強く殴られた。
姉者の爪が折れた、痛そうだ。


73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/20(火) 03:01:36.30 ID:d/BmslC+0
∬ _ゝ )「ねぇあんたふざけてんの?」

(;´_ゝ`)「ふざけてないです」


∬ _ゝ )「いいのよ、いいのお金はね、なんとかしたわ、だからね、もういいのよ」

∬;_ゝ;)「ねぇ本当に反省したなら、悪いと思っているなら、あたしのこと愛してるなら
      お願いだから命を粗末にしないで あんな死ににいくようなまねは二度としないで」

(;´_ゝ`)「本当にごめん、もうしない 」

自分は本当にとんでも無いことをしてしまったのかもしれないし、さらにひどいことをするかもしれなかったのだと兄者は痛感した。
姉者は泣かない 

∬´_ゝ`)「泣いたらお腹が膨れる?お金が出てくる?暖かくなる?ならないでしょ?」

∬´_ゝ`)「目が腫れたら売り上げにだって響くのよ、無駄なだけじゃなくて損よ」

いつもそう言っていた。
事実、兄者はずいぶん姉の泣き顔なんて見たことがなかった
こんなに弱弱しく泣き崩れる姿なんて、本当に見たことがなかったのだ。


74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/20(火) 03:05:54.12 ID:d/BmslC+0
( ;_ゝ;)「おれ、どうしても姉者の結婚式に行きたくて
      そしたら出来なかったんだ」

∬つ_ゝ;)「そぉよぉ、あんたが来てくれなかったら
      いったい誰が私を祝福してくれるの」


75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/20(火) 03:07:08.24 ID:d/BmslC+0
姉者、あんたは、姉さんはそういったけどさ
でも、あんたが死んだらおれは、いったい誰の結婚式に出ればいいんだよ。


78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/20(火) 03:14:07.99 ID:d/BmslC+0
バカにもわかる、シンプルな話だった。
借金の残額は薬代とほぼ同額で、考えたらずのガキの命を買うにはその金が必要で
姉は薬をきちんと飲まなければ、あっという間に花の毒で死ぬ病気だった。

つまり、おれが姉をころした

今まで無知も貧乏も良くないことではあれ、罪だと思ったことはなかった、それが誰かを害するなんて知らなかったのだ
おれがターゲットを殺していれば姉は死ななかった
おれが利口にしていれば姉は死ななかった

おれにもわかる、シンプルな話だ。


79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/20(火) 03:19:01.77 ID:d/BmslC+0
姉に生えている花は、大きな花をいくつもつけていた。生前より瑞々しくて美しく咲き誇っている。
くらい照明に照らされて、薄青い影をつくった。
花の毒で死ぬと、血色の良い死体ができるらしい。

花を一輪折って胸に指した。
スーツは着ているがネクタイは赤だ
これは本当はあまりよくないのだろうな もう、どうでもいいけど。


十字を切る アーメン 愛してるよ姉さん。これはほんとう。


82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/20(火) 03:28:30.79 ID:d/BmslC+0
いったいおれは、いままで何をおそれていたんだろう。
簡単なことじゃないか、狙って当てる それだけ 場所さえ間違えなければちゃんと殺せる。
リスクはあるが、それって当然だろう そういうもんだ。
歩けば転ぶ可能性は付いて回る 飲み込まなければいけないリスク 恐れる必要なんてどこにもない。
的を狙って引き金を引く。たったそれだけのシンプルな作業だ。おれにでも出来る。


83 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/20(火) 03:34:47.53 ID:d/BmslC+0
■■■

( ´_ゝ`)「報酬をくれ」

( ^ω^)「あん?」

( ´_ゝ`)「あいつを殺してきた
      とりあえず証拠は耳をもってきた」

( ^ω^)「……もってくお」

( ´_ゝ`)「なんだ、もっと安いかと思った」

( ^ω^)「お前、この短期間にいったい何があったんだお?」

( ´_ゝ`)「別に、なんにも」

( ^ω^)「正式に雇ってやろうかお?」

( ´_ゝ`)「いい、ここ出てくし」


84 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/20(火) 03:37:41.19 ID:d/BmslC+0
■■■


大通りのバス停でバスを待つ。
それに乗ってどこかに行くつもりだ。

このままここで生活を続ければ、近いうちに兄者はショボンさんに殺されるだろう。


「しばらく時間をくれないか」

乾いた声には兄者とみずからに向ける殺意に満ちていた。
兄者は殺意には敏感にできてる。

別に良い
それは良いのだ。
兄者は姉を喪ってしまったし、彼は妻になる女性を義弟になるはずの男に殺された。
ショボンさんの気が少しでも晴れるなら、兄者はべつに好きなふうに殺されて、むしろ本望だった。


85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/20(火) 03:40:28.07 ID:d/BmslC+0
だがショボンさんの気が、それで晴れることなどないと兄者は知っていたし
彼はまっとうで誠実で勇敢な優しい人間だ。
自分が楽になるために、ショボンさんを犯罪者には出来なかった。

それに何より、ショボンさんの気が晴れるとしても、兄者は自発的に死ぬつもりなどなかった。
姉者の最後のお願いで言いつけだ。絶対に守らなければならない。

月の最後の日であったので、バスを待つ間にクレープを買った。

( ´_ゝ`)「おぇ」

食べ物を、捨てるのは初めての経験だった。
ダスト・ボックスで鮮やかなクレープがひしゃげている。


87 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/11/20(火) 03:47:04.93 ID:d/BmslC+0
風が吹いて花を飛ばす。木漏れ日のきんいろが暖かく降ってくる。
もしかして、花がはえたりしないかと腕を出してはみたが
なにも生えなかった。 なるほど、もう二度とあの花は手に入らないのか。



天気のいい月末、日が差して明るいバス停で、兄者は自由で、何もかもから解放されいた。

借金はなくなった きれいな服を着て、金があり 銃も持っている。 そうして、何も恐ろしくない。
何もかもから祝福されたうつくしい日に、兄者はおのれの命の価値のありかを悟った。



( ´_ゝ`)木漏れ日のもようです ∬´_ゝ`)
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1353334806/

[ 2012/11/27 23:30 ] 短編 | CM(0)


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