347 :
名も無きAAのようです :2012/10/12(金) 20:59:41 ID:Oa..Ly3M0
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( ,_ノ` )y━・~
深夜の公園。
街灯に照らされたベンチに、煙草をふかしながら座る男がいた。
冬から春への変わり目でやや肌寒く、そのせいか男はコートを羽織っていた。
コートは所々汚れており、長年使われていることを物語っていた。
風が吹き、煙草から出る煙が風で揺れる。
男の名前は、渋沢、といった。
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( ,_ノ` )y━・~煙草とマッチと大人のようです
348 :
名も無きAAのようです :2012/10/12(金) 21:00:23 ID:Oa..Ly3M0
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( ,_ノ` )y━・~ 「…」
街灯の下、渋沢はその鋭い目で夜の闇を見つめながら煙草の煙を吸った。
煙草の先端が赤みを増しながら短くなり、短くなるのが止まったところで赤みが徐々に引いていく。
そして、持参した灰皿に灰を落とし、再び口に持っていき、吸う。
それを何度も繰り返し、指元まで灰になったところで煙草を灰皿に捨てた。
そして新しい煙草を胸のポケットから取出し、再び吸い始めた。
煙草の先端からでる煙が街灯に吸い込まれて見えなくなる。
何気なしに頭上を見た渋沢にはそれが何処か幻想的に見えた。
夜の闇と静けさと煙草が俺の頭をおかしくしているのかもしれない、渋沢はそう思い、一人自嘲気味に笑った。
渋沢が頭上を見るのを止め、先ほどと同じように夜の闇に視線を移した、その時だった。
「タバコ、一本くれませんか」
渋沢の横、闇の中から声が聞こえてきた。
その声は落ち着きがあり大人びてはいるが、しかしどこか幼さが残っているように感じた。
渋沢はこの時間に人が来たことに驚いたが、それを表には出さず、声の方は見ずに口を開いた。
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( ,_ノ` )y━・~「珍しいな、こんな時間に人なんて。 煙草は健康に悪いぞ?」
(´・ω・`)「かまいませんよ」
349 :
名も無きAAのようです :2012/10/12(金) 21:01:33 ID:Oa..Ly3M0
声を掛けてきた来た男が渋沢の視界に現れる。
そして、渋沢の向かいのベンチに腰を下ろした。
顔を見るに男は若く、服装は今時の若者のように派手ではなく落ち着いたものを着ているものの、若さを感じさせるような色合いのものだった。
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( ,_ノ` )y━・~「見たところ若いようだが、兄ちゃんいくつだい?」
(´・ω・`)「十九です。 VIP大学のただの落ちこぼれですよ」
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( ,_ノ` )y━・~「へぇ、VIP大学ってーとあそこの大学かい?」
(´・ω・`)「そうです」
落ち着きのある口調は澄み、まるでそこにいるのが学生ではなく社会に出た大人のように渋沢に感じさせた。
その声がもっと大人であれば大人だと言われても疑わないだろうな、渋沢はそう思った。
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( ,_ノ` )y━・~「んで、そのVIP大学の未成年の学生さんが俺に煙草をくれと」
(´・ω・`)「駄目ですか?」
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( ,_ノ` )y━・~「いや、どうしてだい? 吸っても健康に悪いし、味も坊ちゃんには分からない大人の味だぞ」
350 :
名も無きAAのようです :2012/10/12(金) 21:02:41 ID:Oa..Ly3M0
(´・ω・`)「その大人の味が、知りたいだけですよ」
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( ,_ノ` )y━・~「そうかい、そりゃどうして?」
(´・ω・`)「言いませんよ、いっても面白くないでしょうし」
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( ,_ノ` )y━・~「そうかい、ならいいや」
そう言って渋沢は笑うと、ポケットから煙草を一本取出し、若い男に差し出した。
(´・ω・`)「……いいんですか?」
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( ,_ノ` )y━・~「欲しいんだろ? やるよ」
(´・ω・`)「……ありがとうございます」
若い男は一瞬躊躇ったように見えたが、渋沢の言葉に従い、煙草を受け取った。
351 :
名も無きAAのようです :2012/10/12(金) 21:03:25 ID:Oa..Ly3M0
(´・ω・`)「すいません、火あります?」
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( ,_ノ` )y━・~「なんだい兄ちゃん、吸いにきたのに忘れたのかい?」
ははは、と笑う渋沢。
そして笑いながらマッチ箱をポケットから取出し、若い男に差し出した。
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( ,_ノ` )y━・~「全く、うっかりしてんなぁ兄ちゃん」
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( ,_ノ` )y━・~「忘れたのか持ってこなかったのか、知らねえけどよ」
(´・ω・`;)「はは…、すいません」
マッチ箱を受け取ろうとする若い男。
しかし、渋沢はマッチを渡さず、マッチを持っていた手をひっこめた。
(´・ω・`)「…?」
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( ,_ノ` )y━・~「まぁあわてんなって、そんなんだから忘れるんだぞ」
マッチ箱からマッチを取り出しながら、渋沢は続けた。
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( ,_ノ` )y━・~「なぁ兄ちゃん」
マッチの箱を音を立ててしめる。
そして若い男の前に手を出す。
手にはマッチが一本握られていた。
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( ,_ノ` )y━・~「マッチ棒の火、っていう話知ってるか?」
352 :
名も無きAAのようです :2012/10/12(金) 21:04:14 ID:Oa..Ly3M0
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( ,_ノ` )y━・~「まあ俺が考えたんだけどな」
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( ,_ノ` )y━・~「見てな」
マッチの頭を素早く箱の側面で擦る。
マッチはジャッと音を立てて勢いよく燃えだした。
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( ,_ノ` )y━・~「マッチってのはこうやって最初は勢いよく燃えるんだ」
マッチの頭薬の部分が黒く焦げ、火が木の部分に移動する。
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( ,_ノ` )y━・~「だが、ある程度燃えたところでだんだん火は小さくなっていく」
だんだん火が小さくなり、やがて今にも消えそうなくらいに弱くなる。
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( ,_ノ` )y━・~「そして最後には…」
そして風が一つ吹き、白い煙を散らしながら火は消えた。
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( ,_ノ` )y━・~「ほんの少しの風にかき消されちまう」
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( ,_ノ` )y━・~「俺はこれに気付いてな、このマッチの火がまるで人間の人生みたいだと思ったんだ」
(´・ω・`)「……」
353 :
名も無きAAのようです :2012/10/12(金) 21:04:56 ID:Oa..Ly3M0
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( ,_ノ` )y━・~「人間も最初は元気いいが、ある程度年を重ねると元気が無くなっていく」
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( ,_ノ` )y━・~「いい話だろ?」
火の消えたマッチ棒を灰皿に捨て、マッチ箱からもう一本マッチを取出し、火をつけて若い男に差し出す。
(´・ω・`)「…」
男はマッチを見つめたまま動かなかった。
マッチ棒は渋沢の手に持たれたまま静止し、火だけがゆらゆらと揺らめいていた。
やがて火の勢いが弱まり、ゆらゆらと揺れることもなくなった。
そして、今度は自然にふっと消えた。
白い煙が立ち上る。
渋沢は黙りこくる若い男に、火をつけたマッチをもう一本差し出す。
男は今度はそれを受け取ると、腕を振って無理やりマッチの火を消した。
354 :
名も無きAAのようです :2012/10/12(金) 21:05:43 ID:Oa..Ly3M0
(´・ω・`)「おじさん、煙草返します」
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( ,_ノ` )y━・~「いらないのかい?」
(´・ω・`)「ええ、体に悪いですし」
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( ,_ノ` )y━・~「ははっ、そうかい」
渋沢は煙草を受け取り、笑った。
そして、ではまたいつか、と言って去ろうとする若者の背中に言葉を投げかけた。
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( ,_ノ` )y━・~「兄ちゃん」
(´・ω・`)「?」
立ち去ろうと渋沢に背を向けて歩き出した若者が振り向く。
355 :
名も無きAAのようです :2012/10/12(金) 21:07:12 ID:Oa..Ly3M0
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( ,_ノ` )y━・~「あんまり考えすぎんなよ」
(´・ω・`)「……はい」
若者はそう答えると、公園の出口のある方へ向き直って歩きだした。
そして、その姿はすぐに闇の中へと消えていった。
それを渋沢は見届けると、若者が来る前のように椅子に深く腰掛け、そしてだらしなく夜空を見上げた。
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( ,_ノ` )y━・~「まったく……、今時のわかいもんも苦労してんだな」
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( ,_ノ` )y━・~「さて……、俺も帰るか」
夜空を見上げながらそんなことをぼやく。
街灯の明かりが邪魔をして、夜空の星達を拝むことは残念ながらできない。
だがそれでも、立ち上る白い煙と、何もない夜空はどこか魅力があった。
end.
356 :
名も無きAAのようです :2012/10/12(金) 21:09:16 ID:Oa..Ly3M0
投下終わり
内容についてはもう少し練れたかなーなどと反省してたりする
読みやすさとか文の書き方とか何でもいいんで、気付いたこととかアドバイスとかあればありがたい