まぜこぜブーン

ブーン系まとめ

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 ('A`)百物語、のようです 幻の馬。

314名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 20:04:13 ID:alE8X3hE0


――夏といえば怖い話だ。


そう言い出したのは誰だっただろうか。

畳のにおいのする和室のなかで、闇が揺らぐ。
二間先の蝋燭の明かりは、ぼんやりとしたかすかな光しか届けてくれない。
その闇の中に、何人かの人影がある。


百物語。


夏になるとよくその名前を聞く怪談会。
定番なのは、部屋に集まり怪談を九十九話語るというもの。
百話語ると恐ろしいモノが出てくるらしいが、大体はそこまで話す前に終了するのがほとんどだ。


315名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 20:05:41 ID:alE8X3hE0


('A`)「今、何話目だっけ?」


俺たちは今、ミルナの爺さんの家を借りて、その百物語を本格的にやっている。

新月の夜の、暗い和室。
三間続きの和室の、一番奥に当たる部屋には火鉢に並べられた蝋燭が百本。
相手の顔もわからない闇の中で、俺たちは怪談を語り続けている。


( ゚д゚ )「……しまったな。失念していた」

(    )「ええと、どうだったかな。ブーンはわかる?」

(    )「おー? 僕は電話かけに行ってたから、わかんないお」

(    )「えー。つかえないんだからなー」


呟いた言葉に、幾つもの声が返ってくる。
正面に座るミルナと、個性丸出しなブーンの声だけははっきりとわかるが、それ以外は誰がいるのかもわからない。

316名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 20:07:25 ID:alE8X3hE0

('A`)「……」


すぐ近くにいて、こうして話もしている。
なのに、顔が見えないだけで、俺はそこにいるのが親しい相手なのかすらわからない。
百物語がはじまってかなりの時間が経つのに、俺は未だにこの暗闇に慣れていなかった。


ξ   )ξ「え? それだとマズくない? 百個、話すのよね」


そんな中、女の声が響いた。
高くも低くもない、普通の声。
大勢の中に紛れてしまえば、俺はきっとその声を見つけることはできないだろう。


(    )「大体でいいと思うお!」

ξ   )ξ「アンタは、ホントいつもおおざっぱね」

川   )「残っている蝋燭で判断すれば、いいんじゃないか?
     自然に消えたものは……まぁ、考えても仕方ないだろう」

(    )「クーは、あったまいいおー」


ブーンと、さっきとは違う女の声が聞こえる。
この凛とした声はクーのものだろう。ブーンが名前を出してなくてもわかる、特徴的な美しい声。
だとすると、もう一人の女の声はツンなのだろう。

317名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 20:08:20 ID:alE8X3hE0


ξ   )ξ「じゃあ、話の数はこれで解決ね」


クーと仲の良い女子。
それでもって、俺やブーンのようなリアルが充実していないやつにも普通に話しかけてくれる貴重な存在。
ぱっと見は少し話しかけにくいが、なんだかんだで気さくな彼女。


( ゚д゚ )「そうだな。異論はない」

(    )「一瞬、どうしようかと思っちゃったよ」

(    )「さっさと次の話しようぜー」


ξ   )ξ「次の話か……」


ツンが、ためらうように口を開く。
そういえば、途中参加のツンの話はまだ聞いていなかったような気がする。


('A`)「お前は、なんかネタはないのか?」

ξ; ⊿ )ξ「んー、話すのは苦手なのよねー」

318名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 20:09:32 ID:alE8X3hE0

試しに聞いてみると、ツンが言葉を濁らせる。
怖い話を聞くのは好きだけど、話すのは苦手なタイプか。
そういうことなら、これまで話をしていないのも納得だ。


( ゚д゚ )「他にも話してないやつはいる。後にしてもいいが」

ξ; ~ )ξ「これ以上プレッシャーがかかってもヤだし、話しちゃうわ」


津出 ツン。
俺たちと同じ大学に通う、日本生まれの日本育ちの日本人。
気さくだし、性格だってそんなに悪くない。
そんなツンが一見、話しかけにくい理由。


ξ ⊿ )ξ「怖くなくても、つまんないって言わないでよね」


目の端に明るい色がよぎる。
蝋燭のかすかな光に浮かび上がるのは、金の髪。
冗談のように白い肌と、色素の薄い瞳は、テレビの向こう側でしか見たことのない色だ。


――津出 ツンは、金の髪と青い瞳をしている。

319名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 20:11:01 ID:alE8X3hE0

染めたものとは違う、生まれつきのその色。
それは、初対面の人間を一瞬だけ、戸惑わせる。


ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ、話すわよ」


明かりの加減で、ツンの顔がはっきりと見える。
いつもはくるくるよく変わる表情は、雰囲気に飲まれてかあまり感情が見えない。
暗い和室に佇む、金の髪の少女。
テレビや映画でも見ているような、現実感のない光景だった。


ξ゚⊿゚)ξ「これは、あたしのおばあちゃんから聞いた話なんだけどね……」


父方と母方、そのどちらにも異国の血が入っている、少女が語る。
――普段、見慣れたその顔は、不思議と美しく見えた。

320名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 20:12:12 ID:alE8X3hE0




              ('A`)百物語、のようです

                                           
                   幻の馬。


                      .,、
                     (i,)
                      |_|





.

321名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 20:13:59 ID:alE8X3hE0
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----------------------------
----------------------
--------------


これはおばあちゃんが小さい頃に、聞いた話なんだけど。

おばあちゃんのそのまたおじいちゃんの、おじいちゃんの……ええと、ご先祖様。
そのご先祖様……えっと、おじいちゃんでいいか。
そのおじいちゃんがね、


(*゚∀゚)


(*゚∀゚)「あ!」


まだ子どもの頃にね。キレイな馬を見たっていうの。


.

322名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 20:16:12 ID:alE8X3hE0

  _
( ゚∀゚)「どうした?」

(*゚∀゚)「兄ちゃん、見てアレ!」

  _
( ゚∀゚)「……すげぇなぁ」


おじいちゃんだけじゃないわ。
おじいちゃんのお兄さんも、おじいちゃんの村の人たちみんなも見たんだって。


(*゚∀゚)「なーなー、あれ乗っていい? 乗っていい?」
  _
(; ゚∀゚)「お前一人じゃ、乗れねぇじゃねぇか」

(*゚ o゚)「兄ちゃんが手伝ってくれれば行けるし」
  _
( ゚∀゚)「んじゃ、まずは兄ちゃんが乗ってやろう」

(*゚ 3゚)「兄ちゃんばっか、ずりぃー」

323名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 20:20:28 ID:alE8X3hE0

まだ若い、芦毛の馬。
見るからに手触りが良さそうな、輝く毛並み。金色に輝くたてがみはクシを入れたばかりのよう。
村にいるどの馬よりも。それどころか、村にいる人たちがこれまで見たどの馬よりも、その馬はキレイだった。

そんな馬が、おじいちゃんたちの前に現れたの。

美しくて立派な馬が一頭だけ。
しっかりと手入れがされているのに、どこにも飼い主らしい人はいない。
買おうと思ったら、いくら金があっても足りない。それくらい立派な馬だったんだって。


゙゙(; ゚━゚)「ここか!」

(*゚∀゚)「おっちゃん!」


あまりにも立派な馬だから、こんな馬が野生のはずがない。どこかから逃げてきたんじゃないか。
よほどの金持ちか偉い人の馬に違いない、って。
それほど大きくない村はすぐに、大騒ぎになったんだって。


£°ゞ°)「どうしますか?」

("・」・")「そのままには、しとけんだろうなぁ」

゙゙( ゚━゚)「じゃあ、預かるか?」

("-」-")「……それしかないだろうなぁ」

324名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 20:21:13 ID:alE8X3hE0

大人たちが集まって話し合って、結局、持ち主が見つかるまでは村で面倒をみようってことになったの。
村はずれに住んでいるおじさんがたくさん馬を飼っていたから、馬はそこで預かることになったわ。


£°ゞ°)「今日からキミは、しばらくウチの子ですよ」

(*゚∀゚)「いいないいなー」


その馬はとてもかしこい馬だったわ。
おじさんが持ってきた馬具をつけると、馬はおどろくほど素直に従ったわ。
暴れるんじゃないかって、おじさんは心配してたみたいだけど、そんな心配は全然なかった。


£°ゞ°)「キミの家じゃ馬の面倒は見れないでしょう?」

(*゚ぺ)「でもさー、でもー」

£°ゞ°)「しばらくは家にいるから、遊びに来てあげてください」

325名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 20:23:27 ID:alE8X3hE0

おじいちゃんは、その馬を一目見たときからものすごく気に入っていたの。
あの馬はすごかった。死ぬまでそれが、おじいちゃんの口癖だったそうよ。
だから、どうしても自分の家で預かりたかったんだけど、そればっかりはどうにもならなかったみたい。


£°ゞ°)「ほーら、良い子だ。おいで」

(*゚∀゚)「おっちゃん、おっちゃん。こいつに乗せてよ」

£°ゞ°)「ダメです」
  _
(; ゚∀゚)「弟のヤツさっきから、ずっとこうなんだ。ちょっとくらい乗せてやってくれよ」

£-ゞ-)「大事な預かりものだからダメです。ウチの子ならいいけど、」

(*゚∀゚)「そいつらじゃヤダ!」


その馬を気に入っていたのは、おじいちゃんだけじゃなくてお兄さんもだったの。
だから、おじいちゃんはお兄さんと二人であの馬に乗せてください、って何度も頼んだの。
だけど、その馬にだけはどうしても乗せてもらえなかったわ。

……大切な預かりものだしね。
近所の子どもを乗せて遊ばせるなんて、おじさんもできなかったのね。

326名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 20:25:15 ID:alE8X3hE0
-----------------------------------


(*゚∀゚)「おっちゃーん、あの馬まだいるー?」

£°ゞ°)「おや、こんにちは」
  _
( ゚∀゚)「こんにちはー」


おじいちゃんたちはそれでもあきらめずに、おじさんのところに通ったの。
おじさんも、二人が馬を見るぶんには怒らなかった。

おじいちゃんたちが気に入っていたその馬は、とても賢くておじさんの言うこともよく聞くいい子だった。
暴れないし、他の馬ともケンカもしない。環境の変化にとまどう様子もなかったみたい。
おじいちゃんたちが見に行くと、いつも近くによってきて懐いてくれたんだって。

  _
( ゚∀゚)「あの馬は元気?」

£;-ゞ-)「それが……」

(;゚∀゚)「連れてかれちゃったの!?」

£;°ゞ°)「いえ、そうではなくてですね……」


だけどね、とても困ったことがあったの。

327名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 20:27:09 ID:alE8X3hE0

その子はね、どんなにおじさんが勧めてもエサだけは食べなかったの。
もちろんおじさんもいつも見ているわけじゃないけど、それでも飼い葉が減っている様子はなかった。
甘いものをあげてみても、外に出してみても草を食べないの。
無理やり食べさせても吐いてしまうって、おじさんは困っていたみたい。

  _
(; ゚∀゚)「エサ食べないなんて、大丈夫なのか?」

£°ゞ°)「落ち着いているように見えても、やっぱり環境の変化には慣れないんでしょうねぇ。
       調子を崩す前になんとか食べてもらいたいのですが……」

(;゚ぺ)「なんとかしてよ、おっちゃん!」

£;°ゞ°)「ええ、わかっていますよ」


それでも、その馬はエサを食べなかったわ。
水は飲むんだけど、おじさんが与えたエサだけはどうしても食べないの。エサのあげ方を変えてもダメだった。
みんな心配していたんだけど、その馬は弱る様子もなく元気だったんだって。

だから結局、おじさんが見ていない間に、草やほかの馬のエサを食べてるんじゃないかってことになったの。
まだ心配だけど、そういうことなら安心だ。って、みんなほっとしたわ。

328名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 20:29:49 ID:alE8X3hE0

困ったことは、他にもあったわ。


馬の持ち主がなかなか見つからなかったの。

あの馬は手入れしたばかりだったみたいにキレイだった。
ちゃんと人が世話をしている形跡はあったし、おじさんのいうこともちゃんと聞く賢い子だった。
捨てられたようにはとても思えない、とても立派な馬。

だから、おじさんや村の人達は、すぐに持ち主が見つかるだろうって思っていたの。
それなのに、持ち主は数日たっても現れなかった。


(*゚∀゚)「お前、ウチにこないか?」
  _
( ゚∀゚)「ダメだって。親父も言ってただろ」

(*-∀-)「ちぇー」


£°ゞ°)「キミたちの家が、馬を飼えればよかったんですけどねぇ」


なかなかエサを食べない馬に、見つからない飼い主。
売るわけにもいかないし、下手な扱いもできない。

おじいちゃんたちは馬がいることに喜んでいたけど、おじさんはとても困っていたみたい。

329名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 20:31:59 ID:alE8X3hE0

-----------------------------------


そんな日々がしばらく続いた、ある日の晩。
――事件は起きたの。


£°ゞ°)「……っ」


( `v´)「大人しくしといたほうが、身のためだぜ」


まぁ、簡単に言っちゃうと……、
おじさんの家にね、強盗が現れたのよ。


.

330名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 20:33:25 ID:alE8X3hE0

おじさんの家に押しかけてきたのは、二人組の男だったわ。
彼らは武器をちらつかせ、おじさんが止めるより早く襲いかかってきたの。


( `v´)「そっちはどうだ?」

(●冊●)「婆さんとおばちゃんが一人ずつだ」

£;°ゞ°)「二人はっ!」

( `v´)「殺しちゃあいねぇだろうな」

(●冊●)「とりあえずは」


( `v´)「……だ、そうだ。どうすりゃぁいいかは、わかるだろ?」


それで、どうなったか、って?
ああ、安心して。
おじさんたちは、ちゃんと無事だったわ。

331名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 20:35:23 ID:alE8X3hE0


……そんなの、ホラーじゃない?


ドクオ。アンタねぇ、人の話をいちいち邪魔するのやめたほうがいいわよ。
感想とかならいいけど、怖いか怖くないかなんて人によって違うじゃない。

今度やったら、無視してやるから覚えときなさいよ。

大体、なんで百物語で、普通の犯罪の話なんてしなきゃいけないのよ。
これおばあちゃんに聞いたのよ。
孫に強盗殺人事件を語るおばあちゃんなんてイヤすぎるでしょ。


……

……ごめん。

あたしも、ちょっと言い過ぎたかも。

続きよね。ええと、……

332名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 20:37:25 ID:alE8X3hE0


£;°ゞ°)「……」


おじさんたちは命だけは無事だったわ。
だけど、抵抗できないように縛り上げられて、家中を荒らされたの。


( `v´)「随分と貯めこんでるようだが、これだけとは言わねぇよな。
      こっちは人質が一人減ろうが、別にかまわないんだぜ?」

£;°ゞ°)「うっ」


男たちは暴れて、かたっぱしから金目の物を集めたわ。
それだけじゃ飽きたらずに、もっとよこせと言い出したの。
おじさんがどんなに抵抗してもムダだった。

333名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 20:39:44 ID:alE8X3hE0

£; ゞ )「……馬を、預かっています」

(#`v´)「馬だぁ?!」

£; ゞ )「……この村で今、一番価値があるのはあの馬です」


それでおじさんは、仕方なくあの馬のことを話したの。
あの馬ならまず間違いなく高値がつく。おじさんはそれを知っていたから、話すしかなかった。
……自分と家族の命がかかってるからね。あたしも、おじさんが悪いとは思わないわ。


£; ゞ )「……ここ、です」

( `v´)「こいつか」

(●冊●)「間違いないな」

(*`v´)「シケた村かと思ったら、とんだ儲けものじゃねぇか」


馬なんてと、はじめはバカにしていた強盗たちも、その馬を見るなり目の色を変えたわ。
堂々としたその姿は、他のどの馬と比べても圧倒的に美しかった。
この馬なら間違いなく金になると、強盗たちは大喜びだった。

334名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 20:41:44 ID:alE8X3hE0


(*`v´)「こいつを売りゃぁ、豪遊間違いなし、っときた」

(●冊●)「久しぶりの儲けだ」

(*`v´)「こんな場所さっさとおさらばして、一杯やろうぜ」


£;°ゞ°)「……っ」


強盗たちは馬を奪うと、盗んだものをありったけその馬に積んだわ。
そして、おじさんたちを縛り上げたまま残して、二人で馬に乗ったの。


£;°ゞ°)「――あぁ」

(*`v´)「じゃあな、おっさん!
      運がよけりゃぁ、助けられるだろうさ!」



――そして、走りだそうとしたその時。

335名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 20:43:10 ID:alE8X3hE0





馬が、暴れだしたの。





.

336名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 20:45:55 ID:alE8X3hE0



それはすごい、暴れ様だった。



(●冊●;)「な」

(#`v´)「何やってんだ、このクズ!」


賢くて大人しかったのが嘘みたいに、馬は興奮していたわ。
体を何度も大きく上下に振って、激しく声を上げた。
目は血走り、口からヨダレをぼたぼたと垂らして、それはすさまじい形相だった。

自分に乗っているのが、悪党だって知っているみたいだった……後におじさんは、そう言ったそうよ。

337名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 20:47:23 ID:alE8X3hE0

(#`v´)「おい、なんとかしろ!」

(●冊●;)「くっ」

£;°ゞ°)「ひっ」


馬の暴れ様は凄まじくて、積んだ荷物がかたっぱしから落ちるくらいだった。
だけど、不思議なことに強盗たちは馬から落ちはしなかったわ。
よほど必死でしがみついたのか、それとも馬が惜しかったのか……それは誰にもわからない。


(#゜v゜)「――ぐぅぅっ!!」


そして、馬はひときわ大きく声を上げると、強盗を乗せたまま走りだしたの――。


£°ゞ°)「……そんな、」


……あの馬も、強盗たちも夜の闇に消え。
そして、そこには縛り上げられたままのおじさんだけが残ったわ。

338名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 20:49:47 ID:alE8X3hE0
-----------------------------------


おじさんたち家族が助けられたのは、夜が明けるよりも早かった。
なんだったかな……。理由は忘れちゃったんだけど、おじさんの家に用があった人がいたの。


゙゙( ゚━゚) 

从゚×ナ;从


で、その人が縛られたまま床に転がされている奥さんを見つけてびっくり仰天。
別の部屋にいたお婆ちゃんも救出されて。それから、馬小屋にいたおじさんも助けられたの。


゙゙(;゚━゚)

从゚×ナ;从


£;-ゞ-)

339名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 20:51:29 ID:alE8X3hE0

村はもう大騒ぎ。
大きな事件なんて、もう何年も起こっていない村だったから。それはもうすごかったらしいわ。
盗まれたのが、あの馬というのも騒ぎを大きくする一つの原因だったみたい。


(;"・」・")「それで、被害は? 馬以外はどうなってる」

£;°ゞ°)「私たちは、そう大きな怪我もなく。
        あとは、家の中が荒らされたのと、家具が壊されて……」

゙゙(;゚━゚)「無事でほんとうによかった」


おじさんたち家族は小さな怪我くらいで、みんな無事だった。
盗られたものも、馬が暴れた時に落ちたおかげでほとんどなかった。
荒らされた家だけはどうしようもなかったけど、それでもおじさんたちは喜んでいたわ。

340名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 20:53:55 ID:alE8X3hE0


だって強盗よ。
さっきのドクオの話じゃないけど、殺されたっておかしくはなかったんだもの。
それが、命が助かっただけじゃなくて、盗まれたものも返ってきた。これって奇蹟みたいなものじゃない?


£°ゞ°)「ああ、これもあの馬のおかげです」

("・」・")「被害がこの程度ですんで、本当によかった。
     何より、お前たちが無事なのが嬉しい」

゙゙( ゚━゚) 「あの馬は、神の使いにちげぇねぇ」


村の人たちも、これは奇蹟に違いないって思ったの。
自分たちがこうして助かったのは、日頃の信仰のおかげだろう。
村人たちのおこないを見た神が、村を守るためにあの馬をつかわしたのだろう、ってね。

341名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 20:55:51 ID:alE8X3hE0


村人たちはその後、恩人である馬の行き先を探したけれど……馬は、見つからなかった。
それらしい馬が売られたって話もなかったし、見た人もいなかったわ。


£°ゞ°)「ああ、あの馬は一体……」

从゚×ナ;从「……無事やと、ええんやけど」


せめて、持ち主にお礼を言おう。
そして、できれば代わりの馬を贈ろう、って探したけど。
あの馬の持ち主は見つからなかった。それどころか、それらしい噂さえもなかったの。
不思議な事に、おじさんたちを襲った強盗のその後の行方もわからなかったわ。

342名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 20:57:37 ID:alE8X3hE0





そう。――あの美しい馬は幻のように現れて。そして、姿を消してしまったの。






.

343名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 20:59:15 ID:alE8X3hE0
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----------------------
--------------



暗闇の中に静寂が落ちる。
聞こえるのは、じぃじぃという虫の声だけ。
いつの間にか、ツンの話は止まっていた。


ξ ⊿ )ξ「……」


何か言おうと口を開いて、そのまま息を飲み込む。
飲み込んだ空気は熱く、体温をあげていく。
拭ききれなかった汗が、首を流れていく。


('A`)「……」


体にまとわりつく、湿った生ぬるい空気。
それが、どうしようもなく気持ち悪い。

345名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 21:01:10 ID:alE8X3hE0


……ツンの話で出た村はどうなのだろうかと、ふと思った。

あの美しい馬のいた村も、夏はこんな風に暑いのだろうか。
そこまで考えて、たぶん違うんだろうなと思った。

ツンの祖先が住むところは、海の向こうの遠い国なのだろう。
ツンと同じ金の髪の人々が暮らすその国は、きっと気候からして違う。
たとえ暑いとしても、この重く体にまとわりつくような暑苦しさじゃないのだろう。


('A`)(もっと、……涼しいんだろうな)


こことは全く違う、どこかの遠い国。
そんな国の人々が美しいと言うその馬は、一体どんな馬だったのだろう。
そして、どこへと消えてしまったのだろう。

謎めいた美しい生物。
その行き着く先が、野垂れ死になんてしょうもないものでなければいい、と思った。
幻の馬は、幻のまま。それがきっと、一番美しいのだろう。

346名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 21:03:26 ID:alE8X3hE0

川   )「不思議な話だな」

(    )「いいはなしだおー」

(    )「神がどうたらってのは、うさんくさいけどな」


……気づけば、話が盛り上がっていた。
さっきまではうるさいくらいに聞こえていた虫の声も、俺達の声にかき消されている。


(    )「僕は単に迷い馬だった説を推したいけど、無粋かな」

( ゚д゚ )「動物報恩譚……か。神仏援助のパターンのようでもあるが」

(;'A`)「頼むからミルナは、俺にもわかる言葉で喋ってくれ」


とりあえず話に混ざろう。
そう思って、一人真顔で難しそうな話をしているミルナに声をかける。
ミルナは俺の声に、パチパチとまばたきをすると、「ふむ」と口元に手を当てた。
周りはみんな適当に話しているのに、いちいち固っ苦しいやつである。

347名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 21:05:16 ID:alE8X3hE0

( ゚д゚ )「動物報恩譚は、ツルの恩返しとか、ぶんぶく茶釜のようなやつだ。
     神仏援助は……説話などによくある神様や仏様が助けてくれましたというやつか……?
     すまない。俺も専門ではないので、そう聞かれると上手く答えられない」

(;'A`)「お、おう……」


オマケに回答まで堅苦しいときた。
正直、そこまで詳しい説明を求めてなかったので、俺としても反応に困る。
何を言ってるか正直わからない所があったが、下手に聞いてまた説明されたら困る。
俺はちょっとした好奇心を満たすことよりも、いさぎよく黙る方を選択した。


川   )「馬の恩返しか、日頃の信仰のたまものというやつか」

(    )「どっちかというと、因果応報っぽい気がする……」

(    )「怪奇・消えた馬のミステリー、だと思うんだからな!」

(    )「きっと、神様の奇蹟だおー。ツンもそう言ってたし」


困る俺とは対照的に、クーたちはなにやら盛り上がっている。
同じ話を聞いていて、こうも意見が別れるもんなのか。
そう思うと楽しくて、俺もつい真剣に話を聞いていた。

348名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 21:07:08 ID:alE8X3hE0

ξ ⊿ )ξ「……奇蹟か」


盛り上がる俺たちの中で、一人黙っていたツンがぽつりと声を上げた。
奇蹟。そう話したのはツンのはずなのに、その言葉はどこか納得していないように聞こえた。


ξ ⊿ )ξ「あたしがこの話をしようって思ったのは、神様の奇蹟だからじゃないの」

川   )「……と、言うと?」


クーの問いかけに、少しの沈黙があった。
「えっと」とか、「あ」とかためらうような声が上がって、それからようやく決心したようにツンは声を話し始めた。


ξ゚⊿゚)ξ「ホントはね。この話、続きがあるの。
      こっちの話はあんまり好きじゃないから、話したくなかったんだけど……」


海の向こうの、幻の馬。
その話の続きが、ツンの口から語られようとしていた――。

349名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 21:09:11 ID:alE8X3hE0
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--------------


この話はおばあちゃんのご先祖様……おじいちゃんの話だって言ったでしょ。
おじいちゃんとお兄さんが、村に現れた馬に乗りたがっていたって話は、さっきしたわよね。


(*゚∀゚)「なー、乗せてくれよー」

£-ゞ-)「だめです」

(*゚∀゚)「けちー」

£;°ゞ°)「だめです」
  _
( ゚∀゚)「こっそり乗せるってのは、ダメなのか?」


どんなに頼んでもおじさんは、あの馬にだけは乗せてくれなかった。
それでもね。どうしても、おじいちゃんはあのキレイな馬に乗りたくてたまらなかったの。

350名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 21:11:20 ID:alE8X3hE0

  _
( ゚∀゚)「お前、今日も行くの?」

(*゚∀゚)「もっとお願いすれば、乗せてくれるかもしれないし!」
  _
( ゚∀゚)「そうかぁ?
     おじさんたちに頼んでもムダなんじゃねぇか?」

(#゚∀゚)「そんなことねーもん!」
  _
( -∀-)「あー、残念だなぁ。
      お前がそうやってノロノロしてるうちに、持ち主が来ちゃうんだろうなぁ」


だから、おじいちゃんは考えたらしいの。


(;゚∀゚)「え?」
  _
( ゚∀゚)「持ち主が来ちゃったら、もうあの馬を見ることもできなくなっちまうぞ」

(;゚~゚)「……どうしたら、いいんだ?」

351名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 21:13:28 ID:alE8X3hE0

  _
( ゚∀゚)「なに、簡単なこった」


このまま、おじさんに頼んでもあの馬に乗ることはできない。
だったら、別の方法をとるしかない。
子どもだったおじいちゃんたちが思いつく方法なんて、そう大したことないわ。


  _
( ゚∀゚)「オレたちで、こっそり乗るんだ。あの馬に」


――おじいちゃんたちはね、自分たちだけであの馬に乗ることにしたの。
おじさんの家にこっそりと忍び込んでね。

352名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 21:15:14 ID:alE8X3hE0

……まぁ、普通に考えるとダメよね。

でも、幸か不幸か、おじいちゃんたちを止める人は誰もいなかった。
おじいちゃんは思い込んだら一直線なところもあったし、お兄さんも止めなかった。
本当はお兄さんのほうが馬に乗りたかったんじゃないかって、おばあちゃんは話してたけど、私もそう思うわ。


(*゚∀゚)「父ちゃんと、母ちゃんは……」
  _
( ゚∀゚)「寝てるぞ」

(;゚∀゚)「に、兄ちゃん!」
  _
( ゚∀゚)「じゃ、行くか」

(*゚∀゚)「うん!」


その日の夜、みんなが寝静まった時間。
おじいちゃんは、お兄さんといっしょに家を出たの。
家族にバレないように、こっそりとね。


(*゚∀゚)「うわー、楽しみ」
  _
( ゚∀゚)「デカイ声出すなよ。バレたら大変だからな」

353名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 21:17:15 ID:alE8X3hE0

子どもだけで夜の外出なんて、見つかったら怒られるどころじゃすまないわ。
だけど、おじいちゃんたちはそんなのへっちゃらだった。
それどころか、夜の冒険だーなんて気分で出かけたんだって。

  _
(* ゚∀゚)「ドキドキするな」

(*゚∀゚)「兄ちゃんも? オレもオレも!」


事件なんてもう何年も起こったことのないような平和なところだったし、危険な獣は人里には出てこない。
だから、おじいちゃんたちも特に心配することなく夜道を歩いていたわ。


外は静かで、月がとてもキレイだった。
……一体、どんな夜だったのかしらね。おばあちゃんは、この話をするたびにそう言ってた。
あたしもそう思うわ。もし、あたしがその場にいたなら、どんな気持ちになったのかしら。

わくわく、したのかな。
それとも、怖くって何度も後ろを振り返りながら歩いたのかしら。
おじいちゃんはひょっとしたら、お兄さんの手をつなぎながら歩いたのかもしれないわね。

354名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 21:19:29 ID:alE8X3hE0


……話がそれちゃったわね。


おじいちゃんとお兄さんは、あのキレイな馬を目指して歩いたわ。
おじさんの家は、村の外れにあるって言ったでしょ。
だから、家は少し遠かった。



強盗?

……

……そうね。二人は何事もなかったわ。
それこそ神様のおかげ、ってやつね。

355名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 21:21:55 ID:alE8X3hE0

えっと。とにかく、二人は夜道を歩いていたの。
途中からは民家もなくなり暗い道が続くだけだったから、二人は話しながら歩いていたみたい。


(*゚∀゚)「馬、起きてるかなぁ」
  _
(* ゚∀゚)「起きてなかったら、起こしてやろうぜ」


おじさんの家まであと少しというところだったわ。
大声が、二人の耳に聞こえたの。



    「あぁああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


切羽詰まったような、尋常じゃない声。
聞くだけでぞっとしてしまうような、そんな声だったそうよ。

356名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 21:23:30 ID:alE8X3hE0


(;゚∀゚)「に、にいちゃん!」
  _
(; ゚∀゚)「大丈夫だ! 兄ちゃんがいるから」


その声を聞いた時は、生きた気がしなかった。
おじいちゃんは死ぬまで、その時のことをこう話し続けたそうよ。
だからお前も、不用意に夜道を歩くんじゃないぞ、って。

……おばあちゃんも、何度もそう言い聞かされて育ったんだって。
だから、おばあちゃんは今でも夜道が少しだけ怖いそうよ。


あたしも、その場に居合わせたらそうだったかもね。
……まあ、ここで百物語なんてしてるあたしが言うのもなんだけど。

357名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 21:25:16 ID:alE8X3hE0

ぞっとするような声は、一瞬だけでは終わらなかった。
消えるどころか、どんどんひどくなっていくようだった。

はじめは何の声なのか理解できなかったおじいちゃんも、聞くうちにそれが男の悲鳴だって気づいたの。
低い男の声。
そして、それは一人だけの声じゃなかった。


(;゚∀゚)「兄ちゃん!」
  _
(; ゚∀゚)「落ち着け、大丈夫だ!」


男の悲鳴が、少なくとも一人以上。
何かが起こっていることは、間違いなかった。

  _
(; ∀ )「……何なんだよぉ」

(;゚∀゚)「……ぅ」


その声がどこから響いてくるか、おじいちゃんたちははじめわからなかった。
でもそれが、道の先から聞こえることに気づいて、ぞっとしたそうよ。
夜道に何かよくわからないものがいる。

358名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 21:27:09 ID:alE8X3hE0

――そして、それはどんどんと、近づいてくるみたいだった。


    「           れぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

    「    い!        !!!」



そして、おじいちゃんたちは気づいたの。
聞こえるのは男たちの声だけじゃない、って。
闇の向こうから聞こえる声。そこに、聞き慣れた音が混ざっていた。


聞こえるその声は、荒い息遣いと、いななき。
それから、それに紛れて聞こえてくるのは……何かが、走る音。



(*゚∀゚)「あ」



そして、おじいちゃんたちは見たの。

359名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 21:29:10 ID:alE8X3hE0


馬だった。


二人がこれまで見た中で。
いいえ、二人のそれから先の人生を含めても、最も美しい馬。


月の光をそのまま集めたような、黄金のたてがみ。
キラキラと輝く毛並みは、どんな布や毛皮よりもつややかで美しい銀の色。
吸い込まれそうな黒い大きな瞳には、星の光が散っていた……ようだったわ。


    ,ハiヽ..   
  ノ" ,,'' ヽミ
. (。,,/ )  ヽミ~─~⌒ヾミミミミ彡
     ノ             )
    ( 、 ..)___彡(  ,,.ノ
   //( ノ     ノ.ノ (
   //  \Yフ .. 〆 .い
  .(ノ      くノ   //
             くノ

360名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 21:31:23 ID:alE8X3hE0


おじいちゃんは、恐怖を一瞬忘れた。
お兄さんも信じられないって顔で、その現実とは思えないくらい美しい生き物を見たわ。


(* ∀ )「……すごい」


それは、おじいちゃんがどうしても乗りたいと思っていた、あの馬だったわ。

361名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 21:33:18 ID:alE8X3hE0


乗ってみたい。
何が何でも、あの美しい生き物に乗ってみたい。
たとえ、どんなことが起きても。



(* ∀ )「ああ、いいなぁ……」



おじいちゃんは。いいえ、おじいちゃんだけじゃなくて、お兄さんもそう思ったの。
さっき怖いって思ったのが嘘のように、その馬の方へ向かって走ろうとして……、


( `v´)「助けてくれぇぇぇぇぇ! おい、そこのガキッ!」



……聞こえてきた声が、おじいちゃんたちを現実に引き戻したの。

362名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 21:35:20 ID:alE8X3hE0

おじいちゃんたちは気づいていなかったけど、あの馬には人が乗っていたの。
見覚えのない男だった。
それが二人。遠くてはっきりとは見えなかったけど、それがよそ者だってことだけははっきりとわかった。


(●冊●)「ガキだ!」

( `v´)「おい、お前っ。お前らっ!!!」


  _
(; ∀ )「――っ」


得体のしれないよそ者が、あの馬に乗っている。
それもこんな時間に。
事情のわからないおじいちゃんたちにも、それが異常なことだってわかったわ。


(;゚∀゚)「兄ちゃん!」
  _
(; ∀ )「お前は下がってろ!」


馬はこちらに、走ってくる。
それは全力に近いスピードだった。
なのに、その馬はおじいちゃんたちを見てもスピードを落とそうとしないの。
それどころか、かえって足を早めたようだった。

363名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 21:37:11 ID:alE8X3hE0


(;゚∀゚)「馬行っちゃうよ!」
  _
(# ゚∀゚)「いいからっ!!!」


お兄さんはおじいちゃんを掴むと、走りだしたわ。
思いっきり飛んで、それから道の外の草むらに身を投げたの。


(#゚∀゚)「なんだよ、兄ちゃん!」
  _
(# ゚∀゚)「おとなしくしとけ!」


馬がその場を駆け抜けていったのは、ちょうどその時だったわ。
少しもスピードを落とさず。おじいちゃんたちがいた、その場所を走っていったの。
お兄さんが動いていなかったら。
いいえ、あと少しお兄さんの動きが遅かったら。

――おじいちゃんたちは、きっと大怪我か、下手をしたら死んでいたかもしれない。

364名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 21:39:38 ID:alE8X3hE0


(;゚∀゚)「……っ、なんで」


だけどね。
それよりも怖かったのは、馬に乗っている大人がそれを止めようともしなかったこと。

  _
(# ゚∀゚)「アブねぇぞ!!!」


……ううん。それも違うかもしれない。
本当は、馬に乗っている二人組も止めようとしていたのかもしれないわね。
でも、そうはしなかった。できなかったの。


(iii ゙v゙)「俺を助けろっ!」

(●冊●)「止めろ! 止めてくれっ!!」


大声が響いた。
その声は、おじいちゃんたちに言い続けていた。

365名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 21:41:43 ID:alE8X3hE0


「嫌だ」

「しにたくない!」

「たすけてくれ」


聞き取れたのはそれだけ。
あとは、馬の叫ぶような鳴き声と、意味をなさない声でかき消された。


……あっという間の出来事だった。


止めようって思うよりも早く、その馬は駆け抜けていったの。
信じられないくらいの速さだった。
あんなに速い馬は、後にも先にも見たことがなかったって。

366名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 21:43:25 ID:alE8X3hE0



(li ゚∀゚)「……なに?」
  _
(; ∀ )「暴れ馬だ」


それが暴れ馬だったんだって、気づいたのはそのすぐ後だった。
馬に乗っていたのが誰かはわからない。
だけど、ひょっとしたらあの馬の持ち主だったのかもしれない。
雰囲気が雰囲気だったし、何か事故が起こったんじゃないかって、二人は慌てたそうよ。


(;゚∀゚)「おいかけよう!」
  _
(; ゚∀゚)「……ああ」


何がなんだかわからないまま、二人は馬を追いかけることにしたわ。
馬は村ではなくて、森へと続く方向へ道を変えたから、二人は夢中で追いかけたわ。
道はどんどん、村から離れていく。
それにだんだん周りが暗くなっていくようで、二人は怖くなったわ。

  _
(; ゚∀゚)「クソッ。どこに行ったんだ!」

367名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 21:45:44 ID:alE8X3hE0

そして、馬の姿はとうとう見えなくなって。
――遠くで、ものすごい悲鳴が上がって。それっきり何も聞こえなくなった。

  _
(; ゚∀゚)「……っ」

(;゚∀゚)「兄ちゃん……」


おじいちゃんとお兄さんはそれでもなんとか、追いかけたの。
悪いことが起きたのは、間違いなかった。
もしかしたらそれは自分たちが止められなかったせいじゃないか。そう思うと、すごく怖かったんだって。

  _
(; ゚∀゚)「……こっちか?」


おじいちゃんたちは、追いかけて……。
だけど、湖に行き当たった辺りで完全に見失ってしまったの。

368名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 21:48:15 ID:alE8X3hE0


(*゚∀゚)「ここ」
  _
(; ゚∀゚)「湖、だな」


馬の鳴き声も、悲鳴ももう聞こえない。
月があると言っても、夜の暗さでほとんど見えない。
これ以上進むと先は森。


(;゚∀゚)「兄ちゃん」
  _
(; ゚∀゚)「……」


夜の森に入るのがどんなに危険なことかは、おじいちゃんたちもわかっていたわ。
おじさんの家にこっそりと遊びに行くのとは違う。
森には危険な獣もいる。死ぬことだって、あるかもしれない。

おじいちゃんたちはこれ以上、進めなくなって。ふと、そこで異変を感じたの。
……血、らしい匂い。
それが、どこからか漂ってくるの。

この場所で何かが起こった。それだけは、確実だったわ。

370名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 21:50:53 ID:alE8X3hE0


悪いことが起こっている。


::(;゚∀゚)::「……あ、」
  _
( ゚∀゚)「戻るぞ。人を呼ぼう」

::(; ∀ )::「でも、怪我とかしてたら……」
  _
(# ゚∀゚)「俺たちじゃ何もできないだろ。
     それに、二人じゃどこにいるかも探せない」


だけど、二人だけじゃどうにもならないことは、おじいちゃんたちにもわかっていた。
それでもおじいちゃんたちは、辺りをもう少しだけ探したわ。
森へは入らず、湖の周りを二人は歩き回った。

  _
( ゚∀゚)「もう、終わりだ」

(* ∀ )「……うん」


それでも、馬も。馬に乗っていた人の姿も、どこにも見つけられなかった。
どこから血の匂いがしたのかもわからなかった。でも、それでよかったのかもしれないわね。
血にひきつけられた獣に鉢合わせる可能性もあったから。

二人は完全にどうしようもなくなって、村へと戻ることにしたの。

371名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 21:52:41 ID:alE8X3hE0


早く村へと帰って、誰かにこのことを伝えないと。
二人の頭はそのことでいっぱいだった。

だから、二人は慌てて村へと帰って――、

  _
(; ゚∀゚)「大変だ!」

£;°ゞ°)「ああ! 君たちは無事だったんですね」


――村が大変なことになっていたのを、知ったの。

372名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 21:55:28 ID:alE8X3hE0


原因は、強盗が現れたことだったわ。

村はずれにあるおじさんの家が強盗に襲われて、村で預かっていた馬と金品を奪ったの。
盗まれたものは幸い返ってきたけれど、馬だけは帰ってこなかった。
そう。さっき話した強盗騒ぎね。


£;°ゞ°)「……生きた心地がしませんでした」

从゚×ナ;从「大丈夫?」


おじさんたち一家が助けられたあと、村の大人が集まって大騒ぎになったの。
強盗たちは村にも来るんじゃないか。他にも、被害はあるんじゃないかって。
その中で、おじいちゃんたち兄弟がいないことがわかったの。

……子どもが襲われたかもしれない。
おじいちゃんの家族と、村の大人たちはもう心配どころの騒ぎじゃなかったわ。


(;゚∀゚)「え?」
  _
(; ゚∀゚)「オレたちは平気だけど」


大人たちの様子が変なことに、おじいちゃんたちもようやく気づいたの。
夜中に外を走っていたあの美しい馬。そして、そこに乗っていたよそ者。
賢かったあの馬が暴れていたのは何故なのか……。

373名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 21:56:27 ID:alE8X3hE0

自分たちが見かけたあの男たちが、強盗だったんじゃないか。
そう、答えが出るのはすぐだった。

゙゙(; ゚━゚)「怪しい男の二人連れを見なかったか?」


(;゚∀゚)「……兄ちゃん」


大人たちに聞かれて、おじいちゃんは怖くなったの。
話の中でしか聞いたことのない強盗がいたこと。その強盗に自分たちが会っていたこと。

一歩、間違ったら。自分たちは、殺されていた。
そのことが今更わかって、おじいちゃんの体はガクガク震えたわ。
だけど、おじいちゃんには、それよりももっと怖いことがあった。


゙゙(; ゚━゚)「上の坊主はどうだ?」
  _
(; ゚∀゚)「……」


その怖いはずの強盗は……もっと別のものを怖がっていた。

374名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 21:58:33 ID:alE8X3hE0


助けてくれ、と。
しにたくない、という声を聞いた。


あれから強盗たちの姿は消えてしまった。
最後に聞いた、悲鳴が耳を離れない。


  _
(; ゚∀゚)「知らない」

(;゚∀゚)「……」
  _
(; ∀ )「オレたちは何も見なかった」



……大怪我をしたか、獣に襲われたか。
ひょっとしたら、湖に落ちたのかもしれない。
そのどれだとしても。無事だとは思えなかった。


美しい馬。
狂ったように暴れまわった、あの姿。
あのとき嗅いだ、血の匂いがまだ残っている気がした。

375名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 22:00:25 ID:alE8X3hE0

£;-ゞ-)「よ、かった……」

从゚×ナ;从「てっきり、ウチに来たもんとばかり……」

£;°ゞ°)「こんなことになるのなら、君たちをあの馬に乗せてあげればよかった」


おじいちゃんたちは、その後ものすごく怒られた。
だけど、強盗にもあわず無事だったことには、泣いて喜ばれたって聞いたわ。
その優しい言葉と、それから自分が本当に危なかったんだという恐怖で、おじいちゃんたちは泣いて謝ったんだって。

  _
( ;∀;)「……ごめん。ごめんなさい」

(;゚∀゚)「う」


(*;∀;)「うわぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

376名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 22:02:45 ID:alE8X3hE0
-----------------------------------


それから、おじいちゃんたちは少しだけいい子になったみたい。
他から見ると全然いい子じゃなかったみたいなんだけどね。
おばあちゃんが聞いた話では、なんというか……、「とんでもない、じいさんだった」みたい。


それからのことを少し話すわね。


おじいちゃんたちは、あの夜見かけた馬のことだけは村の誰にも話さなかった。
というよりも、話せなかったのね。
強盗の姿は見ていないって言っちゃったし、村人たちはあの馬は神様の使いなんだって信じきっている。
それに、話さなかったことを怒られるのも怖かったみたい。

だけど、おじいちゃんたちが馬のことを話したくなかったのはね。
単純に、あの馬が怖かったからなんだって。

  _
( ゚∀゚)「あいつ、なんだったんだろう」

(*゚∀゚)「兄ちゃんでもわかんないの?」
  _
(; ゚∀゚)「バっ。オレみたいな大人でもわかんないことはあるっつーの」


おじいちゃんとお兄さんは、その後、こっそりと湖に見に行ったの。
ひょっとしたら、何かわかるんじゃないかって。

377名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 22:04:09 ID:alE8X3hE0

でもね、あの馬の痕跡はどこにもなかった。
強盗の姿も、血の跡さえも見つけられなかった。
それこそ幻のように……消えてしまったの。


(*゚∀゚)「なぁ、兄ちゃん」
  _
( ゚∀゚)「どうした?」

(*゚∀゚)「オレたちあの夜、もしもさ」


おじいちゃんは、それから何度も考えたんだって。
強盗たちに出会った、あの夜。
あのキレイな馬に乗ったのが自分たちだったら……、どうなっていただろう、って。
もしからしたら悲鳴を残して消えていたのは、自分たちのほうなんじゃないかって。

……もしもの話だから、正解なんてないんだけどね。

  _
( ゚∀゚)「そんなこと言うな。オレたちは何も見てないんだから」

(*゚∀゚)「……うん」
  _
( ゚∀゚)「でもさ。一つだけ、約束してくれないか?」

378名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 22:06:14 ID:alE8X3hE0


そうだわ、話の最後にもう一つだけ加えておくわね。


家には変わった家訓があるの。
これまでの話と関係があるから言うんだけど、その家訓って言うのは――


  _
( ゚∀゚)「もう一度あの馬に会っても、ぜったいに乗るなよ」


――どんなに立派だったとしても、飼い主のわからない馬は絶対に乗るな、よ。
神様のお使いならいいけど、そうじゃなかったら怖いものね。

379名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 22:08:21 ID:alE8X3hE0
-----------------------------------
----------------------------
----------------------
--------------


ツンの声が止まった。
しばらく待ってみたが、続きはないみたいだ。


ξ ⊿ )ξ「……」


どこかでじぃじぃと虫が鳴いている。
ミミズだったか、オケラだったか。たぶん、そんな感じの虫の声。
さわがしいその声は、聞いているだけで耳が痛くなる。


('A`)「お前んち、家訓なんてあるのか?」


思ったことを、そのまま口にしてみる。
内容に意味はない。ただ、虫の声を聞いていたくなかっただけ。
反応がなかったり怒られるようなら、別のことを聞くつもりだった。

380名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 22:10:15 ID:alE8X3hE0

ξ ⊿ )ξ「まぁ、ね」

川   )「言われてみれば珍しい気もするな」

(    )「おっおっ、僕んちはないおー」


一度、口を開いてしまえば、どんどん会話が盛り上がっていく。
結局のところ、みんな話す機会を探していたのだ。

それはそうだろう。こんな顔も見えない和室でそろって黙っているのは辛い。
なんていったって、俺達は怖い話をしているのだから……。
虫の声は止まらない。だけど、遠くなった気がするのは、会話が盛り上がっているからだろう。


('A`)「……ふぅ」


ブーンたちの会話を聞きながら、ツンの話していた村では、こんな虫は鳴かないんだろうなと考えてみる。
美しい灰色の馬のいるところ。
霧のかかる深い森の奥に、湖が広がっている。そんな光景が、頭に浮かんだ。
……うん、悪くない。人生一度くらいはそんな国にいってみたいもんだ。

381名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 22:12:16 ID:alE8X3hE0

('A`)「そういやぁ、さっきの話だけど」

ξ ⊿ )ξ「ストップ」

('A`;)「へ?」


金の髪と青い目の兄弟は、その後どうしたのだろうか?
そう思って、口にした言葉はツン本人によってあっさりと止められた。
なんでだ? さっきは普通に話してたのに、どうしてここで止められたのかわからない。


ξ ⊿ )ξ「その声、ドクオでしょ。これ以上は聞かないわよ。
      どうせまた人の話に文句言うんでしょ。知ってるんだからね」

('A`)「へ?」

ξ ⊿ )ξ「何だその話とか、ウサンクサイとか言う気でしょ。
      その手には乗らないんだから」


返ってきた言葉は理不尽の塊だった。
ツンの言葉に心当たりがないわけではない。ホラーじゃないとか、ついさっきも言った記憶があるし。
だからといって、この扱いは許されるものだろうか。いや、そうではないと言いたい。

382名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 22:14:28 ID:alE8X3hE0

(;'A`)「あのなぁ……」

川   )「ツンも、そう言ってやるな。怪談の後のやりとりは怖い話の定番だろ」

ξ; ⊿ )ξ「い、イヤよ!」

(    )「妙にゴネるな」

ξ; ⊿ )ξ「ここで話なんかして、怖くなっちゃったら……蝋燭消しに行けないじゃない!」


ツンの叫ぶような言葉に、部屋の空気が一気に変わった。
一言で言うのならば、こいつをどうやってからかってやろう。
ツンは必死なのか、自分が怖いのがイヤなんて弱点をさらけ出したのに気づいていない。


(    )「へぇぇぇぇ。こわいんだ。へぇぇぇぇ?」

ξ; ⊿ )ξ「な、なによ!」

川   ) 「ほう。ツンは怖い話は平気だと思ってたが」

ξ; ⊿ )ξ「へいき、……よ」

(    )「これまでわりと乗り気だったもんね」

川   ) 「しかし、一人になるのは怖いのか。そうかそうか」

383名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 22:16:26 ID:alE8X3hE0

さっそく3人くらいが、ツンをからかっている。
そういえば、最初の方も聞くのは平気だけど、話すのは苦手って感じのことを言ってた気がする。
気が強いように見えるが、自分が怖い目にあうのはダメだったのか。人間意外な弱点があるもんである。
怖いなら怖いで、素直に言えばいいのに。


ξ# ⊿ )ξ「行けるわよ! だって、怖くないもの!
       一人だって……一人だって平気だもん!」

('A`)「ついて行ってやろうか?」

ξ# ⊿ )ξ「見てなさいよ!」

(;'A`)「おい……いいのか?」


助け舟でも出してやろうと言った言葉は、あっさりと拒否されてしまった。
暗闇の中で、ツンの立ち上がる音がする。
そのままドスドスと足音を立てながら、ツンの姿が消える。
……大丈夫だろうな、あれ?

384名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 22:18:26 ID:alE8X3hE0

(;    )「行っちゃったお……」

川   )「あの様子だと、しばらくかかりそうだな」

(    )「あれ絶対に、びびってたよな? な?」


なんだかんだで盛り上がっていた部屋も、すぐに静かになる。
静かになってしまえば、あとは苦しくなるような闇。
じぃじぃ。じぃじぃ。じぃじぃ。
神経にさわる音は耳につき、湿った熱い空気は体を焼いていく。

熱い。
体の中から水という水が汗で流れて、からからに枯れていくみたいだ。


('A`)(……水)


飲み物を求めて、手を伸ばす。
これまで飲んでいたぬるいジュースの入ったペットボトルがあるが、全力で避ける。
こいつを飲んだところで、のどの渇きが増えるだけだ。せめて、冷たいものを……

暗闇の中を手探りで動かし、冷たい何かに触れる。
この冷たさは、きっと飲み物だ。俺は手を伸ばしてそれをつかむ。

385名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 22:21:21 ID:alE8X3hE0

川   )「そういえば、ドクオは何を話そうとしていたんだ?」

(;'A`)「は?」

( ゚д゚ )「そういえば。津出の話に何かあったのか?」


ようやく飲み物をつかんだ手が止まる。
慌てて顔をあげると、ミルナの白い顔がこっちをじっと見ていた。
あまりまばたきをしないミルナの目がこちらを向くと、妙に迫力がある。
こっち見るなと言いかけてから、自分が質問されていることにようやく気づいた。


(;'A`)「いや、単に何だったんだろうなって思っただけだ。
    強盗と、馬が消えたって言ってただろ。なんか、理由があるんじゃないかって」


あわてて出した返事に、ミルナが小さく頷く。
表情はちっとも変えないまま、ミルナは「ああ」と返事をした。


( ゚д゚ )「……もしかしたら、河童かもしれないな」

386名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 22:22:22 ID:alE8X3hE0


('A`)「……」


ミルナの口から、変な言葉が聞こえた。
冗談もろくに言えない固っ苦しいやつの口から。しかも、真顔で。


(;'A`)「もう一度、言ってくれ」

( ゚д゚ )「河童ではないかと、言った」

(;'A`)「カッパ」

( ゚д゚ )「そう。その河童だ」


カッパ。
妖怪の出てくるマンガやらなんやらで、真っ先に出てくる妖怪。
ヤツが出てくる子供向けの怖い本を、大昔に何冊も読んだことがある。


(    )「え? カッパってキュウリを食べるやつだおね。カッパ巻きとかの。
      あれって、安くてお腹たまっていいおね」

(    )「相撲とったりするやつだろ?」

387名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 22:24:11 ID:alE8X3hE0

やっぱり、聞き間違いじゃないよな。
川とか池とかにいる。頭に皿を乗っけた妖怪。
いかにも日本って感じのメジャー妖怪様だ。それが、なんでツンの話と関係あるんだ?


(;'A`)「いや、カッパが何かはわかるんだが……」

( ゚д゚ )「続きを聞いてみたところ、馬の恩返しでも神や仏の力でもなさそうなのでな。
     津出の話に合いそうなものを考えていたのだが……」

(    )「それが、どうして河童に……」

( ゚д゚ )「最後に、湖が出てきただろう?」

川   )「ああ、なるほど。それで河童か」


ミルナとクーだけはなにやら納得しているようだが、俺は話についていけない。
他の奴らはと見回してみるが、手にしたものもろくに見えない暗さの中では無意味だと気づく。


(    )「お……?」

(    )「ええと……」


ただ見えない代わりに、耳が戸惑うような声を拾う。
どうやら困っているのは、俺一人じゃないようだ。
それはそうだろう。そもそも、どういう理由で河童がでてきたのか、さっぱりわからない。

388名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 22:26:15 ID:alE8X3hE0


( ゚д゚ )「河童にまつわる伝承の一つに、馬を水中に引き込むというものがある。
     失敗したという話の方が多いのだがな」

(    )「そうなのかお?」

川   )「泳いでいる人を水中に引き込んで、溺れさせるっていうのもあるな。
     ヤツは人の尻子玉も食うしな。ゆるキャラっぽいわりに、凶暴なやつだ」

( ゚д゚ )「馬の妖怪の話は、あまり聞かない。ツンの話の条件に一致するものとなると尚更な。
     ならば、馬を襲う妖怪はなんだったかと考えてみた。
     それで、河童が一番条件に合うと思ったのだが……」


バケモノなのは馬でも強盗でもない、別のモノ。
なるほど。そういう話なら納得だ。
だけど、それが河童ということだけが納得できない。


('A`)「そこは普通に、馬がバケモノって話でいいんじゃねぇか?
    いや、他にバケモノがいるっつーならそれでもいいが、カッパとかじゃなくてもっとこう……」

389名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 22:28:50 ID:alE8X3hE0

遠い、海の向こうの国。
馬が当たり前に生活に溶け込む、平和な村。
そんな村で起きた謎めいた事件の原因が……なぜカッパ。
バケモノのせいだってのなら、まだいい。
でもそこは、妖精とかモンスターとか雰囲気にあったものがよかった。


(    )「馬。馬で湖なら……ケルピーとか、水の精っぽいものとか?」

('A`)「そう! それだよ!
    なんだよ、カッパって。なんで急にベタな昔話になってるんだよ」


ケルピー。
どこかのゲームで敵として出てきた、水の馬のモンスター。
ええと、馬の体に魚の尻尾がついてるやつ……だったか?
……でも、尻尾? 例の馬の尻尾って、ツンの話に出てきたっけ?


( ゚д゚ )「ケルピー?」

(    )「ええと、」

(    )「人を食うん……だっけ?」

390名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 22:30:11 ID:alE8X3hE0

(    )「見た目は普通の馬なんだけど、背に乗った人を水中に引きずり込んで、溺れ死にさせてから食べるんだよ。
      でも、内臓だけは食べないから水の上に浮かんでくるって話」

( ゚д゚ )「ふむ。はじめて聞くな。勉強不足を実感するばかりだ」


親切な誰かが、ケルピーについての説明をしてくれている。
俺の全然知らない話だけど、ゲームに出てくる奴とはやっぱり違うんだろうか。
それにしても。内臓とかいちいちグロいな。
まあ。それでも、さっきのカッパ説よりはよっぽどそれっぽい。


(    )「有名なのはケルピーだけど、似たような伝承はいろんなところにあるみたいだよ。
      水の精のネッキとか。こっちは馬だけじゃなくて、人間の姿にもなるみたいだけど」

川   )「オカ研の人間は言うことが違うな」

(    )「……オカ研じゃないんだけど。まぁ、いいや」


カッパよりも納得できる答えが出たことに安心して、俺は握ったままになっていた冷たいものを確かめる。
自販機でたまに見かける小さなパック。
さっき、ミルナとミルナの婆様が差し入れにと、持ってきてくれたジュースだろう。
握りつぶさないように気をつけながら、ついているストローの袋を外す。
見えないストローの差込口を指で探り、ストローを刺す。

391名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 22:32:51 ID:alE8X3hE0

(    )「僕はやっぱり、神様のおかげで。
      みんなどこかで平和に暮らしているのがいいお~」

川   )「強盗が平和に暮らしましたはダメな気がするが」

(    )「えー。死んじゃうのはよくないお」

(    )「それなら、馬をめぐる醜い争いの末に殺し合いのほうが、怖くていいと思うんだからな」

( ゚д゚ )「まぁ、水妖のたぐいや事件より、事故の可能性の方が高いのだろうがな」

川   )「それを言い出したら、村人たちの調査不足もあるだろうな」

(    )「夢がないお~」


気がついたら、最初の話が終わった時と同じように解釈や仮説が乱立している。
あの時も、馬の話か、神や仏の奇跡だか、強盗の因果応報な失敗談で話が別れたんだったか。
同じ話を聞いているはずなのに、そうだとは思えないくらい答えがバラバラだ。
ツンの話が下手だったというわけではないんだが、どうしてこうなったのだろう?

392名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 22:35:10 ID:alE8X3hE0


('A`)「そういえば、ミルナはなんで妖怪説なんて考えてたんだ?
    普通そこは、モンスターとかじゃねぇの? 外国なんだし」


ミルナが、目を少しだけ大きく見開く。
ほとんど表情を変えないミルナにしては珍しい変化だ。


( ゚д゚ )「日本の話じゃなかったのか? 江戸くらいの」


……ストローに口をつけようとした動きを、止めた。
ミルナが何を言ったのか、一瞬、理解できなかった。


('A`)「外国だろ……?」

(    )「あ、僕も西洋あたりだと思った」

川   )「私はどちらかというと、日本か。河童説はなかなか斬新だった」

(    )「僕はどっちでもいいお!」


話が合わない。
同じ話をしていたはずなのに、致命的にズレている。
話の結末も同じだ。
馬のせいなのか、それとも水に潜む何かのせいなのか。似たようでいながら、その答えは完全に違っている。

393名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 22:36:16 ID:alE8X3hE0

(;'A`)「え、でも。ツンのばーちゃんって」


金の髪のツン。
白い肌に、青い目をした、人形のような見た目の少女。
日本生まれで日本育ちの日本人で、気さくで、話しやすくて。たまに、めんどくさくなる普通の女子。
矛盾するようでいて、ちっとも矛盾しない不思議な友人。


川   )「母方の祖母はたしかに、海外に暮らしているらしい。
     だが、父方の祖母は日本人だな」

(    )「あれ。じゃあ、この話?」


どっちだ。
外国と日本。
同じ話でも、国が違うだけでその結末は完全に変わる。


(;'A`)「……」


わかったつもりになっていた話が、たったの一言で崩れていく。
今まで俺は、何をわかったつもりで聞いていたのだろう。
なぜ、なんの疑いもなく、外国の話なのだと思っていたのだろう。

394名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 22:38:09 ID:alE8X3hE0

(    )「不思議だおね~」


心臓が、嫌に早くなっている。
気づけば、口の中がカラカラで痛いくらいだ。
そういえば、さっき俺は飲み物を口にしようとしていた。
飲んで一息つけば、このわけのわからない焦りも落ち着くだろう。


(    )「どっちにしろ、強盗は死んだんだと思うな。僕は」


その声が、なぜか耳に残った。
不思議と賛成する気にも、反対する気にもなれなかった。
なぜだろう? そう思いながら、指でストローを探り、口をつける。
パックの中から冷たい液体を吸い上げて……


(li A )「げっ……あ゙っ」


咳き込んだ。
溢れかえった液体が、口元を濡らしていく。
鼻や器官に水が入り込んで、一瞬、息ができなくなる。

395名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 22:40:11 ID:alE8X3hE0

( ゚д゚ )「おい、大丈夫か」

(li A )「ぐ、あ……」

(    )「ドクオ、どうしたお!?」


咳き込んで、鼻と器官に入り込んだ水を吐き出す。
息が苦しくて、涙が出る。
子どもの頃に、溺れたことを思い出す。
あの時感じたのと、同じ感じ。

……地上にいるのに、溺れている。そう錯覚してしまいそうな苦しさ。


(li A )「……お茶」

川   )「ああ、むせたのか。慌てて飲むからだぞ」


口の中にあふれる苦いそれは、水ではなくてお茶のはずだ。
……だけど、一瞬。
生臭い、味がしたのだ。
汚い川の水が口に入った時のような、藻のような嫌な味が。


(li A )「そうじゃなくて、これ……お茶だよな」

( ゚д゚ )「そのはずだが」

396名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 22:42:12 ID:alE8X3hE0

冷たいミルナの手が、俺の手からパックを取る。
それを顔に近づけて、パックの匂いを嗅いだようだった。


( ゚д゚ )「烏龍茶のようだな。
     ……すまない。賞味期限が近かったのかもしれない」

(    )「味はどうだった?」

(    )「サイナンだったおね」


息が苦しい。
首元を伝うのは、汗なのかお茶なのか……それとも、どこかの川の水なのかわからない。
じぃじぃと遠くから音が聞こえる。


(li'A`)「おぼれる、かと思っ、」

(    )「タオルは……あった。これ、使って」

(li'A`)「助かる」


タオルで口元と体を拭い、陸に上げられた魚のようにぜいぜいと息をする。
体の中でまだ水が暴れまわっているようだ。
溺れるのは苦しい。それで、死んだやつだっている。
……胸が痛い。

あの強盗たちはこんな風に、溺れて死んだのだろうか。
それとも、無事に生きていたのか。

397名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 22:44:04 ID:alE8X3hE0

――なんとなく、
彼らは死んでしまったのではないか、と思った。
こんなふうに溺れて、苦しんで死んだ。そう思った。



('A`)「……ふぅ」


なんとか呼吸を落ち着かせて、一息つく。

じとりとした熱い闇は、湿気を含んでいる。
まるでぬるい、水の中にいるようだ。
このままここにいれば、さっきのように溺れてしまいそうだった。
口の中にさっきの生臭い味が蘇ったような気がして、慌てて首を振った。

……こんなことを考えてしまうのも、さっきのお茶とツンの話のせいだ。


('A`)「……」


ツンの話の真相を、俺達は知らない。
幻のように謎めいた、美しい馬と、強盗と、少年たちの話。
遠い国のことなのか、それともこの国のことなのか……真相はきっとツンだけが知っている。
いや、ひょっとしたら。ツンも知らないのかもしれない。

確かめたい、と思った。
だけど、確かめたくない自分もそこにいた。

398名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 22:46:13 ID:alE8X3hE0


ξ ⊿ )ξ「……みんな。クー? いるわよ、ね」


ツンが戻ってきたのは、それからすぐ。
何か怖いことでもあったのか、その声はどことなく弱々しい。


(    )「おかえりだお、ツン。クーもみんなもここにいるお」

川   )「不幸な事故はあったけどな」

ξ; ⊿ )ξ「……じ、事故って何よ」

川   )「それはだな……」

ξ; ⊿ )ξ「イヤ! やっぱ、聞きたくない!」


物音がして、それからやっとツンが席につくのを感じる。
このまま問いかけたら、ツンはあの話の続きをしてくれるだろうか。
それとも、幻は幻のまま。その正体を知らないほうがいいのか。

俺は少しだけ悩んで、結局、口は開かなかった。

399名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 22:49:16 ID:alE8X3hE0


ξ ⊿ )ξ「さあ、続きをはじめましょ。質問タイムはナシで!」

(    )「えー」

ξ#   )ξ「いいの。ナシと言ったらナシなの!」


暗闇の中で、ツンの金の髪が揺れる。
今ははっきりとは見えないが、その目は青の色をしているのだろう。
暗い闇の中で、彼女の瞳を思う。

キラキラと光を返す、青い色。
それはまるで湖の色のようだ。
引きずり込まれたら、決して上がってこれない深い深い水の色。

鳥の声も無い、夜の森。その中にぽっかりと広がる霧に飲まれた、深い青の湖。
あるいは、じとりとした暑く湿った空気の。山の合間にひっそりとある、冷たい水の湧く場所。


(    )「――だって。次は誰が話す?」

400名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 22:51:36 ID:alE8X3hE0


溺れて死んだ男は、たぶんいたのだろう。
彼らが死んだ。その理由だけを、俺達は知らない。
単なる事故か。
それとも、人の知らない何かによるものか――。


人を食う水馬か、馬を水に引き込む妖か。



('A`)(それとも別の、何かか……)


あの一瞬味わった、生臭い水の味を思う。
溺れるような感覚。もう二度と戻ってくることができない、深い水の底。
男二人を引きずり込んだ何かが、本当にいるのなら……、

それは、きっと湖の中にいる。



河童、ケルピー、水精、水妖――、

401名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 22:53:08 ID:alE8X3hE0



言えるのは一つ。
水の中に潜むモノは、思った以上に多いようだ――。



.

402名も無きAAのようです :2016/08/19(金) 22:54:14 ID:alE8X3hE0




              ('A`)百物語、のようです


            幻の馬。あるいは、水妖の話  了


                     (
                      )
                     i  フッ
                     |_|


.


 ※ 百物語2016参加作品 (リンク先:('A`)mitinko 様)
 蛇の話(リンク先:短い( ^ω^)様) - おまじないのはなし - 廃村ツアー - 奇妙な偶然 - 幻の馬。

引用元:('A`)百物語、のようです
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/13029/1376666020/313-

[ 2016/09/05 23:42 ] 短編 | CM(0)
[タグ] ('A`) ξ゚⊿゚)ξ


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