まぜこぜブーン

ブーン系まとめ

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 第十六話:【( ´_ゝ`)は魂を取り戻したいようです】

4 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 20:07:10.72 ID:pcSLVknV0
【あらすじ】

 神木編終了。
 今回より物語は展開を始めます。

【主要登場人物紹介】

・人間

( ´_ゝ`) 兄者:『星駆』を失って戦力半減中のサムライ

・悪魔

(´<_` ) 弟者:上級悪魔『ダンタリオン』。変身・未来予知の能力

【まとめ】

ブーン文丸新聞さん http://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/devil/devil.htm

【今回の主役】

(´<_` )「もちろん俺です」

( ´_ゝ`)「ふざけんなこのハウスダストが。滅絶超常カッコイイこの俺に決まってんだろ!」

(´<_` )「弱い犬ほどよく吠えるって言うぞ」

(#´_ゝ`)「くそが!」


5 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 20:09:27.63 ID:pcSLVknV0


 旧幕のころであった。江戸の山の手に住んでいる侍の一人が、某日の黄昏便所へ往って手を洗っていると
 手洗鉢の下の葉蘭の間から鬼魅の悪い紫色をした小さな顔がにゅっと出た。
 その侍は胆力が据わっていたので、別に驚きもせずに、おかしなものが出たな、
 と、平気な顔をしていると、その顔は直ぐ消えて無くなった。
 で、侍は静かに室に入っていると、間もなく右隣の邸が騒がしくなった。
 何ごとだろうと思って耳を傾けていると、玄関口へ走り込んで来て大声に怒鳴るように云うものがある。
 侍が出て往ってみるとそれは隣家の仲間(ちゅうげん)であった。
  「我家の旦那が急に気がちがって、化物だ化物だと云って、奥様も、坊様も斬りました、どうか早く来てください」とあわてて云った。
 隣家の主人は通魔を見て発狂したのであった。



 (田中貢太郎「通魔」より)

7 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 20:11:35.01 ID:pcSLVknV0
 人生とは是すなわち夢幻である。



( ・∀・)悪魔戦争のようです



 第十六話:【( ´_ゝ`)は魂を取り戻したいようです】

8 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 20:13:55.84 ID:pcSLVknV0
 からん、からから。からん、から。

 暑い夏の昼っぱらである。高く昇った太陽の微笑みは、命あるものにとっては厭味な高笑いだ。
 先程までは通り雨に濡れていた道も、じりじりと盛夏の日差しに焼かれ、潤いを失いつつある。
 すっかり打ちひしがれた草花を踏みつけ一人の男が往来を行く。

 からん、からから。からん、から。

 石道を古下駄で高く鳴らし闊歩する男は、左手の団扇で忙しなく己に風を送っている。
 濡れた服の襟元を右手で掴み、身体と服の間に空気を通そうとしているようだ。
 上半身は袖無しの薄い服、下半身は足元までを覆い隠す行灯袴。統一されていない格好には季節感も無い。

(;´_ゝ`)「あああっちぃ。さっきのスコールがもっと続けばなあ……」

 魔術師養成所の教師、兄者であった。

 彼は現在、大陸の北東に位置するタチバナの地にいる。

(´<_` )「お、もう晴れたみたいだな」

 どこからともなく弟者が現れ、兄者に歩を合わせた。
 上下ともにジャージ姿の彼にも季節感の欠如が危惧されるが、悪魔である彼にそれはさしたる問題では無い。

( ´_ゝ`)「てめー、雨の時だけ帰りやがって」

10 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 20:16:24.44 ID:pcSLVknV0
 双子のように似通った顔の二人は、寸分の狂いも無く調和した歩幅で地を踏みしめる。

(´<_` )「兄者も雨宿りしたらよかったろうに」

( ´_ゝ`)「いちいちそんな事してたら今日中に辿りつけなくなるだろ」

(´<_` )「野宿すれば?」

( ´_ゝ`)「この辺の山は夜危ないんだよ馬鹿野郎! お前が寝ずに番してくれるのか?」

(´<_` )「物理的には可能だが、心情的に不可能だな……」

( ´_ゝ`)「死ね」

 こいつはどうしてこんなに俺を苛立たせるのだろう、と兄者は深く考えた。
 長い付き合いなのに。俺もいい大人と言える歳なのに。俺と同じ顔をしているのに。
 答えは明らかだった。

( ´_ゝ`)「俺と同じ顔をしているからだ……」

(´<_` )「は?」

( ´_ゝ`)「死ね」

(´<_` )「死ね死ねって、教師がそんな言葉遣いでいいのかよ」

( ´_ゝ`)「今は教師じゃない。非正規兵士の一人だ」

12 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 20:18:03.58 ID:pcSLVknV0
(´<_` )「休暇中なんだから兵士でもないだろうが。ただの無職だよ」

 予知能力を持つダンタリオン=弟者は、対天使の武器として連合国軍に重要視されている。
 その弟者を従える兄者が(短期間とはいえ)軍に休暇を申請する事は、並大抵の苦労ではきかなかったが、
 文面に起こせば数万文字にもなるだろうその顛末は、あえて割愛させていただく。

( ´_ゝ`)「無職じゃない。侍だ」

(´<_` )「刀も無いのに?」

( ´_ゝ`)「…………」

 兄者は腰に手を当てる。以前ならばそこにあった『星駆』は、無い。
 上位天使ギコに消滅させられてしまったのだから、世界のどこにも存在しない。

(´<_` )「刀は侍の魂なんだろ。じゃあ今のお前は何だ。ただの抜け殻か?」

 兄者の横顔をしっかりと見つめて、弟者は抑揚の無い声で言った。
 普段の人間らしい眼光が消え、悪魔の虚ろな瞳に覗かれているような気になって、兄者は押し黙る。

(´<_` )「黙るなよ。まあ別にいいさ……そんな事は考えなくたっていいんだ。
      兄者は人間だ。俺はダンタリオンだ。重要なのはどうあるべきかではなく、どうあるかだ」

( ´_ゝ`)「わかってるよ」

13 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 20:20:37.09 ID:pcSLVknV0
(´<_` )「さて、弟者様の良く当たる未来予知のコーナー」

( ´_ゝ`)「言ってみろ」

(´<_` )「間もなく関所に到達するであろう」

( ´_ゝ`)「なるほど……」

 顔を上げた兄者の目が、二日ぶりの人工物を捉えた。

( ´_ゝ`)「……見てわかることをいちいち言うんじゃねえよ」

 黒ずんだ外観。古い木造の建物は石瓦を乗せ、往来人の道を塞ぐように立っている。
 眼前に近付いて初めてわかる事だが、鉄扉には『Tachibana』『Wakoku』『非倭国没有越界』と刻まれていた。

 タチバナ国内部に存在する自治地域――『ワコク』へと通ずる関所である。

( ´_ゝ`)「さて、手筈通りにやれよ。ミスったら死ぬぞ」

(´<_` )「俺は死なんがね。何せ悪魔だから」

( ´_ゝ`)「いいから早くやれ」

(´<_` )「へいへい」

14 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 20:24:21.29 ID:pcSLVknV0
 右手で拳を作り、がんごんと扉を殴りつける。

( ´_ゝ`)「開門願う!」

 強く叩くこと十三回目。重々しく軋む音と共に、ゆっくりと扉は開き始めた。
 兄者は三歩後退して腕を組む。その腰には、消滅したはずの大太刀『星駆』が佩かれていた。

 大人が一人ようやく通れるくらいの隙間が出来ると、関所の内より若い男の声が響いてきた。

『己の名と刀の銘、入国理由を告げよ!』

( ´_ゝ`)「俺は兄者。刀の銘は『星駆』。入国理由は……そうだな、出稼ぎから帰ってきたって事で」

『入所を許可する!』

 昼間だと言うのにやけに薄暗い関所の中に入ると、髪を短く刈り上げた青年が兄者を迎えた。
 見た目の年齢からして、この職について間もないのだろうと兄者は推測した。自然と溜息が漏れる。
 若者は実直に勤務をこなそうとするあまりに融通が利かないことがある。

『帰国者か』

 無遠慮な視線で青年は兄者の全身を眺めた。

『出国したのは何年前だ?』

( ´_ゝ`)「あー、いつだったかな……十年以上前だな」

15 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 20:26:09.66 ID:pcSLVknV0
『曖昧な……まあ出国者の数は多くないから正確じゃなくてもいいか』

( ´_ゝ`)「悪いね。出る時にもここの関所を通ったから、しっかり記録には残ってるはずだぜ」

『今調べよう。十年以上前……』

 青年は椅子から立ち、壁際の書類棚に手を伸ばした。
 棚板の端から端まで指を滑らせた後に少し戻り、古い和紙の束を引っ張りだす。

『兄者と言ったか。姓は?』

( ´_ゝ`)「無い」

『無いわけないだろう。正直に言え』

( ´_ゝ`)「無いもんは無い。名で調べろ」

 「何言ってんだこいつ」と言わんばかりの疑わしげな目を兄者に向けた後、若き審査官は机についた。
 厚い資料をぱらぱらとめくり始めたが、すぐにその手は止まった。

『これか。兄者……「流石兄者」。なんだって!?』

( ´_ゝ`)「その姓はもう捨てた」

 窓の外に流れる雲を見ながら、兄者は忌々しげに吐き捨てた。

16 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 20:28:10.72 ID:pcSLVknV0
『あんた……いや、貴方は流石家の』

( ´_ゝ`)「鬱陶しいな。急いでるんだ、早く審査をしてくれ」

『は、はい。えーと……では、刀を』

( ´_ゝ`)「ほら」

 手早く太刀緒をほどき、兄者は大太刀を青年に差し出した。
 恐る恐るそれを受け取った青年は、ゆっくりと鯉口を切って刀身に刻まれた銘を確認する。

『天海級大業物「星駆」……』

 刃の全様が姿を現す。窓から差し込む日光と室内の炎に照らされ、太刀は艶やかに煌めいた。
 『神陽』、『冥瞳』、『天海』、『極堂』、『地焔』、『浮鎧』の六等級が存在する大業物の内で三等目の『天海級』。
 おそらくこれほどの価値を持つ刀に触れた事が無いのだろう、審査官の手は細かく震えていた。

『……確かに。素晴らしい刀ですね』

( ´_ゝ`)「もういいだろ? 行っていいか?」

『本来ならもう少し審査の手順があるんですが、流石家の方には必要ないでしょう』

( ´_ゝ`)「もう流石家じゃねぇって……」

 『星駆』を佩き直し、兄者は入ってきた方と反対側の扉へ向かう。
 生まれ育った地へようやく入る事ができると言うのに、彼の顔に喜色は微塵も含まれていなかった。

17 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 20:30:01.86 ID:pcSLVknV0
(´<_` )「堅ッ苦しいトコだよな、全く。変わってないな」


 関所を出たとほぼ同時に弟者の声が、兄者の腰元から響いた。

(;´_ゝ`)「まだ喋るなよ! 刀が偽物だってバレたら強制退去なんだからな!」

(´<_` )「あのクソガキも聴き耳立てちゃいないさ。俺達を疑おうともしなかっただろ」

 捨てた名前に助けられたな、と悪魔は嗤った。

( ´_ゝ`)「ワコクじゃ名前と刀だけが身分証明だ。お前の変身能力ならまず見破られはしないだろうが」

(´<_` )「もっと素直に言えよ。俺だけが頼りなんだろ?」

( ´_ゝ`)「舌引っこ抜くぞ? とにかく、人がいる所じゃ絶対に喋るなよ」

(´<_` )「仕方ないな……俺ってあんまり寡黙なキャラじゃないんだけどなーやだなー」

(´<_` )「あ、思いついたんだが、その辺の雑魚から適当な刀かっぱらえばいいんじゃないか?」

( ´_ゝ`)「お前、俺をチンピラか何かだと思ってんのかよ。刀の盗みは死罪だっての」

19 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 20:32:54.95 ID:pcSLVknV0
 ワコク。

 名目としてはタチバナ国の一都市に過ぎないこの地域は、事実上独立した国として存在する。
 タチバナから繋がる主要な道には全て関所が設けられており、基本的に外国人の進入が許されない。
 それはワコクの三方を囲むタチバナ(残る一方は海に面す)の人間であっても同様である。

 国交をほぼ断っているワコクでの主産業は農業・鉄鋼業。それらも貿易用ではなく自給自足のためである。
 豊富な鉄鉱資源と温暖な気候に支えられた人民は、豊かではないものの、安定した生活を送る事ができるのだ。

 ワコクの民には魂がある。 刀という魂である。

 男女貴賎の区別なく、十五歳で元服を迎えた者には一振りの刀が与えられる。
 魂に替えは無い。複数の刀を持つ事はあっても、一度手にした刀を捨てることは許されない。
 全ての国民が各々の生涯かけて刀剣術を習得し、戦いのために魔法や召喚術を使う者は恥とされる。
 遥か昔、上級悪魔と契約した者は処刑され悪魔と共に封印されたという。

 刀の扱いにかけてワコク人の右に出る者はおらず、忍耐力・精神力も並はずれて強靭。
 ワコクの勝手な自治をタチバナが黙認している理由は、その戦闘民族とでも言うべき国民性にある。
 君主や政治機関は存在しない。代わりに「流石家」「渋沢家」を中心とする武家がワコクを収めている。

 隔離された世界で独自の価値観と文化を発展させ続けた国。


 兄者――流石家の長男・流石兄者はこのワコクで生まれ、そして今一度帰ってきたのである。

20 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 20:36:12.86 ID:pcSLVknV0
( ´_ゝ`)「お?」

 その兄者が何かに気付いたのは、関所を出て数十分ほど歩いた頃であった。
 前方の森からなのか、慌ただしい物音と獣の唸り声のようなものが聞こえてきたのだ。

(´<_` )「何かいるぞ。ただの獣じゃない……魔物か」

( ´_ゝ`)「妙だな、まだ日も沈んでないのに。それに何の音だこりゃ」

 少しだけ足を速め、兄者は三叉路を音の方に曲がった。
 幅の広くなった道の向こうに馬車が見えた。貨物の運搬に使われる大型のものである。

 その馬車は横倒しに倒れている。

(´<_` )「血の匂いだ」

(;´_ゝ`)「襲われてんのか!?」

 砂を蹴って兄者は駆けだした。車体の横には数頭の馬が横たわっているのが見えた。
 無意識の為せる業か、兄者の手は腰の刀を掴んでいる。

(´<_` )「おい、わかってるだろうが……俺は星駆の機能までは再現できんぞ」

( ´_ゝ`)「ああ。かと言ってここじゃあ魔法や召喚術を使えねえからな」

 律儀だねえ、と弟者は言った。

21 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 20:38:10.69 ID:pcSLVknV0
 濃厚な血生臭さが辺りを覆う中、ようやく兄者は敵と対峙した。
 黒と茶色の混じった毛並みを艶々と光らせている、犬と狐を足して二で割ったような姿の獣であった。
 魔物の一頭は馬の腹の中に首を突っ込み、また一頭は馬車の車体に爪を立てて引っ掻いている。

( ´_ゝ`)「『玄狐』か……人を襲うことはまれなはずだが」

 物音から察するに、魔物は倒れた馬車の向こうにも何頭かいる様子であった。
 ただし、向こう側に行くためにはまず目の前の二頭を片付けなくてはならないだろう。
 姿は犬に似ていても、大きさは牛と同じくらいはある魔物である。簡単に躱すことはできない。

(´<_` )「魔力が薄いから判然としないが、全部で……六頭ってところか」

( ´_ゝ`)「剣撃の音だ。戦ってる人がいる」

(´<_` )「四頭相手じゃキツかろう」

 『星駆』、もとい弟者を鞘から抜き放ち、兄者は上段に構えて気を整えてゆく。
 殺気に気付いたのだろう、二頭の玄狐が兄者の方に振り返った。その口元は鮮血で赤く濡れていた。

 深く息を吸い込み、辺りに響き渡るように兄者は轟々と吠える。

( ´_ゝ`)「縁なき不祥の身と言えど――仁義に因りては捨て置けぬ、助太刀致す!!」

『――助太刀、感謝致します!』

 馬車の向こうから返ってきたのは、高く澄んだ声だった。

(´<_` )「女?」

22 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 20:41:40.07 ID:pcSLVknV0

( ´_ゝ`)「ワコクじゃ女の剣士も珍しくないさ」

 低く唸り声を上げながら魔物は兄者との距離を詰めていく。
 ゆっくりと地を踏みしめながらも、視線は兄者の顔から外そうとはしない。

(´<_` )「こっちの刀より相手の脚が長いな」

( ´_ゝ`)「ああ」

 近接戦闘において射程距離は非常に重要な要素であり、それは野生の獣であっても同じである。
 もちろん武器が大きいほど良いという単純なものではないが、リーチの長さは先制攻撃の可否に関わってくる。

 『玄狐』の前肢と爪を合わせた長さは、弟者の化けた『星駆』よりも明らかに長かった。

(´<_` )「もう少し長い形に変えようか?」

( ´_ゝ`)「いや。ただでさえ刀としてはギリギリの長さなんだ、これでいい」

 兄者が剣先を下げ、大きく一歩踏み込んだ。『玄狐』の射程距離に――入る。
 その行動に不意を突かれた様子も無く、むしろ予測していたかのように、二頭は溜めていた力を解いた。
 爆発的な後肢の膂力が巨体を跳躍させ――鋭い爪が兄者の首元と胸元を狙う。

 しかし、その凶器が兄者の肌を貫く前に、一条の軌跡が奔った。

 閃き。


22 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 20:41:40.07 ID:pcSLVknV0
 兄者の刀は魔物の前肢を真横から断切り、さらにもう一度関節の辺りを切り裂いた。
 落とされた爪がばらばらと地面に転がる。傷口から血しぶきが舞い、草花を赤く汚した。

 それぞれ前肢の一方を大きく抉られた二頭の玄狐は、それでもなお三本の脚で着地し、兄者を睨みつけた。

( ´_ゝ`)「失せな」

 刀身の血を振り払い、切っ先を脇の草むらに向ける。

( ´_ゝ`)「俺に勝てない事はわかっただろ。今ならまだ死にゃしねえ、見逃してやるから帰れよ」

 魔物達は目を見合わせ、躊躇することもなく草むらに飛び込み、その場を去って行った。

(´<_` )「確かに殺す必要は無かったが……お優しいことだな」

( ´_ゝ`)「人命救助が最優先だ」

 刀を抜いたまま、急いで兄者は馬車の車体を回り込む。先程返事をした者が戦っているはずだ。
 だが、そこに広がっていた光景は兄者の想像と大きく食い違っていた。

 四頭の『玄狐』に囲まれた一人の女。しかし、危機的状況であるとは言い難い。

 全ての魔物が全身から血を流し内臓を撒き散らし倒れ伏している。
 わざわざ確かめるまでも無く――絶命している。死骸はまるで崖から落ちたかのように崩壊していた。

(´<_` )「……すげえな。刀だけでこれか」

24 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 20:45:11.89 ID:pcSLVknV0
( ´_ゝ`)「この分なら、助太刀するまでも無かったかな」

 兄者は背負った鞄から手拭を取り出し、刀の血を丁寧に拭き取る。

(´<_` )「ちょ、おま、くすぐったい、ちょwwww」

( ´_ゝ`)「喋るな」

 弟者を鞘に納め、兄者は惨状の心央へと歩いて行く。
 むせ返るような生臭さの中にあって、その空間だけは、不自然なまでに静謐を保っていた。

ミセ*゚ー゚)リ「向こうも片が付いたようですね。御助力ありがとうございます」

 振り返って兄者に微笑みかけた女。歳は二十を過ぎたくらいだろうか、両手に小振りの刀を携えている。
 飾り気や派手さこそ無いものの、それなりに端正な顔立ちの麗人と言えそうな容姿である。
 肩までの黒髪にも、瑞々しく艶のある肌にも、朝顔柄の和服にも、返り血の跡は無かった。

( ´_ゝ`)「ああ。いや、余計な事だったかな」

ミセ*゚ー゚)リ「とんでもない、助かりました。お陰様で馬車の荷物にも被害は無いようですし」

 納刀の後に深々と頭を下げ、彼女は謝意を示した。
 その礼儀正しさが兄者に実感を湧き起こさせる。自分は今ワコクにいるのだ、と。

( ´_ゝ`)「他の人は? この馬車を一人で乗ってきたわけじゃないだろ?」

26 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 20:48:04.51 ID:pcSLVknV0
ミセ*゚ー゚)リ「いえ、私一人です。町から関所まで荷物を運ぶだけですから」

( ´_ゝ`)「へえ……そりゃまた、若いのに立派な仕事をやってるもんだ」

 鎖国されているとは言えども、完全に国内外の輸出入が無いというわけでもない。
 貿易に携わる者の数は極端に少ないが、彼女もその内の一人なのだろうか。

ミセ*゚ー゚)リ「…………」

 そんな事を考えていると、ふと、女が兄者の顔をじっと見つめていることに気がついた。

ミセ*゚-゚)リジー

( ´_ゝ`)「……?」

ミセ*゚ー゚)リ「あの……もしも私の勘違いであれば非常に失礼なことなのですが……」

( ´_ゝ`)「はい?」

ミセ*゚ー゚)リ「えっと……その……いえ、やめた方がいいでしょうか……でも……」

( ´_ゝ`)「……気になるから言ってくれ」

ミセ*゚ー゚)リ「もしや貴方は、兄者……流石兄者さんではありませんか?」

27 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 20:50:35.93 ID:pcSLVknV0
( ´_ゝ`)「!!」

 ぐるうと脳漿が対流を起こしたような感覚に襲われ、兄者は目を細めて彼女を見た。
 十年以上の時を経た今、兄者の容姿と名前を結びつけられる者はそれほど多くないはずである。

( ´_ゝ`)「君は……誰だ?」

 慎重に言葉を選んで兄者が訊くと、彼女は途端に目を輝かせる。

ミセ*゚ー゚)リ「やっぱりそうなんですね! うわぁぁあ、お久しゅうございます!」

 心底から満面の笑みを浮かべられ、兄者はさらに困惑した。

ミセ*゚ー゚)リ「私ですよ。わかりませんか? 渋沢美芹です!」

( ´_ゝ`)「渋沢……美芹……、あ。ああ、あ! 渋沢家の! 一番下の!」

ミセ*゚ー゚)リ「そうです! ようやく思い出してくださいましたか」

( ´_ゝ`)「いやー、そりゃわかんねえって……最後に会った時はまだほんの子供だっただろ」

 こんなに綺麗になっちまって、と兄者がしみじみと言うと、美芹はくすくすと笑った。
 その静かな笑い方には確かに覚えがあった。顔や体は変わっていても、根元は変わっていないらしい。

ミセ*゚ー゚)リ「兄者さんが出て行ってからもう何年になると思ってるんですか。私も大人になりました」

28 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 20:52:49.20 ID:pcSLVknV0
 ひとしきり笑った後、彼女は兄者に詰め寄った。
 体格差ゆえに、兄者の胸元から見上げるような形になる。

ミセ*゚ー゚)リ「ずっと訊きたかったんです。どうして流石家から追放されたのですか?」

( ´_ゝ`)「ああ……」

ミセ*゚ー゚)リ「兄様達も、父様も、おかしいと言っていました。唯一の跡取りである兄者さんを失って、流石家は凋落の一途です」

( ´_ゝ`)「へぇー。まあ、そんな事は別にどうでもいいじゃ……」

ミセ#゚ー゚)リ「どうでもよくないですよ!」

(;´_ゝ`)「うおっ」

 兄者はたじろぐ。渋沢美芹の剣幕は非常に激しく、その声は耳朶だけでなく頭蓋まで震わせた。
 古い記憶の中にある彼女は(その歳頃にありがちな)人見知りで大人しい女の子だった。
 今兄者の目の前にいるのは立派な女性であり、彼は困惑すると同時にどこか嬉しくもあった。

ミセ#゚ー゚)リ「流石家と渋沢家はワコクの二大武家なんです! 片方だけでは国を支える事はできないのですよ?」

( ´_ゝ`)「ああ……そりゃ悪かった。うん。苦労かけたな」

ミセ*゚ー゚)リ「全くもう!」

ミセ*゚ー゚)リ「……本当はもっと言いたい事が沢山ありますけど、今日のところはもうやめておきましょう。
      もしも帰ってきたらうるさくしないでいようと、ずっと前から決めていたのを、今思い出しました」

29 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 20:57:41.24 ID:pcSLVknV0
 それからしばらくよしなし事を話した後、傾きかけてきた太陽を見て美芹ははたと手を打った。

ミセ*゚ー゚)リ「いけない。荷物を届けないと」

( ´_ゝ`)「つっても馬は死んでるし、馬車は倒れてるし、どうするつもりなんだ?」

ミセ*゚ー゚)リ「タチバナ側の業者が関所まで来ています。頼めば馬を貸して頂けるでしょう」

( ´_ゝ`)「一人で関所まで行くのかよ。大丈夫か?」

ミセ*゚ー゚)リ「あら、私の腕前が信用できませんか?」

 周囲に広がる血の海を見渡し、兄者は口の端で笑った。
 確かにこれだけの力量があればどんな相手にも負けないだろう。

( ´_ゝ`)「興味本位で聞くだけだが、荷物の内容は何なんだ?」

ミセ*゚ー゚)リ「食料品と工芸品です。外貨獲得のための貿易ですよ」

 ワコクに生きる者が「外貨獲得」とはまた似合わない言葉だ――と口を突きかけた言葉を兄者は飲み込んだ。
 自分がいたのは十年以上も前の事である。時の流れはきっと、頑なな侍達にも変化をもたらしているのだろう。

( ´_ゝ`)「それじゃあ、俺は町に向かうし、お別れだな。また会おう」

ミセ*゚ー゚)リ「ちょっと、兄者さん。宿はどこにするおつもりですか?」

( ´_ゝ`)「宿か。家に帰るわけにもいかんし、分家の榊原さんとこか阿部さんとこにお世話になろうかな」

30 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 21:00:50.53 ID:pcSLVknV0
ミセ*゚ー゚)リ「余計なお世話かもしれませんが、流石家の分家方はやめたほうがよろしいかと」

( ´_ゝ`)「ん? なんで?」

ミセ*゚ー゚)リ「今の貴方は流石家の敵。分家とは言っても流石の血筋に触れない方が賢明です」

( ´_ゝ`)「えー、でもアレだぞ。『いつでも戻って来いよ』って、みんな優しかったのに」

ミセ*゚ー゚)リ「十年前の話でしょう……。五歳児じゃあるまいし、そんな口約束を鵜呑みにしないでください」

 そんな事をすれば兄者の父親である流石家当主に必ず露見すると美芹は言う。
 無論、流石家に自分の帰還を知られる事は、兄者にとって非常に都合が悪い。

( ´_ゝ`)「しかし宿屋に泊まるような金は無い!」

ミセ*゚ー゚)リ「威張らないでください。兄者さんさえよければ、私の家をお貸ししますよ」

( ´_ゝ`)「お前の家って……渋沢家? いや、それこそ無いだろ……入れてもらえるわけがねえよ。
      確かに小さい頃はお前の兄貴達とよく遊んだけどさ、元服を済ませてからは行けなくなったんだ」

ミセ*゚ー゚)リ「仰る通り、流石家と渋沢家は古より対立関係にあります。しかし考えてもみてください」

ミセ*゚ー゚)リ「敵の敵は味方。今の貴方が渋沢家に歓迎されない理由が無いでしょう?」

 簡単な論理に兄者は拍子抜けする。そんなものか、と。
 かつて絶対と信じて疑わなかった制約は、立場が変わっただけで、簡単に反故になる物なのか。

32 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 21:03:03.38 ID:pcSLVknV0
( ´_ゝ`)「んじゃあ……寄らせてもらうかな」

ミセ*゚ー゚)リ「ええ。きっと皆喜びます」

 花が咲くような笑みを見せた後、美芹はじっと兄者の目を見つめた。
 何か言いたい事があるのか、どうにもこちらから問わなければいけないような雰囲気である。

( ´_ゝ`)(素直なようでいて、本心は表に出さないタイプか)

 兄者の知人で例えるならビロード=デスに似た性格を、美芹からは感じ取っていた。
 発言する前にその影響を考えてしまうのであろう。

( ´_ゝ`)「まだ何かあるか?」

ミセ*゚ー゚)リ「あ――いえ、大したことではないのですが」

 そう前置き、何故だか兄者から視線を外して美芹は続ける。

ミセ*゚ー゚)リ「最後に私と交わした約束、覚えていますか?」

( ´_ゝ`)「約束?」

 ワコクを出る前、出た後、ともに難儀な人生であったことは、染みついて落ちないほどに兄者の記憶に残っている。
 だが、かつての自分はあどけない少女と何を話したのか、何を約束したのか。

( ´_ゝ`)「悪いが覚えてないな。どんな約束?」

ミセ*゚ー゚)リ「それならいいんです。今更蒸し返すようなことではありませんから」

34◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 21:06:46.18 ID:pcSLVknV0





(´<_` )「……やっと行ったか。退屈でもう帰っちまおうかと思ったぜ」

( ´_ゝ`)「おう、生きてたのか」

(´<_` )「よく言う。俺を黙らせてたのはどこのどいつだよ」

( ´_ゝ`)「なあ弟者、美芹との約束って何の事か覚えてるか?」

(´<_` )「ああ、もちろん。ソロモン72柱たるこの俺が、そう簡単に記憶を落っことしたりはしないさ」

( ´_ゝ`)「教えてくれ」

(´<_` )「断る」

( ´_ゝ`)「えっ? なんで?」

(´<_` )「この国は嫌いだ。一秒たりとも長居したくないからな」

( ´_ゝ`)「それはつまり……聞いたら長居せざるを得なくなるような、約束か」

(´<_` )「忘れるってのは人間の優秀な能力だ。思い出せないことは無かったことにするんだな」

35◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 21:08:24.25 ID:pcSLVknV0
 


 田園地帯を抜け、数重に築かれた石垣を潜り抜ければ、そこが人々の住むところである。
 町に着く頃にはほぼ日が沈みかけており、どこからか梟の鳴き声がぼうと鳴り聞こえてきた。
 木造の建屋に瓦葺きの屋根、土塗りの壁。道に舗装は無く、照らす灯りは油と紙束。
 他のどの国にも無い外観と気風は、故に、兄者に懐かしさを抱かせる。

 兄者は普段の袴に加え、長着を身に付けている。道中で着替えたのだ。
 格好はワコクの民と遜色ないものになったが、やはり振舞いに異国の匂いを感じ取るのだろうか、
 すれ違う町人の中には兄者に目を留める者もいるようであった。

( ´_ゝ`)「怪しまれてるか?」

(´<_` )「いや。見かけない顔だ、くらいの注目だろう」

( ´_ゝ`)「そうか。……渋沢さんの家は、ここだ」

 立派な家屋が並ぶ区画の中でも一際目立つ、豪奢な門の前で兄者は立ち止まった。

(´<_` )「俺は初めて入る」

( ´_ゝ`)「わかってると思うが、変身を解くなよ。刀が無いだけでもここでは異常だからな」

(´<_` )「お前は大丈夫なのかよ。魔力が切れたら終わりだぜ」

( ´_ゝ`)「………………大丈夫だろ。夜までは保つさ」

(´<_` )「ちょっと沈黙が長かったな」

36 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 21:10:36.82 ID:pcSLVknV0
( ・`ー・´)「誰だこらああああああああああああああああああ!!!!!」

(;´_ゝ`)「うわあああああああああああああああああ!!!!!」

 突然後ろで絶叫され、兄者の心臓は口から飛び出て成層圏を突破し考える事をやめた。

( ・`ー・´)「こんな夕暮れにうちの前に佇む不審者を成敗してくれるああああああああ!!!!!!!!」

(;´_ゝ`)「ごめんなさいいいいいいいいいいいいいい!!!!!????」

 首筋に刃を突き付けられ、思わず兄者は両手を挙げて全身全霊降参の意を示した。
 その刀は冥瞳級大業物『泰聖紀天』。刀身の冷たい輝きは水が走るようである。

( ´_ゝ`)「あ」

 その美しい刀には見覚えがあった。幼少の頃、渋沢家の広間に飾られていた家宝である。
 そしてよくよく見れば、その刀の持ち主も、よく知っている男であった。

( ´_ゝ`)「雅志じゃないか」

( ・`ー・´)「ん? 知り合い?」

 渋沢雅志。強大な武家「渋沢家」当主・渋沢極堂の嫡男にして屈指の武人である。
 兄者がまだ刀を持つ前、共に野山を駆け回り田畑の野菜を盗んだ仲だった。

( ´_ゝ`)「俺だよ、兄者だ。久しぶり」

( ・`ー・´)「兄者……?」

37 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 21:12:20.37 ID:pcSLVknV0
( ・`0・´)

( ・`0・´)「兄者ああああああああああ!???? あ!? ええええ!!!???」

(;´_ゝ`)「ちょ、声がでかいって! とりあえず入れてくれ、目立つとまずいんだよ!」

( ・`0・´)ハッ

( ・`ー・´)+キリッ

( ・`ー・´)「すまない兄者、驚きのあまり取り乱してしまったよ……久しいな本当に」

( ´_ゝ`)「相変わらず情緒不安定だな……」

( ・`ー・´)「ははは、褒めないでくれ。さあ、今入れてあげるよ」

 雅志が木造りの門の中心に手を翳し、続いて鞘に納めた刀を近付ける。
 二つの動作から数秒ほどすると重い金属音がし、どうやらそれで解錠されたらしいと兄者は知る。

( ・`ー・´)「このところ夜は物騒でな、町にまで魔物が下りて来ることがあるんだ」

( ´_ゝ`)「それでこんなに厳重な鍵を?」

( ・`ー・´)「本来は宝物庫や武器庫にしか使わなかった技術だけど、最近はどこにでもある」

39 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 21:14:24.01 ID:pcSLVknV0
 
 兄者を通して内側から施錠した後に、雅志は手を差し出した。

( ・`ー・´)「改めて、兄者。よくワコクに帰ってきたな!」

 その大きな手をしっかりと握り返す兄者。

( ´_ゝ`)「雅志は変わってないな。美芹とは大違いだ」

( ・`ー・´)「おや、もう美芹と会った? 今日は外出しているはずだけども」

( ´_ゝ`)「あいつの馬車が『玄狐』に襲われてたんで、助太刀したんだ」

( ・`ー・´)「なんとまあ。まあまあまあ! だから護衛を雇えとさんざん言ったのに……。
       見たところお前は無事なようだが、まさか美芹は怪我を負ったりしてないよな?」

 その口振りとは裏腹に、雅志の表情に心配そうな色は見えない。
 むしろ、兄者がそのような場面に遭遇したことを愉しく思っている様子ですらある。

( ´_ゝ`)「俺が見たのは魔物の死体と、涼しげな顔の女だ」

( ・`ー・´)「ははは! だろうな。刀を持ったあいつに勝てる魔物はいないよ」

 話しながら歩いている内に、二人は屋敷の玄関前に到着した。
 辺りに人気は無くひっそりとしている。夕暮れの紅に染まった空を、真っ黒な蝙蝠が横切って行った。

( ・`ー・´)「……侍でも、勝てる者はそう何人もいないだろう」

40 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 21:16:34.52 ID:pcSLVknV0
 
 横引きの戸を開ける雅志。冷えた空気と共に黴臭さが兄者の鼻をついた。
 兄者が下駄を脱いで揃えていると、それをじっと見ている雅志に気がついた。

( ´_ゝ`)「どうした?」

( ・`ー・´)「ワコクを出て、兄者、いったいどこに行っていたんだい?」

( ´_ゝ`)「しばらくはタチバナでふらふらしてた。路銀を貯めてから、ひたすら西へ」

( ・`ー・´)「西?」

 二人は木張りの床へ踏み出す。ぎい、と古めかしい音が響いた。
 点々と火が灯されている廊下には重く冷えた空気が満ちていて、兄者の肺臓にじわりと染み込んでゆく。

( ´_ゝ`)「一年かけてウォルクシアに辿り着いた後は、ずっとそこで教師をやってたんだ」

( ・`ー・´)「意外だな、兄者は学校とか大嫌いだったじゃない」

( ´_ゝ`)「ここの堅苦しい学校と違って、向こうは自由で楽しかったぜ。
      ……ところで、俺たちはどこへ向かってるんだ? 食堂か?」

( ・`ー・´)「父上のところさ。この家で起こる全ての事は父上の耳に入れなければならない」

( ´_ゝ`)「成る程ね」

 渋沢極堂――渋沢家現当主。剣の道もさる事ながら、刀鍛冶として並はずれた才覚を持つ人物である。
 彼の名が『大業物』の等級に加えられたのは、兄者が生まれる前、極堂が二十代の頃であった。

42 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 21:18:46.18 ID:pcSLVknV0
 
 広い屋敷に人の気配は無かった。

( ´_ゝ`)「使用人とかいないのか?」

( ・`ー・´)「兄者は知らないのか? 数年前にこの辺りでは疫病が大流行したんだ」

 酷いものだった、と雅志は声の調子を落とす。

( ・`ー・´)「ワコクの医術は進歩しているとは言い難い。強烈な感染力で、一度感染すれば半分は死んだ」

( ´_ゝ`)「それは……凄まじいな」

( ・`ー・´)「その時は美芹が異国からワクチンを輸入してくれて、収束したんだよ」

( ´_ゝ`)「美芹がねえ」

 雅志の言う通りならば、当時から彼女は国境を越えたパイプを保有していた事になる。
 それだけの情熱でワコクの外に目を向けている、美芹の原動力はなんなのだろうか。

( ・`ー・´)「……で、ある程度より人口密度が高くなるとその疫病が発生しやすくなる事がわかってさ。
       しばらくは大きな屋敷でも使用人を雇わず、高密度地域を作らないようにしてるんだよ」

( ´_ゝ`)「忙しくない?」

( ・`ー・´)「忙しいに決まってんじゃん。なんならここで働く?」

( ´_ゝ`)「絶対に嫌だ」

43 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 21:21:01.38 ID:pcSLVknV0
 
( ・`ー・´)「さて、ここだ。一人で行け」

 障子の前で雅志は立ち止まり、中に入るように促した。
 暗い屋敷の中、その部屋には人がいるらしく、灯火が障子に曖昧な影を映している。

( ・`ー・´)「父上、客人です」

『入れ』

 威厳を感じさせる声が兄者を迎えた。大きくはないが、直接脳を揺らすような響き。

( ´_ゝ`)「失礼します」
  _、_
( ,_ノ` )y━・~

 煙草を咥えながら机に向かっている老人が、兄者に目を向けた。
 その顔には深い皺が刻まれ、長い白髪は後ろで結わえられている。
  _、_
( ,_ノ` )「おう。おめぇは、流石んとこの小僧じゃねえか」

( ´_ゝ`)「もう流石家ではありません。それに、小僧と言うほど若くも無い」
  _、_
( ,_ノ` )「そいつは悪い。だが、俺にとってはいつまでも小僧だ」

 渋沢極堂は笑う。からからと、乾いた音。

44 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 21:23:20.44 ID:pcSLVknV0
  _、_
( ,_ノ` )「しかしまあ、どういう風の吹き回しだ。おめぇ、ここは渋沢家だぜ」

( ´_ゝ`)「はい。実は、美芹さんに会いまして――」

 兄者は事情をかいつまんで話し、しばらくここに逗留させてほしい事を伝えた。
  _、_
( ,_ノ` )「――なるほどな。まあ構わねえよ、おめぇはもう流石家の人間じゃねえしな。
    おめぇがここに居る事も向こうに伝わらねえように最大限取り計らっておこう」

( ´_ゝ`)「……ありがとうございます。まあ、もうバレてるかもしれませんが」
  _、_
( ,_ノ` )「雅志も別に嫌がりはしねえだろうが、もしゴタゴタぬかすようなら俺が言ってやる」

 老練、とでも言えばいいのか。肉体にこそ衰えが見られるものの、渋沢の精神・心胆は、
 かつての風格を失わず――むしろ、さらに研ぎ澄まされているように思えた。
  _、_
( ,_ノ` )「孝史は山にいるから会えねえだろうが、そうか。美芹に会ったか」

 吐いた煙が輪の形になる。遠い眼は広大な山々を見渡すように細められた。
  _、_
( ,_ノ` )「どうだ。あいつ、強くなっただろ」

( ´_ゝ`)「俺は、直接は見てませんが」
  _、_
( ,_ノ` )「稽古に勉強に、あいつの努力は半端じゃねぇ。兄貴達よりよっぽど根詰めてやがる。
    女でさえなければ、次代の渋沢家当主は美芹になっていただろうなと思っちまうほどだ」

45 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 21:25:45.32 ID:pcSLVknV0
  _、_
( ,_ノ` )「それにしても、よ。今まで便りの一つもよこさねえで、何しに帰ってきたんだ?」

( ´_ゝ`)「それは……」
  _、_
( ,_ノ` )「言えねえってか?」

( ´_ゝ`)「すみません」
  _、_
( ,_ノ` )「深く訊くつもりはねえけどな。余計な事を抱え込めるほど俺は元気じゃねえ」

 行灯の明かりが揺れると、渋沢極堂の顔にも微妙な陰影の歪みが生じる。
  _、_
( ,_ノ` )「だが、もしもおめぇと再び会えたら訊いてみたいことはあった。
    おめぇ――なんで流石家を追放されたんだ? 唯一の跡取りだったおめぇが」

( ´_ゝ`)「…………」
  _、_
( ,_ノ` )「弟者が死んで、おめぇが家を出て、流石家にもう未来はねえ。ゆっくりと衰退するだけさ。
    俺ぁな、おめぇが流石家を継ぐなら、刀を一本打ってやってもいいとさえ思ってたのによ」

( ´_ゝ`)「……そうだったんですか? 身に余る光栄です」
  _、_
( ,_ノ` )「結局は渋沢家の勝ちだ。でもよう、こんな形で勝っても嬉しかないわな」

( ´_ゝ`)「弟の話も、俺の話も、するつもりはありません。お世話になるっていうのに無礼であることは承知してます。
      しかし、ワコクを出る時に決めた事なんです。あの時に何があったのかは、絶対に誰にも話さないと」

48 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 21:28:35.62 ID:pcSLVknV0
  _、_
( ,_ノ` )「……ま、いいだろう。十年も昔の話だしな」

 渋沢は指の腹で煙草を揉み消し、最後に大きく煙を吐いた。
  _、_
( ,_ノ` )「ところで、ちょっとその刀を見せてみろ」

(´<_` )!

( ´_ゝ`)「……ええ、いいですよ」
  _、_
( ,_ノ` )「天海級大業物『星駆』……か。流石家に置いてあるってぇ話は聞いてたが」

 骨張った指が鎬をなぞる。魔力を通すための溝を辿って、切っ先に触れる。
  _、_
( ,_ノ` )「…………」

 渋沢は何を言うでもなく太刀を兄者に突き返し、虫を追い払うように手を振った。
  _、_
( ,_ノ` )「もう行きな。何か困った事がありゃあ雅志か美芹を頼るといいだろう」

( ´_ゝ`)「ありがとうございます。では……失礼します」

 障子を開け、部屋を後にする兄者の背中に、渋沢の低い声が投げかけられる。
  _、_
( ,_ノ` )「他の人間ならいざ知らず、この極堂の目は騙せねえぞ」

 沈黙でもって答えとし、兄者は薄闇に身を移した。

50 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 21:30:21.96 ID:pcSLVknV0
 


(´<_` )「――まさか、見抜かれるとはねえ」

 翌朝。
 まだ日も昇りきらぬワコクの街を、からんころと兄者は歩く。

( ´_ゝ`)「渋沢極堂は侍であり刀鍛冶だ。お前でもあの人は騙せなかったか……」

(´<_` )「一応言っておくけどな、全く何のヒントも無く変身を見抜かれたのは初めてだぜ。
     それもあんなジジイに……俺はミリの誤差も無く『星駆』に化けてるっていうのによ」

 腰に佩いた太刀――もとい弟者が不機嫌そうにぼやいた。
 農具を肩に担いだ老人や空の水瓶を抱えた下女など、早朝と言えど道を往く人間は多い。
 足早にすれ違う彼らは、不自然な二人の会話に気付くこともなかった。

( ´_ゝ`)「外見じゃないんだ。鋼の中にあるものを、魂を刀鍛冶は見る」

(´<_` )「見抜かれた事もそうだがな。俺が気に入らねえのはな、お前が妙に嬉しそうなことだよ」

 もっと悔しそうにしやがれ、と悪魔は言う。

( ´_ゝ`)「悪いな。侍ってのはそういう生き物なんだ」

 お前には理解できないか、と人間は笑う。

53 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 21:32:52.63 ID:pcSLVknV0
( ´_ゝ`)「ま、俺が帰ってきたということがヒントになっていたかもな」

(´<_` )「いらねえんだよ、思ってもないフォローはよ……」

 ちちちと囀りながら雀が数羽飛んで行った。だんだんと明るくなるにつれ、気温も上がっていく。
 今は快適な朝の空気も、あと一時間すれば熱をもった塊となるだろう。

( ´_ゝ`)「気付いてるか?」

 歩いてきた道を角の大衆酒場で曲がり、兄者は刀を撫でた。

(´<_` )「ああ。誰かつけてきてるな……撒くのか?」

( ´_ゝ`)「いや、捕まえよう」

 兄者は一人分の幅ほどしかない狭い路地を見つけ、自然な足取りでそこへ入る。
 少し歩いたところで横の塀を乗り越えて、身をかがめ尾行者を待つことにした。

『……あれ?』

 どうやらまんまと引っ掛かったらしい声を聞き、素早く兄者は路地へと跳んだ。
 相手の背後を取り、一刹那で抜刀。首筋に冷たい刃を押し当てる。身じろぎをさせる暇も無い早業だった。

ミセ;゚ー゚)リ「うぅ……」

( ´_ゝ`)「……美芹じゃないか」

56 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 21:36:00.67 ID:pcSLVknV0
 追跡者は渋沢美芹であった。その事実は兄者を少し驚かせたが、刀を引く事はしない。
 少し地味な無地の和服を着ているのも、人目につかないようにするためだろうか。

( ´_ゝ`)「どうして俺を尾行したんだ?」

ミセ*゚ー゚)リ「び、尾行? 何の話でしょう、私は偶然ここを通りかかっただけで……」

( ´_ゝ`)「…………」

ミセ*゚ー゚)リ「……正直に言いますから刀を納めていただけないでしょうか」

( ´_ゝ`)「いいだろう」

 剣先の冷たい圧力から解放されると、美芹は安堵の息を吐いた。
 そして、恐る恐るといった様子で兄者の顔を覗いてくる。

ミセ*゚ー゚)リ「いけませんか? 兄者さんがどこへ行くのか、私が気にしては」

( ´_ゝ`)「別に構わないけどな、コソコソと追ってこられるのは好きじゃない」

ミセ*゚ー゚)リ「堂々と追ってきても迷惑がるでしょう」

( ´_ゝ`)「そりゃそうだ」

58 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 21:38:36.86 ID:pcSLVknV0
ミセ*゚ー゚)リ「今まで何の連絡も無かった兄者さんが帰ってきて、どこへ行くのか。もちろん気になりますよ」

( ´_ゝ`)「俺としてはもちろん気にしないでほしい」

ミセ*゚ー゚)リ「無理です」

( ´_ゝ`)「むう」

 それだけ正直に言われると、兄者としてはどう返したものか答えに詰まってしまう。
 適当に誤魔化すこともできるが、稚拙な嘘ではきっと美芹に通用しないだろう。

( ´_ゝ`)「俺は……刀を探しに来たんだ」

ミセ*゚ー゚)リ「刀?」

( ´_ゝ`)「ああ、今俺が持っている『星駆』は偽物だ。天使との戦いで本物は消えちまった」

ミセ*゚ー゚)リ「偽物――にしては、そちらも結構な業物とお見受けしますが」

( ´_ゝ`)「偽物は偽物だ。本物にはならない」

(´<_` )(…………)

ミセ*゚ー゚)リ「それで、新しい刀を打ってもらおうと? 私が父に頼んでみましょうか」

( ´_ゝ`)「いや、いくらなんでも渋沢さんに依頼するのは申し訳ない。忙しいだろうしな。
     それに、鍛冶屋に頼んでいられるほど時間も金も無いんだ、今の俺にはな」

61 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 21:41:02.82 ID:pcSLVknV0
ミセ*゚ー゚)リ「しかし出来合いの刀では兄者さんに不相応でしょう。せめて大業物でなくては」

( ´_ゝ`)「まあな。で、こっから先はちょっと言えない」

ミセ*゚ー゚)リ「盗みですか、まさか」

( ´_ゝ`)

( ´_ゝ`)(早々に見抜かれたァァァァァァァァ)

ミセ*゚ー゚)リ「本気ですか? 刀の盗みは如何なる場合でも死罪ですよ?」

( ´_ゝ`)「いや……盗むわけじゃないさ、まさかそんな事するわけないだろ。
     ただちょっと流石家の蔵に眠ってる家宝を借りて行こうかなーと思ってただけで」

ミセ*゚ー゚)リ「主観的にも客観的にもそれは完全に窃盗だと思いますが……」

( ´_ゝ`)「元々は俺のものになる予定だった刀だぜ?」

ミセ*゚ー゚)リ「とっくにその権利は放棄されてますよね?」

( ´_ゝ`)「正論は嫌いだ」

 美芹を侮っていた。彼女に備わっている頭脳は、同じ年頃の娘達と比べてはいけないようだ。
 天は二物を与えずと言うが、これでは三物も四物も与えられてるじゃないか――、と兄者は心中で嘆いた。

63 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 21:43:07.73 ID:pcSLVknV0
( ´_ゝ`)「美芹が黙っててくれれば問題ない。どうせもうあの家じゃ日の目を見ない刀なんだ。
      俺は刀を手に入れて幸せ。刀は主人を手に入れて幸せ。みんな幸せでいいじゃないか」

ミセ*゚ー゚)リ「誰にも見つかる事無く盗みおおせると思うのですか?」

( ´_ゝ`)「自信はある」

 原則的に魔術の使用が禁じられているワコクでは、犯罪に使用するほど魔術に長けた人間はほぼいない。
 本気で魔術を駆使してくる盗人など存在せず、それに対応した防犯知識も無いのだ。
 ウォルクシアで教鞭を執るほどに魔術を学んだ兄者が自信を持つのも当然であると言えた。

ミセ*゚ー゚)リ「私が誰かに告げ口しない限りは、ですよね」

( ´_ゝ`)「するのか?」

ミセ*゚ー゚)リ「どうでしょう。私としては兄者さんに罪を犯してほしくはありませんが……。
     もし私がどうしても誰かに言うとなったら、兄者さん、どうしますか?」

( ´_ゝ`)「バラされる前に決行するしかないな。引き返すわけにはいかない」

ミセ*゚ー゚)リ「私を監禁するとか、殺すとか、口封じの方法はありますよ」

 抵抗しますけれど、と美芹は腰に差した二振りの刀を示す。

( ´_ゝ`)「冗談だろ? そんな事するくらいなら俺は腹切って死ぬね」

66 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 21:45:30.59 ID:pcSLVknV0
ミセ*゚ー゚)リ「それは、私が知り合いだからですか? それとも女だから?」

( ´_ゝ`)「的外れなことを言ってるって、自分でもわかってるよな?」

ミセ*゚ー゚)リ「……質問を質問で返さないでください」

( ´_ゝ`)「何をそんなに怒ってるんだよ」

ミセ#゚ー゚)リ「怒ってません!」

(;´_ゝ`)(怒ってんじゃん……)

 兄者には美芹の心情を推し量ることができなかった。
 ただでさえ人心の機微には疎い男だが、長らく会わなかった知人というものは輪をかけて難しい。

(´<_` )(おい兄者、こんなことで時間を潰してる場合か?)

( ´_ゝ`)(適当にあしらえる相手だったらとっくにそうしてるっての)

ミセ*゚ー゚)リ「……仕方ありませんね。罪を見逃すのもまた罪ですが、今回は見逃しましょう」

( ´_ゝ`)「おお?」

 話がわかるじゃないか――、と兄者が差し出した手を一瞥もせずに美芹は続ける。


ミセ*゚ー゚)リ「ただし、私に勝つ事ができたならば」

68 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 21:47:34.67 ID:pcSLVknV0




 静かな空間に、埃と黴の匂いだけが息づいていた。


ミセ*゚ー゚)リ「感染病の流行以来、この稽古場は使ってませんでした」

 板張りの床を二人が歩く。小さな軋みの音が反響し、静寂を際立たせる。

 渋沢家にある三つの稽古場の内で最も大きい一つに、兄者は美芹に連れられて来ていた。
 数年前までは沢山の門下生がここで腕を競い合っていたのだろうが、その気配を感じる事は、今ではできない。

 壁に掛けられている『日々鍛錬』の額縁に薄く積もる埃。

( ´_ゝ`)「なんでだ? もう流行は終息したんだろ?」

ミセ*゚ー゚)リ「父様が『刀鍛冶に集中したい』と言って門下生の指導を辞めたんです。雅兄様だけでは面倒を見きれなくなりまして」

( ´_ゝ`)「お前と孝史がいるじゃないか」

ミセ*゚ー゚)リ「私は人に教えられるほど極めておりませんし、孝兄様はずっと山に籠りっきりなんです」

 広い部屋の中心あたりで立ち止まり、美芹は振り返った。彼女の腰には二本の木刀。
 対峙する兄者が腰に佩くのも木刀であった。一対一の模擬戦闘を、美芹は兄者に提案したのである。

69 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 21:50:14.68 ID:pcSLVknV0
( ´_ゝ`)「孝史もたいがい変わった奴だったが、山籠りねえ……修行か何か?」

ミセ*゚ー゚)リ「人付き合いが嫌になったのでしょう。時々会いますけど、悠々自適に暮らしてるみたいですよ」

( ´_ゝ`)「仙人になりてえのかな」

 美芹は答えなかった。重い沈黙が二人の間に満ちる。
 遠くからかすかに響いてくる蝉の声と、自身の鼓動が耳朶を震わせる。

( ´_ゝ`)(考えてみれば、侍と剣を交わすのは久しぶりだ)

 精神の昂揚を兄者は抑えきれない。
 一瞬の挙動が勝敗に結び付き、人生の全てが試される剣の世界に、彼は戻ってきている。

ミセ*゚ー゚)リ「……いつでもどうぞ」

( ´_ゝ`)「そうかい」

 こちらは大太刀、向こうは二刀。お互いに変則剣術ではあるが、そのスタイルはわかりやすい。
 兄者が重さと速さに特化した一撃必殺型とするならば、美芹は攻防一体の手数重視型。

( ´_ゝ`)「見せてもらうぜ、お前が今まで生きてきた証を」

ミセ*゚ー゚)リ「同じ言葉を返します。言っておきますが、手加減はしませんからね」

70 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 21:52:25.16 ID:pcSLVknV0
 兄者は低く跳躍した。十歩分の間合いを二歩で詰め、その勢いを右腕に乗せて抜きの一太刀。
 相手が並の者ならこれで勝負が決している。避けることも防ぐことも至難である。

 しかし、美芹はこの一撃を凌ぎきった。

 単に躱すのではなく、単に受けるのでもなく、彼女は二刀を揃えて太刀を捉えた上で、身を翻して兄者の頭上を越えたのだ。
 兄者は振り向きざまに返しの一刀を繰り出すが、素早く後退する美芹にかすりもしない。

(;´_ゝ`)(すげえ)

 膂力と瞬発力で劣る女の武器は、身軽さと柔軟さである。
 それを体現したかのような美芹の体術は、おおよそ侍とは似つかないものであった。

( ´_ゝ`)(雅志の言ってたのはこういうことか。こりゃ確かに、侍じゃ勝てねえ)

 刀術剣術というものは、基本的に一対一の同等な立場での戦いのためにあるものだ。
 見た事の無い武器と戦うこと、人間以外のものと戦うことは、あまり考慮に無い。

( ´_ゝ`)「はッ」

 裂帛の一撃は空を切る。まるで鳥か小動物のような身のこなしだ、と兄者は舌を巻いた。
 上下の立体的な運動を行い、かつ地上での体捌きも完璧。人間相手の戦法ではとても対応しきれない動きである。

 それが美芹の答え。兄者がいない十年以上の間に見つけた、人生のカタチだ。

 だが、兄者とて、生温い時間を過ごしてきたわけではない。

71 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 21:54:58.75 ID:pcSLVknV0
 ウォルクシアへと至る旅の途中、そして教鞭を執るようになってからも、兄者の日常は闘争にあった。
 その時々によって相手は魔物だったり、天使だったり、あるいは同僚だったりしたが、戦いには事欠かなかった。

( ´_ゝ`)(想定内の相手が出てきたことなんか、一度も無い)

 一本の刀で兄者の太刀をいなしつつ、他方の刀で胴を狙う美芹。
 兄者は咄嗟に片手を柄から離し、拳で美芹の刀を打って、その線を強引に曲げた。

ミセ*゚ー゚)リ「手で刀を叩くなんて、実戦ではありえませんよ?」

( ´_ゝ`)「きちんと鎬を打ったさ。鋼だったら折れてるところだ」

ミセ*゚ー゚)リ「それはどうでしょうね」

 会話しながらも美芹は手を緩めない。返して斬り、流れて突き、防いで跳ぶ。
 数十合も斬り結べばお互いに理解している。相手の力量を、呼吸を。この勝負の行く末も。

( ´_ゝ`)(美芹は強い)

 少しでも隙を見せれば、それを見逃すようなことは絶対にしないだろう。
 独特な体術を除いたとしても――美芹の腕前は、侍の理想形にほとんど肉薄している。

( ´_ゝ`)(だが……)

 完璧に過ぎる。美芹は、兄者が想定する最善手を迷うことなく選んでくる。
 初めこそ彼女の動きに動揺した兄者だが、既にその癖や限界さえも把握しつつあった。

72 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 21:58:06.37 ID:pcSLVknV0
 お互いの実力は伯仲していると言ってもいいだろう。だが、恐らく実戦経験では兄者に分があった。

 時々兄者はあえて最善手を選ばず、次善、あるいは失策になるギリギリの手すら、打つ。
 それは揺るぎない自信の現れである。少し遅れをとったとしても、次の手で挽回できる自信があるのだ。

ミセ*゚ー゚)リ「ふッ!」

 兄者の変化にも美芹は対応する。
 しかし、美芹が完璧に美しい型で戦い続ける限り、兄者の予測を超える事は無い。

( ´_ゝ`)「おぉァ!」

 足払いを避けて跳躍した美芹を、空中で薙ぎ払う。

ミセ*゚ー゚)リ「くっ」

 避けることはできない。二刀を以てして、美芹は太刀を受け止める。
 兄者の膂力と気迫に押し切られ、体勢を崩してしまう。なんとか着地するが、立て直せない。

 追撃が迫る。大上段に構えた兄者の剣先を見、美芹は自分に残された道が少ない事を知る。

ミセ*゚ー゚)リ(覚悟を決めて――いくしかない)

 片方の刀を振りかぶり、兄者に向けて投擲した。
 当たるならばそれで良し。恐らく防がれるだろうが、その場合は懐に飛び込む機会となり得る。

74 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 22:00:27.61 ID:pcSLVknV0
 刀を投げるという美芹の機転は、しかし兄者にとってはさほどの衝撃とならなかった。
 何年もの間、対魔術を念頭に置いて鍛錬を積んできたのだ。この程度で驚いていては話にならない。

 兄者はほんの少し構えを変え、太刀の柄で刀を弾く。
 僅かに生まれた空隙を突いて美芹は跳ぶ。その体は低く、両手で持つ刀はさらに低く。

( ´_ゝ`)(下か……!)

 地摺りの剣は叩き落とせない。それならば相手より早く打ち込めば良いのだが、先程の投擲が兄者を鈍らせた。
 兄者と美芹。二人の侍がそれぞれに極めた剣は、互角の速度で相手を斬ろうとしている。

ミセ*゚ー゚)リ(相討ちならば)

 美芹は思う。

ミセ*゚ー゚)リ(それで上出来。経験の差、体格の差、性別の差を考えても、相討ちならば――)



 軋むような重い音が、空虚な道場に響いた。



 それは、美芹が思っていたよりも早く。

75 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 22:02:48.92 ID:pcSLVknV0
ミセ*゚ー゚)リ「!?」

 兄者の胴を狙って振り上げられた美芹の刀は、地を向いたまま固まっている。
 刃を押し留めているのは――指。兄者の足が、その親指と人差し指の間で、木刀を挟み止めていた。

ミセ*゚ー゚)リ「あ……足の裏で?」

 呆然と呟く美芹の首元には、一髪ほどの間をあけて兄者の太刀。

( ´_ゝ`)「俺の勝ち」

 いや、引き分けかな、と。
 兄者は薄く笑いながら木刀を引き、数歩下がって頭を下げた。半拍遅れて美芹も一礼する。

( ´_ゝ`)「真剣の勝負だったら、俺の脚は膝まで斬られてた。お前が言ったとおり、手で叩くのもありえない」

ミセ*゚ー゚)リ「いえ、御謙遜なさる必要はありません。この試合は兄者さんの勝ちで相違ございません」

( ´_ゝ`)「いいのか?」

ミセ*゚ー゚)リ「ええ」

 真剣での斬り合いであったなら――という思いは、確かに美芹の中にあった。
 しかしこの仮定は、ここまでの過程を無視する事は、それ自体が愚かにすぎることだ。

ミセ*゚ー゚)リ「私の負けです」

77 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 22:05:54.46 ID:pcSLVknV0
ミセ*゚ー゚)リ「途中で私、『相討ちでもいい』と考えてしまいました。その時点で私の負けだったのです」

( ´_ゝ`)「そんなことないだろ。命を捨ててでも相手を倒さなきゃならない時もある」

ミセ*゚ー゚)リ「いいえ、私は勝たねばならなかったのです。兄者さんに……」

( ´_ゝ`)「そんなに俺を止めたかったのか?」

 はっ、と美芹は俯いていた顔を上げる。

ミセ*゚ー゚)リ「……もちろん、そうです。約束通り、兄者さんの窃盗を見逃すことにしましょう」

( ´_ゝ`)「そりゃどうも。窃盗とはまた人聞きが悪いがな」

 美芹の顔に浮かんだ、形容しがたい微妙な表情。それを見逃す兄者ではなかったが、しかし、
 陰りの理由はわからない。気軽に問い質すことも躊躇わせるような、深い感情に起因していそうであった。

( ´_ゝ`)「しかし、美芹は強いな。いろんな相手と戦ってきたが、魔術無しじゃダントツだ」

ミセ*゚ー゚)リ「魔術に頼らないからこそ、です。人が極められる能力には限界がありますから。
      お聞きしていませんでしたが、兄者さんはワコクを出てから魔術を習われましたか?」

( ´_ゝ`)「ああ、元々素質があったみたいでな。召喚術は人に教えられるくらいになったし、魔法も普通に」

ミセ*゚ー゚)リ「なのに、その強さですか……。おかしいですよ。どれだけ恵まれているというのですか」

79 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 22:08:05.09 ID:pcSLVknV0
( ´_ゝ`)「別に恵まれてるわけじゃねえよ。魔力は強靭な精神と集中力が生み出すものだ。
      その点、俺に言わせりゃ、ワコクの人間ほど魔術士に向いた人種はいないと思うぜ」

ミセ*゚ー゚)リ「一理ありますが、ワコクの精神性は『魔術を使わない』という信念があるからこそです」

( ´_ゝ`)「だろうな。俺みたいになれるやつはいないよ」

ミセ*゚ー゚)リ「皮肉なものですね」

 ワコクの人間は決して魔術を受け入れない。それが故に魔術の素養を誰しもが持っている。
 しかしその能力は、兄者のように国を捨てなければ活かされることがないままなのだ。

ミセ*゚ー゚)リ「この国は、一見すると、とても強い国に見えます。しかし実際は弱くて弱くて仕方ないのです。
      仕方がないものだから、国境を閉ざし、心を閉ざし、ただ刀を振り続けて正気を保っている」

( ´_ゝ`)「弱い?」

ミセ*゚ー゚)リ「最強の民族などと言われることもありますが、それは、誰とも戦ったことがないからです。
      ワコクの民は誰にも負けたことがない――故に、無敗。しかし勝ったこともないでしょう。
      誰をも相手にしないのではありません。ワコクは、誰からも相手にされないのです」

 何か言おうと兄者は口を開いたが、しかし出てくる言葉も無かった。
 彼に意見を述べる資格などない。ずっとここで生きてきた美芹に言えることなど、ない。

ミセ*゚ー゚)リ「これまでの数百年はなんとかやってこれました。でもこの先百年……いや、十年。
      世界は目まぐるしく変わっていくでしょう。この国は、今のままでは生き残れない」

80 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 22:11:02.89 ID:pcSLVknV0
( ´_ゝ`)「だから美芹は、国外とのパイプを大事にしてるのか?」

ミセ*゚ー゚)リ「……はい。この前の疫病ではっきりしました。もう鎖国なんてしてる場合ではないんですよ」

( ´_ゝ`)「そこまで考えてる人間が一人でもいるってのは、いいことだ。それも渋沢家にな」

ミセ*゚ー゚)リ「兄者さんはどうお考えですか? 諸国を巡られ、また戻ってきた貴方としては」

( ´_ゝ`)「概ねは美芹と同じさ。輝かしい未来なんか待ってないってことは、とっくに知ってる。
      違うところがあるとすれば、俺は『それでいい』と思ってるってことだな」

ミセ*゚ー゚)リ「それでいい?」

( ´_ゝ`)「そりゃ国はなくなるかもしれんが、でも別にいいじゃねえか。そういう道を歩いてるんだから。
      渋沢さんだって、俺のクソ親父だって、馬鹿じゃねえ。わかっててやってるんだ」

ミセ*゚ー゚)リ「私は、そんな風には割り切れません」

( ´_ゝ`)「それが美芹の性格なんだろ。好きにしたらいいさ、お前の立場ならなんでもできる」

 美芹は何も言わなかった。何か考えているのか、それとも疲れたのか、わからない。
 ふと思いついたことがあって、兄者は深く考えずにそれを言うことにした。


( ´_ゝ`)「美芹もワコクを出てみないか?」

81 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 22:13:08.23 ID:pcSLVknV0
ミセ*゚ー゚)リ「――――え?」

( ´_ゝ`)「いやもちろん、渋沢家と縁を切れってわけじゃねえ。二・三年くらい、外の世界を見たらどうだ」

ミセ*゚ー゚)リ「…………」

( ´_ゝ`)「少しは面倒見てやれるぞ。刀の腕を磨きたいなら連合国軍に入って天使と戦えばいいし、
      勉強がしたいなら、ウォルクシアでどこかいいところを紹介してやれんこともない」

ミセ*゚ー゚)リ「……考えたこともありませんでした」

( ´_ゝ`)「俺と違っていつでも戻ってこられるし、外が気に入ったらもう戻ってこなくてもいい。
      唯一の跡取りってわけでもないんだ。渋沢さんもそこまでうるさく言ったりしないだろう」

 美芹は少しうつむいて、静かに兄者の話を聞いている。

( ´_ゝ`)「お前さえその気なら、俺について――」

ミセ*゚ー゚)リ「申し訳ないのですが、兄者さん」

 兄者の言葉を遮って美芹が口を開いた。
 抑えていたものが堰を切って溢れてきた、ようにも見えた。


ミセ*゚ー゚)リ「私はワコクを出るつもりはありません。私が、この国を護ります」

82 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 22:15:08.67 ID:pcSLVknV0
 たった今の兄者の言葉が美芹にとってどのような意味を持つのか。

 どれだけの大きな意味を、重い意味を孕んでいるか。

 兄者はそれに気付く事ができなかった。

 思い出す事ができなかった。

 あの時の約束を。



 時は過ぎ、夜。

 舞台は移りて――流石家屋敷。

83 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 22:17:12.77 ID:pcSLVknV0
 ほうほうと梟が鳴いている。
 昼間の暑さが嘘のように、夕闇の街は汗ばまない程度には涼しい。

 街道を行き交う者はそれほど多くなかった。
 家路を急ぐ者か、あるいは外食のために家族が歩いているくらいである。
 犯罪が多発するような国ではないが、夜のとばりには魔物が潜む可能性があるのだ。

 どこからか醤油の香りが漂ってくる。

( ´_ゝ`)「うっ……腹減ったなあ……」

 鼻腔をくすぐる香ばしさに、兄者は思わず独り言を漏らした。
 否、独りではない。兄者の後ろには全く同じ姿のもう一人が――ダンタリオンが立っている。

(´<_` )「この国の料理は塩分が多くて、俺の舌には合わないね」

( ´_ゝ`)「お前、別に食わなくても生きていけるくせに贅沢だな」

(´<_` )「俺に言わせりゃあ、人間は食わないと生きていけないくせに贅沢だぜ?」

 兄者は目を閉じている。弟者は不敵に笑っている。
 彼らは、流石家が所有する広大な屋敷の裏門前で、来るべき機を待っているところであった。

(´<_` )「あの小娘、うまくやってくれるかね?」

( ´_ゝ`)「母者の目を欺くのは困難だが、まあ時間稼ぎくらいはやってくれるだろう」

84 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 22:19:51.97 ID:pcSLVknV0
 同刻、流石家正門前。

ミセ*゚ー゚)リ(うう……やはり、途轍もなく緊張します……)

 自分から助力を申し出たとはいえ、これほどの大役を任せられるとは美芹の予想外だった。

ミセ*゚ー゚)リ(せいぜい人払いくらいだろうと思っていたのですが……)

 屋敷にいると考えられる人間の中で、兄者を止めうる力を持つのは二人。
 流石家現当主・流石父者。そして兄者の母親に当たる、流石母者だ。

 父者の信条は早寝早起きだ、と兄者は言っていた。日が沈むころには床に就いているはずだと。
 であれば、母者とぶつかることさえなければ、兄者の仕事は既に成功したも同然となる。
 そのために母者を正門で足止めするという役目を、美芹は引き受けているのだった。

 非常に重い責任が、美芹の華奢な双肩に圧し掛かっている。

『少々、お待ちください』

 使用人の女性に呼びかけ、母者を呼んでもらうように頼んだ。
 恐らくこの使用人は美芹の顔を知っているだろう。何をしに来たのか、母者は怪訝に思うだろう。
 何しろ渋沢家と流石家は、その成立当初から現在に至るまで、厳密な対立状態を保ってきたのだ。
 両家の交流が許されるのは元服前の子供同士だけであり、刀を授かってからは直接の会話すらしない。

ミセ*゚ー゚)リ(……大丈夫。軽く会話をするだけなら、兄様も父様も許してくれるはず)

 断絶は不文律である。当主でない者どうしならば、会っても問題ないと美芹は考えた。

85 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 22:23:56.26 ID:pcSLVknV0
 @@@
@#_、_@
 (  ノ`) 「おう……渋沢の美芹嬢じゃないか。どうしたんだい」

 正門を開けて出てきたのは、ひたすらに大きな女性であった。

ミセ*゚x゚)リ キュッ

 これまでは遠目で見た事しかなかったが、目前にして初めて感じる圧力がある。
 どう見ても兄者より二回りは大きい。流石家最強はこの人なのではないかと、美芹は真剣に思った。
 @@@
@#_、_@
 (  ノ`) 「渋沢家の者がここを訪ねるというのは、よほど大事があるんだろう?」

ミセ*゚ー゚)リ「はい、あ、いえ……それほど火急の用事というわけではないのですが……」

 一応の挨拶すらしない。当然ではあるが、物理的に近くても精神の隔たりは大きい。

ミセ*゚ー゚)リ「雅兄様の結婚式の日取りが決まったので、御報告に参った次第です」

 これは全くのウソと言うわけでもない。雅志が結婚するのは本当であるし、その際に周辺の武家へ知らせる慣習もある。
 ただし通常、渋沢・流石両家が互いの式に出席する事は無い。故に、日取りを知らせる必要は無い。
 @@@
@#_、_@
 (  ノ`) 「それだけじゃないだろう。使いも出さずに直接来る理由にはならないね」

ミセ*゚ー゚)リ「ええ。一つ御伺いしたいことがあったのです」

95 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 22:35:45.60 ID:pcSLVknV0
 

ミセ*゚ー゚)リ「兄者さんが流石家を追放された理由を、私達はまだ聞いていません」


 母者の双眸が、美芹の顔を真正面に捉えた。

 この話題を振るのは失敗だったか――と美芹は背筋が冷たくなったが、いまさら撤回もできない。
 それに、この質問は、美芹が訊かなければならないことだ。
 @@@
@#_、_@
 (  ノ`) 「それは兄者から直接聞くといいさ」

ミセ*゚ー゚)リ「――え?」

 母者の眼光は鋭さを増していた。
 視線に質量があったならば、とっくに美芹の顔面には大きな風穴が開いていたことだろう。
 @@@
@#_、_@
 (  ノ`) 「流石家を侮りすぎだねえ。兄者が帰ってきていることも、その理由も知ってるよ。
     そして今あんたがここにいるのは――時間稼ぎだろ。こっちは全部わかってんだ」

ミセ*゚ー゚)リ「っ……! そこまで知っていて、何故あなたは――――まさか!」

 @@@
@#_、_@
 (  ノ`) 「うちの亭主ときたら、昼寝のしすぎですっかり夜更かしが癖になっちまってねえ」

98◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 22:38:27.60 ID:pcSLVknV0
 灯りの無い敷地内を、兄者と弟者は蔵に向かって進んでいる。
 できるだけ音が出ないように砂利を踏む。静かさは林のように、迅さは風のように。

(´<_` )「変じゃないか? もうだいぶ来たが、誰にも出会ってないぞ」

( ´_ゝ`)「確かにな……真夜中でもないし、まだ使用人は屋敷にいるはずなんだが……」

 弟者は兄者と全く同じ姿に化けているが、先行するのはその弟者である。
 誰かに発見されたとしても、それが弟者であれば、姿を変えることで自分が兄者ではないことを示せる。
 無用な面倒事を作るわけにはいかない。

( ´_ゝ`)「本を開けよ。予知は無いか?」

(´<_` )「うーむ……よほどの事件でなければ本には現れないんだが……」

 袖口から分厚い古書を取り出し、ぱらぱらと頁をめくり月明かりで照らす弟者。
 予想通り未来予知は何もなかったらしく、すぐにその本をしまって、肩をすくめた。

(´<_` )「ま、今は省エネ運転中だしな。天使が降臨するレベルじゃなきゃ見えないさ」

( ´_ゝ`)「はあ、必要な時に働かないやつだな……」

(´<_` )「うるせ」

 魔力は有限である。弟者がその持てる能力を全開で行使すれば、一時間ともたずに兄者の魔力が枯渇するだろう。
 少しでも長く具現化し、兄者の疲労を抑えるために、弟者の未来予知能力はかなり制限している状態だった。

101 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 22:43:30.52 ID:pcSLVknV0
(´<_` )「ここが蔵か? 周りに人はいないようだ」

( ´_ゝ`)「よし」

 細心の注意を払いながら、兄者は弟者と共に蔵の扉に近付いていく。
 非常に大きな宝蔵である。ウォルクシアで兄者が住んでいる教員宿舎さえ、丸ごと収まってしまいそうだ。
 扉には上から下まで魔法で制御された錠がいくつもかけられている。

( ´_ゝ`)「昔から変わってない錠と、新しい錠があるな」

(´<_` )「上手くこじ開けられそうか?」

( ´_ゝ`)「こじ開けるわけじゃない。なんとかして不正に開けるんだ」

(´<_` )「まさにそれをこじ開けるって言うんだけどな」

 兄者は手を伸ばし、沢山の錠の中から特に古びているものに触れてゆく。
 金属が擦れ合う音が幾重にも鳴り響き、落ちた錠が地面に落ちて小さな山となった。

( ´_ゝ`)「こいつらは昔から開けてたから簡単だが、残りはちょっと手間取りそうだな……」

(´<_` )「壊しちまおう」

( ´_ゝ`)「却下」

(´<_` )「ちぇ」

104 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 22:46:13.33 ID:pcSLVknV0
 時には魔法を駆使し、時には細い針金を差し込み、兄者は次々と錠を攻略していった。

(´<_` )「器用なもんだ」

( ´_ゝ`)「魔法の理論は死ぬほど勉強したし、科学がなければ複雑な物理錠は作れないからな」

(´<_` )「教師をクビになったら空き巣で食っていけるな。おめでとう」

 弟者を無視して作業を続ける。およそ十分後、最後の錠ががちゃりと外れ落ちた。
 重い木の扉を押し開けて、兄者と弟者は暗闇に足を踏み入れる。

(´<_` )「……ん? 何かいるな」

( ´_ゝ`)「ああ。ネズミかなんかだろうと思うが……」

 この蔵に人が足を踏み入れることは滅多にない。空気の淀み具合がそれを示している。
 しかし何らかの気配がある――空気が淀みきって死なないだけの、流れがある。

(´<_` )「魔力はほとんど感じない。兄者の言うように、小動物の類か」

( ´_ゝ`)「万が一に魔物ってこともあり得る。警戒しとけよ」

(´<_` )「はっ、何が出てこようと問題ないさ。俺をその辺の悪魔と一緒にするなよ」

 蔵の中は濁ったような暗闇で、小さな窓から差し込む月光だけでは辺りが判然としない。
 柱に備え付けられた燭台に蝋燭を立て、そこに魔法で炎を灯していく。

105 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 22:49:28.17 ID:pcSLVknV0
(´<_` )「どこにあるんだ?」

( ´_ゝ`)「二階だろうな。下の方は湿気が多いし、金属は上に置いてたはずだ」

(´<_` )「そうか。階段は……と」

 軽快に階段を駆け上っていく弟者。早く用事を終わらせてこの国から出てしまいたいのだろう。
 やれやれと兄者は後に続く。しかし、二階に到達した弟者はすぐに引き返してきた。

( ´_ゝ`)「なんだお前」

(´<_` )「さっきの言葉、撤回しとくぜ」

( ´_ゝ`)「は?」

(´<_` )「何が出てこようと、と言ったが――あれは無理だ、お前に任せる。俺はここで待ってる」

 冗談言うな、と兄者は口にしかけたが、弟者の表情にふざけた色は少しも無かった。
 踊り場で弟者とすれ違い、若干の緊張をしながら二階へと到達する兄者。

 最初の一歩を踏み入れ、兄者もようやく理解できた。

 明らかに階下とは雰囲気が違う。なおも兄者を包む空気が変容していく。
 圧力が、温度が、湿度が、匂いが、色が、密度が、そこを異常な世界へと造り変え続ける。

 ここは既に範囲内だ。相手が造作もなくこちらを殺戮できる範囲。

107 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 22:52:28.33 ID:pcSLVknV0
 二階には窓が無い。
 塗りつぶしたような黒の中から、落ち着いた声が放たれる。

『久しぶりだな』

( ´_ゝ`)「ああ――――」

 好ましさと疎ましさと憎らしさが等しく三割ずつ。
 残りの一割は、昔とは違った感情を抱いている。それに気付きながら、兄者は答える。

( ´_ゝ`)「まだ生きてやがったか、クソ親父」

『そんな風に悪態をつくと思ってたよ』

 流石父者。かつてこの国で最強の侍と言えば彼のことであった。
 兄者が覚えている記憶より少し皺枯れているが、父親の声を聞き間違えはしない。

『さっきお前によく似た何者かが上ってきたが、あれは誰だ?』

( ´_ゝ`)「弟者さ」

『弟者? 弟者は死んだ。何を言っているんだ』

( ´_ゝ`)「死んでねえ。クソ親父、弟者は生きてる」

『まだそのような世迷言を……お前は何も変わってないな』

108 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 22:55:15.75 ID:pcSLVknV0
 ほとんど何も見えない闇の中であるが、父者は人物の容姿をはっきりと捉えているらしい。
 弟者に兄者と同じ姿をとらせたのは失敗であったかと、兄者は少しだけ後悔した。

( ´_ゝ`)「どうして灯りを点けない?」

『灯りならあるさ、戸板の隙間から月光が差し込んでいる。俺にはこれで充分だ。
 侍に必要なものは刀と己だけだということ、お前にもちゃんと教えたはずだがな』

 父者の声が少しだけ楽しそうになる。

『こういうのは雰囲気が大事だろ? この俺が追放した息子を闇で待ち受けるってのは絵になる。
 兄者、よう兄者。待ってたぞ。いつかこういう日が来るだろうと思ってたが、それが今日になるとは』

( ´_ゝ`)「何の事だよ。俺はあんたに会いたいとは思ってなかったぞ」

『俺は思ってた。なあ兄者、この家に戻ってこないか』

( ´_ゝ`)「なっ……」

 全くの想定外から投げかけられた言葉に、兄者の思考は一瞬停止する。
 蔑まれ辱められる事こそあれ、迎え入れられるなどとは想像できなかった。

『嘘だよ』

( ´_ゝ`)「え?」

『嘘に決まってんだろ馬鹿野郎が。お前なんざもう俺の息子でもなんでもない。興味もない。
 どこへなりと行って野垂れ死ぬがいい。生まれ変わっても流石を名乗ることは許さねえぞ』

111 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 22:58:26.56 ID:pcSLVknV0
 その台詞は前にも聞いた事があった。
 兄者がワコクを追放されるその日、父者がその口で言い放った文句だ。

『――だから、他人として。単なる侍同士としてお前に託そう』

 しかし、今回は続きがあった。
 十年を超える時を経て変わらぬものなど無い。親子の関係も、またその通りだ。

( ´_ゝ`)「託す?」

『刀を取りに来たんだろう? さあ、持って行け』

 衣擦れの音がして、投げつけられた何かが兄者の体にぶつけられる。
 慌てて、床に落ちる前にそれを掴んだ。

( ´_ゝ`)「これは」

『流石家最後の家宝だ。神陽級大業物「鬼丸」――鋼に愛された刀鍛冶、桜井神陽の最高傑作。
 神陽が打った五本の内で現存する唯一の刀であり、全ての刀鍛冶が理想として掲げる一本だ』

( ´_ゝ`)「これが『鬼丸』……」

 持っていた行燈に火を点けたらしく、父者の手元から光が溢れだした。
 父者の姿や周りの棚、乱雑に置かれた財物の類、そして手元の『鬼丸』が輪郭を取り戻す。

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「抜いてみろ、兄者」

115 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 23:01:49.13 ID:pcSLVknV0
 鯉口を切り、兄者はゆっくりと刀を鞘から抜き放つ。

 『星駆』は限界に近い長さを持つ大太刀であったが、『鬼丸』は刃長二尺六寸ほどの平均的な太刀である。
 造り拵えに変わった点は見受けられない。『星駆』にあった魔力を通すための溝も彫られていない。

 強いて言うならば、輝き。刀身が持つ妖しい揺らめきと艶やかな煌めきが、『鬼丸』の存在感を主張している。
 極寒の夜のような冷たさと、弾ける炎のような熱さ、その両方を併せ持つような光が刃を照らす。
 静であると同時に動でもある。『鬼丸』は、人に作られた枠に縛られるような気質ではない。

( ´_ゝ`)「…………」

 今の自分の姿を生徒達には見せられないな、と兄者は頭の片隅で思った。
 まるで魅入られたかのように、瞬きもせずにじっと刀を見つめている自分は、きっと白痴に見えるだろう。
 モララーかデルタ辺りなら半年間は同じネタでチクチクと攻撃してくるに違いない。

 そんな風にどうでもいい事を考えなければ、平静を保つ事が出来なかった。
 まともに『鬼丸』と向き合う事は、己の内側を深く覗きこむ行為と同義であると言えよう。
 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「『星駆』は魔力を用いて形を変える刀だったが、『鬼丸』は違う。人間が操れるようなものではない。
      己の心が鬼丸に伝播し、刃に発露する。全てのあるがままが刀身に現れる。人と刀が異心同体となる」

 父者の言葉は抽象的であったが、今の兄者には頭でなく心で理解できる。
 侍にとって刀は魂。『星駆』の形は失われたが、兄者の中には永遠に存在し続ける。
 そして今、心には新たな風が吹く。『鬼丸』が静かな水面に波紋を投げかける。

119 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 23:06:10.44 ID:pcSLVknV0
 父者が火を吹き消した。
 ふたたび真っ暗になってしまった中、それでも兄者の目は刀の貌を覚えている。

『用事は済んだだろう。さっさと出ていけ』

( ´_ゝ`)「まだ聞きたいことがある」

『俺にはもう言いたい事がない』

( ´_ゝ`)「……あんたはいつもそうだ。俺の言う事なんて何も聞いてない。聞く必要すらないと思ってる。
      自分の言いたい事だけ言って、自分のしたい事だけして、それで全てがうまくいくと思ってやがる」

『…………』

( ´_ゝ`)「俺が初めて人を斬った時も。弟者が俺を殴った時も。俺が家督を継ぐと決めた時も」

( ´_ゝ`)「……弟者が、死んだ時も」

( ´_ゝ`)「あんたはこれっぽっちも俺の話を聞いてくれなかった」

『父親などそんなもんだ。生き様を途中で変えられるほど器用な人間じゃないんだ、俺は。
 自分の人生は自分で責任を持つしかない。その結果として善いことも悪いことも、自分で受け入れねば』

( ´_ゝ`)「そうかい。流石家が滅亡するのもあんたのせいだ、流石父者」

 言葉こそ無かったが、父者の心には小さな波が立っているようであった。

123 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 23:09:08.44 ID:pcSLVknV0
『責めたければ責めるがいい』

( ´_ゝ`)「責める? 何を? 流石家が無くなったって、俺にはもはや関係のないことだろ」

『本当にそうか? ワコクを捨てても、お前は侍であることを捨てられていない。
 お前にとっての侍とは流石家で培った精神性に他ならない。本当はわかっているはずだ』

 父者の波が兄者の心まで揺り動かす。
 こんな問答を始めるべきではなかった、と兄者は少しだけ後悔する。

『確かに流石家が無くなるとすれば俺のせいだろう。俺以外の誰にも責任はないんだろう。
 だが、俺が生きている限りは続いているし、俺が死んだとしても――血は、お前が継いでいる』

 それは。
 それはきっと、一人の男としての偽らざる本音なのであろう。

『さっさと帰れ。お前はワコクにいるべき人間じゃない』

( ´_ゝ`)「……言われなくとも、すぐに出て行くさ」

『そうしろ。お前を必要としている国に、必要としている人たちのところへ帰るべきだ』

 それきり二人は黙り込んだ。
 お互いに心残りはあるのだろうが、口にしてしまえばそれで終わってしまう。

125 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 23:12:04.31 ID:pcSLVknV0
 


(´<_` )「お、生きてる」

 階段を下った兄者を、弟者の軽口が出迎えた。
 どこから見つけてきたのだろうか。金箔が貼られた豪奢な椅子に腰掛け、悪魔は待っていた。

(´<_` )「もしかしたらお前が死ぬかもって、五厘くらいは思ってたんだがな」

( ´_ゝ`)「そんなに重要なことは予知しろ。お前は力を出し惜しみしすぎだ」

(´<_` )「いやー、別に重要じゃないし。高価そうなものを集めてくるので忙しかったんだよ」

( ´_ゝ`)「盗むな。お前に金は必要ないだろうが」

(´<_` )「希少性自体が好きなのさ……どうやら、無事に刀は手に入ったようだな」

( ´_ゝ`)「『鬼丸』だ」

 蝋燭の火を吹き消しながら、二人は出口へと歩いていく。

( ´_ゝ`)「慣れるまで時間はかかろうが、やはり刀があると心持ちが違うな」

(´<_` )「前の刀に未練はないのか?」

( ´_ゝ`)「刀は魂であると同時に道具だ。愛着はいいが執着してはいけない」

129 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 23:15:44.00 ID:pcSLVknV0
(´<_` )「もう化ける必要もなくなったし、帰っていいか。休暇をくれ」

( ´_ゝ`)「あー、まあここんところ働かせっぱなしだったしな……好きにしろ」

(´<_` )「んじゃ、アデュー」

( ´_ゝ`)「呼んだら来いよ? すぐに来いよ?」

 聞こえているのかいないのか、弟者は煙のように姿をかき消した。
 一人残された兄者は蔵の戸に手をかけ、静かに開いて外に出た。


 @@@
@#_、_@
 (  ノ`) 


 そこには形を成した「恐怖」が待っていた。

( ´_ゝ`)「あっ」

( ゚_ゝ゚)「あばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば」

 母者の姿を目にした兄者は避けられぬ死を悟り、全身の筋肉が完全に硬直した。

ミセ*゚ー゚)リ「すみません、私には止められませんでした……」

131 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 23:19:25.90 ID:pcSLVknV0
 美芹の謝罪も、兄者の耳には届かない。

 @@@
@#_、_@
 (  ノ`) 「忘れたわけじゃなかろうね、兄者」

( ゚_ゝ゚)

 @@@
@#_、_@
 (  ノ`) 「お前は母親に何も言わずに家を出た大馬鹿だ。お仕置きは当然、だ」

( ゚_ゝ゚)イヤ、アノ、ソノ

 @@@
@#_、_@
 (  ノ`) 「問答無用ッ」

133 ◆BR8k8yVhqg [AA1] [AA2] :2013/08/30(金) 23:21:00.28 ID:pcSLVknV0
                 「\        .「\
                 〉 .>       〉 〉
                 / /       / /
                /  |         /  |
                /  / @@@ /  /
               (  〈.@# _、_@/  /.   |
                \ `ヽ  ノ` )  /    ∥
                 \ \^ /  /ヽ
               | / ヽ   `´  ノ  ヽ
               ∥( 、|     /ノ  ノ  |
             |   ヽミ´    彡 ) イ   ∥
         |   ∥  ノノ      | ⌒ヽ
         ∥    / /      .|‐i.  l     |
         _     / ノ , _  、 ヽ`ヽ_ /    ∥
        (`ヘ -‐ ' ´⌒´ (;、 ゝ ,) 、 / .)"´`ヽ、_
        丶_,, ニテ-‐T´ ̄∨ ̄∨  ̄/ /ー -t 、_n,)
          .く _,, -ー┘          し´


                  @@@@
                 @# _、_ @
                  (  ノ` )
         ∧_∧   _,ノ⌒゛ ^/⌒ヽ
     /⌒(; ´_ゝ`)⌒ ー--、´ ,/`/
     / /~〔_彡.ミ⌒ヽー,==-、 ヽ_,zn'
    | | /    `^,/  ̄,ノ   ヽ、__^ノ
    彡ノ |      /⌒ヽ i⌒ ー 、 ヽ
       ヽ     l人  |  .)  ` . | ー┐
        \    `⌒ |  ノヽ、_  ノ^ヽ」
        ノ ヽ 、 __ ノ  |     ̄ ` ー- ┐
      く_ _」   と__,,_」 ̄ ̄` ー―-、 l


135 ◆BR8k8yVhqg [AA] :2013/08/30(金) 23:22:05.24 ID:pcSLVknV0
, -=''"" ̄ ̄""=-―,.、
  _,=、            ̄=.、
   彡             "" - ,
    >                ヽ
   :"  .__=__  ̄=.、   \
  /  彡⌒  | |@@@=--,、    ヽ       .'  , .. ∧_∧ 
  /彡" /~ニ | @# _、_@  "ヽ     ヽ    .∴ '     (    )
 /   ( /_/  |(#  ノ`)     \   ミ     ・,‘ r⌒>  _/ /
     ヽ ミ  .|ヽ,- ^ ⌒ヽ. ,_   ミ   ,i      ’| y'⌒   ⌒i
       ̄| ミ   ノ|ヽ Y|三)  ヽ  .|       |  /  ノ |
       |  |   / \_ノ    |ミ  ij       , ー'  /´ヾ_ノ
       ヽ ヽ  |         |  |i       / ,  ノ
        "ー、  |        |   ノ     / / /
           ヽ ヽ      ノ / /     / / ,'
            ヽ ヽ    // /   /   /|  |
            /   )    / /    !、_/ /   〉
           / /    /           |__/
          |  |
          \_|


136 ◆BR8k8yVhqg [AA] :2013/08/30(金) 23:23:07.35 ID:pcSLVknV0
               _, ‐ ' ゙ ゙̄ヽ,
  。 ゚,        , '゙          )
    。     ,ノ!,'         ◎/
  ゚ ゚,,.. --─- ノ゙!,/            ,'               /二二ヽ
  て   ゙̄'i;  ノ゙!,!゙         ゙i, ノ                イ _、 ._ 3_,.   ' ‐ .,_
  てて 。 ゙'゙ ,!V         ,゙゙ :,   。            ゙ヽ⊿`ノ^~          ゙)
 !.  ,゙      !!.,i         ノ゙,  .'.,   。            )⌒ヾ_.       ,.. ‐'゙
   .|      ! !_!_     ,'゙  i.,_ ゙,              .,_ノ .^フb'-'=y-‐ ' ゙
 i i |.       ! .!_!    ,゙   ゜ ゙!i,'              !゙k,\(
   .!.       i .i'i   ,゙                   ,べ,ヘへべ,_
 i  .i.      ゙, ',   !       。            Y(   〉 ヾ\
  ! i ',      '!,',   !,        。           〉 ヘ       ゞ\
 ヘ  ' ,      ' ,   ',                   (     ゝ Y   〉
    ヘ \.      \  ' ,        。゜        .ゝ 〉       ゞへ
 \ へ   \.       \,. ゙' ,      。 ゜。 。 ゜    「゙Y   く /   へ入
  へ  \ \        ゙ ' ‐゙ '_‐:,_   ゚)\ノヽ  _,, 〆、 ゝ゜ 。゚ヘ く  ヘ 〉、
     へ    ' .,          '! !  ゚ノ)\)\λ  \\\))\ル))\「    〉入
          へ   ' , へ ノ(ノ( '.,_' ノ )\λ )\ ) ) .) ) )) \∠~く  へ べ\



 ※あまりにも凄惨な映像であったため、番組内容を変更し『麻生太郎が世界を釣る』をお送りしています。

139 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 23:25:31.20 ID:pcSLVknV0



( ゚_ゝ゚)「…………はっ! 夢か! 母者にボコボコにされる夢を見た……」

ミセ*゚ー゚)リ「おはようございます、兄者さん。それは夢ではありません。現実です」

 薄い布団を蹴飛ばして跳ね起きた兄者を、美芹の冷静な声が迎えた。
 窓の外からは柔らかい陽が差し込んでいる。布団の横には水の入った桶、手拭、美芹。

ミセ*゚ー゚)リ「ずっと寝込んでいたんですよ。このまま死んでしまうのではないかと心配しました」

 手拭を固く絞りながら美芹は説明を続けた。
 母者の折檻により気絶した兄者を引きずって渋沢家まで運び、この部屋に寝かせたこと。
 三日三晩もの間、兄者は目を覚まさず悪夢に魘され続け、美芹が看病していたこと。

( ´_ゝ`)「昔から変わってねえ。母者のお仕置きは精神にくるんだ……」

ミセ*゚ー゚)リ「あれだけ激しく殴られ蹴られ投げられたのに、骨折はおろか脱臼すらしていませんね」

( ´_ゝ`)「それも変わってねえ。どうやればそんな暴力が身につくんだろうな」

ミセ*゚ー゚)リ「つくづく、恐ろしいお方です」

 母者に殴られたのは何年ぶりであっただろうか。
 兄者の成長につれて母者のお仕置きも恐ろしさを増したが、頻度は少なくなっていった。

144 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 23:28:27.12 ID:pcSLVknV0
ミセ*゚ー゚)リ「新しい刀をお持ちですね」

 布団の横に並べられた一振りの刀を指し示す美芹。

( ´_ゝ`)「ああ、『鬼丸』だ」

ミセ*゚ー゚)リ「これが神陽級大業物『鬼丸』ですか。眼福とはこのことでしょう」

( ´_ゝ`)「刀身を見せようか?」

ミセ*゚ー゚)リ「いえ、遠慮しておきます。稽古場以外での抜刀は、父様に許可を頂く必要がありますから。
      それより、偽物の『星駆』はどこへやられたのですか? 私には見つけられませんでしたが」

( ´_ゝ`)「あー、えっと……蔵に置いてきた。気にするな」

ミセ*゚ー゚)リ「そうですか」

 誤魔化されたことを敏感に感じ取ったのだろうか、美芹は口を閉ざした。
 悪いとは思いながらも真実を言うわけにもいかない兄者は、話題を変えることにした。

( ´_ゝ`)「俺の目的は達成したし、そろそろ出て行かなくちゃあな」

ミセ*゚ー゚)リ「体力を戻してからの方がよろしいでしょう。もうしばらく逗留してください」

( ´_ゝ`)「あまりぐずぐずはしていられん。軍にもらった休暇に余裕が無いんだ」

145 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 23:31:31.57 ID:pcSLVknV0
ミセ*゚ー゚)リ「とにかくお粥を持ってきますから、食べたらもう少し眠ったほうがいいですよ」

 美芹が立ち去り、兄者は布団に体を横たえた。木造の天井に視線を泳がせる。

( ´_ゝ`)「弟者」

(´<_` )「おう」

 枕元、先ほどまで美芹が座っていた位置に弟者が出現した。

(´<_` )「あの小娘に感謝しろよ。兄者が寝てる間、ほとんど休みもしないでここに座ってたぜ」

( ´_ゝ`)「感謝してるさ。というか、自分の間抜けっぷりが恥ずかしい」

(´<_` )「ようやく自覚したのか阿呆め」

( ´_ゝ`)「うるせえな」

(´<_` )「一日で体力を戻せ。さっさとこの国を出るぞ」

( ´_ゝ`)「言われなくてもわかってるさ。美芹には反対されるだろうが」

(´<_` )「長居は良くない。兄者にとっても、この国にとっても――」

 そしてあの小娘にも、と悪魔は独りごちた。

147 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 23:34:03.65 ID:pcSLVknV0
 翌朝、兄者はワコクを発つことを渋沢家の者達に伝えた。

( ・`ー・´)「兄者、もう行ってしまうのか? 早すぎるよ!」

( ´_ゝ`)「世話になったな。嫁さんと幸せにな」

( ・`ー・´)「また帰って来いよ。今度は僕と勝負しよう!」

 雅志は屈託の無い笑みを見せ、兄者と固く手を結んだ。
  _、_
( ,_ノ` )「『鬼丸』が折れちまったら持ってきな。今じゃ俺以外に打てるやつぁいねえ」

( ´_ゝ`)「ありがとうございます」
  _、_
( ,_ノ` )「ま、折れるような刀でもねえがな」

 からからと笑いながら渋沢極堂は家の奥に戻ってゆく。

ミセ*゚ー゚)リ「では参りましょうか、兄者さん」

( ・`ー・´)「あれ、美芹も一緒に行くのかい?」

( ´_ゝ`)「今日は関所まで荷物を運ぶ日なんだろ。この間のこともあるし、護衛も兼ねてな」

ミセ*゚ー゚)リ「違います。兄者さんが心配だから監視するんですよ」

( ・`ー・´)「なるほどね」

148 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 23:36:33.36 ID:pcSLVknV0
 流石家に挨拶をする必要は無い。
 馬に荷車を引かせ、兄者と美芹は関所に向かう。

 すれ違う街の人間は、みな美芹に笑顔を向けて会釈する。
 美芹も律儀に礼を返す。時には立ち止まり、二言三言の会話を交わす。

( ´_ゝ`)「人望があって羨ましいよ」

ミセ*゚ー゚)リ「そうですか?」

 荷車の陰で兄者がつぶやくと、馬の腹を撫でながら美芹が笑った。

ミセ*゚ー゚)リ「兄者さんは、人望のようなものがお嫌いですよね」

( ´_ゝ`)「なんでそう思うんだ?」

ミセ*゚ー゚)リ「人の目を気にするのならば、今の兄者さんはいなかったでしょう」

 美芹の言葉は的を射ていた。
 事実、兄者が他人の意見を素直に取り入れる性分なら、そもそもワコクを出てはいない。

( ´_ゝ`)「今はそうでもないさ。俺も年を食ったからな」

 街を出て、緑が深い山道に進んでいく。
 木々の葉に遮られ、地を照らす灼熱が幾分か和らいできた。

150 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 23:39:19.57 ID:pcSLVknV0
 二人はぽつぽつと他愛ない話をしていたが、雲が太陽を隠し、同時に押し黙った。
 辺りは薄暗い。そしてそれ以上に、奇妙な冷涼の気が漂っている。

( ´_ゝ`)「美芹」

ミセ*゚ー゚)リ「はい。囲まれていますね」

 微かな魔力、そして獣の臭気。
 これだけ濃厚な気配を発していれば、二人のような達人でなくとも気付いただろう。

( ´_ゝ`)「魔物……また真昼間からかよ、いったいどうなってんだ」

ミセ*゚ー゚)リ「逃げるという選択肢は無さそうですね。兄者さんに同行頂いて正解でした」

 野生に身を置く魔物は、その全てが気配を消すことに長けていると考えてよい。
 それにも関わらず、今、溢れ出る殺気を隠そうともせずに二人を取り囲んでいる。
 つまり――悟られても構わない。既に、「狩り」の布陣は完成しているというわけだ。

( ´_ゝ`)(弟者を呼ぶわけにもいかないな。やるしかねえか……)

 まだ兄者は『鬼丸』に慣れていない。
 初めて振るうのが実戦、しかも魔物相手とは大いに不安だが、致し方ない。

ミセ*゚ー゚)リ「兄者さん。お願いします、積荷を守ってください」

 腰に差した二振りの刀を、美芹は抜き放った。

152 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 23:41:14.63 ID:pcSLVknV0
 冥瞳級大業物『螺鈿』、極堂級大業物『烽火』。彼女が持つ刀は、いずれもが傑作。
 『螺鈿』は柄飾りに美しい意匠を持つ刀で、一般的なものより少し短い。
 『烽火』は渋沢極堂が美芹のために打ち、銘をつけた刀である。かなり短く、二刀流用とも言える。

( ´_ゝ`)「無理するなよ。命あっての物種だ」

ミセ*゚ー゚)リ「わかってます」

 とん、と美芹は地を蹴った。軽やかな跳躍で馬車を越え、姿は見えなくなる。

( ´_ゝ`)「……さて」

 慣れぬ刀での居合は難しい。兄者は『鬼丸』の鯉口を切り、下段に構えた。

( ´_ゝ`)(どっからでもきやがれ)

 馬車に背を向けて、兄者は深緑の奥を見つめた。気配は段々と濃くなっている。
 不安定な状況であるが、不思議なことに、負ける気はしなかった。
 刃と自分の腕に全てを懸ける。闘いの本質は、今までと何も変わらない。

 一陣の風が――木の葉を揺らした。

 木々の間隙を縫い飛び出してきたのは、大きな黒塊。
 入国の際にも対峙した魔物、『玄狐』である。

160 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 23:50:04.93 ID:pcSLVknV0
( ´_ゝ`)「全くこいつらは、いつからワコクの送迎係になりやがった」

 疾風怒濤、魔物は四つ足で地を踏み抜け、兄者に喰らいつこうとする。
 上顎と下顎の間に兄者は『鬼丸』を滑らせる。さしたる抵抗も無く、相手の頭部が真二つに切断される。

( ´_ゝ`)(なんて切れ味だ)

 魔物の頑強な骨格をいともたやすく、水盆に針を落とすが如き手応えで、切り裂いた。
 一拍を置いて、『玄狐』は盛大に血と脳漿を撒き散らしながら崩れ落ちた。

 断末魔が呼び声となったか、次々と『玄狐』が姿を現し始める。
 どれもが明確な殺意を兄者に向けている。ちりちりと空気が乾燥していくのが肌で感じられた。

 言葉は不要であった。

 兄者は侍として己の刀に。
 玄狐は獣として己の牙、そして爪に。

 懸けるものは命。付属するところの膨大な未来。過去。
 不明瞭な瞬間を以て、現在、敵の全てを粉砕するための死合に突入した。

( ´_ゝ`)「おおァ!!」

 円の軌跡で『鬼丸』を横に薙ぐ。
 刀は身体に轍を残し、脚や爪や耳や鼻や臓物、一切合切が斬られ飛ばされてゆく。

164 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 23:53:08.97 ID:pcSLVknV0
 『鬼丸』は――名を体現するように、鬼神の威力を誇る。
 しかしこの刀は、誰が扱っても同じように強いというわけではない。

 父者は「人と刀が異心同体となる」と言った。

 しかり、『鬼丸』は主の一部となるために生まれた刀である。
 兄者の技術。膂力。精神。信念。欲望。体調。魔力。熱量。
 その全てが柄を迸り、峰に流れ、鎬に脈打ち、刃に発露する。

 兄者が『鬼丸』を振るう時、そこにあるのは人と刀ではない。
 あるのはただ、破壊せんとする意思、そして、それを伝達し具現化する手段。

 『玄狐』は、決して懦弱な魔物ではない。

 ただ、鬼を相手取るものとしては、矮小に過ぎた。

 一振るいごとに血の華が咲く。
 蝉時雨もそよぐ木の葉も置き去りにして、兄者は凄惨な現場を描き出してゆく。

 斬り下げ、斬り抜け、斬り払い、斬り上げ、斬り捨て、斬り落とし、斬り倒す。

167 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 23:56:31.50 ID:pcSLVknV0
 七頭目の『玄狐』を斬り伏し、次の相手が視界に入ったところで、兄者は忘我の境地より帰還する。

 佇んでいたのは二頭の『玄狐』。今までのものより一回り大きい。
 そして、両方共に、前脚の一本が欠けていた。

( ´_ゝ`)(こいつらは……)

 兄者がワコクに入った際に撃退した個体に間違いない。
 傷は癒えているようだが、完全に脚が再生したわけではないらしく、三本脚で歩いてくる。

( ´_ゝ`)(何故だ?)

 このとき初めて、兄者の中に疑念が沸いた。
 そもそも何故、『玄狐』達は人間を襲撃しているのか。

 魔物とはいえ生物である。むやみやたらに自分の命を危険に晒したりはしない。
 凶暴性の少ない『玄狐』が人を襲うとすれば、身を守るためか腹を満たすためだ。

 目の前にいる『玄狐』は飢餓に苦しんでいる様子には見えない。
 そして、兄者のほうから喧嘩を仕掛けたわけでもない。
 戯れにしては数が多すぎる上に、勝てぬと知っても挑んでくる。

 およそ納得できる理由が見当たらない。

 美芹は聡明だ。兄者が思い至ったことに、彼女も必ず思い至っている。
 そしてきっと――答えを知っている。

170 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/30(金) 23:59:42.66 ID:pcSLVknV0
 二頭は左右に分かれた。
 片方がゆっくりと兄者に歩み寄ってくる。

( ´_ゝ`)(…………)

 今は考えても仕方ない。
 とにもかくにも敵を倒すだけである。

( ´_ゝ`)「ッ!?」

 視界の端、もう片方の『玄狐』が、唐突に駆け出した。
 三本脚とは思えない速度で馬車に迫っている。

 止めなければ、と脚を踏み出した瞬間、眼前の『玄狐』が飛び掛ってきた。
 本来ならばありえない油断。数瞬の思考は数秒の停止を生み、兄者の身体を軋ませていた。

 繰り出された『鬼丸』は、不本意な姿勢と心構えゆえに本来の力を持ち得ず。
 魔物の胴体に食い込んだが、両断するには至らず、肋骨に押し留められた。
 『玄狐』は突進を止めなかった。押し飛ばされ、地に転がる兄者。

 派手な音がして、馬車に『玄狐』が激突したことを知る。

『兄者さん! 荷車を壊させないでください!』

 美芹の声が響くが、返事をできる余裕も無い。

172 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/31(土) 00:02:26.72 ID:jH6E5nUX0
( ´_ゝ`)「くっ……そ、息が……」

 胸部に大きな衝撃を受け、上手く空気を吸うことができない。
 よろめきながら立ち上がる。そうしているうちにも、二度、三度と馬車への攻撃は続く。

 手を伸ばせば届く距離に、『玄狐』の大きな頭があった。

 気付けば、兄者の手元から『鬼丸』が失われていた。
 先刻突き飛ばされた際に放してしまったらしい。兄者は、死神の息吹が首筋にかかるのを感じた。

『…………』

 しかし魔物は兄者の頭を噛み砕かず、一瞥をくれただけで顔を背けた。
 そして、三本脚でゆっくりと馬車のほうに向かってゆく。

( ´_ゝ`)「……?」

 刀を持たない自分は脅威はでないと判断されたのだろうか?
 しかし、戦闘不能に陥るほどの深手を与えられたわけではない。

 混乱しきりながらも、転がっていた『鬼丸』を拾い上げる兄者。

 その時、一際大きな音を立て、馬車の側面に穴が開いた。

176 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/31(土) 00:05:46.09 ID:jH6E5nUX0
 二頭の『玄狐』が、穴を拡げながら中に侵入する。

 程なくして外に出てきた『玄狐』の口には、何か塊のようなものがくわえられていた。
 塊は黒っぽい毛に覆われており、小動物のように見える。

(;´_ゝ`)「!!」

 それが何であるかを理解した瞬間、兄者は総毛立った。

 間違いない――あれは、『玄狐』の幼獣だ。
 生まれてまだ一月も経っていない、自身では餌をとることすらままならない時期である。

 くわえた幼獣をやさしく地面に置き、再び二頭は荷車の中へ入った。

(;´_ゝ`)(じゃあ、こいつらが襲撃してきたのは……自分達の子供を奪還するためか?)

 何故、魔物の幼獣などというものを運搬しているのか。

 新たな子をくわえ、『玄狐』が穴から顔を覗かせた。

ミセ*゚ー゚)リ「――はッ!!」

 そこに二条の白刃が降る。
 車体を乗り越えた美芹の、その両手に握られた『螺鈿』『烽火』が、魔物の首を寸断した。

 二つの首がごろごろと転がり、脱力した顎から開放された幼獣が力なく横たわる。

179 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/31(土) 00:08:44.70 ID:jH6E5nUX0
ミセ*゚ー゚)リ「積荷を守ってくださいと、あれほど言ったのに」

 美芹は言ったが、その表情は不満げではなかった。
 むしろ、如何なる感情や主張も、彼女の顔色に表れてはいなかった。

ミセ*゚ー゚)リ「――とはいえ、これで最後の魔物みたいですね。お疲れ様でした」

( ´_ゝ`)「どういうことなんだ?」

ミセ*゚ー゚)リ「何がですか?」

( ´_ゝ`)「この現状だよ」

 死屍累々の中心に二人は立っている。

ミセ*゚ー゚)リ「ご覧のとおりです。この魔物はある程度の集団で群れを作り、共同で狩りや育児をします。
      自分達の子供を取り返そうと襲ってきたのでしょうね。残念ながら、その試みは失敗ですが」

( ´_ゝ`)「わからん」

( ´_ゝ`)「何故、魔物の幼獣を捕獲して運ぶ必要がある。それも生かしたままで?
      生きた魔物を輸出入することは、ずっと昔から国際条約で禁止されてるはずだ」

ミセ*゚ー゚)リ「知っています。しかしこれは必要なことなのです」

184 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/31(土) 00:12:32.56 ID:jH6E5nUX0
( ´_ゝ`)「何に必要なんだよ。親から子を奪い、取り戻しにきた親をぶち殺すことが」

ミセ*゚ー゚)リ「どうしてそんなに怒っているんですか?」

 首を傾げる美芹。しかし、本当に兄者の言いたいことがわからないわけではないだろう。
 深遠を洞察するだけの賢さは彼女に備わっている。

 しかし、自分をあえて愚鈍に見せるだけの器用さは、持ち合わせていないようであった。


( ´_ゝ`)「そんなことをする奴は、侍じゃない」


 自身の本心を偽ることは。
 美芹には、できるのかもしれない。

( ´_ゝ`)「俺が納得できるような理由を言ってみろ。でなければ、俺はお前を許さん」

 兄者には、できない。

ミセ*゚ー゚)リ「……申し訳ありませんが、お答えすることはできません」

ミセ*゚ー゚)リ「何故答えることができないのかも、答えられません」

ミセ*゚ー゚)リ「そういう契約ですから」

186 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/31(土) 00:16:11.64 ID:jH6E5nUX0
( ´_ゝ`)「契約、か」

ミセ*゚ー゚)リ「一つだけ忠告ですが、関所で積荷を受け取る方に詰め寄っても無駄ですよ。
      その方はただの運送業者にすぎません。運搬物の内容には関知しません」

( ´_ゝ`)「ふん」

ミセ*゚ー゚)リ「私とは違い、プロの方です。尾行して行方を突き止めることも困難でしょうね」

( ´_ゝ`)「忠告ありがとうよ。だが、積荷はこの国から出させない。俺が納得するまではな。
      臨時とはいえ、俺は連合国軍兵士としての権限を持っている。逮捕権もだ」

( ´_ゝ`)「条約違反ともなれば、査問会の招集を要請することもできる」

ミセ*゚ー゚)リ「私を尋問するんですか?」

( ´_ゝ`)「やりたくはないさ。だが、そういうこともありえるという話だ」

 会話を続けながらも、兄者の脳は目まぐるしく回転を続けている。
 露見すれば重罪となる積荷。当然、対価となる報酬金も相当な額になるはずだ。
 大きなコストとリスクを支払ってでも、生きた魔物を手に入れたい者とは、いったい何だ。
 そして、美芹が交わした契約とは。

ミセ*゚ー゚)リ「建設的な話をしましょう。私は積荷を運びたい。兄者さんは運ばせたくない」

ミセ*゚ー゚)リ「互いに妥協ができないのなら――強引に押し通すしか、ありませんよね」

188 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/31(土) 00:19:05.86 ID:jH6E5nUX0
 『螺鈿』『烽火』の切っ先が、兄者に向けられる。

 美芹の顔は、先ほどまでのような無表情で固められてはいない。
 今、透き通るような決意と、張り裂けそうな覚悟で、兄者に敵意を突きつけている。

 兄者は――美芹の内で吹き荒れる葛藤と矛盾に気付かず、『鬼丸』を構える。

ミセ*゚ー゚)リ「侍じゃない、と兄者さんは言われましたが」

ミセ*゚ー゚)リ「私は侍です。それだけが……私の誇りです」

( ´_ゝ`)「だったら、その誇りで俺を斬り伏せてみせろ」

 俺は、俺の誇りでお前を打ち砕く。


ミセ*゚ー゚)リ「渋沢美芹――参ります」


( ´_ゝ`)「流石兄者、じゃねえやただの兄者。受けて断つ」


 

189 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/31(土) 00:21:33.68 ID:jH6E5nUX0
 勝敗は、あっけないほど簡単に決した。


 真っ二つに折れ、地に転がっているのは二本の刀。『螺鈿』『烽火』だった。
 その脇では美芹が膝をついて荒い息を吐いている。

( ´_ゝ`)「大きな血管や神経には傷をつけてない」

 美芹の脹脛から『鬼丸』を引き抜き、兄者は治癒魔法を発動した。
 癒士でない兄者が行える治療は応急手当程度であったが、傷口からの出血はそれで止まる。

( ´_ゝ`)「だが、自力では歩けんだろう。関所まで背負っていってやるよ。積荷は置いてくがな」

ミセ*゚-゚)リ「……また、負けてしまいました」

 兄者の言葉が耳に入らないかのように、美芹は誰へともなくつぶやく。

ミセ* - )リ「血を吐くような努力をしても貴方には届かない。だとしたら私は――」

 途中、美芹は脱力して倒れ伏した。慌てて駆け寄り、上体を抱きとめる兄者。
 気を失っている彼女の目尻から頬へ、一筋の雫が流れた。

( ´_ゝ`)「……なに泣いてんだよ」

『お見事、兄者。お前はまさに鬼のような男だな』

 兄者の背後から朗々と声が響いた。

192 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/31(土) 00:24:15.54 ID:jH6E5nUX0
 振り向くと、そこには枯れ木のような男が立っていた。
 長身痩躯に温和な顔立ちの風貌は、兄者の古い記憶を刺激する。

( ・´ー・`)「俺がわかるか?」

( ´_ゝ`)「……孝史か? 渋沢孝史?」

( ・´ー・`)「正解だ。兄者。美芹から僕のことは聞いているだろう」

 ふらふらと歩み寄ってきた渋沢孝史は、美芹の体をひょいと担ぎ上げる。

( ・´ー・`)「立ち話もなんだ、少し付き合えよ。近くに僕の家がある」

 孝史は兄者の目をじっと見つめた。嫌とは言わせないと、そういうことらしい。
 兄者にとっては特に断る理由もない。美芹を介抱してくれるのなら、大きく手間が省ける。

( ´_ゝ`)「孝史、ずっとこんな山の中に住んでんのか?」

( ・´ー・`)「そうだ。川の水を飲み、野草や獣を食い、自由に暮らしてる」

( ´_ゝ`)「誰にも会わずに?」

( ・´ー・`)「そうだ――いや、違うな。美芹だけはたまに僕の家を訪れる」

 やさしい妹だ、と孝史は微かに笑った。

193 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/31(土) 00:27:14.94 ID:jH6E5nUX0
 孝史の家は大きな丸太を組み合わせた簡素なものであった。
 唯一の家具として置いてあるベッドには、現在、美芹が寝かせられている。

( ・´ー・`)「兄者。美芹を許してやってくれ」

 固く絞った濡れ手拭を美芹の額に当てながら、孝史は言う。

( ・´ー・`)「あのような稼業に手を出してはいるが、美芹とて心を痛めていないわけじゃない」

( ´_ゝ`)「なんだそれ。孝史は何を知っているんだ?」

( ・´ー・`)「全てを。美芹はきっと、僕が事情を話すことは望まないだろうが――。
       仕方ない。可哀想すぎて見ていられないんだ。これ以上、美芹を悲しませたくない」

 一番訊きたいことはなんだ、と孝史が問う。

 魔物の子を輸出する理由は、と兄者が問い返す。

( ・´ー・`)「簡単だ。高値で売れるからだよ。様々な研究に魔物の素体が欠かせないが、国際取引はできない。
       しかしワコクなら、国内に密猟を監視する機関が無く、武家の者ならロクに積荷の確認もされない」

( ・´ー・`)「もちろん、魔物を欲する者にとってここだけが『産地』というわけではないだろうが」

( ´_ゝ`)「いったい誰が取引相手なんだ」

( ・´ー・`)「それは知らん。莫大な予算を扱えるところだ。政府か、軍か、あるいはその両方だろう」

196 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/31(土) 00:30:10.47 ID:jH6E5nUX0
( ・´ー・`)「こちらにも見返りはある。数年前に流行した疫病の話を知っているか?」

( ´_ゝ`)「ああ」

( ・´ー・`)「あのときに美芹が輸入したワクチンは、その取引先が売ってくれたものだ。
       美芹がこの仕事をしていなかったら――ワコクの人口は今の半分以下まで減ったかもしれん」

( ´_ゝ`)「……それは結果論だ。どうして美芹はそんな稼業に手を出してまで金を求めた?」

 渋沢家はワコクを支える強大な武家である。当然その財産も、相当な規模になっている。
 わざわざ危険を冒してまで仕事をする必要は全く無いように思えた。

( ・´ー・`)「この国を守るためさ」

 孝史は美芹の苦しそうな寝顔を眺めている。

( ・´ー・`)「ワコクは強固で不可侵な国家に見えるが、実際は、不安定で曖昧な集団にすぎない。
       もう、精神論と伝統だけでなんとかなる時代ではないんだ。ずっと前からそうだった」

( ・´ー・`)「残念ながら――ワコクを守るために必要なのは、暴力でも知識でもなく、金なんだよ」

( ´_ゝ`)「理解できないな」

( ・´ー・`)「そうか。お前は本気で国を守ろうなんて考えたことないだろうからな。仕方ないさ。
       だが、美芹は違う。こいつは賢い。残酷な現実から目をそらさずに受け止めている」

202 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/31(土) 00:34:09.11 ID:jH6E5nUX0
( ・´ー・`)「こんな話を知っているか? 最近、『ワコクを制圧して統合すべし』とする思想をもつ議員が、
       タチバナの法議国会に続々と現れ始めた。彼らは新たな政党を組んで政権を狙っていた」

( ・´ー・`)「だが、彼らの多くは汚職で摘発されて罪人となった。政党は解散し、ワコクは救われた」

( ´_ゝ`)「それがどうした」

( ・´ー・`)「仕組んだのは、美芹なのさ」

 タチバナという国家にとっては一大事であっただろう事件を、世間話のように孝史は語る。

( ´_ゝ`)「汚職を告発したってことか?」

( ・´ー・`)「違う――いや、違わない。正確には、それを含めた全てをした」

 議員達に政党を組むだけの力を蓄えさせた。
 『反ワコク』を目論む者達を結束させ、政党に不正な献金をするように煽った。
 最終的に汚職を告発し、政党と後援者達を一網打尽に突き落とした。

( ・´ー・`)「そもそも、議員達がもった『反ワコク』の思想自体が、外部によって植えつけられたものだ」

( ´_ゝ`)「何?」

( ・´ー・`)「一度山を全部燃やしてしまえば、もう火がつかないということだ。事件が大きいほど反発も大きい。
       『反ワコク』=『犯罪者』のイメージを払拭することは、今後十年は不可能だろうと考えられる」

205 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/31(土) 00:37:44.82 ID:jH6E5nUX0
( ´_ゝ`)「いや、わからねえよ……そこまでする必要があったのか」

( ・´ー・`)「あったんだ。我々は外交に対して無知で、無頓着で、無関心すぎた」

( ・´ー・`)「美芹が一人で実行したとは思えない。おそらく取引先の何者かが協力したんだろうな。
       一連の真相を知っているのは、美芹本人を除けば、この国では僕だけだ。父上も知らん」

( ´_ゝ`)「どうしてそれを、俺に?」

( ・´ー・`)「さっきも言ったが、美芹があまりにも可哀想だと思ったからだ。
       美芹があんな仕事をしているのは――いや、そもそもワコクを守ろうとしているのは」



( ・´ー・`)「流石兄者、お前のためなんだ」



( ´_ゝ`)「…………は?」

( ・´ー・`)「これ以上は僕の口から語れない。だが推察できないほどに難解な秘密じゃない」

( ´_ゝ`)「おい、どういうことだよ!」

( ・´ー・`)「申し訳ないがもう出て行ってくれ。美芹は僕が介抱して家に送り届ける。心配は無用だ。
       樹木に赤い布が巻いてあるからそれを辿れば関所に着く。そして、関所を抜けたら――」

( ・´ー・`)「――――もうワコクには戻ってくるな。これ以上美芹を苦しめるなら、僕がお前を斬る」

209 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/31(土) 00:41:08.99 ID:jH6E5nUX0
 




(#´_ゝ`)「なんッなんだよ、ちくしょう!!」

 兄者が道標の木を思い切り蹴る。みしみしと音を立て、大人の胴ほどある幹が裂けていく。

(´<_` )「『僕がお前を斬る』ときたもんだ。美しい兄妹愛じゃないか」

 大股で歩く兄者に付き従うように弟者が姿を現した。
 けらけらと笑う悪魔に一瞥もくれず、兄者は雑木林を突き進んでゆく。

( ´_ゝ`)「呼んでねーぞ、弟者。引っ込んでろ」

(´<_` )「おう、八つ当たりはやめてほしいもんだね。べつに兄者を怒らせに来たわけじゃないぜ」

( ´_ゝ`)「じゃあ何故その腹が立つ顔を見せに来た」

(´<_` )「兄者と同じ顔なんだけどな……」

 少しは落ち着いたのか、兄者の歩幅がやや小さくなっていた。

(´<_` )「あの小娘がこの前言ってただろ。約束を覚えているか、と」

( ´_ゝ`)「ああ、全く思い出せないけどな」

211 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/31(土) 00:44:06.95 ID:jH6E5nUX0
(´<_` )「もちろん俺は兄者と一緒にいたから、この国の事情を把握しているわけではないんだが……。
      さっきの話聞いて、あの小娘の本意はだいたい理解したぜ。教えてほしいか? ん?」

( ´_ゝ`)「言いたいならさっさと言え。つまらん話だったらぶっとばすぞ」

(´<_` )「おお怖い怖い」

 軽薄な笑みを消し、弟者は表情の無い顔で遠くを見る。
 普段形作っている「兄者の顔」ではあるが、中身の異形がにじみ出るかのような虚無が覗く。

(´<_` )「一つ約束しろ。これを聞いたら、兄者、二度とこの国には戻るな」

( ´_ゝ`)「ああ? そりゃ、もう戻ってくるつもりはないけどよ……」

 どいつもこいつも何なんだ、と兄者はぼやいた。

212 ◆BR8k8yVhqg :2013/08/31(土) 00:45:44.41 ID:jH6E5nUX0



 この後の顛末は、また別のお話。


 第十六話:【( ´_ゝ`)は魂を取り戻したいようです】 了





( ・∀・)悪魔戦争のようです
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1377860563/3-



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