まぜこぜブーン

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 第十五話:【されど悪魔は人と踊る】

2 ◆BR8k8yVhqg :2011/12/11(日) 21:23:24.68 ID:YhkXaS6L0
 何ヶ月ぶりとか、そういう小さい事は気にすんな。

【あらすじ】

 今までの話を読みましょう

【登場人物】

 今までの話を読みましょう

【まとめサイト】

ブーン文丸新聞さん http://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/devil/devil.htm

オムライスさん http://vipmain.sakura.ne.jp/645-top.html

毎度お世話になっております。



3 ◆BR8k8yVhqg :2011/12/11(日) 21:26:17.81 ID:YhkXaS6L0

 「気にするほどのことではない」――誰かに相談すれば、恐らくこれに似た答えが返ってくるだろう。
 周囲に指摘されるように、私は少々物事を細かく考えすぎる傾向にある。それは認めよう。
 もちろん生来の性分であるから、いまさらに変ずることもできるはずがない。

 この長らく続く戦争には、幾つか不可解な点がある。

 私のような立場でなければ気付かない、非常に些細な問題である。
 だが、この小さな亀裂を見逃していれば、後々に大きな断裂になりかねない。
 小さな火花からだって山火事は起こり得るのだ。

 そろそろ紙幅が尽きる。
 私の考えについては明日記すとしよう。



 ――――某国軍大将の日記より抜粋 (以降絶筆)



7 ◆BR8k8yVhqg :2011/12/11(日) 21:28:38.95 ID:YhkXaS6L0

 意思の従わぬものなど何一つありはしない。



( ・∀・)悪魔戦争のようです



 第十五話:【されど悪魔は人と踊る】





8 ◆BR8k8yVhqg :2011/12/11(日) 21:30:42.75 ID:YhkXaS6L0

 悪魔の話をしよう。


 「気高き主」『ベールゼブブ』。

 「始祖たる悪魔」『リーヴェ』。

 「声無き悪魔」『エンマ』。

 「戴く者」『サタン』。

 「睥睨する悪魔」『ラプラス』。

 「惑いの刀自」『アスモデウス』。

 「銀狼」『シルヴァ』。


 ここに挙げられた悪魔はいずれも絶大な力を持つ上級悪魔である。
 七領域に相対した七大悪魔――というわけではない。それぞれの力量には差があり、魔界で最も強い者達ではない。
 彼らに共通する点はただ一つ。『純白の円周率』の終焉に関わり、それ以降具現化していないということだ。

 ただ単に姿を現さないというだけならば他にも存在しよう。
 たとえば『ルキフゲ・ロフォカレ』は一度も現実界を訪れた事がなく、他の悪魔に語られるのみの悪魔である。
 しかし前述の七悪魔は、「一度だけ現れた」故に、伝説的にその活躍が語られるのだ。



11 ◆BR8k8yVhqg :2011/12/11(日) 21:34:06.10 ID:YhkXaS6L0

 彼らが現れたのは新暦五百三十一年。
 その後五百年の間に実話は伝承となり、伝承は伝説となった。

 無名有名、何万人もの召喚術士が彼らとの契約に挑んだが、それを果たした者はいない。
 稀代の天才リカーナ=ロードネスでさえ、遂に彼らの姿を目にすることは叶わなかったと言われている。

 「人が悪魔を従えているのではない。悪魔が人を護っているのだ」

 そう言わんばかりに、彼らは黙として舞台に立つことを拒否し続けた。

 逆に、五百年の間、人は天使によって窮地に立たされることは無かったと言うこともできるだろう。



 さて、七体の悪魔の話は終わりだ。

 これらは特に重要な可能性を孕むものではない。
 脳の片隅に追いやり、忘却の海に沈めてもらっても構わない。



 そして話は本筋に戻る。

 ズーパルレ、インクレク村、ユグドラシルの膝下へと。



14 ◆BR8k8yVhqg :2011/12/11(日) 21:37:20.10 ID:YhkXaS6L0

【何処か】


( "ゞ)「……う」


 うっすらと目を開け、大きく息を吸い込むと。
 艶やかな緑と鮮やかな青が視界を満たし、鼻腔には土と草のむせかえるような苦さが満ちていた。

(;"ゞ)「ぐっ」

 どこを痛めたのかわからないほど重い身体に鞭打って、デルタ=オルタナは半身を起こす。
 軽く頭を振って意識を取り戻す。額に手をやると、生温かい血がべっとりとついてきた。

 額に裂傷、右手小指の単純骨折、左肩の脱臼、全身打撲。
 自分の怪我の具合をその程度だと診断して、デルタは少し安心した。

( "ゞ)「あの高さから落ちたにしては……ツいてる方、かな」

 立ち上がって木の幹に寄り掛かり、肩の関節を強引に戻す。溜息を一つ、青い空を見上げた。
 それほど長い時間気を失っていたわけではないらしく、日はまだ高いままだった。
 極彩色の鳥が奇妙な声を上げながら飛んでいく。

 翼の麗しい彩りよりも、蒼穹の突き抜ける透明さよりも、なおはっきりと網膜に焼き付いている情景。

 それは――最後に見たモララーの表情。



18 ◆BR8k8yVhqg :2011/12/11(日) 21:41:06.66 ID:YhkXaS6L0

( "ゞ)「モララー……君……」

 魔法も召喚術も持たない彼が、果たして、命を留めておくことができただろうか?
 衝撃を減衰させる木々や土の無い岩肌に、勢いよく叩きつけられて。

 いくら身体が頑丈であっても、望みは薄い。常識的に考えればそうなる。

( "ゞ)「でも」

 脚は動く。血もそれほど失っていない。歩ける。
 だとしたら、やるべき事は最初から決まっているだろう。

 友を信じて、捜し出して、手を貸してやることだ。

( "ゞ)「はは……こんな、ところで――」



( "ゞ)「――――君が死ぬ、わけがないね。待ってろよ、モララー君」



 何が起こっているのかわからないが、首に紐をくくりつけてでも連れていく。
 神木ユグドラシルの膝下へ。



20 ◆BR8k8yVhqg :2011/12/11(日) 21:43:31.84 ID:YhkXaS6L0

【リワリの滝】


( ФωФ)「さて、ここでどうすればいいのであるか?」

ξ ⊿゚)ξ「……」

 轟々と声を響かせる滝壺。その傍に、幾つかの人影があった。いずれも厳つい顔持ちの男達。
 厚い毛布に包まれたツンを背負うロマネスク、そしてその部下達である。
 ロマネスクの横では、ツンのコートの端を強く握って、しぃが所在なげに佇んでいた。

『この滝と湖なら既に調べましたが、特に変わったところは……』

( ФωФ)「うむ。しかし、この娘が言うことには、まずここへ来るべきと」

 軍人たちの会話が聞こえたのか、ツンはうっすらとその眼を開く。

ξ ⊿゚)ξ「寒い……」

 小さな言葉を紡ぎ出す唇は紫色に変わっており、身体は小刻みに震えていた。

『いったい何の症状でしょうな、これは。この炎天下に「寒い」とは不思議な』

『錯覚ではなく、本当に体温が低下している様ですし』

( ФωФ)「うむ。これほど何枚も毛布を重ねているのに、我輩の背中まで涼しくなってきたである」



21 ◆BR8k8yVhqg :2011/12/11(日) 21:47:11.34 ID:YhkXaS6L0

(*゚-゚)

( ФωФ)「この子は一切口を開かんし……ううむ」

 どうしたものかとロマネスクが頬を掻く。
 神木ユグドラシルの近くまで来ているのだろうが、木々の茂みでその姿は見えない。

『コックリでも召喚して、近くの様子を探らせますか?』

( ФωФ)「獣に道が開けるならば、とっくに我々が開いているであろう」

『それはそうですが……』

( ФωФ)「尋常ならざる方法で『ユグドラシル』は隠されていると考えるのが適当である。
        結界のような魔法か……あるいは地理的に知っている者しか辿りつけないのか」

『結界……フェニックスが棲む火山のようなものですか』

( ФωФ)「うむ。しかし、この辺りに何か秘密がある事には違いない……。
        ヤタガラス、いや、人が乗れる悪魔の方が良いか。空からならば」

『私にお任せください、大佐』

 兵士のなかでも年若い、成人して間もないような顔立ちの男が手を挙げた。
 ロマネスクが何か言う前に、彼は悪魔を召喚する――中級悪魔、黒き竜『ジルニトラ』。
 数ある竜族の中でも騎乗に最適と言われる、大きな翼を持つ悪魔である。



24 ◆BR8k8yVhqg :2011/12/11(日) 21:50:32.26 ID:YhkXaS6L0

( ФωФ)「お前であるか……」

『竜を操る事にかけては、この場の誰にも負けません』

 その言葉を無礼と取り、クレイグ中佐が若者の肩口を掴む。

『貴様、若造の分際でッ』

( ФωФ)「構わん、中佐。事実であろう」

 深く溜息を吐いてロマネスクは首を振った。若者のやや礼儀を欠いた言動には慣れていた。
 彼は、つい先日昇進してロマネスク直属の部下になったばかりである。

『では。すぐに戻ります』

 颯爽と黒竜に跨り、兵士は空へ飛び立っていった。
 どう、と一陣の風が樹海を揺らしながら駆け抜けていく。

『実力は認めますよ、実力は。歳の割に』

( ФωФ)「気にいらんか?」

『軍人としての心構えに欠けます。いずれ痛い目を見るでしょう。……まるで』

( ФωФ)「まるで昔の自分を見ているよう、であるか?」

 二人揃って、苦笑を洩らした。



25 ◆BR8k8yVhqg :2011/12/11(日) 21:54:32.50 ID:YhkXaS6L0

【神木の広間】

 激しく渦を巻き嵐と化した魔力の中心、佇むは科学者。
 髪は振り乱れ、その眉間には深い皺が刻まれている。


从 ゚∀从「世迷う諸王と先駆けぬ鳳凰、迷宮の果て、朝を切り開く多寡の葉蜂」


 複雑に組まれた指と、まるで意味を為さないように思える言葉の羅列。
 省略をしない正式な手法による、魔法の起動手続きである。

『素晴らしい。死んだというあの子には及ばないが、君も才人だな』

从 ゚∀从「――砕け散る舞曲、廻廊の先、蜜蝋に標された時計の扉」

 賞賛するユグドラシルの声に片眉を上げながらも、ハインリッヒは詠唱を続ける。
 一撃で全てを決するつもりなのだろうか。膨大な魔力の満ちる空気は、それ自体が質感を持ち始める。


从 ゚∀从「『ヴィルヴェルンディ・フラメ・デア・ハオプト』!!」


 強靭な意志を瞳に乗せ、ハインリッヒは吼えた。
 一刹那だけ時間が止まり――そして、爆ぜる。魔力が熱量へと変換され、燃える。

 煉獄をこの世に顕現させたかのような、圧倒的にして暴力的な火炎の塊が。



29 ◆BR8k8yVhqg :2011/12/11(日) 21:58:12.93 ID:YhkXaS6L0

从 ゚∀从「終わりだァ!!」

 神木の抜け殻でさえ、その奔流の前では、嵐に対峙する向日葵のように思えた。

 ――――だが。

『……どうやら、終わりではない』


 「それ」は空から降ってきた。


 火炎は見えない剣に裂かれたかのように真っ二つに割れ、ユグドラシルの左右を駆け抜けていった。
 灼熱が岩壁に直撃し、異様な蒸気と火花が弾けた。行き場を無くした魔力が八方に散って消えてゆく。

从 ゚∀从「あァ!?」

 科学者であるハインリッヒに、予想を裏切る結果が訪れることは、決して稀ではない。
 むしろ自分の思い通りに行く科学などありえないと、彼女はそう考えている。

 その彼女をもってしても、眼前の光景は信じがたいものであった。

 炎を引き裂いて現れたのは、銀色。
 身を捩りたくなるような、美しい銀色。


イ从゚ ー゚ノi、



31 ◆BR8k8yVhqg :2011/12/11(日) 22:01:45.55 ID:YhkXaS6L0

 それは女の顔をしていた。
 縦に長い瞳孔、高い鼻梁、尖った犬歯など、どこか人間離れした風貌ではあったが、概ねして美しい女であった。
 ただし明らかに不自然な点として、頭の上に獣のような耳が付属している。

 首から下は、銀一色の和服に覆い隠されている。
 布が銀色なのではなく、金属の銀が布の形をとったような、不思議な質感を漂わせていた。

イ从゚ ー゚ノi、「はん」

 火の粉を避けようとしたのか、それは軽く首を振った。
 腰下まで届こうかという長い銀髪が揺れ、空中をふわふわと光の粒子が遊ぶ。

 そこにいるだけで、空気が凛と澄み渡るような。

从 ゚∀从「狼……銀色……、『銀狼』……?」

 ハインリッヒの銀髪も、その非現実的な輝きの前では、くすんだ鉄色に見えた。
 ありとあらゆる存在に自我があったとしても、この場で自身の美しさを主張するものなど皆無に違いない。

 その悪魔、『銀狼』の前に立つことは、あまりに畏れ多い。


从 ゚∀从「まさかお前……『シルヴァ』……?」


 伝説として名を残す七悪魔の一つ。

 「銀狼」『シルヴァ』が、そこにいる。


33 ◆BR8k8yVhqg :2011/12/11(日) 22:07:48.24 ID:YhkXaS6L0

イ从゚ ー゚ノi、「お前。私のことを知ってるのか」

 玲瓏な眼をハインリッヒに向け、今初めてその存在に気がついたかのように、悪魔は問いかけた。

从 ゚∀从「知らねェわけがねえだろ。物心ついた頃から知ってるよ」

 ハインリッヒの声は震えていた。それも仕方のないことである。
 五百年も前から語り継がれる伝説を前にして、興奮と畏敬を覚えない者がいるだろうか?

イ从゚ ー゚ノi、「ほー、私も有名になったもんだ……」

『これは驚いた。なぜ君がここに現れる?』

イ从゚ ー゚ノi、「ん? 誰だお前は」

『五百年前にも会っただろう。私はユグドラシルだ』

イ从゚ ー゚ノi、「知らん。興味も無い」

 振り向くことを途中でやめ、再び銀狼は科学者に視線をやる。

イ从゚ ー゚ノi、「私がここにいるのは当然、『こいつ』が来たがったからだ」

从 ゚∀从「こいつ?」

 怪訝な顔でハインリッヒが呟く。すると銀狼は自らの胸に両手を当て、固く眼を閉じた。
 瞬きするほどの短い間に、銀狼の身体がするするとほどけ、その中身が露出する。



34 ◆BR8k8yVhqg :2011/12/11(日) 22:10:11.74 ID:YhkXaS6L0

 そこにいたのは、ハインリッヒの知っている者であった。
 知っているどころか、つい先程まで顔を突き合わせていた相手だ。

( ‐∀‐)

从 ゚∀从「……モララー?」

 どうやら意識を失っているようだが、怪我をしている様子はない。
 あまりの驚きにハインリッヒが言葉を失っていると、霧散した銀の粒子が、時が巻き直されるように戻ってきた。
 その銀色は髪となり肌となり服となり、モララーを覆い隠して悪魔シルヴァを形作る。

イ从゚ ー゚ノi、「そう、モララー=ロードネス。知り合いか」

从 ゚∀从「……お前、魔人でもあるまいし、どうやって憑いてんだァ?」

イ从゚ ー゚ノi、「私もこのような事は初めてだ。別に好き好んで憑依しているわけじゃない……。事故だ。
       どうも具現化する時に別の悪魔を取り込んでしまったような気がするが、そのせいか?」

 「別の悪魔」と言われても、ハインリッヒには何の事だか思い当たるものがなかった。
 モララーといつも共にいた子犬がいなくなっていることなど、この状況下で気付く由もない。

 科学者は合理的に思考を立て直し、現状の打開に努める。

从 ゚∀从「お前、オレの邪魔ァする気か?」



36 ◆BR8k8yVhqg :2011/12/11(日) 22:13:15.53 ID:YhkXaS6L0

イ从゚ ー゚ノi、「はん? いや、お前が誰か知らんし、何をしようと興味がない。別に邪魔はしない」

 既に思いっきり邪魔されてるんだ、と喉まで出かかった言葉を飲み込み。
 その他の好奇心から来る疑問も全て腹の底に収め、ハインリッヒは精一杯言葉を絞り出す。

从 ゚∀从「だったら――何をしに来た?」

イ从゚ ー゚ノi、「言ったろう。モララー=ロードネスが、私の『ご主人様』が、ここに来ることを望んだ」

イ从゚ ー゚ノi、「そしてこうだ。『わけわからんが、とりあえずハインリッヒのやつ』」



( ・∀・)『ボッコボコにしてやんよ』



イ从゚ ー゚ノi、「――だと。だから仕方ない、私は興味ないんだが」

 そこで初めて、狼の細い瞳孔が真っ直ぐにハインリッヒの眼に向けられた。
 見るだけで心凍てつきそうな、眉目秀麗の銀色が、敵意を持って科学者を睨みつけた。

イ从゚ ー゚ノi、「ボッコボコに、させてもらう。思う存分にかかってこいよ、人間?」


 あくまで余談、蛇足の話にはなるが。
 「純白の円周率」終焉の際、上位天使一名を討ち取ったのは、この美しき狼であった。



38 ◆BR8k8yVhqg :2011/12/11(日) 22:17:51.41 ID:YhkXaS6L0



( ФωФ)「――む。戻ってきたな」

 ふとロマネスクが顔を上げると、ちょうど黒竜がゆっくりと降下してくるところだった。
 大地にほど近くなるとジルニトラは翼を畳み、四本の強靭な脚で大地を踏みしめた。

『たっ、大変です!』

( ФωФ)「何だ? 『ユグドラシル』は見えたのであるか?」

『ええ、はい、見えました、ただ、その……ええと』

( ФωФ)「とりあえず落ち着け。ほら」

 尋常ではない様子の若者は、目も真っ直ぐに合わせられないようだった。
 ロマネスクが何回か彼の背中を叩いてやると、やっと冷静さを取り戻したのか、咳払いをして話し始める。

『ユグドラシルは見ました。どうにも道はわかりませんが、あの滝の向こう側辺りのようです。
 それと……そこに、あの科学者ハインリッヒらしき女と……「銀狼」が。「銀狼シルヴァ」が、います』

( ФωФ)「『銀狼』……? ははは、そんな馬鹿な事が起こるわけがないのである。
        どうしてこんな場所に、こんな時に、あの悪魔が姿を現すというのであるか?」

『しかし、魔法で会話を盗み聞きしました。確かにこの耳で「シルヴァ」と聞こえました』



40 ◆BR8k8yVhqg :2011/12/11(日) 22:21:25.79 ID:YhkXaS6L0

( ФωФ)「仮にそうだとしても……」

 仮にシルヴァを名乗る者がその場にいたとしても、それが本物であるとは限らない。
 論理的に考えればすぐにそう思い至ろうが、自分で得た情報というものは、頭から信じたくなってしまうものだ。

( ФωФ)「……まあ良いである。他に何を聞いた?」

『ええと……あまり精確に聞き取れたわけではありませんが、もう一人誰かの名前を聞きました』

( ФωФ)「ほう」

『確か……モララー=ロードネス、と』

ξ゚⊿゚)ξパチリ

( ФωФ)「ロードネス……?」

 その名を聞いた事は無いが、その姓には聞き覚えがあった。
 否、聞き覚えなどと生易しいものではない――はっきりと、知識として、知っている。
 連合国軍に深く関わった者なら、「ロードネス」が意味する事を知っている。

『ロードネス……と言えば、あの「マッドロード」の』

( ФωФ)(どういうことであるか)

 クレイグ中佐の言葉も耳に入らず、ロマネスクは思考を回転させ始める。
 神木、科学者、謎の少女、銀狼、そして天才の名。これらは、一つの原因の下に収束するのか?



41 ◆BR8k8yVhqg :2011/12/11(日) 22:25:10.11 ID:YhkXaS6L0

( ФωФ)「とりあえず」

ξ゚⊿゚)ξ「モララーはどこ?」

( ФωФ)「偵察を……って、ん?」

 今までにないはっきりとした口調でツンが言い、ロマネスクの言葉を遮った。
 毛布の中から手を伸ばし彼の肩を掴む。普段装着している手袋は、先程の無謀な着地のせいだろうか、破れて無くなっていた。

( ФωФ)「おお、意識が戻っ――――!?」

 ツンの素手が触れている肩に激痛を感じて、ロマネスクは低くうめいた。最初は、火がついたかのような痛みだった。
 すぐに理解する。これは痛みではない、熱でもない。その対極に位置するものだ。

(*゚ー゚)「おねえちゃん……?」

『大佐!』

 異状を目にし、部下が慌ててツンの身体をロマネスクから引き剥がした。
 がりん、と小石を踏み割ったような音が響いた。

 ロマネスクの左肩から先が、砕け、落ちた。

(;ФωФ)「ぐ、お、おおおおお!?」

 落ちた腕と、肩の断面は、透明な結晶で覆われている。それは特別な物質ではない。
 どこにでもあるただの――『氷』であった。



43 ◆BR8k8yVhqg :2011/12/11(日) 22:29:41.43 ID:YhkXaS6L0

『う……うわ!?』

 異様な感覚に襲われた兵士が反射的に腕を引くと、指先から掌の中ほどまでが凍りついていた。
 ロマネスクからツンを引き離した男である。わずかに数秒――彼女のコートに触れただけで、その異変は起こっていた。

 明らかな異常事態。

 訓練された玄人である連合国陸軍部隊員の反応は俊敏であった――主に二種類の行動。

 怪我人を前にし治療こそが最優先と、癒属性の魔法を詠唱し始める者。

 そして、事態の原因となっているものを排除せんと、剣を抜き放ち斬りかかる者。

 この場合における原因とは。

ξ゚⊿゚)ξ

 崩れ落ちたロマネスクを見つめるツン=D=パキッシュ――の命を狙い。
 頭を、首を、胴体を、脚を。計四本の軍刀は洗練を感じさせる滑らかさで彼女の身体に吸い込まれていく。


 その全ての刃は砕け折れ、ツンに一滴の血をすら流させるに及ばない。


『!?』

 驚愕の呻き声が四重奏となった。



45 ◆BR8k8yVhqg :2011/12/11(日) 22:33:22.32 ID:YhkXaS6L0

 兵士達の目にはまるで不可視の剛力に刀を折られたように見えたが、事実はその通りではなかった。

 低温の物を斬ろうとする時、鋼は不安定となり歪みや波打ちを生じる。
 構わずそのまま押し切ろうとすれば刃が欠けるに留まらず、時には全体が折れてしまうのだ。
 軍刀の強靭な鋼を以てしても、兵士の鍛えられた膂力を以てしても、単純な物理現象には逆らえなかった。

 ツンの帽子、マフラー、コートには、言われればそれとわかる程度の浅い刀傷がうっすらと残っていた。

『バ……カな、確かに斬りつけたはずなのに……!?』

 砕かれた刀身から己の標的へと視線を移す兵士達。
 その眼には驚愕と混乱、そして恐怖が等しく混合された色が表れていた。

 気付けば、辺りは季節にそぐわぬ冷気で満たされ始めている。

ξ゚⊿゚)ξ「私……は」

 一歩、踏み出す。底の厚いブーツに踏みつけられた草が、自らも気付かぬ間に凍りついて割れる。

(;ФωФ)「何だ――これは? 魔法か? それとも……悪魔?」

『大佐、喋らないでください! 傷に障ります!』

(;ФωФ)「ただの人間が……これほどの魔力を身に収めておけるものでは……」

『大佐! お願いですから!』



46 ◆BR8k8yVhqg :2011/12/11(日) 22:36:09.23 ID:YhkXaS6L0

(*゚ー゚)「おねえちゃん……どうしたの?」

『おい、よせ!』

 ふらふらとしぃが歩き、兵士による制止も聞かず、ツンの傍へ向かう。

(*゚ー゚)「おねえちゃん」

 そして――きゅっとコートの裾を掴む。
 彼女にとってそれが最後の瞬間となった。

ξ゚⊿゚)ξ「…………」

ξ゚⊿゚)ξ「しぃ?」

(* ー )


 髪先から、睫毛から、唇から、爪先まで、眼球まで、舌の根まで、動かなくなっていた。

 凍りついていた。


ξ゚⊿゚)ξ「え?」



49 ◆BR8k8yVhqg :2011/12/11(日) 22:39:20.02 ID:YhkXaS6L0

ξ゚⊿゚)ξ「あっ――――」

(;ФωФ)「くそ! ……お前達、我輩はもういい! 『あれ』を制圧するのだ!!」

 ロマネスクはこの時点を以て、対象=謎の少女を人間として扱うことをやめた。
 相手が自分達を殺しうるだけの力を持ち、なおかつその意思が明確でない以上、当然の判断であった。

 かたかたと小刻みに震える手で、ツンはしぃの頬に手を伸ばした。

ξ゚⊿゚)ξ「…………」

 細い指先が白い肌に触れる。

(* / )ピキ

 たちまち頬から顔全体に細かなヒビが走る――湖面の薄氷のように。
 さしたる抵抗もなく、しぃの皮膚はツンの指を飲み込んでいく。

 がら がら 壊れていく 数秒前まで人間だったモノ。
 その断面は赤く、滑らかで、黒く、ざらざらしていた。

 こちらを見つめる小さな眼球が一つ、ツンの掌の上に残された。

ξ゚⊿゚)ξ「あ、あっ」

 つい数秒前までしぃが立っていた場所には、彼女の体積と同じだけの肉塊が山となった。



53 ◆BR8k8yVhqg :2011/12/11(日) 22:41:47.11 ID:YhkXaS6L0

ξ ⊿ )ξ「ああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 ツンは絶叫した。出した事もないような声が、喉を通り抜けて、溢れてきた。
 その叫びは野生動物の遠吠えに似ていたが、同じくらい人間の悲痛を含むものだった。

( ФωФ)「!」

 軍人達の身体にはさらなる緊張が走った。しかし、すぐにその意味はなかったと知ることになる。
 あらん限りの声を絞り尽くしたツン=D=パキッシュは、糸が切れたかのようにその場に崩れ落ちた。

 静寂がその場を支配した。


 思い出したかのように鳥や虫たちの声が再び響き始め、真夏の熱気が戻ってきた。
 居合わせた者はただ、覚めない夢を見ているかのような気持ち悪さを感じるだけだった。

『大佐。ここではこれ以上の処置は無理です。最寄りの基地に戻りましょう』

( ФωФ)「却下である。我々の装備では、最寄りの基地まで三日はかかる。治療でさらに時間を食う」

『しかし……急がねば、大佐の腕を元に戻す事ができなくなります』

( ФωФ)「吾輩の腕などどうでも良い。任務の遂行が第一に優先である」



56 ◆BR8k8yVhqg :2011/12/11(日) 22:44:09.55 ID:YhkXaS6L0

( ФωФ)(しかし、この少女を放っておくわけにもいかんか……)

 ロマネスクが勘案を巡らせ始めた時、彼の後ろで草むらがガサガサと音を立てた。

『何だ!?』

 これ以上厄介な事を増やさないでくれという思いをにじませながら、全員が音の方へ剣先を向ける。
 徐々に音は近づいてくる。わずかに茂みが揺れ、何者かがゆっくりと這い出てきた。

( "ゞ)「……?」

( ФωФ)(誰?)

 何やら満身創痍な様子の少年が、ほとんど四つん這いになりながら現れた。
 額から顔にかけて流血している上に、どうも全身に怪我があるようだ。

( ФωФ)「君は何者であるか?」

( "ゞ)「こっちの……台詞ですよ。どうして……軍人がここに……」

 息も絶え絶えなデルタは、倒れ伏しているツンの姿を見つけ、驚きと安堵を等しく混ぜた声で言う。

( "ゞ)「ツン……よかった。生きてた……のか……」

 その言葉を最後にデルタの意識は混濁し、地面に膝からくずおれた。



58 ◆BR8k8yVhqg :2011/12/11(日) 22:46:51.46 ID:YhkXaS6L0

( ФωФ)「えぇ~……」

 意味のわからない状況も、ここまで極まってしまえば理解を放棄するしかない。
 後から現れた少年は、どうやら謎の少女を知っているらしい。年齢も近いように見えるし、友達なのだろうか。

 いくら考えたところで、どうしようもない。

 ならば、思うがままに行動するだけだ。







从 ゚∀从「参りましたァ!!」


 一方ユグドラシルの広間では、ハインリッヒが両手を挙げていた。




60 ◆BR8k8yVhqg :2011/12/11(日) 22:49:50.18 ID:YhkXaS6L0

イ从゚ ー゚ノi、「は?」

 あと数ミリ動かせばハインリッヒの喉に爪先が触れる――という位置で、シルヴァは腕を止めた。
 ほんの少しでも決断が遅ければ、ハインリッヒの頸動脈は一瞬のうちに断たれていただろう。

イ从゚ ー゚ノi、「なんだお前。意気地の無い人間だな」

从 ゚∀从「勝てるわけァねェだろ、お前みたいな伝説の悪魔に……」

イ从゚ ー゚ノi、「伝説? そうか、私の名声は今の時代にも轟いているか」

从 ゚∀从「お前の名前が忘れられることなんて永劫ねェよ。ふざけんなよもう……」

イ从゚ ー゚ノi、「はん。悪くない。有名になるというのは実に心地良い」

从 ゚∀从「五百年間で、お前は自分が思ってるよりよっぽど有名になってるよ」

イ从゚ ー゚ノi、「五百年……か。五百年前には色々あったな」

イ从゚ ー゚ノi、「……色々と煩わしいことが」

 和服の袖を揺らして頬を掻き、シルヴァは目を細めた。



62 ◆BR8k8yVhqg :2011/12/11(日) 22:52:47.88 ID:YhkXaS6L0

『我々が出会ったのも五百年前だが』

イ从゚ ー゚ノi、「知らんと言っとろーが。さっきからうるさいなお前、ぶち殺すぞ」

 銀狼が冷淡な視線を背後の神木に向けたところで、ハインリッヒが安堵の溜息を吐いた。
 さっきまでの張り詰めた空気はもはや無い。満ちていた殺気は、暖かな日差しに貫かれ消えてしまった。

从 ゚∀从「はァ……オレの仕事も、こうなっちゃどうしようもねェな」

イ从゚ ー゚ノi、「お前には別の仕事を与えてやろう。すなわち、私にボッコボコにされるという仕事を」

从 ゚∀从「ヤだよ。ぜってえにヤだ。オレはもう帰るぜ」

 ハインは服の胸元から(限りなく薄く、肌に密着したその服のどこに収納していたのかは定かではない)、一つの石を取り出した。
 その石は光にさらされた途端に輝き始め、辺りの魔力を吸収していく。

『これは先程と同じ……私の魔力を利用しているのか』

从 ゚∀从「悪ィね。でもま、無限に湧いてるんだからちッとくらい構わねーだろ? 許せよ。
      ウォルクシアに直帰するつもりだからよォ、まあ普通の人間じゃ補えない量になっちまうが――」

イ从゚ ー゚ノi、「ウォルクシア?」

 シルヴァは鋭く目を向けるが、そこにいたハインリッヒは既に跡形もなく消え失せた後であった。

イ从゚ ー゚ノi、「はん……消えよった。こんな魔法は初めて見たな」



64 ◆BR8k8yVhqg :2011/12/11(日) 22:55:00.14 ID:YhkXaS6L0

『意外にも引き際を理解した者だったようだ。いや、君のおかげでもある。シルヴァ』

イ从゚ ー゚ノi、「馴れ馴れしく呼ぶな。私はお前みたいな大木系男子など知らんと言ってるだろ」

『本当に忘れたのか? 確か……わずか二十年ほど前にも、少しだけ言葉を交わした気がするが』

イ从゚ ー゚ノi、「二十年前」

『ああ。君は人間と共にいて――名を何と言ったかな――つい最近聞いた名だが』

イ从゚ ー゚ノi、「リカーナ=ロードネス。あいつのことか?」

『そう。確かそんな名の青年……ん? そういえば、君の中にいる子はリカーナ=ロードネスの甥だとか』

イ从゚ ー゚ノi、「はん。勿論知っているさ。知っているともさ」

 狼の耳を震わせ、狼の牙を剥きだしてシルヴァは獰猛に笑った。魂ごと噛み砕かれそうな微笑み。
 はらはらと彼女の身体は融け落ちてゆく。

イ从゚ ー゚ノi、「――だから私はここにいるんだ」

 悪魔が剥がれ降りた後には、モララー=ロードネスが残される。



66 ◆BR8k8yVhqg :2011/12/11(日) 22:59:24.47 ID:YhkXaS6L0

( ・∀・)「ん……」

 夢から覚めたような気分で、モララーはきょろきょろと辺りを見回した。
 ここが神木の広間だということはわかるが、ハインリッヒはいない。状況がよくわからなかった。

『目覚めたかね。君には色々と聞きたいことがあるのだが――』

 ユグドラシルの声が聞こえているのかいないのか、モララーは自分の掌を見つめる。
 その指には銀色の指輪が嵌められている。宝石や彫刻などの装飾は一切無い、シンプルな指輪。
 左手の薬指に輝くその指輪は、何かの誓約を表すものであるようにも見えた。

( ・∀・)「なんだこりゃ、冗談じゃねえぞ。こんなもんつけてたら既婚者だと思われる」

 力を込めて思い切り引っ張って外そうとするが、根が生えたかのように指輪は動かなかった。

( ・∀・)「マジかよ……この装備呪われてやがる……」

『若人よ、君はここに来るまでの経緯を覚えているのか?』

( ・∀・)「いや、空飛びながらこれ死ぬんじゃねーかなーと思ったとこまでは覚えてるけど。
      そういや、俺はどうやってここに戻ってきたんだ? ユグドラシルは知ってんだろ?」

 神木は逡巡するようにしばらく黙りこんだ後、『そんな事よりも』と返した。

『そんな事よりも、君は仲間を探しに行ったほうがよいのではないか?』



68 ◆BR8k8yVhqg :2011/12/11(日) 23:02:10.08 ID:YhkXaS6L0

( ・∀・)「ああ……とりあえずそうするか。デルタとツン、それにあのしぃとかいう子」

 気付けばビーグルもいなくなってるしな――と、思い出したようにモララーは呟く。
 歩きだそうとした彼の身体はがくんと揺れ、唐突な倦怠感に襲われた。

( ・∀・)「う、――力が、入らねえ」

『許容量を超えた魔力を消費してしまったのだろう。一時的な疲労だ』

 ざわざわとユグドラシルの巨体が蠢き、枝葉が擦れて風鳴りのような音をたてた。

( ・∀・)「魔力の消費?」

 顔をしかめるモララーの前に、ぽとりと小さな赤い果実が落ちてきた。

『それを食べたまえ。私の魔力が君を助けてやれるだろう』

 言われるがままに赤い実を拾って食べる。劇的と言うほどではないが、幾分か気分が良くなった。
 モララーは礼を言って格好よく去ろうとしたが、途中で肝心なことに気付いた。

( ・∀・)「今って……湖の水、引いてんのか?」

『いや、引いていない。何者かが湖に来ている。引かせるわけにはいかない』

( ・∀・)「出られないじゃねーか!」



71 ◆BR8k8yVhqg :2011/12/11(日) 23:05:39.17 ID:YhkXaS6L0

( ・∀・)「誰か来てるってそれ、デルタ達じゃないのか?」

『いや……たぶん違うだろう。人数が多いし、それぞれの魔力が洗練されすぎている。
 しかしまあ、案ずることはない。一方通行ではあるが、ここから出る道は他にもあるのだ……』

( ・∀・)「えっ……マジで? 何それ。そんな御都合展開が?」

 脱出経路の事も気にはなったが、それよりも湖を訪れている者達の事がモララーの脳にとげを刺した。
 『洗練された魔力』を持つものがインクレクの村にいるとは思えない。何者だろうか。

( ・∀・)(ハインリッヒが仲間を呼んでたか? そうは思えないな……)

 そしてリワリの滝と湖は――ユグドラシルを除けば――さしたる重要な意味を持たないものだ。
 複数人の手練れが何の理由も無く来るような場所ではない。恐らくはユグドラシル絡みの事柄だろう。

『――だ。記憶したか? 間違えれば進むことも戻ることもできなくなる。もう少し待てば湖を通れるかもしれないが』

( ・∀・)「構わねーよ。こう見えても記憶力は悪くねえんだ」

『記憶力は、か。他は?』

(#・∀・)「うるせえ! 落第レベルで悪かったな!!」

 さわさわと木の葉が震えるようにユグドラシルは笑った。それは我が子の歩みを見守る母親の如く。

『ははは……、君の行く末に興味が湧いてきたよ。もう二度と会う事はないかもしれないが、言っておこう。
 たくましく生きたまえ。君はこれから途方も無く奇妙な人生を歩むことになる。しかし決して足を止めるな』

 どこかで聞いたような台詞だと思いながら、モララーは神木の膝下を後にした。

75 ◆BR8k8yVhqg :2011/12/11(日) 23:10:31.79 ID:YhkXaS6L0



 モララーが去って数分後。

 神木の本体(小さな幼木)のすぐそばで、地面が少し動いた。
 もこもこと土が盛り上がり、苔むした小石や落ち葉を跳ねのけて何か小さなものが這い出て来る。

『む?』

 ユグドラシルがその異変に気付いた。土中より赤い舌先が、次いで黒い身体が陽の下に現れる。
 さらさらと地を這い、しゅるりととぐろを巻いて、小さな丸い瞳で辺りを見回すもの。

 それは蛇だった。かつては人間の神話中で重要な位置を占めた爬虫類。
 ただしこの場に現れたのは、高い知能を持ち地中を移動する下級悪魔『ステンノー』である。

『悪魔。お前は……誰の使い魔だ』

 はぐらかすように、悪魔はちろり舌を出した。

 ステンノーの胴体には細い紐が結び付けられていて、その紐はステンノーが出てきた穴に伸びている。
 そして、紐の途中には何やら布で包まれた筒のようなものが結わえられている。たくさんの筒を繋げるための紐であるらしい。



( ФωФ)「陸軍兵器開発部謹製・『爆裂魔導鎖』……点火!」

 ロマネスクの宣言に呼応し、幾つもの光が大地を貫いた。



77 ◆BR8k8yVhqg :2011/12/11(日) 23:12:46.62 ID:YhkXaS6L0

 轟音が連鎖した。地中から天に向かって伸びる光の柱が、大量の土煙を巻き上げて迸る。

 砕けた岩盤が宙を舞う――爆発が終わる前に次の爆発があらゆるものを吹き飛ばす。
 遠慮も容赦もない無機質な暴圧が有象無象を掃き散らし粉砕してゆく。

『!?』

 一際大きな爆発が起きた。ユグドラシルを囲む岩壁の一部が崩れ、大きな隙間が出来てしまっている。
 そしてその向こう側、深く暗く広がるはずの密林も、根こそぎ破壊され尽くされていた。

 蹂躙されているのは、神木を護るための聖域。

( ФωФ)「今だ――行け!!」

 濛々と立ち上る土煙を切り裂いて三つの影が動きだした。
 馬に似た下級悪魔『アパオシャ』の手綱を握り、兵士達は、隻腕のロマネスクを先頭に駆ける。

( ФωФ)「急げ! いつまでも道が開いているとは限らん!」

 アパオシャは宙を滑るように走る。黒い弾丸のように、一直線に飛ぶ。
 叫んだロマネスクの後ろで魔力が渦を巻き、見る見るうちに木々が元のような姿に復元されてゆく。
 その再生速度は驚くべきもので、本来は数百年の樹齢を持つような大木さえ数秒で立ち上がる。



81 ◆BR8k8yVhqg :2011/12/11(日) 23:15:13.26 ID:YhkXaS6L0

( ФωФ)「……よし! 抜けたである!」

 三人の兵士は連なって広場になだれ込んだ。
 息せき切らしたロマネスクが振り返ると、大きく穴のあいた石壁が復元を始めていた。
 辺りに散らばる瓦礫や空中の砂煙、あらゆる破片が巻き戻され組み直されてゆく。

 彼らが呼吸を整えるよりも早く、岩壁は平静の姿を取り戻していた。

( ФωФ)「……なんと凄まじき魔力だ」

 感嘆と同時にロマネスクは畏怖を覚えた。
 あと数秒でも号令を発するのが遅かったならば、自分達は森か石に飲み込まれていただろう。

『おそらくあの湖がここに最も近い場所だったのでしょうね』

( ФωФ)「であるな。『ステンノー』が行動できるギリギリであった……」

 改めて神木ユグドラシルを見上げ、ロマネスクはその圧倒的な偉大さに言葉を飲んだ。

 緑色の巨人。それは前に立つ者の全てを塵に等しく感じさせる。

『君達。これほどに無礼な真似をしてくれたのは君達が初めてだ』

( ФωФ)「そうであるか。我輩が最初で、そして最後になるであろう」

 荘厳な神木の声も――ロマネスク=ガムランの心を揺るがせるには至らない。



83 ◆BR8k8yVhqg :2011/12/11(日) 23:18:31.85 ID:YhkXaS6L0

( ФωФ)「抜刀」

 二人の部下が軍刀を、ロマネスクが大剣をそれぞれ構える。
 自分の身の丈ほどもある大剣を片腕で振り回す、ロマネスクの異様な膂力。

( ФωФ)「契約履行。『ラクシャサ』具現化」

 部下が復唱し、三体の鬼が召喚される。鎧を纏った褐色の肌、赤銅色の髪。
 神木を見据える隻眼には隠しきれぬ闘争心。彼らの本能に息づく敵愾心。

( ФωФ)「さて――古びた神話には退場を願おう。我々の手で」

 かつて炎の天使に虐殺された羅刹とは別個体である。見分ける事は人間にはできない。
 しかしロマネスクとしては、アロウカでの日を思い出さないわけにはいかなかった。
 あの日の屈辱を、そして別れを。

( ФωФ)「……『悪逆刹鎚』、用意」

 ラクシャサは虚空より己の武器を引き出した。その必殺武器は細長い金属の槍。
 軍人達は懐より細長い筒を取り出し、『悪逆刹鎚』に取り付ける。

( ФωФ)「狙え」

 こんな一撃で神木を破壊できるとは思っていない。

                          一撃で足りぬのなら、

                 何度だろうと。


85 ◆BR8k8yVhqg :2011/12/11(日) 23:20:56.77 ID:YhkXaS6L0



 千年の悠久を唯一生き残った神木は、この日死に絶えた。

 恩恵を絶たれたズーパルレは少しずつ荒廃してゆき、

 ついには草一本生えぬ死の国へと変貌してしまうのだが、

 それはまた別の話である。





86 ◆BR8k8yVhqg :2011/12/11(日) 23:23:19.14 ID:YhkXaS6L0


( ・∀・)「おっ?」

 ずん、と重い地響きを感じて、モララーは立ち止まった。
 ユグドラシルに示された抜け道の途中、手探りで進む地下通路の中である。

 明りを灯す手段を持たないモララーは、真っ暗な地下を這いずるようにして歩いていた。
 こういう時だけは魔術を使えない自分に苛立ちを覚える。

( ・∀・)「なんだ、地震か?」

 震動は一回で終わらず、断続的に大小の揺れがモララーを襲う。

( ・∀・)「こえーなぁ……崩れたりしねーだろな」

 やたら長く感じる時間を疎ましく思いつつ、手足を使って慎重に進む。


 小一時間も経っただろうかという頃、ようやく小さな光が見えた。

( ・∀・)「やっと外か。どの辺に出るんだろうな……」

 太陽の眩しさに目を細めながら地上に出たモララーを、一つの人影が待っていた。



88 ◆BR8k8yVhqg :2011/12/11(日) 23:25:36.78 ID:YhkXaS6L0

( ・∀・)「……どうして先生がここに?」



 まだ、終わったばかりだ。


 第十五話:【されど悪魔は人と踊る】 了





( ・∀・)悪魔戦争のようです
http://hibari.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1323606027/1-



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